こんなに暴落したのだから、そろそろ買いのはずだ…投資で損をする人たちが誤解している「お金以前」の常識
プレジデントオンライン / 2023年2月20日 14時15分
※本稿は、土屋剛俊『お金以前』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■「お金」にもルールは存在する
現代の資本主義社会では、お金はあたりまえにあるものです。
ところがあたりまえすぎて、いつもの生活の中で「そもそもお金ってなんだ?」というようなことはわざわざ考えないのではないでしょうか?
「そもそもお金ってなんだ?」と考えようと言われても、一体何を考えたらいいのかわからないかもしれません。そのくらい、私たちは生まれてからずっと、お金があたりまえの世界に生きています。
しかしそれは、ルールを知らずにカジノに行くようなものです。
カジノにそんな状態で行ったら、負けて損するに決まっています。ルールを確認しないでカジノに行く人はいません。
ところが、現代の資本主義社会ではお金はあたりまえなので、ルールを気にしない人も多いです。それはとてももったいない話です。
■ルールを知らずにカジノに行くと損をするのは当然
具体的にはどういうことでしょうか。ここで、お金のルールを勉強しないで、カジノに行くような人の例を考えてみましょう。
これは、大きな会社でバリバリ勤めあげた、見識のある人の例です。
ある証券マンから「この株はとてもいい会社の株です。利益も多いし、みんなが欲しがる商品をつくっています。今買うときっと上がりますよ」などと言われました。
話を聞いている限り、その証券マンも信頼がおけそうな人に見えます。「なるほど、じゃあ買おう」と買ってしまい、その後株価が下落して大損してしまいました。こんな例はよく聞きます。
これは何が原因でおきてしまったのでしょうか?
■1玉10万円のキャベツを買う人はいない
この例では、証券マンが値下がりする銘柄を勧めてしまったことが直接の原因ですが、いちばんの問題は何よりも重要な「その株はいくらであるべきか」ということを自分で考えずに買うという判断をしてしまったことです。
たとえば「このキャベツは最高においしいので買ってください」といわれたとします。最高においしいキャベツだと、ぜひとも買って食べたいところですが、もしそれが1玉10万円だったとしたらはたして買うでしょうか?
買いませんよね。じゃあ30円だったらどうでしょう。
それだと買いです。
では300円だったら?
買わない人もいたり、ちょっと考えてもいい、という人もいるというところでしょうか? 生産方法や産地、つくり手などを確認しなければ、という人もいるでしょう。
これら、おのおのの適正価格を決める作業はプライシングと呼ばれます。キャベツなら、みなさんこれくらいの精緻なプライシング(値決め)はごく一般的にしているでしょう。
つまり、プライシングとは買う対象の値段に対して、知識と自分の意見がちゃんと背景にあることをいいます。ここで重要なのは、300円のキャベツを買う人も買わない人もいるように、あなた自身のプライシングに、自分の価値観が反映されるべきだということです。
ところが株の話になると、言い値で買うというとんでもないことをする人が突然増えます。「とてもおいしいキャベツ」といわれて、値段を考えずに1玉10万円で買うようなものです。
![キャベツ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/d/1200wm/img_ad1ea0ee121f7516ea4143a394cfab84387837.jpg)
■金融リテラシーが低い人が投資に持っている思い込み
このように、知識と自分の意見が背景にあるプライシングは、とても重要です。こんな値段でキャベツを買うお客さんを探すことは極めて困難です。しかし、株の世界では比較的簡単です。
それは金融リテラシーが低い人がいるからです。
実は金融リテラシーが低い理由のひとつに「投資というものはお金を増やすものだという思い込み」があります。どういうことでしょうか。
キャベツを買うときに値段に慎重になるのは、それが「確実にお金が減る行為」だからです。大事なお金を減らしてキャベツを買うのですから、むだ遣いはしたくありません。
ところが、投資というのはもちろん「今のお金をもっと増やそうとする行為」です。
お金を増やすためにやっているのですから、キャベツを買ってお金が減るのとは違います。いつもとガラリと違うことをするべきだと思っているのです。
しかし、キャベツを買えば必ずキャベツが手に入りますが、投資に失敗して値下がりした株を売れば、「お金が減っただけでなにも得るものがない」という状況に陥ります。
■勉強や努力をせずにお金を減らしてしまう人が後を絶たない
投資とは「大事なお金が減るリスクの代償として、増えるチャンスも得る」という行為です。これを、そもそもの大前提として覚えておきましょう。
特に多いのが、定年退職して収入が激減し、将来が心配なので大事な退職金を増やさなければならない、だから投資しよう、という人です。もちろん将来が不安だから、仕事をやめる前から投資をしようという人もいるでしょう。
そのとき、金融機関のアドバイスにそのまま従って投資してしまう人や、きちんと勉強せずに金融商品をネットなどで買ってしまう人もいます。
これだって、プライシングを考えると、なけなしの退職金を減らすなど絶対に許容できないはずです。しかし、ちゃんと勉強も努力もせずに、すすめられるままに投資をし、大切な大切なお金を大きく減らしてしまうという例がなくなりません。私もよく相談を受けますが、本当に残念なことです。
■「お金の知識」なしに生きるのは無謀すぎる
ここまでは株式投資という卑近な例です。
ほかにも、社会で生きていく上で重要なお金の知識はたくさんあります。
一生でいちばん高い買い物である不動産もそうですし、会社でどうやって働くのか、どういった政党に投票すべきか、年金、保険なども基本的にはお金のしくみを理解することにつながっています。
正しいお金の知識を身につけずに社会で生きていくことは、素手で戦争に行くようなものです。戦術も考えずにそんなことをすれば、負けて殺されるに違いありません。
しかし、お金や金融知識は、学校や家庭ではきちんと習わないし、日本ではその習慣もないので、不十分なまま、社会に出ていく人が非常にたくさんいます。
そして悪いことに、そういう人達は真面目で、いい人達だったりするのです。ただお金のことを知らないばかりに、大切なお金を減らしてしまう、そんなパターンを私はよく見てきました。
世の中には「儲かる株の選び方」や「FX必勝法」などのコンテンツがあふれていて、それらには「何を買ったらいいか」「何をしたらいいか」はあっても、「そもそもなんでそれを買うべきか」「私はそれに対してどういう意見を持つべきか」まで深く理解できるものは少ないように思います。
冒頭でも述べた何より大事な「あなたがどうプライシングするか」まで深く踏み込めるものは少ないのです。
しかし、本質的なことを理解しておくことは、正しい投資をする上でとても重要です。
■「投資の知識」を過信しすぎるのも危険
株式投資をするとしても、表面的なことだけ覚えて投資を始めてしまって、しかしその後国の経済が大きく変化して、大きなトレンドが変わっていることに気づかずに大損してしまうこともあります。
先の例では、あるべき株価というものを考慮せず投資するという(でも世の中でけっこう見られる)投資のパターンをあげましたが、もう少しだけ勉強した状態を考えてみましょう。
たとえば、「株の投資には目安があって、その会社の1年の利益の15倍くらいがよいのだ」ということは、基本としてよく学びます。これを覚えたとします。
![【図表1】単純な株価の計算の方法](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/6/1200wm/img_56b885f5b26e93b4a4b20807e2984f10331852.jpg)
図表1のような1株あたりの利益が100円の会社の場合、売られている株価が1300円なら、あるべき姿より200円安いことになります。この人は、買いという判断をするでしょう。これは「あるべき株価はいくらか」ということを考えているだけ、随分と進歩しています。
しかし、実はその国では深刻なインフレが進行して金利が上昇していたとします。そうなると1500円どころか本来は1300円でも高いということもあります。ここで、あるべき株価が1500円だと思っていると、1300円でも安いと思って買ってしまうかもしれません。
これは、インフレが進行しているという世の中の大きな動きに気づいてないから起こる、判断ミスです。
こういうことも、お金のことを基礎から知らないがゆえに起きるのです。
■感覚で投資してはいけない
もう少し例をあげましょう。
![土屋剛俊『お金以前』(日経BP)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/a/1200wm/img_2a23f5e9301864bbd20d9a8ed09fc266378228.jpg)
「昨日の株価から2割も下がったのでもう買ってもいいだろう」と判断することもよくあります。たとえば、先ほどの会社の株が何かの理由(画期的商品を開発したと投資家が思い込むなどで上がることはよくあります)で3000円まで上昇して、その後2割下落して2400円になったとします。昨日まで3000円だったものが、2400円になったのですから、割安に感じてしまいます。
しかし、あるべき株価は1500円なのですから、2400円だったとしても高すぎる状態ということになり、ここで買うのは愚の骨頂です。
「相対的な感覚で投資する」こともやめましょう。
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土屋アセットマネジメント社長
1985年一橋大学経済学部卒。石川島播磨重工の航空宇宙事業本部から1987年野村証券に移り、英国ロンドン駐在、本店業務審査部を経て、野村インターナショナル(香港)にてアジア・パシフィックの非日系リスク管理部門を統括。その後、チェース・マンハッタン銀行、チェース証券会社を経て2001年より野村証券チーフクレジットアナリスト、野村キャピタルインベストメント審査部長、バークレイズ・キャピタル証券ディレクター、みずほ証券金融市場本部シニアエグゼクティブを歴任し、2021年7月より現職。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。著書に『財投機関債投資ハンドブック』(きんざい)、『デリバティブ信用リスクの管理』(シグマベイスキャピタル)、『日本のソブリンリスク』(共著、東洋経済新報社)、『入門 社債のすべて』(ダイヤモンド社)がある。
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(土屋アセットマネジメント社長 土屋 剛俊)
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