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数百万円の固定資産税がタダ…資産家や企業が何食わぬ顔で宗教法人を買収する"姑息な税金対策"の中身

プレジデントオンライン / 2023年2月15日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hungryworks

寺院の「M&A」が活発化している。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「檀家減少などに伴って“食べていけない寺”が増える一方、資産家や企業は、ブローカーを通じて宗教法人格を取得して姑息な税金対策をしたい。宗教法人格の売買をするために、大手宗派から単立寺院になる動きが加速しているが、規制強化を検討すべきだ」という――。

■増加中…裏の目的で資産家や企業が宗教法人を買収

近年、寺院の「M&A(合併・買収)」が活発化してきている。その背景はさまざまだが「裏の目的」で民間企業や、資産家が宗教法人を買収することが、しばしば行われている。

裏の目的とは、宗教法人格を取得し、非課税部分を利用した税金対策などである。寺院が民間企業に対し、対価を得て宗教法人の名義を貸すケースもよくあるが、こちらも違法だ。宗教法人格の売買は、資産隠しなどの不法行為の温床になったり、カルト教団がアジトとして活用したりするなど地域の安全を脅かす元凶にもなっている。

一戸建てやマンションを買うように、寺院や神社の売買は可能なのか――。多くの人にとっては、なんとも不可解な話に聞こえることだろう。しかし、実際にはこれまで多くの宗教法人が第三者の手に渡って、悪用されてきた歴史がある。

宗教法人格の売却に絡んだ犯罪はしばしば起きている。過去の例を挙げながら説明しよう。

2010(平成22)年10月13日付、毎日新聞大阪版朝刊では『寺の法人格、売却詐欺容疑で京都の住職ら逮捕』の見出しで報じている。記事によれば、宗教法人格の売買をめぐって、詐欺容疑で京都市内にある古刹(こさつ)の住職や責任役員が逮捕された。この寺は天皇家ゆかりの名刹で、重要文化財の本尊を抱えていた。民間企業への譲渡代金は1400万円で、企業側は前金として700万円を支払った。しかし、宗教法人格は譲渡されなかったため、被害届を提出した、というものだ。

また、福岡市の寺では2009(平成21)年に土地所有権が不正に移転登記され、神社の代表役員らが逮捕されている。逮捕された役員らは「納骨堂などをつくって売却するため、寺を乗っ取るつもりだった」と供述していた。この事件では暴力団もからんでいた(朝日新聞2009年3月23日付)。

寺院の売却をめぐって刑事事件にまで発展し、新聞沙汰になる事例はさほどは多くはない。しかし、水面下でトラブルになっているケースは、いま現在でも相当数あるとみられる。筆者の元にも、そうした相談がここ数年で3件ほどあった。

なぜ、寺は宗教法人格を売りたがり、企業や個人は買いたがるのか。

■食べていけない寺&節税したい人・組織のウィンウィン

寺院側の事情としては、経済的な困窮が挙げられる。近年、檀家減少などに伴って「食べていけない寺」になり、次期住職に引き継げないケースが頻発している。後継者がいれば寺院を維持し、資産を残そうと考える。しかし、いずれ寺が無住化するのなら、住職の中には寺を売却し、老後資産に充てようと考える者もいそうなものだ。宗教法人格を売った手元資金を“持ち逃げ”して、還俗(僧侶を辞めて一般人になる)すれば、老後の生活が担保できるからだ。

宗教者としてこのような身勝手な行動は決して、許されることではない。仮に継承者がいなければ、宗門に相談して継承者をマッチングしてもらうか、地域の資産として檀家組織や地域が管理していく仕組みを考えるか、あるいは解散するべきである。

しかし実際のところ、寺院の承継問題は深刻である。後継者の決まっていない寺は、末寺約1万カ寺を抱える浄土宗本願寺派では30%(2021年)、約4700カ寺の日蓮宗では43%(2020年)、約7000カ寺の浄土宗では46%(2017年)となっている。寺院が承継できなければ、すなわち「空き寺」になる。空き寺の増加とともに、宗教法人を売却する事例が増えていくのは必然といえる。

また、すでに空き寺を兼務している(兼務寺院を抱えている)寺院の中にも、売却を検討する動きが出てきている。空き寺の護持には伽藍(がらん)の修繕など、莫大な維持コストがかかってくるからだ。

そうした場合、複数の寺院を合併させて経営の合理化を図るのが、ひとつの妥当な判断になる。兼務している寺院を解散させ、その不動産の売却益を得て、本寺の経営を健全にしていく手法である。ただし、合併には煩雑な手続きや伽藍の解体などの手間とコストがかかる。そこで、やはり兼務寺院を売却することが視野に入ってくる。

各種お守り
写真=iStock.com/FrankvandenBergh
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FrankvandenBergh

では、宗教法人格の売買相場はどれくらいなのか。

■宗教法人格の売買相場は寺院年収の3倍が目安

「立地条件にもよりますが、慣習的には寺院年収の3倍程度の金額で取引されています」(関西在住の住職)

地方寺院の場合は数百万〜2000万円、都市部の立地のよい寺の場合は億円単位になる場合もある。宗教法人や公益法人の売買を手がけるブローカーが存在する。

檀家がいる寺よりも、青空寺院(伽藍が朽ちてなくなり、土地だけのペーパー法人)のほうが使い勝手がよいとされる。寺院は檀家組織があり、住職が不自然に交替した場合や売却しようとした際には警戒される可能性があるからだ。

また、大手宗派(包括宗教法人)に所属する寺院(被包括寺院)の売買はハードルが高い。住職(代表役員)の名義変更にあたって、責任役員や檀家総代などの実印を押した書類を整え、さらに所轄官庁である自治体に届け出る必要があるからだ。

しかし、宗派から離脱した「単立寺院」ならば、宗派への届け出は不要だ。宗教法人格の売買をするために、自由度の高い単立寺院になる動きが加速している。

100万円の札束3つ
写真=iStock.com/manpuku7
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/manpuku7

売買が成立すれば、買い主は法人の登記を書き換えることになる。宗教法人は新たに許認可を受ける場合は、かなりハードルが高い。宗教法人としての活動実績などが審査され、申請から認可を受けるまでに10年ほどかかる場合がある。

しかし、古くから継承されてきた寺院(特に単立寺院)の場合、住職の死亡時や代替わりの時には名義変更だけで寺院の代表役員になれる。所轄の都道府県に提出する書類に不備がなければ、宗教法人の代表として登記することができる。

単立寺院のすべてが売買を目的としたものではないが、しかし、文化庁「宗教年鑑 令和4年版」によれば、2012(平成24)年から21(令和3)年までの10年間で、377カ寺も単立寺院が増えている(6844カ寺→7221カ寺)ことは、決して無視できない事象であろう。

所轄官庁の文化庁は、売買目当ての単立寺院化への規制強化を検討すべき時期にきていると思う。

しかし、なぜそれほど、寺院が魅力なのか。

■法人税・固定資産税・相続税なし

それは、多くの税制優遇があるからだ。宗教法人は、宗教活動のみを営み、布施のみを収入とする場合は非課税である。一般企業のように法人税が課されることはない。

一方で、寺院の中には一般企業と同じような商売をしているケースがある。多いのがお土産の販売や、境内地を利用した駐車場貸しなどだ。国税庁は宗教法人の収益事業として次の34種類の業種を挙げ、収益を上げれば課税対象としている。

賽銭箱と鈴
写真=iStock.com/junxxx
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/junxxx

だが、これらの収益事業にも税制上の優遇措置が設けられている。宗教法人は税法上の「公益法人等」(他にも公益社団法人、社会福祉法人、学校法人など)なので、民間企業が同じ事業をするのに比べて税率が低い。たとえば法人税の軽減税率がある。収益事業から得た所得に対し、宗教法人の法人税率は19%。たとえば株式会社の法人税率は23.2%である。

また、領収書への印紙税や登録免許税などが非課税だ。

【図表】宗教法人における「34種類の収益事業」

最もメリットが大きいのは、宗教法人は固定資産税や相続税が免除されていることだ。宗教法人に固定資産税を免除されているのは、仮に課税してしまえば、多くの寺院があっという間に破綻してしまうからである。仮に莫大な固定資産税がかかる都心の一等地にある寺院であっても、年収数百万円レベルの寺はいくらでもある。到底支払えるものではない。相続税も同様である。課税されれば結果的には、街の中から信仰の場がなくなり、文化資源もなくなり、貴重な緑地もなくなってしまう。結果的には、国民が損をすることになってしまうのだ。

さらに宗教法人には、「みなし寄付金」の適用もある。これは寺院が、収益事業で得た収入を、本来の宗教事業に使った場合には所得金額の20%を限度額として寄付金とみなすという制度だ。これも、一般企業よりも優遇枠が多くなっている。

以上のように宗教法人の多くの「メリット」を得ようとして、悪意のある者が寺院に群がる構図になっている。宗教法人の転売はカルト教団をはじめとする反社会的集団の拠点化にもつながり、地域の安全をも脅かしかねない。

人口減少に伴う地域のつながりが希薄化するなかで、監視の目が行き届かなくなっているのもこうした、危うい構造を生んでいる元凶だ。

ある日、菩提(ぼだい)寺の住職が替わり、見ず知らずの人間が寺に出入りしだす。寺院が、檀信徒に説明をすることなく大きな事業を始め、生活が派手になりだす。そんな兆候が表れ始めれば、「黄色信号」だと考えたほうがよいだろう。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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