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「和食は長生き、洋食は短命」ではなかった…都道府県の寿命ランキングから見える「不都合な真実」

プレジデントオンライン / 2023年2月17日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ahirao_photo

寿命が長い県と短い県の違いは何か。評論家の八幡和郎さんは「長寿日本一の滋賀県を筆頭に、肉やパン、コーヒーなど洋風化した食生活を送っている県は長寿の傾向がある。一方、寿命が短い県は酒類の消費額が多いという共通点が見られる」という――。

■滋賀県はなぜ「長寿日本一」になったのか

厚生労働省は5年に一度、都道府県ごとの平均寿命を調査しており、昨年12月に2020年(令和2年)時点の調査結果が公表された。まだ新型コロナの平均寿命への影響はほとんどない時期だ。

都道府県トップは男性が滋賀県、女性が岡山県で、最下位は男女とも青森県である。この結果について、いろいろ論評がされているが、関連する要素は無限にあるから、仮説を立てて検証し絞り込むしかない。

たとえば、男女総合(*1)で1位となった滋賀県は、私の出身県なのだが、なぜ「長寿日本一」になったのか。県当局やマスメディアは「琵琶湖という自然豊かな環境がある」などと取り上げていたが、男性が27位だった半世紀前から事情が変わらない要素を取り上げるのはおかしいだろう。

ここでは、過去との比較、男女差、近隣などの類似県との相関性を考慮しつつ、私なりに分析してみたい。

図表1は、2020年と半世紀前の1965年の男女別の順位である。1965年と言えば、東京五輪の翌年、首相は佐藤栄作、団塊の世代が高校生だった頃だ。公害問題への関心が高まっていた。沖縄はまだ返還されていなかったので、便宜上、1975年の順位を括弧内に入れておいた。

【図表1】
筆者作成
2020年と1965年の平均寿命都道府県ランキングの比較 - 筆者作成

(*1)男女合計の数字は発表されていないので、「男女総合」という場合には、便宜上、両方を足して2で割った数字で論じている。

■大都市部はバブル経済期にランク急落

1965年時点の全国平均は男性67.74歳、女性72.92歳。2020年の全国平均は男性81.49歳、女性87.60歳なので、日本人は半世紀の間に13~14歳ほど寿命が延びたことになる。

図表1を見て、まず気づくのは、下位県は東北とその周辺の県が多く、それは、現在も過去も同じだということだ。男女総合で下位4県である青森、福島、秋田、岩手は1965年にも男女とも最下位グループにあった。

それに対して、上位についてみると、かつては大都市部の順位が明らかに高かった。1965年には、東京が男女ともトップだったのに、現在は男性が14位、女性が17位に落ち込んでいる。

急速にランクを落としたのは、バブル経済で東京一極集中が進んだ時期で、1995年には、男性20位、女性33位まで落ちた。

東京通勤圏のうち、埼玉はほぼ横ばいだが、茨城、神奈川、千葉も順位をかなり低下させている。これは、首都圏の急激な人口増加に医療体制の整備が追い付かず、寿命が伸び悩んだ可能性が強い。

大阪は1965年には男性12位、女性13位だったが、1985年に男性46位、女性47位と最低水準に落ち込んだ。その後も大きくは回復できず、現在は男性41位、女性36位だ。

橋下知事の登場は2008年であるから、医療問題を含めた維新の改革がゆえに低下したということではありえず、むしろ、可能性としては革新府政の時代の責任を挙げるべきだろう。

■喫煙や飲酒よりスポーツを好む滋賀県人

2020年の男女総合トップ5は、滋賀、長野、京都、奈良、岡山で、大阪が低迷しているのと対照的に、長野を除いては関西圏が並んでいる。

このうち、滋賀県と奈良県は、大阪や京都のベッドタウンとしてだけでなく、職場や大学が急速に移転し、人口も増えたし、所得や税収も上がった。京都や大阪に依存していた総合病院も充実し、戦時中にできた軍医養成のための医専が発展して奈良県立医大となり、滋賀県には滋賀医科大が創立された。

平均寿命は両県ともほぼ一貫して順位を上げているが、とくに滋賀県は、1965年には、男性27位、女性31位だったのが、2020年には男性1位、女性2位、男女総合でも全国トップとなった。

県が作成した資料「滋賀県の長寿のヒミツはこれだった⁉」によると、たばこを吸う人や多量飲酒をする人が少ない(男性1位と4位)という。これは大事な理由だ。

スポーツをする人が多い(男性2位、女性6位)、学習・自己啓発をする人が多い(男性5位、女性6位)、ボランティアをする人が多い(男性2位、女性4位)などは、都会からの転入者が、恵まれた環境を活用した生活スタイルを楽しみ、それに地元民も触発されたように思う。

また、失業者が少ない(2位)、県民所得が高い(4位)、所得格差が小さい(ジニ係数2位)などは経済開発成功の成果だ。

■「食事の洋食化」と長寿の意外な相関性

食生活について言えば、消費額ベースで肉類2位、牛肉3位、卵5位、コーヒー1位、パン4位、マーガリン7位など、かなり徹底的に洋風化された食生活である(*2)。この傾向は、同じく平均寿命で男女総合4位の京都と5位の奈良も共通で、食事の洋風化が長寿の決め手といってもおかしくないほど相関性がある。

(*2)総務省統計局「家計調査」(2020~2022年平均)による。47都道府県庁所在地と、北九州市、堺市、浜松市、相模原市、川崎市の52都市についてのものである。都道府県庁所在地の数字で代表させている。

和食が健康的だとか発酵食品や大豆製品を摂ると長寿になると言われるのは、西洋人が現状よりそちらに傾いたほうがいいということであって、日本人はむしろ逆なのではないか。こんなところで、国粋主義のような考え方をもちだすのはよろしくない。

滋賀県が長寿であるもうひとつの要因は、医療体制だ。京都の大学出身の医師にとって、近隣なので医局からの派遣先として歓迎される傾向があるほか、1974年の武村正義県政誕生時に医系技官トップの鎌田昭二郎ら京都大学医学部系の勢力が擁立の中心にあったことから、彼らの県政への発言力が強く、それが医療体制の充実に有利に働いたとも言える。

ハムと卵とパン
写真=iStock.com/Promo_Link
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

■「塩分摂り過ぎ」改善を進める長野県

長野県も、地域医療体制に成功したと言われる県だ。もともと、全国有数の塩分摂取量が多い地域で、冬の寒さも厳しく、脳卒中による死者が多かった。そこへ現在のJA長野厚生連・佐久総合病院にやってきたのが、若月俊一医師(故人)である。

治安維持法で逮捕・拘禁されたりして東京を離れ、1945年3月に長野へ赴任したのだという。そして、診察だけでなく、農民の生活に入り込んで管理をしなければならないと考えたのである。

無医村への出張診療、「予防は治療に勝る」と自ら脚本を書いた演劇などによる啓発、衛生活動の推進、健康診断のモデルとなった八千穂村での全村一斉健診などを行い、アジア全体での農村医療のモデルとなったとして「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞した。

また、1959年には、同じく佐久市の国保浅間総合病院に吉澤國雄院長が赴任し、「脳卒中になる理由は塩分の摂り過ぎである」と啓蒙(けいもう)活動を行った。それが1980年からは、県全体の「県民減塩運動」となり、1日の塩分摂取量が15.9gだったのが、1983年には11gにまで減ったという。

■岡山県の長寿を支える、名知事の遺産

岡山県の長寿は、名知事として知られた三木行治(1951~64年在任)の遺産と言うことができる。三木は旧制六高から岡山医科大学(現岡山大学医学部)を卒業して医者になった。岡山医大は旧帝国大学と同列に扱われていた名門である。

そののち、簡易保険健康相談所で働く一方、九州帝国大学法文学部で学び、さらに、医学博士号もとった。この異才の名声は東京の厚生省にまで届き、1939年には医系技官となり、厚生省公衆保健局長、ついで公衆衛生局長に就任し、海外の視察にも出かけた。

知事になった三木は、「行政の科学化」を標榜(ひょうぼう)し、「産業と教育と衛生の岡山県」をスローガンに掲げた。経済開発では倉敷市の水島に理想的なコンビナートを造成し、国体を梃子(てこ)にインフラ整備にも成功したが、癌実態調査、アイバンクの設立、精神障害児施設の開設など医療福祉面で最先進県との評価を得て、これもマグサイサイ賞を受賞した。

■短命県の共通点は「アルコール消費が多い」

平均寿命ランキングで下位の県について考察すると、1965年と2020年いずれも東北勢が目立つ。所得の低さに問題があるのかといえば、青森、福島、秋田、岩手、茨城の一人当たり県民所得(2019年度)は、全国43位、28位、39位、35位、10位であまり相関性は高くない。

雪国が良くないのかといえば、男性の平均寿命では石川が6位、福井が7位だから関係なさそうだ。一方、さきほど紹介した「家計調査」(2020~2022年平均)で見ると、酒類の消費額は青森が1位、福島が7位、秋田が5位、岩手が6位で、過度の飲酒が健康に悪いことを如実に表している。

また、魚介類の消費額は青森2位、福島19位、秋田4位、岩手17位、納豆では青森が9位、福島が1位、秋田が6位、岩手が2位である。牛肉では青森が41位、福島が48位、秋田が42位、岩手が52位だ。魚介類や納豆をよく食べ、牛肉は控えめな県が平均寿命では下位にあるのは、健康食志向の人にとっては都合の悪い事実である。

■沖縄県が長寿トップクラスから急落したワケ

一方、半世紀の間に平均寿命の順位が急落したところのひとつが沖縄で、1975年には男性が10位、女性が1位だったのに、2020年はそれぞれ43位と16位である。

その原因として、食事の変化をいう人が多いが、もともと沖縄は米軍の影響でランチョンミートを大量消費するなどしてきたし、外食も多かった。野菜類は本土との交流が深まる中で豊富になっている。本土の人たちの感覚で指摘されることのほとんどは、「変化」の説明になっていない。

ひとついわれるのは、高齢者層でなく若年層の死亡が多いという指摘だ。確かに、県によると、アルコール性肝疾患の死亡率は男女とも全国より高く、男性は全国平均の約2倍という。沖縄特有の飲酒文化で、極端な飲酒をする人が多いことの反映だろう。

また、かつて沖縄の郷土料理は薄味だったが、だいぶ、味付けが濃くなったように思う。このあたりも影響しているのかもしれない。

さらに、新型コロナ禍で露呈した沖縄の医療行政の劣悪さも、間違いなく短命化の原因の一つであろう。

沖縄の居酒屋
写真=iStock.com/Yuzuru Gima
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuzuru Gima

■長寿県の自己分析が正しいとは限らない

結語としていくつかの点を指摘すれば、長寿県といわれるところの県当局や地元関係者の要因分析は、他の都道府県や自身の過去とフェアな比較がされているとは限らない。我田引水的なものも多く、必ずしも当たっているとは限らない。

食生活では、和食や粗食が良いということはなく、むしろ、肉などの消費量が多く洋風化が進んでいるところのほうが長寿である傾向すらある。とくに、欧米人は肉の消費量が多すぎるから減らしたほうが良いとしても、それが日本人に当てはまるわけでない。

生活習慣全般でも、食生活でも、過度の飲酒や栄養バランスに欠ける食事、無精な生活態度は、とくに男性において良い結果をもたらさない。

一方で、滋賀や長野、岡山のケースで見たように、医療体制の改善や生活指導は、確実に成果を上げ、しかもそれは長続きするということだろう。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

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