晩酌程度は悪くないが、やけ酒はやめるべき…科学研究で分かったお酒と人間の「正しい付き合い方」
プレジデントオンライン / 2023年2月25日 17時15分
※本稿は、堀田修吾『「不安」があなたを強くする』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■ほどよいアルコール摂取はクリエイティブ能力を高める
仕事の後に飲むアルコールはとてもおいしいです。
自分へのご褒美も兼ねてグビグビと飲めば、何ともいえない多幸感に包まれ、気持ちが落ち着くものです。
古来、「酒は百薬の長」といわれますが、先人たちもお酒の有効性を肌身で感じていたのでしょう。
なんでもこの言葉は、『漢書』によれば紀元前からある言葉で、「塩は食べ物の中でもっとも重要。酒はどんな薬よりも効果がある上に、宴会には欠かせない。鉄は農業に必要なものの基本」と書かれていたとか。
古今東西、お酒の魅力は変わらないのでしょう。
興味深いことに、この「酒は百薬の長」に関連する科学的根拠もいくつか存在します。
たとえば、グラーツ大学のベネデックらが70人を対象に行った実験の中に、「飲まないときに創造力が低かった人が、アルコールを摂取すると創造力が特に高まった」という報告があります。
男性40人を、アルコールを摂取したグループと摂取していないグループに分けて、缶ビール1本分程度を飲んだ後に、実務遂行力や創造性を測定するテストをしてもらい、そのスコアを比較。
すると創造性において、飲んだグループが飲んでいないグループよりもスコアが高かったそうです。
通常、脳のワーキングメモリーは必要な情報と必要ではない情報を取捨選択しています。
アルコールを摂取するとその働きが鈍って、普段は捨てられてしまう情報が拾われるようになります。
そのため、これまでになかったような情報の組み合わせ、つまり新しい考えが得られるといわれています。
ほどよいアルコール摂取(缶ビール1~2本くらい)は、クリエイティブ能力を高めるというわけです。
■やけ酒に効果はない
ただし、やけ酒は厳禁です。
イヤな出来事があると、それを忘れるためについついアルコールに頼りたくなりますが、実は逆効果なのです。
これを裏付けるのが、「やけ酒をするとイヤな記憶や気持ちがかえって強くなる」という研究結果です。
東京大学大学院薬学系研究所の松木則夫、野村洋両氏は、ネズミに電気ショックを与えたあと、アルコールを注射し、どういう行動になるか調べました。
すると、ネズミは電気ショックについて忘れるどころか、電気ショックの恐怖を強め、臆病になってしまったのです。
アルコールによってイヤな記憶を忘れるどころか、むしろ強化されてしまったのです。
また、アメリカ国立衛生研究所のホームズらの研究によると、「アルコールを常習するとイヤな記憶を消す能力が下がる」こともわかっています。
つまり、やけ酒に効果はないのです。
お酒に逃げるのはNG。あくまでほどよく楽しむことが、「酒は百薬の長」のポイントなのです。
■減酒には「アラートを出すアプリ」が効果的
では、どうやってお酒の量をコントロールすればいいでしょうか。
「減酒にっき」「drireco」「飲酒記録」といった、日々の飲酒量を記録できるアプリもありますが、中でも「一定以上のお酒を飲むとアラートを出す」機能があるものをおすすめします。
なぜかというと、そのほうが飲酒量のコントロールに効果がある、という研究があるからです。
ロンドン大学のクレインらは、被験者を以下の3つグループに分けて、アラート表示の効果を検証しました。
①アラートを表示させるグループ
②アラートが表示されないグループ
③アラートの代わりにアルコールの害が表示されるグループ
その結果、①のアラートを表示させるグループで、飲酒抑制効果が最も高くなったのです。
■「落ち込んだ人を励ましてはダメ」な理由
やけ酒がダメとなると、落ち込んだ時はどうしたらいいでしょうか。
実は、落ち込んでいる人に前向きな言葉をかけると逆効果ということが明らかになっています。
米ミシガン州立大学のモーザーらは、71人の女性被験者に、前もってポジティブ思考かネガティブ思考かを自己申告してもらいました。
その上で、①普通の画像を見る、②「覆面の男が女性の喉にナイフを突きつけている」などネガティブな感情を誘発する画像を見る、③ネガティブ画像を見て、無理に楽観的なコメントをする、のそれぞれについて被験者の脳の状態を調べました。
その結果、ネガティブ思考の被験者は、③の楽観的なコメントをさせられた場合、もっとも脳の血流の反応が激しくなったのです。
そもそも人間には、ポジティブな情報より、ネガティブな情報を重要視する傾向があります。
そのほうが生存には有利だからです。
これを「ネガティビティ・バイアス」と呼びます。
普通の人でもこうしたバイアスに支配されていますので、落ち込んでいる人はなおさら物事の悪い面に目を向けがちです。
そういう人を励まそうとして、「頑張れ」などと声をかければ、悲観的な状況にある人に無理矢理楽観的になるよう強制してしまいます。
その結果、励まされるどころか、余計に気持ちが混乱してしまうというわけです。
また、「バックファイア効果」と呼ばれる現象もあります。
ある認識を持っている人に、「それは間違いだ」と指摘しても、逆に認識を強めてしまうことを指します。
つまり、ネガティブ思考に陥っている人に、「ポジティブになろう」と呼びかけても、ネガティブ思考を強化してしまうのです。
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明治大学法学部教授
1968年、熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程、ヨーク大学ロースクール修士課程修了、同博士課程単位取得満期退学。言語学博士。立命館大学准教授、明治大学准教授などを経て、2010年より現職。専門は司法におけるコミュニケーション分析。脳科学、言語学、法学、社会心理学などのさまざまな分野を横断した研究を展開している。『科学的に元気が出る方法集めました』(文響社)など著書多数。コメンテーターとしても活躍中で、メディア出演も多い。
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(明治大学法学部教授 堀田 秀吾)
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