血液検査の数値にも現れている…「教師・弁護士・代議士・医師」が介護職から嫌われている理由
プレジデントオンライン / 2023年3月1日 9時15分
※本稿は、和田秀樹『いつまでもハツラツ脳の人』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■男性ホルモンが生きる意欲を左右する
心臓ドックと同様に私が欠かさず受けているのが血液検査です。
その主な目的は男性ホルモンの値を確認すること。
やや大げさにいうと私にとって最大の“健康指数”は「男性ホルモン値」といっても過言ではありません。
なぜ男性ホルモンの値なのか――。その答えはじつに明解で、男性ホルモンこそが生きる意欲を大きく左右する要素だからです。
この数値が低くなると多くの心身の障害を起こし、ヨボヨボ脳になるリスクが高まります。
年齢を重ねるごとに私たちはさまざまな能力が減退してきます。
足腰をはじめとする筋力、気力や集中力を左右する精神力、その他視力、聴力、咀嚼する力など、年齢に応じて減退する能力は数え上げたらきりがありません。
その中で私が最も警戒するのは「意欲の衰え」です。
人間の心を司っているのは大脳ですが、私の臨床医としての経験からすると、最も早く老化するのは大脳の中の前頭葉です。
前頭葉は脳の中で最も早く成長し、最も早く老化します。非常に早熟な組織であり、若い人が新しい事柄に次々と興味を持つのは、前頭葉の“なせるワザ”なのです。
■男性ホルモンの減少で新しいことへの興味をなくす
しかし、前頭葉の機能が落ちてくると意欲や気力、創造力、さらには判断力も低下してきます。
「面倒くさい」「興味がない」「楽しくない」の3つの「ない」が常態化し、生きるすべてのことに意欲をなくしてしまいます。まさにヨボヨボ脳になる前兆です。
これに追い討ちをかけるのが男性ホルモンの減少です。
男性ホルモンと聞くと、セックスを連想する人が少なくないかもしれません。たしかに、男性は男性ホルモンが減ってくるとセックスへの興味が薄れ、肉体的にも勃起不能などの症状を起こすことがあります。
ただ、男性ホルモン低下の影響は性的なことにかぎりません。
他人と会うのが億劫(おっくう)になったり、新しいことに興味や意欲をなくしたりするのは、男性ホルモンの減少が深く関わっていることが明らかになっています。
男性の場合、早い人は30代から男性ホルモンの減少が確認されています。
30代で妙に老成した雰囲気を出す男性がいますが、もしかしたら男性ホルモンの少なさが原因かもしれません。
![早い人は30代から男性ホルモンが減少(※写真はイメージです)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/f/1200wm/img_4fc1b2a312737fa0d7a331241d4a6d63480589.jpg)
■「男性の更年期障害」でうつ病に
そんな中性的な男性に好意を持つ女性もいたりしますが、男性の更年期障害には注意が必要です。
近年、男性の更年期障害は増加傾向にあり、心療内科を受診する男性の数が以前より増えている印象があります。
著名人の中にもこの病気をカミングアウトする例が見られます。十数年前に惜しまれつつ他界した漫画家のはらたいら氏も、長い間、更年期障害で苦しんでいたことを著書で明らかにしていました。
男性の更年期障害は女性に比べて気づきにくいケースが多く、症状が悪化すると、うつ病になりかねません。
男性ホルモンの値を調べることは、心の病の重症化を予防するためにも重要なのです。
■女性はむしろ男性ホルモンが増える
逆に女性の場合は閉経後、女性ホルモンが減少し、男性ホルモンが増えることがわかっています。
旅行先やホテルのレストランなどで会話を楽しみながら食事をしているグループの大半は女性です。
新しい趣味に挑戦したり、ボランティア活動に積極的に取り組んだりするのも女性に多いような気がします。
そんな「女性元気」の理由の一端は男性ホルモンが関係しているのです。
■中年太りや猫背も男性ホルモンが原因
男性ホルモンの減少は男性の外見とも関わってきます。
下腹がボテッとした中年太りや猫背の体型も男性ホルモンが少なくなったことが原因と見られています。
「元気がなさそうに見えて、話をしても面白くない」人に、人は寄ってきません。
![元気がなさそうに見える人に、人は寄ってきません(※写真はイメージです)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/e/1200wm/img_2e8b991311fdf024e2684ee9be6d9af4633861.jpg)
異性同性を問わず、ヨボヨボ脳の人に魅力は感じないのです。
反対に話が面白く、明るい雰囲気の人に人が集まってきます。
そんなハツラツ脳の持ち主には、男性ホルモンの豊かな人が多いのです。
■「男性ホルモンが多い人」は人間関係の構築に前向き
男性ホルモンはまさに体と心の「元気の素」なのですが、最近、男性ホルモンが持つ新たな効果に注目が集まっています。
それは男性ホルモンが人付き合いにも深く関わっているという、驚くような事実です。
「男性ホルモンの多いタイプ」に対してどんなイメージを持つでしょうか?
一部の人は少々粗暴でギラついたタイプを想像するかもしれません。それゆえに、一部の女性には敬遠されているかもしれないのですが、その一方で生きることや人間関係の構築に前向きで、他人への関心度が高い一面も持ち合わせています。
![「男性ホルモンが多い人」は人間関係の構築に前向き(※写真はイメージです)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/5/1200wm/img_c5ee071b4d581616c80d71b720b24b3b542905.jpg)
活動エネルギーが高いことから、良い意味で他人に世話を焼くことをいとわないタイプともいえます。
■「男性ホルモンが多い人」は困っている人に優しい
そんな「男性ホルモンが多いタイプ」の意外な一面を明らかにしたのが、2013年発表の世界的な科学雑誌『ネイチャー』の論文でした。
同誌の実験によって、男性ホルモンを塗布した人の中にボランティアや寄付行為に積極的になった人や寄付金の増加が確認されたのです。
男性ホルモンが増えることで他人への関心度が高くなり、困っている人々に優しく接するようになれることを証明したともいえます。
男性ホルモンの多い人は生命エネルギーが豊富でバイタリティがあり、それが積極的な人付き合いにつながっているのでしょう。
進んで人の輪の中に入り、円滑なコミュニケーションをとろうとするタイプが思い浮かびます。
■「教師・弁護士・代議士・医師」が介護職から嫌われている理由
これと正反対なのが、自分の殻に閉じこもりがちなタイプです。
とくに年齢を重ねると、怒りっぽくなったり、意地っ張りになったりする傾向が強まり、周囲に疎んじられることでますます孤立してしまう人が少なくありません。
![和田秀樹『いつまでもハツラツ脳の人』(日刊現代)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/5/1200wm/img_55dda8cdeac9492fe704d777784794df257491.jpg)
とくに現役時代に役職に就いていた人ほど、高齢になると横柄な態度をとることが指摘されています。
介護職に従事している人の間では「現役のころ、し(師、士)だった人は偉そうな態度をするから世話をしにくい」という定評があるようです。
もちろん、「し」とは、教師、弁護士、代議士、それに医師のことです(私も注意しなければなりません)。
駅やコンビニなどで駅員や店員に大声を出して怒っているのは男性の中高年というイメージが定着しています。
その原因になっているのが、じつは男性ホルモンの減少だったということも十分考えられるのです。
生きる意欲を失い、脳をヨボヨボにさせないためには男性ホルモンを一定量にキープしておくことが不可欠です。
男性ホルモンの値は血液検査でだいたい判明します。
脳ドックを受けるより、よほどお勧めだと私は思っています。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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