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3年以内に100店舗設置予定…中国の新興メーカー「BYD」が日本市場で虎視眈々と狙うEV化戦略

プレジデントオンライン / 2023年2月22日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

中国では新車販売台数の5台に1台がEVに置き換わっているという。EV専門ジャーリストの高橋優氏は「補助金や税制優遇もEV普及の理由の一つですが、魅力的なEVが続々と発売されていることも大きな理由になっています」という――。

※本稿は、高橋優『EVショック ガラパゴス化する自動車王国ニッポン』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

■世界でEVを売りまくっている中国

中国こそ世界で最もEVを売りまくっている、いわばEV先進国です。

EV-Volumesによると、2022年9月度までの世界全体でのEVとPHEVを合計した販売台数は、おおよそ681万台。一方、中国市場のみで販売したEVとPHEVの販売台数の合計は、およそ405万台。つまり中国国内で売れたEVとPHEVの販売台数だけで、世界全体の実に6割近いシェアを占めているのです。このことからも、EVシフトの真の震源地は中国市場である、ということがわかります。

それでは、この中国市場におけるEVシフトの現状を、販売台数の最新動向、および人気のEVなどを交えながら詳しく見ていきましょう。

執筆時点で最新の2022年10月度までの新車販売全体に占めるEVのシェア率はというと、実に22%。中国で売られている全ての自動車のうち、5台に1台以上はEVに置き換わっています。

我々日本市場のEVシェア率が1%程度に留まっているという現状と比較していただければ、中国がEVシフトでいかにリードしているのかが一目瞭然です。

■中国国内でEV販売が急速に伸びた2つの理由

中国とひと口に言っても、都市部と山間部ではEVシフトのスピードに大きな差があるわけですが、EVシフトのスピードが急上昇している大都市圏の上海に目を向けてみると、2022年度の上半期におけるNEV(中国で一般的に使用される括りで、EV・PHEV・水素燃料電池車〈FCEV〉の合計を示す)シェア率が、脅威の45.1%を記録しています。

つまり、中国上海で売れた全ての自動車のうち、半数近くがEVやPHEVであったとイメージしていただければ、もはや上海ではNEVを購入することが一般的になりつつある、ということがおわかりいただけると思います。

中国全体でEV販売がこれほどまでに急速に伸びている理由は大きくふたつあります。国家主導でEVの普及を大々的に進めているということと、極めて魅力的なEVを開発する新興メーカーが急成長しているということです。

■2023年末まで自動車の購入税10%が免除される

1点目の国家主導でのEV普及推進についてですが、中国ではEVを購入する際の補助金や税制優遇措置を強力に推進しています。EV購入補助金は2022年末まで30万元以下(約600万円)の車両に対して、概ね1万元強ほど(約20万円強)支給されますが、それ以上に大きいのが中国国内で自動車を購入する場合の免税措置で、自動車の購入税として10%かかるところ、NEV購入の場合は免除されるのです。この免税措置は、当初2022年で打ち切り予定だったのですが、Covid-19による経済の落ち込みに対する刺激策として、2023年末まで延長することが決まっています。

もっとも中国では、経済刺激策として2022年6月から年末にかけて、通常の内燃機関車を購入する場合でも排気量が2000㏄以下、車両金額が30万元以下という諸条件下で、この購入税を半額にするという優遇措置を実施していました。2022年後半はEVだけが優遇されていたわけではなかったのですが、それにもかかわらず、2022年後半にEVのシェア率がさらに伸びていったということは、免税措置だけではない何か別の理由で中国の人々がEVを選択しているということになります。

■高級EVメーカーとして認知された「NIO」

その理由が2点目の、続々と発売される魅力的なEVの存在です。

例えばフォルクスワーゲンの世界戦略車であるEV、ID.4(アイディー.フォー)は中国国内でも月間数千台という一定の販売台数を売り上げているわけですが、そのID.4を優に上回る圧倒的な販売台数を誇る魅力的なEVが中国国内では多数販売されています。そしてそれらの魅力的なEVを販売しているのは既存の自動車メーカーではなく、中国現地で続々と立ち上がった新興EVメーカーなのです。

中国新興EVメーカーとして最初にご紹介したいのが、2014年に立ち上がったNIO(ニオ)です。創業してたったの4年後の2018年には初の大型SUVであるES8を発売し、2022年末時点で6車種ものEVをラインナップ、高級EVメーカーとして認知されています。年間100万台ものEVを生産可能な巨大な車両生産工場を建設して、すでに車両の量産もスタートしています。

ビルの前にはNIOのロゴが見える、NIO House
写真=iStock.com/Andy Feng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andy Feng

■中国全土に1250カ所以上の大規模なEVインフラを構築

特筆すべきは、独自の急速充電ステーションやバッテリー交換ステーションの設置を開始し、2022年12月時点ですでに中国全土に1250カ所以上という大規模なEVインフラを構築していることです。数分間のバッテリー交換作業だけで満充電状態に復活させるサービスや、発電機搭載の車両を呼び出して、充電ステーションに行かずとも充電できるサービスも提供するなど、内燃機関車と同等の利便性を担保しています。

またNIO House(ニオハウス)呼ばれるオーナー限定のコミュニティの場では、カフェやコワーキングスペース、キッズスペースなどを併設し、NIO専用のアプリ内に独自のSNS機能を設けることによって、NIO HouseとNIOアプリでオンラインでもオフラインでもオーナー同士の交流ができるように配慮しています。既存の高級車メーカーがこれまで提供できなかった新たな価値を提供することで、NIOは中国国内の高級車メーカーとしてトップクラスのEV販売台数を達成しているのです。

■バッテリーに強みを持つ「BYD」

もうひとつの注目メーカーがBYD(ビーワイディー)です。こちらはスタートアップではなく、元々は1995年にバッテリーメーカーとして戧業され、2003年には自動車メーカーを買収して自動車事業にも着手。バッテリーメーカーの強みを活かして早期からEVの研究開発に取り組み2022年3月、内燃機関車の生産を終了してNEVに注力する方針を表明しました。

2022年11月までのNEV販売台数は162万台以上で、現在中国を飛び越えて世界最大のNEVメーカーに君臨するほどの急成長を遂げています。

BYDの最大の強みは、自社でバッテリーを内製し、大量生産することができるという点です。詳細は後述いたしますが、BYDの最新のバッテリーセルであるBlade Battery(ブレードバッテリー)を、乗用車だけではなくバスなどの商用車を含めたほとんどの車種に採用することによって量産コストを低減させ、安定的に安価に供給できるLFPと呼ばれる種類のバッテリーを採用し、急成長をしました。

■「BYD」は2025年までに日本で100店舗をオープン

現在BYDは、トヨタと中国で合弁会社を立ち上げて、EVに関する共同開発を行っており、トヨタは中国専用EVとしてbZ3(ビーズィースリー)という中型セダンの発売をスタートしています。BYD製のLFP系バッテリーやモーターなどを搭載していることによって、bZ3は電費性能が中国市場で発売されている競合EVのセダンと比較しても非常に優れています。

高橋優『EVショック ガラパゴス化する自動車王国ニッポン』(小学館新書)
高橋優『EVショック ガラパゴス化する自動車王国ニッポン』(小学館新書)

BYDは日本市場への参入も表明しており、2023年中にも合計3車種のEVを発売する方針を発表しています。すでにATTO3(アットスリー)は440万円とEVとしては安価で発売されており、DOLPHIN(ドルフィン)というコンパクトサイズのEVは、比較的コンパクトなサイズ感と、EVとしての実用的なスペック、手の届きそうな価格を兼ね備えていることによって、日本でも注目するべき存在となるでしょう。

BYDは2025年までに日本国内に合計して100店舗以上もの販売ディーラーを設置していく方針も表明しています。

中国市場は今や、世界全体のEV販売の6割弱を支配するEVマーケットの中心です。中国政府主導によるEV普及促進のための税制優遇措置の強力な推進と、台頭した中国新興EVメーカーの極めて魅力的なEVの登場という官民一体のEV推進によって、世界一のEV大国になっています。

そして、その急速に力をつけてきている中国EVメーカー勢が、自動車王国である我々日本市場に、まさにこれから進出すべく虎視眈々(たんたん)と牙を研いでいるところなのです。

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高橋 優(たかはし・ゆう)
EV専門ジャーナリスト
1996年、埼玉県生まれ。日本初のEV専門ジャーナリスト。2020年よりYouTubeチャンネル『EVネイティブ【日本一わかりやすい電気自動車チャンネル】』を運営。世界の最新EVニュースをわかりやすく解説している。新型EV情報はもちろん、充電インフラ、バッテリーの最新情報、国内外のEV事情など、深く、広く情報を網羅。同時にさまざまなEVの1000キロチャレンジ、極寒車中泊など、EVの運用を体を張ってテスト。ユーザー目線の情報も数多く発信している。

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(EV専門ジャーナリスト 高橋 優)

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