勝てても少額、負ける時は全額スるのがオチ…FX投資を「2分の1で勝てる」と考える人が根本的に間違っていること
プレジデントオンライン / 2023年2月22日 11時15分
※本稿は、土屋剛俊『お金以前』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■FXは為替の変動に賭けるゲーム
投資として、FXはどうか考えてみましょう。
ここまでFXは、読みにくい、最も難しい投資であると言ってきました。しかしFXは、その難しさに関係なく、投資の一形態として定着しています。
FXは為替の変動に賭けるゲームですが、投資対象としては不適切です。
これにはふたつの要因があります。
その1 レバレッジを掛けること
その2 その結果、短期の相場変動に賭ける投資になること
詳しく見ていきましょう。この1と2は密接に関係があります。
まず、レバレッジを掛けるとは、要するに「借金をして投資をする」ということです。
そもそもレバレッジとは「梃子(てこ)」という意味です。基本的に博打やギャンブルというのは自分のお金を賭けるものですが、手持ちのお金が少ししかないと、大きく儲けることはできません。レバレッジとは、大きく賭けるためにあります。
■99.9%の確率ですべてのお金を失ってしまう
たとえば手持ちのお金が10円しかなく、勝ってもらったお金はすべて次の勝負の賭け金として使うという賭けをしたとしましょう。FXとは、この例のようなゲームです。
そして、ルーレットの赤黒に10回賭けるとしましょう。為替は上がるか下がるかの二択ですので、赤か黒かに賭けるルーレットに似ているところがあります。
奇跡的に10回すべて勝つとします。
勝ち1回目 10円×2=20円
勝ち2回目 20円×2=40円
勝ち3回目 40円×2=80円
勝ち4回目 80円×2=160円
勝ち10回目 5120円×2=1万240円
これだけ奇跡の連続が起こって、やっと1万240円の儲けです。
このFX風ルーレットでは、勝ったお金はすべて次の賭け金として使っていますので、途中で1回でも負けると自分のお金はゼロになります。
計算式は省きますが、この賭けは1024分の1023の確率で有り金がゼロになります。そして1024分の1の確率で1万240円になります。また、負けてすべてのお金を失う可能性は99.9%です。
こんなに確率の低い勝負をする人はほぼいないでしょう。いても99.9%の確率で負けです。
もし、1回だけの勝負なら勝てるかもしれないと思ったとします。それなら勝率は2分の1です。でも10円しか持ってないので、勝てても儲けはとても少ないです。
ここで、レバレッジを効かせるべく、お金を借りたらどうでしょうか?
■FX業者は「博打の掛け金」を貸してくれる
たとえば100万円を借りてみます。
100万円を借りて1回勝負をしたら、2分の1の確率で勝ち、200万円になります。借りた100万円を返したとしても100万円の儲けです。
しかし、これには問題があります。それは、負けたときに100万円を一気に損してしまうことです。負けると、いきなりまるまる借金が100万円になります。もし100万円を借りて車を買ったなら、100万円の借金があっても100万円で買った車が手元に残りますが、ルーレットで負けた場合は手元には何も残らず、借金の100万円だけが残ります。
このような博打は大変危険だと思う人が多いでしょう。
しかし、ざっくりいうとFXはこういう賭けと同じです。
この博打には決定的な欠陥があります。お金を持っていない人に100万円ものお金を貸してくれる人を探さないといけないのです。そんなに都合よく、博打の賭け金を貸してくれる人はいません。
しかし、この構造はそのままで、賭け金を貸してくれるというしくみを持つのがFXです。次にざっくりと説明してみます。
■レバレッジはお金を貸す側が損しないシステム
たとえば全財産で1万円だけ持っている人がいたとしましょう。その人に99万円貸します。すると、その人の持ち金の合計は100万円です。
そのお金で為替の勝負をします。為替レートはちょうど1ドル100円だとします。
まずはその人は、ドルが値上がりすることに賭けました。そして1万ドルを買うことにしました。もしその後、1ドルが101円に上がると、1ドルにつき1円の儲けです。
これを、1万ドル買っているわけですから全体では1万円の儲けになります。
つまり、元手が1万円しかないのに、為替が1円動いただけで倍になったということになります。このままどんどんドルが上がって120円になったとしたら20万円の儲けになり、元手の20倍になります。
さて、問題は値下がりしたときです。仮に10円くらいドルが値下がりしたとします。
この時点で売却すると90万円です。100万円で買ったものを90万円で売るわけですので、10万円の損失になります。
これではこの人は借金を返済できません。借りた人は自分のお金を1万円しか持っていないので、お金を貸した人は9万円を損します(焦げ付きといいます)。
実は、FXにはこういう場合、もっと早く取引を解消して、お金を貸した人が損しないというルールがあります。
お金を借りた方が耐えられる損失は、金額では1万円です。100万円分のドルを買っているわけですから、為替レートでいえば1ドル99円、つまり本来なら1円の値下がりにしか耐えられません。
お金を貸した方は、それ以上損されると貸したお金を回収できなくなるので、損をしたらすぐ問答無用で買ったドルを売却します。最初の手持ちの1万円分のドルも含めてです。
つまり、自分が賭けた方と反対方向にドルが1円動いただけで、全部の賭け金を失うというルールです。
■やる側が有り金をなくしてもFX業者は儲かる
このように、FXには、お金を貸した方が取りっぱぐれないというしくみがあります。この構造を考えた人は、すごいビジネスセンスだと思います。
FX業者からするとお客さんが有り金を全部すっても、自分たちはちゃんと儲かるようなしくみです。反対に、やる方はあっという間に元手を全部なくしてしまいます。
ここでの例は計算を簡素化するために、レバレッジを100倍で計算しています。今は法律が改正され、レバレッジは元本の25倍くらいまでに制限されています。
でも、「FXはルーレットのように運でやってはいない。きちんと為替の未来を読んでの投資ではないのか」という意見もあると思います。ただ、FXには、長い期間で大きな経済の流れを予想して為替の勝負をするという余裕はありません。極めて短期的な為替変動で勝負するしかないものです。
為替というのは短期の相場変動を予想するのには極めて不向きです。為替の短期の変動は需給に大きく左右されますが、市場参加者が多すぎて、次の瞬間に「誰がいくらだけ売るのか、買うのか」は誰にもわかりません。そんなことを予想することは不可能と言ってもいいでしょう。
■短期の動きを当て続けるのはプロでも不可能
また、為替には実需と投機があります。
実需というのは原油を輸入するためにドルを買わないといけないとか、自動車を売った対価としてドルが入ってきて、それを円に替えるというような、文字通り実際の需要があって行う取引です。
投機というのは、「今ドルを買うと値上がりしそうだから、値上がりしたら売って儲けよう」という目的で為替取引をする場合です。
この投機の比率は、実需のなんと10倍くらいです。FXの取引も投機に分類されます。
このようにいろいろな取引動機を持った売買が交錯するわけですから、いつ誰が売ったり買ったりするかわかりませんし、投機筋はちょっとしたニュースでコロコロ動く方向が変わります。
短期の動きともなると、この投機筋の動きのほかに、消費者物価指数(CPI)の数字やFRB議長の発言、政治家の発言、株価、商品価格、天候、地政学リスクなど、あらゆる要素で予想外の動きが多くなります。
したがって、短期の動きを当て続けるのはどんなプロでも不可能です。できたとしてもまぐれです。
また、理論的なアプローチも行いにくいのが為替の難しいところです。いわゆるファンダメンタルズ分析(注)というものですが、それすらうまくいかないことが多いです。
(注)ファンダメンタルズとは、国の経済状態などを表す指標のことで、「経済の基礎的条件」と訳されます。国や地域の場合、経済成長率、物価上昇率、財政収支などがこれに当たります。ファンダメンタルズをもとに為替などの値動きを予測することをファンダメンタルズ分析といいます。
■為替は理論値通りには動かない
為替の世界で唯一論理的に為替レートを計算できるかもしれないと思われている購買力平価ですら、実際の世界では理論値通りにはなりません。ならないどころか大きく乖離(かいり)しているのが現状です。
たとえばトルコリラなどは、購買力平価で計算したレートより実際は圧倒的に安くなっています。また、ドル円で見ても購買力平価では90円くらいであるはずのものも、実際は145円くらいになったりします。
ところで、現在(2022年12月)アメリカと日本ではインフレ率に差がありますね。
アメリカのインフレ率の方が日本よりも高くなっています。
たとえば、ある時点で1ドル100円で、ビッグマックが日本で100円、アメリカで1ドルだったとします。1年後にビッグマックが日本で100円で据え置き、アメリカでインフレで1.5ドルに値上がりしたとします。
もしそうなら100円と1.5ドルが同じ価値のはずなので、1ドルは67円くらいの円高になるはずですね。つまりインフレの激しい方の通貨が安くなるはずなのです。
■アメリカは激しいインフレなのに、米ドルは割高なまま
でも、実際は逆で急激な円安が進行しています。
図表1はビックマック指数でみた世界の購買力平価ですが、スイス以外のすべての国で米ドルが圧倒的に割高になっています。
たとえばビックマックはアメリカで3.99ドルで日本では400円だったとします。そうなると1ドル100円のはずですが、この図で見るとドルは理論値よりも約50%割高だということになります。
■為替は2分の1で当たる丁半博打のように見えるが…
もちろん、運が良ければ、たまたま自分の賭けている方向に相場が動くこともあります。ゲームの例で見たとおり、FXは元手にくらべて儲けも大きくなるので、麻薬のような喜びが生まれます。
たまに勝つことがあるというのが、この投資のまずい点です。必ず負けるとなると誰も手を出しませんが、勝つ可能性があるため、損した人も、「次の勝負に勝って取り返せばいい」と思いがちなのがFXの怖いところです。
また、為替は上がるか下がるかしかない、つまり単純なゲームだというところも手を出しやすいのではないかと思います。為替は丁半博打のようなもので、当たる確率が2分の1のような気がしてわかりやすいのです。ドルを買っていた場合、ドルが値上がりしたら儲け、下がったら損だというのはとてもシンプルです。
■なぜFX取引をあおる業者があとを絶たないのか
さらに投資のプロではない人の多くは、少しでも儲かるとすぐに売って(利食って)しまい、儲けを大きく取らないのが一般的です。たとえば2円値上がりしたあと、1円下がって、含み益が半分になってしまうと不安になって売ってしまうような場合が多いです。
つまり、FXとは、「勝ちは少ないが負けは大きく、損するときはあっという間に賭け金をすってしまう。そして方向を合理的に当てることは不可能」という勝負になってしまうのが、典型的なパターンではないかと思います。
ではなぜFXをやらせようとする業者があとを絶たないのでしょうか。
それは、業者にとってはもっともリスクが低く、収益性の高い商売だからです。
まずは、お金を貸すのが業者です。その分の金利が取れます。
その上、業者は顧客が売買する度に少し鞘を抜けます。相場変動リスクももちろん取りません。したがってFX業者は、顧客がFXをやればやるほど、ほぼリスクフリーで儲かるというしくみです。大手のネット証券では、営業利益の3割がFXというところもあります。
ですので、FXは個人の資産形成のための投資対象としてはまったくおすすめできません。
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土屋アセットマネジメント社長
1985年一橋大学経済学部卒。石川島播磨重工の航空宇宙事業本部から1987年野村証券に移り、英国ロンドン駐在、本店業務審査部を経て、野村インターナショナル(香港)にてアジア・パシフィックの非日系リスク管理部門を統括。その後、チェース・マンハッタン銀行、チェース証券会社を経て2001年より野村証券チーフクレジットアナリスト、野村キャピタルインベストメント審査部長、バークレイズ・キャピタル証券ディレクター、みずほ証券金融市場本部シニアエグゼクティブを歴任し、2021年7月より現職。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。著書に『財投機関債投資ハンドブック』(きんざい)、『デリバティブ信用リスクの管理』(シグマベイスキャピタル)、『日本のソブリンリスク』(共著、東洋経済新報社)、『入門 社債のすべて』(ダイヤモンド社)がある。
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(土屋アセットマネジメント社長 土屋 剛俊)
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