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DV夫から逃走離婚も財産分与0円養育費0円、26歳息子は鬱病10年の55歳パート母が手にした410万円の"出処"

プレジデントオンライン / 2023年2月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CribbVisuals

13年前に一人息子を連れDV夫から逃れ、離婚した女性(現在55歳)。フルタイムのパートで生活を維持してきたが、息子は中学の途中からひきこもり状態になり鬱病と診断された。26歳になったが、今後も働くことは望めそうにない。「体力が衰え収入が減ったら私たちはどうなるのか、自分が死んだ後、息子はどうしたらいいのか」。漆黒の不安を抱えていた――。

■パートで手取り月収13万5000円の55歳母親の不安

20代以上のひきこもりの子供がいる場合、親亡き後の生活に備え、可能な限り貯蓄をしておくことは望ましい、と筆者は考えています。しかし「日々の生活を送るのに精いっぱいで、貯蓄をすることが難しい」といった家庭もあります。

筆者の元に相談に訪れた母親(55)もその一人でした。母親は小柄な体をさらに小さく丸め、胸の内を口にしました。

「夫とは13年くらい前に離婚し、現在は長男(26)と賃貸アパートで二人暮らしをしています。収入は私のパート収入のみで、親子二人分の生活費をまかなっています。しばらくの間はフルタイムで働くつもりですが、体力が衰えていけば働く時間も短くなってしまうことでしょう。貯蓄はほとんどないので、収入が減ってしまったら生活が危うくなってしまいます。私たちには頼れる身内もいません。一体この先どうなってしまうのか? 不安でたまりません……」

その口ぶりから、母親はお金の心配で頭の中がいっぱいになってしまい、冷静な判断ができていないように感じられました。そこで筆者は、まず現状を確認し、何か対策が立てられないかを考えることにしました。

■家族構成
母親 55歳 パート フルタイム勤務で社会保険に加入中
長男 26歳 ひきこもり 無職

■収入(月額)
母親 パート収入 手取り約13万5000円

■支出(月額)
基本生活費 約8万円
家賃 5万円

■財産
現金預金 200万円

現在の収入は月13万5000円、支出は月計13万円です。母親のパート収入が減ってしまったら、確かに家計は回らなくなってしまうことでしょう。

■「フルタイムでのお勤めは何歳くらいまで?」

パート収入が減ってしまう分を、何か他の収入でカバーすることができないか? そのあたりのことを考えていく必要がありそうです。そこで、筆者は母親に質問をしてみました。

「フルタイムでのお勤めは何歳くらいまでのご予定でしょうか?」

「65歳まででしょうか。それ以降は、体力的にもフルタイム勤務は厳しいかもしれません」

「なるほど。それでは65歳以降にパート収入が減るといった想定にしてみましょう。お母親が65歳になると老齢年金が受給できますから、その金額も把握しておきたいところです」

筆者は母親から年金加入状況を聞き取り、大まかに試算してみることにしました。

母親の年金加入状況は概ね次の通りです。

20歳から23歳まで 国民年金 未納
23歳から27歳まで 厚生年金 平均年収170万円程度
27歳から42歳まで 元夫の扶養(※)国民年金の第3号被保険者
42歳から65歳まで 厚生年金に加入予定 平均年収200万円程度

※離婚時の年金分割の手続きはしなかったとのこと

母親の年金加入状況をふまえ、筆者は大まかな試算をしてみました。

老齢基礎年金 月額 約6万円
老齢厚生年金 月額 約3万円
合計 月額 約9万円

試算を終えた筆者は母親に言いました。

「65歳以降にパート収入が減ってしまった分は、老齢年金でカバーすることになるでしょう。仮にパート収入が半分になってしまっても、何とか持ちこたえることはできそうです。ただ、今回計算した老齢年金額はあくまでも大まかなものです。詳しい金額は、年金事務所で試算してもらうか、ねんきんネット(日本年金機構のサイト)で確認するようにしてください」

「はい。分かりました。確認しておきます。ですが、もし私が65歳になる前にパート収入が減ってしまったら……。一体どうすればよいのでしょうか?」

「その場合、ご長男にもご協力いただけないか検討する必要もありそうです。ご長男は26歳とお若いですし、例えばご長男が働いてお金を稼ぐということは難しいのでしょうか? 正社員でなくてもパートやアルバイトでも構いません。就労することに不安を抱えているようであれば、まずは就労支援を受けることから始めてみる方法もあります」

それを聞いた母親の表情は一層曇り出しました。

薄暗い部屋のカーテンをつかむ女性の手
写真=iStock.com/liebre
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

■DV夫から逃走して離婚も…財産分与0円養育費0円

「就労は難しいと思います。長男は10代の頃からひきこもり状態にあり、現在までほとんど外に出ていませんし……」

「そうなのですね。差し支えなければ、ご長男について少しお話をしていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい。構いません」

母親から長男の状況を伺うことにしました。

長男は小学生の頃まで、特に大きな問題もなく毎日を楽しそうに過ごしていたそうです。しかし長男が中学生になると状況は一変してしまいました。

学校の教室でテストを受ける生徒たち
写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

父親の会社が業績不振によりリストラを敢行したのです。父親はリストラされずに会社に残れましたが、従業員の数が減ったため、業務量がかなり増えてしまいました。職場での人間関係も悪化していき、父親は常にイライラしている状態に陥ってしまったそうです。

そのイライラの矛先は母親と長男に向かいました。母親や長男を怒鳴る、暴言を吐く、時には暴力をふるうこともあったそうです。そのような日常に耐えきれなくなった母親は離婚を決意。逃げるように離婚をしたので、財産分与や養育費の話をする余裕はありませんでした。

離婚後、引っ越しをした母親と長男は、そこで新たな生活をスタートさせることになりました。父親の援助は期待できないので、母親の収入で親子二人分の生活費をまかなわなければなりません。母親は正社員になることができなかったので、フルタイムのパートで働くことにしました。

引っ越しをしたことにより、長男は中学校を転校することになりました。しかし、その中学校の環境は、今まで長男が経験したことのないようなものでした。授業中にクラスメイトが騒いでしまい授業にならない。休み時間になると男子生徒同士で取っ組み合いのケンカをする。男子と女子の仲が悪く大声で怒鳴り合う。先生は大声で叱ってばかり。長男はクラスメイトからいじめを受けていたわけではありませんが、そのような環境に身を置くうちに、次第に体調に異変が出てきてしまいました。朝布団から出ることができない、朝食がほとんど食べられない、微熱や頭痛がいつもあるといった状態になってしまったのです。

心配した母親は、長男を近所の小児科へ連れていきました。小児科で血液検査などをしましたが、特に体に異常は見られませんでした。

医師からは「学校になじめていないことが原因かもしれません。ストレスからくるものかもしれませんので、しばらく様子を見ましょう」と言われました。

■不登校からひきこもりになった息子はうつ病と診断

まじめな性格の長男は、その後も無理をして中学校へ登校していました。しかし、だんだん学校を休みがちになり、とうとう登校することができなくなってしまったのです。それ以降、中学校に登校することはなく、卒業式にも出席することができませんでした。中学卒業後は通信制の高校に進学しましたが、長続きせず1年で辞めてしまいました。

布団が乱れたベッド
写真=iStock.com/VTT Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VTT Studio

母親は「離婚により長男にショックを与えてしまったのではないか?」という負い目もあり、高校に再度転入するよう促すことはせず、家の中で静かに過ごしている長男に苦言を呈することもしませんでした。

長男は高校を退学した後も小児科の受診を続けていました。しかし、長男が18歳になると年齢制限によりその小児科を受診することができなくなってしまうことが判明。そこで小児科に紹介状を書いてもらい、近所の心療内科へ転院することにしました。診療内科を受診した長男はうつ病と診断され、通院治療を開始することに。その後、月に1回程度の通院治療を続けてきましたが、うつ病が改善することはありませんでした。むしろ「徐々に悪化しているのではないか?」と母親は感じているそうです。

そこまでお話を伺った筆者は、次のような提案をしてみました。

「ご長男はうつ病により働くことが難しいようなので、障害年金の請求を検討してみるとよいかもしれません。ちなみに、ご長男は今まで障害年金の請求をすることはなかったのでしょうか?」

「請求はしていません。以前、長男はインターネットでいろいろと調べていたようですが、制度や手続きが複雑すぎて何から始めたらよいのかが分からず、諦めてしまったようです」

「なるほど。仮にご長男が障害年金を受給できるようであれば、万が一の場合はご長男の障害年金を生活費に充てていく方法も取れます。請求してみる価値はありそうですね」

「もし障害年金がもらえるとしたら、一体いくらになるのでしょうか?」

「ご長男は、障害の原因となった病気で初めて病院を受診した日は中学生の頃なので、障害基礎年金を請求することになります。障害基礎年金には1級と2級があります。1級の方がより障害の程度が重く、年金額も高くなっています。仮に障害基礎年金の2級に該当した場合、金額は次のようになります」

障害基礎年金(2級) 約6万4800円
障害年金生活者支援給付金 約5000円
合計 6万9800円

「月額で約7万円の収入になりますから、お母様のパート収入が減ってしまった分をカバーすることも可能でしょう。今回のケースでは、障害認定日(障害年金が請求できる日)は20歳に達した日になります。つまり20歳当時にさかのぼって障害基礎年金を請求することが可能ということです。仮に20歳当時から障害基礎年金が認められれば、初回の年金振込時に過去5年分がまとめて支給されることになります」

すると母親は不思議そうな顔をしました。

■冬場は1カ月以上シャワーすら浴びないことも

「長男は26歳なので、20歳までさかのぼると6年分になるのではないですか?」

「残念ながら、障害基礎年金の時効は5年となっています。つまり『5年よりも前の障害基礎年金は時効消滅によりもらえなくなってしまう』ということです。逆に言うと『仮にご長男が20歳当時から障害基礎年金が認められたとすると、過去5年分はさかのぼって振り込まれます』ということです。何はともあれ、すでに時効が発生していますから、すみやかに必要書類を揃えて請求するほうが望ましいでしょう」

それを聞いた母親は不安を口にしました。

「そんなにすぐ請求できるものなのでしょうか? 障害年金を請求するためには、たくさんの書類を揃える必要がありますよね?」

「その辺は大丈夫です。ご長男の同意が得られれば、私もご協力いたします。必要書類は私の方で揃えていきますので、後はご家族からのヒアリングができれば請求までこぎつけることができます」

「ヒアリングとは具体的にはどのようなものなのでしょうか?」

「主にご長男の日常生活の様子になります。障害基礎年金の必要書類のひとつに、病歴就労状況等申立書というものがあります。この書類には、発病(体調を崩した時)から現在までの状況を具体的に記載していきます。その中で最も重要なのが『ご長男がうつ病により日常生活にどのくらいの支障が出ているのか?』というものです」

そこまで説明した筆者は、母親から長男の日常生活の様子も大まかに伺ってみることにしました。

長男は17歳ごろから昼夜逆転の生活がひどくなってしまい、起床は昼を過ぎてから。時には夕方ごろに起きてくることもあるそうです。食事は1日に1回で量はかなり少なめ。ご飯をお茶碗に半分、おかずと汁物を2~3口取るだけ。

自室の掃除をすることもなく、カーテンすら開けません。電気もつけずに、薄暗い部屋の中で一日のほとんどを過ごしています。窓を開けて換気もしないため、室内には湿気が多く、壁やカーテンにカビが生えてしまったこともあったそうです。そのようなこともあり、長男の部屋の掃除は母親が月に1回程度しています。

入浴をする気力も湧かず、1週間に1~2回シャワーを浴びればよい方。冬場は1カ月以上シャワーすら浴びないこともあります。

外出することはほとんどなく、月に1回の通院は母親に付き添ってもらわないとできません。日常生活に必要なものは、すべて母親に買ってきてもらっています。

ATMを操作したこともないので、銀行やコンビニでお金を引き出すことは難しい。まして、長男が一人で役所などに行き、窓口で説明を受けて手続きをするなんてとてもできないということでした。

ローソンの店舗
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■請求から4カ月後、障害基礎年金410万円が振り込まれた

以上のことから、長男の日常生活は母親の支援がないとかなり厳しい状況にあることが分かりました。長男の様子をメモし終えた筆者は、視線を母親に向けました。

「今お話いただいたような内容を、私の方で病歴就労状況等申立書にまとめていきます。発病から現在までの状況もヒアリングする必要がありますが、それはお母様からご長男に事情を説明いただき、ご長男から同意を得てからにしましょう」

「分かりました。長男にも伝えてみます」

面談後、長男から同意を得た筆者は、障害基礎年金に必要な書類を揃えて請求をしました。

請求から4カ月がたった頃。母親から障害基礎年金の振り込みがあったとの連絡がありました。

「おかげさまで20歳当時から障害基礎年金が認められ、初回に約410万円が振り込まれました。その後、長男と話し合い、私のパート収入が減った後は障害基礎年金を生活費に充ててもよいということになりました」

【図表1】加給年金額と子の加算額
日本年金機構「障害年金ガイド」より

そこまで話した後、母親は急に声のトーンを変えました。

「本当なら長男のために貯蓄をしていきたいのですが……。そこまでの余裕はありません。障害基礎年金は大変ありがたいのですが、親亡き後、長男は一人になってしまうので、障害基礎年金の収入だけではとても生活ができませんよね?」

「その場合、グループホーム(障害のある方が必要な支援を受けながら共同生活を送ることができる住居)も検討してみましょう。グループホームにかかる費用は、障害基礎年金の2級と同じくらいの月額約7万円になっています。仮に貯蓄がほとんどなくても、親亡き後の生活も何とかすることができると思われます」

「なるほど、そのようなものもあるのですね。さっそく長男に話してみます。ご相談する前までは目の前が真っ暗な状態でしたが、おかげさまで一筋の光を見たようでした。この度はご協力いただき、本当にどうもありがとうございました」

今回の対策で母親のお金の不安が完全に解消されたわけではありませんが、それでも少しは役に立てられたようで筆者も嬉しく思いました。

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浜田 裕也(はまだ・ゆうや)
社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー
平成23年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本『第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え』を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことからひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりのお子さんをもつご家族のご相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりのお子さんに限らず、障がいをお持ちのお子さん、ニートやフリータのお子さんをもつご家庭の生活設計のご相談を受ける『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある。

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(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田 裕也)

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