1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

日本人の給料は今後も下がり続ける…岸田増税・緩和終了でインフレどころかデフレに逆戻りしそうな理由

プレジデントオンライン / 2023年2月22日 13時15分

日本人の給料は今後も下がり続ける(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Photobuay

日本の物価上昇は、経済にどんな影響を与えるのか。経済アナリストの森永康平さんは「物価が上がっても賃金が上がらなければ、家計は節約に走る。その分、企業の売り上げが落ちるので賃金はさらに下がる。このままでは、インフレではなくデフレに逆戻りしてしまう」という――。

■コンビニでランチを買うと1000円オーバーに

先日、仕事の合間にランチを買いにコンビニへ立ち寄った。お腹が空いていたので、弁当と飲み物を持ってレジへ行き、レジ横にあるホットスナックも1つ買おうとした。

すると、弁当と飲み物だけで800円を超えており、ホットスナックを買うと1000円オーバーになることに気づいた。

コンビニでランチを買って1000円オーバーは高すぎると思い、ホットスナックは買わなかったが、日本でも着実に物価が上昇していることを実感した。

■体感の物価上昇は+4.4%どころではない

1月27日に総務省が発表した1月の東京都区部消費者物価指数の速報値は前年同月比+4.4%と、1981年6月以来の大きな伸びとなった。

同指標は全国版の消費者物価指数の先行指標である。全国版の1月の消費者物価指数の発表は2月24日だが、そのタイミングで国内の物価上昇に改めて注目が集まるだろう。

この「前年同月比+4.4%」という数字を見て、「体感の物価上昇はもっと厳しい」と感じた方もいるのではないだろうか。

筆者は小さな子どもが3人いる共働き世帯である。そのため筆者自身も料理のために頻繫にスーパーに行くが、やはり実際のインフレはもっと激しいと感じる。

ちなみに2022年12月の全国版の消費者物価指数では、生活必需品を意味する「基礎的支出項目」の物価上昇率が同+6.1%、「毎月1回程度購入するもの」の物価上昇率が同+11.0%と、家計に影響する品目の物価上昇率が大きくなっている。

■中小企業の約7割は「賃上げの予定なし」

もちろん、物価上昇以上に賃金が上昇すれば問題ない。

実際、春闘を前に、メディアでは賃上げのニュースがいくつも報じられている。

ユニクロを運営するファーストリテイリングは、今年3月から国内の従業員の年収を平均15%増やす。

同社のプレスリリースによれば、新卒の年収は約18%アップ、入社1~2年目で就任する新人店長は年収で約36%アップするという。

また、任天堂は4月から全社員の基本給を10%引き上げる方針だ。正社員だけでなく、嘱託社員やアルバイトも同様に増額するというから太っ腹である。

こうしてみると、今年の春闘は期待できそうに思える。

オフィスでコンピュータで作業しながらガッツポーズをするビジネスマン
写真=iStock.com/PeopleImages
グローバル企業は賃上げしているが……(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/PeopleImages

しかしながら、現実はそうそう甘くはないだろう。

前述の2社は上場企業、しかも売り上げの半分以上を日本国外で稼ぐグローバル企業だ。

同じレベルの賃上げを中小零細企業に期待するのは無理があるだろう。

事実、城南信用金庫が東京・神奈川の中小企業738社に今後の賃上げについて尋ねたところ、約7割が「賃上げの予定なし」と回答したという。

日本の労働者の約7割は中小企業に雇用されている。

つまり、ほとんどの労働者は物価上昇率を上回る賃上げを期待できないということだ。

■個人消費はすでに冷え込んでいる

賃上げが期待できない以上、家計は節約に走らざるを得ない。

既に日本国民の家計防衛は始まっている。

総務省が発表した2022年12月の家計調査によれば、2人以上の世帯の実質消費支出は前年同月比-1.3%と2カ月連続でマイナスとなった。

まだ2カ月しかマイナスになっていない、という指摘もあるかもしれない。

ただ、それは前年同月比という「統計マジック」に引っかかっている。

2022年6月から9月まで実質消費支出はプラスだったが、それはちょうど前年に「まん延防止等重点措置」が発出されていたため、反動でプラスになっただけである。

2022年10月の実質消費支出もプラスだったが、それは「全国旅行支援制度」によって、交通・宿泊支出が大幅に増加した影響だと考えられる。

これらの影響を除くと、2022年6月以降、ずっと消費支出が下振れしている可能性もある。

■家計は節約に走っている

個別企業の決算や業界紙を見ると、いま多くの消費者が低価格なプライベートブランドを選好している傾向が確認できる。

マイボイスコム社が2022年12月に発表した「プライベートブランド商品に関する調査」によると、2017年時点で「プライベートブランド商品を購入したいと思いますか?」という問いに対して「購入したいと思う」と回答した割合が20.8%だったのに対して、2022年は29.9%に増加している。

お支払い後のレシートの確認
写真=iStock.com/LordHenriVoton
家計は節約に走っている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/LordHenriVoton

■金融緩和をやめればデフレに逆戻り

物価上昇を抑える方策としてすぐに思い浮かぶのが政策金利の引き上げに代表される金融引き締めだ。

既に欧米をはじめ各国は異例なハイペースでの利上げを実施している。

黒田総裁の後任として植田和男氏の名前があがっているが、新体制に黒田路線からの脱却を望む声もある。

しかし、欧米が利上げをしているから日本もすべきだ、という発想はあまりにも稚拙だと言わざるを得ない。

国民が体感する物価は高い。だが、金融政策を決める際に参照すべき物価水準はまだ低位のままだ。

米国でコアCPIとして利用されている「食料(酒類を除く)とエネルギーを除く総合」のデータでは、前年同月比+1.6%。つまり日本の「(米国基準の)コアCPI」はまだ2%に届いていないのだ。

また、国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは、2022年10~12月期のデータが前年同期比+1.1%と、ようやく3四半期ぶりにプラスになったというレベルだ。

海外起因のインフレ要因が剝落すれば、GDPデフレーターは再びデフレ水準に低下するだろう。いまの日本経済が安定的に2%の物価上昇率を維持する段階にないことは容易に理解できる。

金融のイメージのお金とグラフ
写真=iStock.com/Ca-ssis
金融緩和をやめればデフレに逆戻り(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Ca-ssis

既に米国ではインフレがピークアウトしており、欧州各国もいよいよピークアウトの兆候も見られる。

そんな中、日銀が新体制下で拙速な出口戦略をとれば、日本経済には逆風となろう。

■デフレを恐れる理由

そもそも景気対策とは日銀だけの責任ではない。むしろ政府にこそ景気対策が求められるはずだ。

黒田総裁は異次元の金融緩和を維持してきたが、その間も政府は2度にわたる消費増税を実施し、財政政策サイドでブレーキを踏み、結果として日本経済を停滞させてしまった。

岸田政権は現時点で増税を実施してはいないが、報じられるのは増税案ばかりだ。

企業は主に海外起因の物価上昇圧力に晒され、原材料価格や電気代の高騰に苦しんでいる。そのような中、多くの企業では物価上昇を上回る賃上げは難しいだろう。

そうなると、家計は自己防衛として節約をするようになる。

人々の財布のひもが固くなると、企業の売上高は増えなくなる。すると利益を捻出するために更に人件費を下げる。そうなれば、再び家計は節約に走る。

このような負の連鎖、いわゆるデフレスパイラルに突入する危険性がある。

■政府・日銀はアクセルを踏むべき

このような話をすると、「人々はいま物価上昇に苦しんでいるのだから、デフレになり物価が下がるなら歓迎だ」という意見をもらうことがある。

たしかに、この世があと数週間で終わるというのであれば、デフレを歓迎すべきだろう。

しかし、実際には経済活動は今後もずっと続くので、物価下落はその後の賃金下落を招くため、デフレを喜ぶことはできない。

デフレになると物価が下がる以上に労働者が受け取る報酬が下がる。これは、不名誉ながら我が国が世界において初めて実証した事実だ。

筆者がデフレを恐れる理由はここにある。

給料が下がると、職を失う人や命を落とす人も増えてしまう。

デフレスパイラルは一度突入すると脱却が非常に難しい。なぜなら、デフレとは企業も家計も与えられた条件の下で合理的に動いた結果として発生する現象だからだ。

これを合成の誤謬(ごびゅう)という。

この合成の誤謬を脱却するには、残る国内経済の主体である政府・日銀が適切な政策をとる必要がある。

新しい日銀体制と政府は同じ方向を見て、アクセルを踏み日本経済を再浮上させることを期待する。

----------

森永 康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

----------

(株式会社マネネCEO、経済アナリスト 森永 康平)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください