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「容姿が悪いと生き残れない」美容整形沼にはまった34歳女性が「容姿を気にするな」という教育に抱く違和感

プレジデントオンライン / 2023年2月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elena Safonova

人間はみな、ありのままの姿で生きるべきか。広告関連会社に勤務する34歳の女性は、容姿コンプレックスから、美容整形を繰り返している。誰もが平等という今の教育に対しては、「差別感情に蓋をし続けるといずれ爆発する」と危機感を抱いているという。ライターで編集者の沢木文さんが書いた『沼にはまる人々』(ポプラ新書)より紹介しよう――。(第7回)

※本稿は、沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■いじめ続けられた10代とブラック企業勤務

容姿にまつわる沼において、いじめの経験が背景にあることが多い。人に会う機会が極端に減ったときに、美容整形手術を受ける人が増えた。それは、ダウンタイム(施術後に回復するまでの時間)に、誰とも会わなくて済むからだ。

春香さん(仮名・34歳)は、広告関連会社に勤務している。都内の中堅大学卒業後、6社の転職を経て、今の会社に落ち着いたという。

「ブラック企業ばかりでした。今みたいにコンプライアンスなどと言い始めたのはここ数年。それに、フェミニズムとか男女同権とか言い出したのもここ最近。それも大手限定です。私が勤務している中小企業はガチでブラックですよ」

春香さんはほっそりとしていて、目が大きい。くっきりとしているアーモンドアイであることがわかるが、やはり不自然であることは否めない。マスクをしているとはいえ、表情がどこかしっくりこないのだ。

「日本は美容整形にネガティブなイメージがありますよね。『ありのままが一番』と言いながら、女性をブスなどと平気で言う。そして、アイドル風の容姿の人以外は、ブスとひとくくりにされます。私、小学校・中学校と太っていて、すごくいじめられたんです」

そのいじめの内容は壮絶だった。給食に異物を入れられたり、トイレの上から牛乳交じりの汚水をかけられたこともあったという。

「これ以上は話しません。あまりにも暴力的なので、引きますよ。地方の学校って、めちゃくちゃ閉鎖的な集団なんです。そこで人間以下の認定をされてしまうと、『ブスなブタには何をしてもいい』ってことになるんです」

体育の時間でペアになった相手に消毒液をこれ見よがしにかけられた。修学旅行は集団行動班の人に巻かれてしまい、1人でホテルの非常階段に座っていた。

「だから、私のような人間にとって、コロナ禍ってホントに素晴らしいんですよ。だって行事をしなくてもいい。修学旅行に行かなくてもいい。部活をやらなくてもいいなんて、最高じゃないですか。

世の中で発言する人は陽キャ(明るいキャラクター)の人ばかり。マスコミにいる人も、SNSで発言する人も生まれながらの勝者ですから」

■私の顔はゴミ

高校は猛勉強して、その地方で一番の進学校に行った。

「国立大進学者が多い県立高で、みんな他人に構わず勉強ばかりしている。いじめをする暇がないんですよ。ホントに鬼のように周囲が勉強しているんです。私も勉強のし過ぎで体調崩して3年間で15キロ痩せました。

スタイルはよくなったけれど、小中で『毛ガニ』と呼ばれた毛深さと、低い鼻、小さな目はそのまま。痩せて貧相になった分、『顔のゴミ』っぷり……いいところがひとつもない私の顔は、ゴミより価値がないんです。そのゴミっぷりが際立ち、鏡を見るたびに死にたくなった」

地方にいれば、ショッピングモールでかつてのいじめる側だった人たちに会ってしまう。だから東京の大学に進学することにした。

「入学金減免をしてもらえる中堅大学に進学しました。格安の寮に住みましたが東京はとにかくお金がかかる。同郷の先輩から『手っ取り早く稼ぐには、夜の仕事がいい』と言われましたが、私は容姿で落とされた」

ガールズバーの面接に行ったら、「整形してからおいで」と言われた。

「恋愛も就活も外見至上主義。中身が優秀でも『顔がゴミ』だと誰からも相手にされない。そこで、メイクの腕を磨くことにしました。メイクでかわいくなったら、恋人もできた。

でも今度はメイクを落とすことが無理になった。体の関係にすすめないから自然消滅する。そういうフェイクの自分を生きるのが嫌で、20歳のときに性産業でバイトをして、夏休みに目と鼻を整形したのです」

■整形で得た自信

目はまぶたの「蒙古ひだ」と呼ばれる部分を取る手術を行った。これにより、目の横幅が広がって、立体的な顔立ちになった。鼻の穴を小さくする小鼻縮小の手術を行い、両方で100万円程度だったという。

「切って終わりかと思ったら、違うんですね。抜糸までに1週間以上かかりますし、それから1カ月くらいは局部が赤く腫れて怖かったです。化膿止めの抗生物質で胃が荒れました」

完全に術跡が消えるまでは、2カ月程度かかった。

「自分では見違えるほどきれいになったと思っても、大学では誰も気づかない。顔が変わると自信が出てきて、就活でも堂々と話せるようになりました。でもウチの大学のレベルでは、大手企業の就職はムリでしたね」

就職活動は熾烈(しれつ)を極めているという。エントリーするには、企業説明会に行かねばならない。ある大手企業に勤務する男性(24歳)に話を聞いたことがある。彼は早稲田大学の政治経済学部を卒業している。

「僕が説明会申し込みサイトにアクセスすると、エントリーができるんです。しかしそれ以下のレベルに行っている友達には満席と表示される。友達だって“GMARCH(学習院・明治・青山学院・立教・中央・法政大学の頭文字)”ですよ」

企業サイドは、より優秀な学生を採用したがっている。それは容姿も同じだ。春香さんは「もっときれいなら、人気のIT企業にも入れたと思う」と、当時を振り返る。

■まともな男性は大学時代に売約済み

そして春香さんは社会人になると、すぐに婚活を始めるが、「まともな」男性からは早々に断られた。「まとも」というのは、定職があり、感情を律することができ、目立った差別をせず、身の周りのことは自分でできる清潔感がある男性だ。

「そもそも、まともな男性は大学時代に売約済みなんです。彼らは先見の明がある堅実な女の子がロックオンしている。それに気づいてから婚活は焦りました。

私に来るのは初対面時点で上から目線の人とか、見栄っ張りの人とか。あおり運転しそうなタイプしか来ない。そうこうするうちにあっという間に11年ですよ」

この10年間、短期でしか男性と交際できず、彼女として大切にもされなかった。それは自分が醜いせいだと思い、美容整形を繰り返した。

「前はタレントさんなど理想の顔に近づけようと思っていたのですが、今はアプリで撮った(補正した)自分の顔が理想」

春香さんは、これまでに「外車が数台買えるくらい」美容整形、美容施術代にかけているという。1000万円以上、2000万円以下というところだろうか。

■整形費用のためにパパ活

その費用は、祖母の遺産やパパ活などで得ているという。パパ活について、どのような男性と交際するのかと聞いたところ、会社経営者が多いという。

「二代目、三代目社長で、地方の人もいますよ。男性って、一度『この子でもいいかな』と思ってくれると、リピートしてくれる。最初は相手をお金だと思って、無理やりでも恋人気分で接する。そうするとまた連絡が来る。そして飲んで、ホテルの部屋に呼ばれて流れでそういうことになるんです。

夜にセックスワーカーのためにお金を払っている
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

私は基本的にお金さえもらえれば、なんでもアリだと思っているし、(性嗜好に対して)NGがないから、結構もらえるんですよ。慣れてくると、お金を払わず済ませようとする男性がいるのですが、そういうときは『悲しいけど、もう会えないかもね』と言い、気持ちを切り替えます」

■定期的に繰り返される「お直し」

営業の社会人経験が生きている。仕事のスキルをパパ活に生かすのには切実な理由がある。美容整形は、施術して終わりではないからだ。

もともと自然にある筋肉などに手を入れているから、放置すると歪みのようなものが出てしまい、それを定期的に補正しなければならない。

「二重まぶたの幅が左右ずれるといった小さなものから、鼻のプロテーゼの交換手術など、『お直し』が必要です。絶対はないんですよね。何度やっても怖いですよ。でも、やるたびに、あそこが嫌だ、ここがイヤだと感じるようになる」

美容院でフェイスリフトを持つ若い女性
写真=iStock.com/Liderina
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liderina

コロナ禍で春香さんは、骨を削ったという。

「私はあごが長く、えらが張っているのが本当に嫌なんですよね。マスクで隠せるからこそ、嫌悪感がすごくなりました。骨を削ることは、ダウンタイムが長い。コロナ禍で人と会わなくて済むから、決心したんです」

顔の骨をガリガリと削る……聞いているだけで背中がゾッとする人もいるだろう。ダウンタイムも2カ月間で、術後は顔が倍に腫れたという。

「術中は麻酔をしているから痛くないですが、その後は激痛が続く。でもダウンタイムが明けたらキレイになっているんです」

■美容整形していれば、いじめられなかったか

取材当時、32歳の春香さんと話していると、10代後半の女性と話しているような感覚に陥る。自分ではない何かになりたくて、ブランドものを欲しがったり、必死でダイエットをしたりしていた10代の頃。その当時の自分やその仲間たちのようだ。

そんなふうに考えていると、目の前の春香さんが「今の10代はいいですよね」と言うので、ドキッとした。

「だって、アプリが発達して、自撮り画像がいくらでもかわいく盛れる。私の時代は、当時人気だったアイドル顔や女優の顔になりたいと、その写真を持って行くしかなかった。自分と違う顔になるから、負荷がかかった。でも今の子は、自分の顔をベースに理想の顔を作れる。それってすごくいいと思うんです」

春香さんは小学校から中学校の約9年間、容姿を原因に壮絶ないじめを受けた。そのときに、美容整形の施術を受けていれば、いじめられなかったのではないかという「もしも」を生きているようにも感じた。

「それはないと思います。あのときに、痩せて、歯列矯正をして、目と鼻をかわいくしても、いじめられていたと思う。なんだろう……、“空気”ができちゃうと変えられないし、いじめってそんな単純じゃないですよ。これはいじめられた人じゃないとわからない。環境を変えないと無理なんです」

■「差別感情は隠されてガスが溜まる」

米国の調査会社、REPORTOCEANが2021年6月に発表したデータによると、美容医療市場は2021年から2027年の予測期間において、9.25%以上の健全な成長率が見込まれている。

矢野経済研究所『美容医療市場規模推移』を見ると、国内の美容医療市場は2014年から2017年の間に、114.88%の3252億円に拡大。美容医療に携わる医師に話を聞くと、男性や中学生、高校生まで裾野が広がっているという。

「今、小学生もインスタやTikTokをやって、自分の容姿について真剣に考えている。子供がいる人に話を聞くと、小学校からダイエットしているというし。ユーチューブの動画を見て、小学生が2週間で4キロ痩せるとか、みんな必死なんだなと。容姿が悪いと生き残れないからでしょう」

確かに、街で見かける子どもたちはみんなほっそりしている。あれはダイエットのたまものだったのか。

「容姿を気にするな、という教育をしているようですが、言えば言うほど、差別感情は隠されてガスが溜まる。蓋をし続けるといずれ爆発しますよ」

表面上は、誰もが平等な世界。しかし、マイナスとされる感情は、沼の底に潜っていく。

■マスク生活による美意識の変化

コロナ禍の長引くマスク生活も美容医療市場規模の拡大に影響すると推測されている。

2年以上にわたり、顔の一部をマスクで覆い続ける生活を続けていると、「素顔を見られるのが嫌だ」と考える人も多い。

マスクを着用した女性
写真=iStock.com/klebercordeiro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/klebercordeiro

人は見えていない部分を、好意的に考えてしまう傾向があるという。「マスクイケメン」「マスク美人」などの言葉が日常的に語られるようになるのは、目の印象だけで全体像を美化しつつ想像しているからだろう。

それに、「容姿のコンプレックスは顔の下半身に集約される」とも言われている。例えば、鼻の穴、歯並び、唇の形、あごの形や向き、輪郭など。

また、加齢もコンプレックスになる。見た目の印象を左右する「ほうれい線」と呼ばれる小鼻から口の横にかけて刻まれるしわも『顔の下半身』にあるのだ。

マスクをしていれば、これらのコンプレックスを丸ごと隠すことができる。

■給食中は教室の電気を消す中高生

都内の私立中高一貫共学校の教師は、「ウチの生徒はマスクを外したがらない。特に中学生は、熱中症の恐れがあるから屋外の体育ではマスクを外せと指導しているけれども、絶対に外さない」と頭を抱える。

この学校では、昼食時に正面を向いた黙食を推奨しているという。食事のときはマスクを外す。いつの頃からか、生徒が教室の電気を消すようになったという。

黒板
写真=iStock.com/Arthit_Longwilai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Arthit_Longwilai

「たぶん、食べているときの顔を見られるのが嫌なんでしょうね。どこのクラスでもそうしています。電気をつけると、消されてしまう。落ち着いて食べられないから消してほしいと言われ、電気をつけるとマスクをつけて弁当をしまう子がいるので、そうするしかない」

マスクへの依存度が高いのは、中学生の女子生徒が多いという。マスクを外した顔を友達に見られて、「そんな顔だったんだ。もっとかわいいかと思った」などと言われ、一時的に不登校になってしまった生徒もいるという。

また、自分の顔が醜いと思い込む「醜形恐怖症」と思われる生徒は多い。加えて、マスクを外したら友人との交流ができなくなるのではないかと不安になる「社交不安症」が疑われる生徒もいるという。

長引くマスク生活の弊害は、容姿を隠し続けることによるコンプレックスの肥大と、コミュニケーションに出始めている。

■マスクを外す日のために、美容整形外科は今日も盛況

この学校では、感染対策を行う上で強制的にマスクを外す練習を行うことも考えているそうだ。当該の教師は、「外しても、そんなに悪いことも不快なことも起こらないという練習を行うことで、リハビリをしていく。生徒のマスク依存は、ウチの学校だけではない」と語っていた。

沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)
沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)

また、マスクをしていれば、口が半開きであろうと、笑っていようと隠していられる。無防備な表情に慣れてしまい、「外したときの緊張感に耐えられない」と語る人もいるという。

マスクを外す日はいつかくるだろう。その日のために美容整形外科は今日も盛況なのだ。

春香さんは今日も美容整形について考えている。肉体的に痛みを覚えるほどに「キレイになりたい」と言いながらも、努力をしない女性への憎悪を募らせていく。

若く美しいことが“美”とされている。しかしそれは毎日目減りし続ける。

貯金が尽きるのが早いのか、若さという砂時計が落ちるのが早いのか、そのレースがどこまで続くのか。それは春香さんにもわからない。

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沢木 文(さわき・あや)
ライター/編集者
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。さまざまな取材対象をもとに考察を重ね、これまでの著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ新書)がある。

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(ライター/編集者 沢木 文)

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