好物を我慢すると病気になる…医師・和田秀樹が「血圧・血糖値・コレステロール値を気にするな」というワケ
プレジデントオンライン / 2023年2月26日 13時15分
※本稿は、和田秀樹『いつまでもハツラツ脳の人』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■健康のために「精のつく食べもの」を我慢する人
肉以外で男性ホルモンの補給に有効なのが、レバー、うなぎ、牡蠣、にんにく、納豆、オクラなどです。
どれも「精のつく食べもの」で、ネバネバ系も少なくありません。しかも美味で、愛好家の多い食品です。
ところが、これらの食品を我慢する人が少なくありません。
「医者に止められてコレステロールの含有量が高いのは避けている」
と、不本意な気持ちを抱えたまま、“ご馳走”を控えるケースが目立つのです。
同じように、血圧が高い人は、きまったように医師から「塩分控えめ」を忠告され、真面目な人は頑張って実行してしまいます。
血圧を測定するたびに、数値が下がっていることを医師に誉められると、それが励みになり、ますます塩分を摂取しなくなる傾向もあります。
私の知人のお父さんは頑固な性格も手伝って、頑なに医師のアドバイスを守っていました。塩分の量に過敏と思えるほど反応し、奥さんが時間をかけて作った煮魚のたれを洗って食べていたそうです。
奥さんの悲しげな表情が目に浮かびますが、それはさておき、そのような暮らしを続けていた結果、血圧はずっと抑えられていたそうです。
ですが、あるとき気分が悪くなり、ひどい頭痛で入院してしまいました。
検査をしてみても頭痛の原因は明らかにならなかったのですが、ひとつ判明したことがありました。
それは「低ナトリウム血症」。
医師の話では塩分の摂取不足が頭痛の原因であったかもしれない、ということでした。
お父さんは、病院の味噌汁が「おいしい」と喜んでいたそうですが、しっかりと塩味のある料理は久しぶりだったのでしょう。
■好きなものを我慢するのは「百害あって一理なし」
このエピソードを笑ってばかりはいられません。
たしかに「低ナトリウム血症」になってしまうほど塩分を摂らないのは極端なケースですが、これと似たような日常が病院の診察室では毎日のように見られます。
「コレステロールが高いからタマゴや肉は少し減らしましょう」
「血糖値が高いですね。毎日スイーツ? 甘いものは1週間に1回、週末の楽しみにしましょう」
そんな医師や栄養士の言葉を鵜呑みにして、好きなもの、美味しいものを我慢するのは、ややオーバーですが「百害あって一理なし」。
お腹周りが気になっている人でも、ほとんどの場合は深刻な肥満ではありません。
にもかかわらず、好きな甘味を我慢していたらストレスをため込むだけです。
焼肉やうなぎが大好物なのに、血圧やコレステロールが高いからといって、「年に2、3回しか食べないようにしている。本当は毎月、食べたいのですが」と、浮かない顔をしている人は少なくないのです。
それで血圧や血糖値やコレステロールは正常になったとして、それが楽しい暮らしになるのでしょうか?
私なら絶対、断ります。
そもそも、医師が血圧、血糖値、コレステロールなどに注意を払う大半の理由は脳梗塞や心筋梗塞といった血管障害を予防するためです。
その最大の原因は動脈硬化ですが、血管は年をとればみんな硬くなります。にもかかわらず、「食の楽しみ」を奪ってまで食事指導が必要でしょうか?
■好きな物を我慢すると免疫力は低下する
作家・幸田露伴は代表作『五重塔』で知られ、夏目漱石、森鴎外と並び称される明治時代の文豪ですが、食通としても有名でした。
味の好みにうるさく、舌に会わないものを供されると、
「おれは、はきだめではない」
と激怒したエピソードも伝わっています。
なんとも剣呑(けんのん)な老人のイメージですが、その露伴が次のように話したと伝わっています。
「食べ物というのは、うまいと思って食べれば栄養になる。まずいと思って食べれば決して滋養にはならない」
医者のアドバイスもときには無視して好物を腹いっぱい食べれば、栄養をもらった脳は必ず喜びます。
現在、がんで亡くなる人は日本国内で40万人近く。
一方、脳梗塞による死者数は約12万人。圧倒的にがんで亡くなる人が多いのです。
がんの発症にはさまざまな説がありますが、毎日、体内に発生するがん細胞を撃退する上で、免疫の力は欠かせません。
血圧やコレステロール値が下がっても、好きな物を我慢する生活を続けていたら、免疫力は間違いなく低下します。
検査の値はすべて正常。しかし、生気のない表情をしていてがんになってしまった……。
そんな悲惨な例が決して少なくないのです。
■「少し太り気味」でも気にしない
「わかっちゃいるけど、続かない」
中高年にとって、しばしばそう感じるものがあります、それが運動です。
真面目に運動を続けている人もたくさんいますが、ほとんどの人は「右肩上がり」で成長を続けるお腹周りを触りながら、「運動しなくては」と暗い顔になります。
がんなどの生活習慣病を予防し、動脈硬化を防ぐために運動は欠かせない。それはみんな十分わかっています。
にもかかわらず、続けられない、続けにくいのが運動かもしれません。
50代以降の年代ならば、少々の肥満は問題ありません。「少し太り気味かな」と感じても気にしない、が正解です。
BMI(ボディ・マス・インデックス)は22が標準とされていますが、世界中のさまざまな統計を見るかぎり、いちばん長生きするのは、この数字よりもやや高い25~30くらいです。
しかも元気で幸せそうに見えます。
対極なのが、いつも不機嫌そうで怒りっぽいタイプです。気に入らないことがあると、言葉を荒げることも多く、自然と人は寄り付かなくなってきます。
こういうタイプは「小太り」よりも「やせぎす」に多い、と私は感じています。
■好物を思う存分食べたほうが男性ホルモンが増える
現在の日本の健康診断ではBMIが25~30になると、判で押されたように「肥満」のレッテルを貼られて食事指導を受けるようになります。
動脈硬化を防ぐための「食べる楽しみを抑えた」暮らしです。この指導と正反対にあるのが「食べる楽しみを優先した」暮らしです。
私は60歳を過ぎた「やや小太り」ですが、後者を選び、すでに実践しています。
ワイン好きの私は、赤ワインと白ワインを交互に飲み、それに合う食事を摂っています。
今日は赤ワインと肉料理、明日は白と魚といった具合です。
動脈硬化を恐れるあまり、好きなものを満足に食べない暮らしを続けていれば、自ずと男性ホルモンは減少していき、免疫機能は低下します。
それよりも好物を思う存分食べ、男性ホルモンの量を増やし、NK細胞活性を上げたほうが、よっぽど幸せです。
そういう暮らしを続ければ意欲が枯れることはなく、脳はヨボヨボになりません。
逆に「健康長寿脳」の持ち主となり、その元気ハツラツぶりは外見にも表れてきます。
■好きな食べ物で「好かれる外見」に
人の印象は「外見が9割」という見方がありますが、福沢諭吉も『学問のすすめ』の中で次のように述べています。
「顔色や表情を、いきいきと明るくすることは、人として大事なことである。
いつも苦虫を噛みつぶしたような顔をしていてはダメである。なぜなら人の表情は、家の門口と同じだからである。
多くの人と交際し、付き合うには、門口を清潔にして、相手が入りやすくすることが大切である。
ところが、人と広く交際したいのに、表情に気を使わず、偽君子の格言を信じて、渋い顔つきでいるのは、門口にガイコツをぶら下げ、玄関に棺桶を置いているようなものである。
これでは人は近づかなくなる」
さすがは福沢諭吉。ガイコツ、棺桶と刺激的な言葉が使われていますが、人の外見の大切さを見事に言い当てています。
それは単なる見てくれではなく、内面から滲み出てくる「外見」の重要性です。
人に好かれる、生き生きとした明るさは、「好きな食べ物」抜きには作れないことを再認識したいものです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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