コロナ自粛は認知症を悪化させる…精神科医が「60代以上は外出自粛をすべきでない」と訴えるワケ
プレジデントオンライン / 2023年2月18日 10時15分
※本稿は、和田秀樹『いつまでもハツラツ脳の人』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■コロナ禍が高齢者の脳にもたらした悪影響
2020年に発生したコロナ禍によって生じた過度の人流規制、とりわけ60代以降の世代に対しての影響について、私は大いなる危惧の念を抱いています。
ひと言でいえば、今後の調査によって、著しい認知症増加が明らかになるのではないか、ということです。
このコロナ禍にあって、政府、各自治体は「人と会うのは犯罪だ」とばかりに、異常ともいえる人流規制を訴えました。
テレビをはじめとする各メディアも、そろってその主張に「右へならえ」のスタンスを取りました。
その結果、次の①②の事態が生じました。
①高齢者のコミュニケーション量の減少
②高齢者の運動量、運動能力の低下
半世紀以上の間、多くの国が経験したことのないパンデミックに襲われたわけですから、そのうろたえぶりもわからないではありません。
私自身、厚労省や新型コロナ感染症対策本部専門家会議の対応には、疑問を禁じ得ませんでした。
それに関しては、ここでは述べませんが、コロナ対策の大きな柱となった大規模な人流規制によって、広範囲にわたって高齢者の健康状態が著しく損なわれたと考えています。
特に、新たな認知症発症者の増加、認知症患者の症状悪化に拍車がかかったことは間違いありません。
今後、コロナ禍が与えた健康への影響が統計的にも明らかになるかと思いますが、認知症への悪影響は小さくないはずです。
■外出自粛で運動能力が著しく低下
60代~80代の方や、60代~80代、90代の親を持つ方はよくご存知だと思いますが、いわゆる高齢者、超高齢者がなんらかの事情で一定期間入院した場合、運動の機会が著しく減少します。
軽い内科手術などによって1週間程度入院しただけでも、筋肉量はかなり減少します。
この傾向は年齢が高ければ高いほど顕著です。
筋肉を使わなければその量はどんどん減少しますし、筋肉はエネルギーの貯蔵庫でもありますから、入院によるさまざまな体力低下を補うために消費されてしまうわけです。
入院されたことのある方はご経験があると思いますが、入院後にふくらはぎを触ってみると、思っていた以上に細くなっていることに気づきます。当然、運動能力も著しく低下しているわけです。
外出制限による運動不足は、同様に筋肉量の減少をもたらします。
■糖尿病のリスクが増え、セロトニンの分泌量が減る
コロナ禍はそれ以外にも、高齢者の健康状態に悪影響を及ぼし、結果として認知機能の低下を招きます。
①視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感を刺激する機会が減る
②高血圧、糖尿病、肥満のリスクが増す
③脳の血流の活性化が停滞する
④日光を浴びないために、脳の感情機能維持に必要なセロトニンの分泌量が減る
この4つは、外出、運動、コミュニケーションの機会の減少によってもたらされますが、いずれも認知症発症のリスク要因です。
コロナ禍で外出を自粛した後、「久々に会った高齢の親や知人の様子が激変していて驚いた」という声が多く聞かれますが、まさにこうした因果関係によるものと考えられます。
「コロナに感染はしなかったが、認知症になった」
高齢者を親に持つ方から、こうした話をしばしば耳にします。
コロナ禍を境に、ハツラツ脳の持ち主がヨボヨボ脳の人に変身してしまったというわけです。
政府、各自治体、厚労省、専門家会議のコロナ対策の責任者は、この事実をどう受け止めているのでしょうか。
■「杞憂好き」な人ほど危ない
「終息するまでは、安心して旅行もできない」
コロナが猛威を振るっていたころ、世代を問わず、そう考えていた人は少なくなかったはずです。
前項で述べたように、こうした「巣ごもり志向」による運動不足は、ヨボヨボ脳のリスク要因であることは間違いありません。
だからといって、「通りの向こうで風邪がはやっているから、布団を敷いて寝て待っている」といった暮らし方は、まさに「杞憂好き」であって、コロナ感染以上に心と体に悪影響を及ぼします。
ヨボヨボ脳予備軍の考え方、ライフスタイルといっていいでしょう。
「杞憂好き」の人たちが陥りやすいのが、「ゼロか百か思考」です。
こうした発想は、ポジティブ型のハツラツ脳の持ち主にはありません。
■「旅だと思えば、楽しいものです」
私の本を何冊か手がけてくれたことのある出版プロデューサーは、コロナ禍以前から、雨の日以外、仕事の移動には自転車を使っていました。
どこに行くにも便利な都内中央区に住んでいることもあって、私との打ち合わせ場所でも、地下鉄も使わず自転車です。
地下鉄なら乗り換えを入れて35分程度。自転車でもほぼ同じ時間でしょうか。
彼の場合、高級ロードバイクでも、いま大流行の電動アシスト自転車でもなく、いわゆるママチャリです。
私との打ち合わせ場所にくるまでには、きつい上り坂もありますから、結構、体力も使うはずです。
しかし、還暦をとっくに過ぎた彼はいいます。
「脚の筋肉が衰えてきていますから、筋トレです」
便秘気味であるために、その解消を兼ねているのだとも明かしてくれました。
さらにこういいます。
「上り坂が多いといっても、当然、帰りは下り坂ですから。それに小さな旅だと思えば、楽しいものです。旅といっても、GO TO TRAVELの対象にはなりませんが……」
冗談まじりにいう彼の顔や腕は日焼けしていましたから、セロトニンの分泌も十分でしょう。
彼はコロナ禍にあっても、ほとんど自転車移動でしたから、電車移動のように神経質に人込みを気にする必要もなかったといいます。
■ハツラツ脳を作るのは「フレキシブル思考」
「とにかく、発見があって楽しい」
彼はそう結論付けましたが、彼とのやりとりで、私が何よりも感心したのは「小さな旅」という彼の言葉です。
コロナ禍にかぎりませんが、とくに70代、80代の人に必要なのは、「旅行か巣ごもりか」という二者択一の思考ではなく、「こんな考え方もあるな」という「フレキシブル(flexible)=柔軟性のある」思考です。
フレキシブルという言葉は、日本語では「曲げやすい」「融通のきく」とも訳されます。
ちなみにフレキシブルの反対語は「インフレキシブル(inflexible)」ですが、「頑固な」「融通のきかない」とも訳されます。
コロナ禍においては、国内においても「移動の自由」が、半強制的といっていい状況で奪われました。
民主主義国家において完全に保障された権利が奪われたのですが、その不自由さは小さなものではありませんでした。
もちろん、専制主義国家のような絶対的な命令ではありませんでしたが、一時は移動を犯罪視するような風潮もありました。また、その同調圧力も半端なものではありませんでした。
「しばらく、こちらには帰ってくるな」
東京在住の地方出身者の中には、実家の家族からきつく帰郷を止められていた人も多かったようです。
地方では、東京ナンバーのクルマが、まるで犯罪者が乗っているかのように思われたケースも少なくなかったようです。
そんな状況下、日本人のほとんどは旅行を自粛していたわけです。
■部屋にこもっているとうつ病リスクも
「旅」は「移動」
しかし、ものは考えようです。飛行機、船、新幹線、バス、クルマでの「移動」ばかりが「旅」ではありません。
「自転車や徒歩でも旅はできる」と融通をきかせればいいのです。
考えてみてください。
旅は「移動」です。逆にいえば「移動」のない旅はありません。
旅の固定概念に縛られて、それが叶わないからと部屋に籠(こも)ってストレスを募(つの)らせていたら、精神衛生上よくありません。
人によっては「うつ」を生じかねません。
「移動」は「運動」でもあります。認知症対策にも役立ちます。
ハツラツ脳の人は、コロナ禍にあっても「移動」を「旅」に置き換えて楽しむ「融通」を持ち合わせています。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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