ドイツでも中国でも販売台数トップを記録したEV王者テスラ…デザイン設計以外の真の魅力とは
プレジデントオンライン / 2023年2月27日 9時15分
※本稿は、高橋優『EVショック ガラパゴス化する自動車王国ニッポン』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
■2022年9月にドイツで最も売れた「モデルY」
2020年3月、テスラはモデル3に続く新型EVを発売しました。ミッドサイズSUVセグメントのモデルYです。SUVは現在、世界的に需要が増加しているため、セダンタイプのモデル3よりもさらに売れることは容易に予想がつきます。
この世界的に需要の高いモデルYを生産するため、テスラはアメリカ第2の工場としてテキサスに「ギガファクトリー5」を建設し、2022年の前半から稼働させました。またドイツ・ベルリンにもヨーロッパ大陸初の「ギガファクトリー4」を建設し、2022年前半から稼働させています。現在テスラはグローバルに4つの車両生産工場を稼働させており、その全てでモデルYを生産する体制を構築しています。
2022年後半時点で、モデルYの生産台数はベルリンのギガファクトリー4で週産2000台を突破。販売台数では2022年9月に日本に次ぐ自動車大国であるドイツ市場のみで9846台という販売台数を記録し、ドイツ国内で最も売れた自動車に君臨したのです。
最も売れたEVというだけではなく、内燃機関車も全て含めたランキングでも、長年ベストセラー車に君臨し続けているフォルクスワーゲンのゴルフを超える販売台数を達成しました。
■EV大国の中国市場でも圧倒的な販売台数を達成
もちろん単月のみの販売台数で一喜一憂するべきではないとは思いますが、ドイツで最も売れた車が内燃機関車ではなくEVであった、しかもそのEVはドイツメーカー製ではなくアメリカ・テスラ製であったという事実は、自動車大国ドイツでも強力なライバルとして一目おく存在になったと言っても過言ではないでしょう。
モデルYはヨーロッパ市場だけでなく中国市場でも圧倒的な販売台数を達成しています。ドイツと同じく2022年9月、中国国内の人気車種ランキングにおいてモデルYは5万台近い販売台数を記録して首位に君臨しました。
特筆すべきは先ほどのドイツ市場と同様、EVというカテゴリーだけではなく、内燃機関車も含めた全てのカテゴリーでトップに立ったという点です。しかもトップ10の顔ぶれを見てみると、トップのモデルYと第6位のモデル3以外は100〜200万円程度から購入できる大衆車です。第3位にランクインしているのが超格安小型EVのHong Guang Mini EVだということを鑑みれば、600万円以上の高級車であるモデルYが異常とも言える販売台数を記録していることがわかります。
■完全自動運転を見据えたデザイン設計
このように現在、世界中で次々と記録的な販売台数を打ち立てているテスラですが、ではテスラのEVにはどのような魅力があるのでしょうか。
最も象徴的なのは、車内のダッシュボード中央にぽつんと配置された15インチのタッチパネルです。モデル3やモデルYのダッシュボードには、普通の車のダッシュボードにずらりと並んでいるメーター類やスイッチ類がほとんどありません。車内の物理的なスイッチやメーターをほぼ撤廃し、このタッチパネルに操作や調整機能の全てを集約しているのです。ライトやミラー調整、エアコンの温度調整をはじめとするありとあらゆる操作は、この1枚のタッチパネルで行います。ミニマリスティックの極みのような先進的なデザインです。
テスラは視覚的なインパクトだけをねらってこのようなデザインを採用しているわけではありません。テスラが見据えているのは近い将来にやってくる完全自動運転時代です。
■80万円のオプションでロボットタクシーにアップデート
完全自動運転になれば乗客は車の運転に一切関知することなく、ただ単に車に乗るだけになるため、運転操作に関するスイッチ類を今からなるべく撤廃しておく必要があると考えているからなのです。
テスラは、2017年から発売されたモデル3以降の全ての車両が完全自動運転に対応して自律走行が可能であり、いわゆるロボタクシーにアップデートすることができると主張しています。
自動運転と聞くと、自動運転専用の車両として特別なカメラやセンサー類を大量に取り付けていなければならないとイメージしてしまうのですが、テスラは、完全自動運転に必要なハードウェアはすでに搭載されていると主張しています。
約80万円の有料オプションの完全自動運転機能を購入していれば、Over The Air(OTA)と呼ばれる継続的なソフトウェアのリモートアップデートを行い、仮に自動運転用の演算チップなどハード面の交換が必要となっても無償で交換することで、今は手動で走行しているテスラ車が、ある日を境にロボタクシーとして自律走行を行うようになっている。このような未来まで見据えて車内にロボタクシー前提のデザイン設計を採用しているということなのです。
■EVの課題「航続距離」と「充電」を解決
もちろん、テスラの魅力はそれだけではありません。実際にモデル3やモデルYを所有している私個人としては、先進的なデザイン設計よりもむしろEVとしての質の高さに魅力を感じていますし、それがテスラ車の人気を語る上で外せないポイントであると考えています。自動運転などの先進性は付加価値に過ぎません。重要なのは、日常の足として実用的に使用できるのかどうかという車としての基本性能です。
EVを内燃機関車と比較した時に、EVには車としての基本性能にふたつの弱点があります。航続距離と充電によるエネルギー補給です。しかしテスラはそのどちらも克服しているのです。
![ノルウェーのベルゲンにあるテスラの充電ステーション](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/8/1200wm/img_1808d3877e45a29e8aeb721602087478474825.jpg)
まずひとつ目の航続距離について見てみましょう。現在発売されている内燃機関車は、ガソリン満タンの場合で軽自動車は500〜600km走行可能、ハイブリッド車の場合は1000km走行することができます。
一方EVは、例えば初代日産リーフはメーカーのデータで航続距離は200kmですが、高速道路を時速100kmでクーラーをつけて走行しても達成可能な実用使いにおいて最も信用に値するアメリカのEPA基準で算出された航続距離を参照してみると、その航続距離はたったの117kmです。これではやはりEVは内燃機関車よりも明らかに航続距離で劣っており、車としての基本性能が実用的ではないと感じられると思います。
■モデル3の航続距離は最長576km
しかしテスラ車は、2022年モデルのモデル3の航続距離は最長576km、テスラのフラグシップモデルであるモデルSは2022年モデルで最長652kmという航続距離を達成し、EVの弱点を克服しています。EVの弱点であった航続距離の短さは、初代日産リーフが発売されてから10年余りで目覚ましい改善が行われているのです。ちなみに現在、EPA基準で最も航続距離が長いEVはテスラ車ではなく、テスラモデルSのチーフエンジニアであったピーター・ローリンソンがトップを務める新興EVメーカー、ルーシッド・モーターズのフラグシップセダンであるAir(エア)、その航続距離はなんと837kmに到達しています。
EVの弱点だった航続距離の数値も、現在では従来の内燃機関車と遜色のないレベルにまで改善してきており、EV最高クラスの航続距離を達成しているテスラに追いつき追い越せとばかりに、競合EVメーカーがテスラを凌駕し始めています。
■初代日産リーフの5倍程度のバッテリーを搭載
私の考えるテスラのもうひとつの大きな魅力は、航続距離とバッテリー容量の比率を示した電費性能です。EVの航続距離を伸ばしたいのであれば、バッテリーを多く搭載する必要があります。例えば、初代日産リーフに搭載されていたバッテリー容量は24kWhでしたが、ルーシッドのAirに搭載されているバッテリー容量は、およそ118kWh。初代日産リーフの5倍程度のバッテリーを搭載しているからこそ、航続距離を大きく引き伸ばすことができているのです。
他方、バッテリーを大量に搭載することによって、その分だけ車両重量が増してしまうという問題が起こります。さらにレアメタルなどの貴重な原材料が使用されているバッテリーを大量消費してしまうということは、必要となるバッテリーを生産できずに、EVを大量生産できなくなる危険性が出てきます。つまりEVの生産にあたっては、この航続距離とバッテリー容量のバランスをうまく取っていかなければならないのです。
■電気代の節約に寄与する電費性能が高い「モデル3」
![高橋優『EVショック ガラパゴス化する自動車王国ニッポン』(小学館新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/b/1200wm/img_fbbccbe9ad8e53815574678d5d2b7bdc203273.jpg)
バッテリー容量を減らしながら、かつ航続距離を最大化するためにEVの車両側の設計で可能なのが、電費性能の向上です。同じバッテリー容量でどれほど長い距離を走行させることができるのかという指標が電費ですが、そのEPA基準をベースにした電費性能が最も高いのが、ずばりモデル3です。さらにEVのSUVセグメントでトップに君臨しているのが、ずばりモデルYなのです。
テスラはただ闇雲に航続距離を伸ばすのではなく、ユーザーの需要に見合うだけの航続距離を達成しながら、同時に搭載バッテリー容量を少なくすることによってより大量のEVを生産することができます。またユーザーにとっても、電費性能が高いEVは同じ航続距離を走行しても使用電力量を抑えることができるので電気代の節約にもつながりますし、車両重量を軽くすることができるのでタイヤの摩耗を抑えてタイヤを長持ちさせることにもつながるのです。
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EV専門ジャーナリスト
1996年、埼玉県生まれ。日本初のEV専門ジャーナリスト。2020年よりYouTubeチャンネル『EVネイティブ【日本一わかりやすい電気自動車チャンネル】』を運営。世界の最新EVニュースをわかりやすく解説している。新型EV情報はもちろん、充電インフラ、バッテリーの最新情報、国内外のEV事情など、深く、広く情報を網羅。同時にさまざまなEVの1000キロチャレンジ、極寒車中泊など、EVの運用を体を張ってテスト。ユーザー目線の情報も数多く発信している。
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(EV専門ジャーナリスト 高橋 優)
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