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「悲しみの深さ」は関係ない…大切な人を失った後に「うつになる人」と「ならない人」のたったひとつの違い

プレジデントオンライン / 2023年2月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeventyFour

大切な人の死には、どう向き合えばいいのか。奈良県立医科大学附属病院の四宮敏章教授は「大切な人の死に直面できずに、亡くなってから後悔したり、必要な手続きをしていなかったりしたことで大変な思いをされた遺族も多く見てきた。悲しみがわいてきたら、その気持ちをごまかしてはいけない」という――。

※本稿は、四宮敏章『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■夫をがんで亡くした女性2人のケース

予期悲嘆という言葉があります。

悲嘆とは、大切な人を失ったときに起こる悲しみのことをいいます。悲嘆は、誰にでも起こり得る自然な感情です。予期悲嘆とは「大切な人が亡くなってしまうかもしれないと思ったときに生じるつらい気持ち」であり、これも自然な感情です。

しかし、そんな感情を患者さんの前では出してはいけないと思って、多くの人がつらい感情を押し殺そうとしたり、我慢したりしがちです。私たちは、この予期悲嘆に対してどのように対処すればよいのでしょうか。

ご主人をがんで亡くした2人の女性のケースで考えてみましょう。

おひとりは、60代の女性です。彼女のご主人はすい臓がんでした。患者さんは闘病されましたが、病状が進行し、積極的抗がん剤治療を中止した後、ホスピスに入院しました。

ある日彼女は、病室で患者さんが肺転移による呼吸困難の症状を訴える姿を見て、過換気発作を起こし、倒れてしまいました。その後、私は心療内科外来で、彼女の話を聞きました。

「夫がだんだん弱っていく。そんなつらそうな姿を見るのは耐えられない。私も、夫が亡くなった後、どう生きていいかわからない」。彼女はこのように、強い予期悲嘆を訴えました。

■いざ亡くなったときにはあっさりしていた

病棟の看護師も、いつも彼女の訴えを長い時間をかけて聞いていました。しばらくしてご主人が亡くなったとき、病棟スタッフはみんな、彼女は夫の死を耐えられないだろうと心配していました。しかし、彼女はあっさりと「ありがとうございました」と帰っていきました。

その後、私の外来にも数カ月通いましたが、強い悲嘆の表出もなく、薬も必要なくなって、彼女のつらい気持ちに対する治療は終了となりました。

もうひとりは50代の女性で、彼女のご主人は肺がんの患者さんでした。患者さんは積極的抗がん治療の後、自宅での生活を希望し、在宅療養が始まりました。彼女も患者さんの希望をかなえてあげたいと思い、一生懸命介護しました。在宅医療のスタッフも頑張り、症状緩和の治療とケアを行いました。

■死後2カ月経って「本当にこれでよかったのか…」

患者さんの最期は、自分の望んだ自宅でした。在宅医の先生は彼女に「よく頑張りましたね。泣き言も言わず、頑張って介護をしてくれたのでご主人は安らかな最期でした」と話しました。

保健センターで夫が亡くなった後、泣いている女性が涙をぬぐう
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

それから2カ月後、その在宅医の先生から「奥さんの食欲が落ち、夜も寝られないらしいので診察してくれませんか」と電話がありました。

私は遺族外来で、彼女の話を聞きました。「夫は希望通り最期まで家で過ごせてよかった。でも、やっぱり怖かった。家で夫を看取ったことが本当によかったのか、私はいつも自問自答しています。夫が寝ていたベッドを見ると、夫の声が聞こえるような気がします。夫と暮らし、そして夫が亡くなった家で、もう私は穏やかな気持ちで暮らせません。家にひとりでいるだけでつらいんです」と泣きました。

その後、私は彼女にうつ病の治療を行いました。彼女は1年経って、ようやく立ち直りかけています。

■「泣き言は言わない」我慢の積み重ねがうつ病に

対照的な二つのケースを紹介しました。この二人は何が違っていたのでしょうか。

前者の方は予期悲嘆が強く出て、ご主人が亡くなった後は悲嘆がほとんど出ませんでした。後者の方は予期悲嘆はありませんでしたが、その後の悲嘆がとても強くなり、うつ病にまでなってしまいました。

大切な人が亡くなる悲しみは、お二人とも強く感じていたはずです。しかし、後者の方は自分が泣き言を言ってはいけないと最後まで気丈に振る舞っていました。その我慢の積み重ねが、のちに身体と心に現れてしまったのです。

■「悲しい」気持ちをごまかさない

いま、がんと闘病中の家族がいらっしゃる方は、どうかご自分のつらい気持ちを癒やすことも大事にしてください。誰かに聞いてもらうことで、心の準備ができたり、覚悟ができたりします。心の準備ができると、大切な人との最後の時間をおたがいに充実させることが可能になってきます。その結果、実際にもし大切な方が亡くなっても、その後の悲嘆が軽減されるのです。

悲しみがわいてきたら、その気持ちをごまかさず、しっかりと悲しむことが大事です。死別が近いという事実にきちんと直面することで、やり残しの課題に取り組むことができるのです。いままでできなかったコミュニケーションを取る、相続など生前に準備しておくべき手続きを行う、といったことが考えられます。

大切な人の死に直面できずに、亡くなってから後悔したり、必要な手続きをしていなかったりしたことで大変な思いをされた遺族も多く見てきました。

■無理に吐き出させるのは逆効果

予期悲嘆は我慢せずに、そのつらい気持ちを表に出すことで癒やされるのです。あなたの気持ちを受け取ってくれる、情緒的な部分のサポーターに話してください。もちろん、医療者相手でもかまいません。話すことで気持ちが楽になるだけでなく、その方が亡くなられたときの悲しみも軽くなる可能性があります。我慢せずに、気持ちを手放しましょう。

四宮敏章『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)
四宮敏章『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)

もし本稿を読んでくださっているあなたが、医療者や、ご家族のまわりの援助者ならば、ご家族の予期悲嘆を感じた際には傾聴してください。ときには、気持ちを吐き出しやすいよう促すことも必要です。

その際に、ひとつ注意すべき点があります。それは、予期悲嘆を無理やり出させてはいけないということです。すべてのご家族が予期悲嘆を抱えているわけではありません。

また、予期悲嘆を抱えていても、それを出すことが怖いと感じているご家族もいます。無理に出させるとかえって逆効果です。自然に出てくるまで待つこと、そしてただ聴くことが重要なのです。

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四宮 敏章(しのみや・としあき)
奈良県立医科大学附属病院 教授、緩和ケアセンターセンター長
京都大学農学部卒業後、製菓メーカー、製薬会社に勤務。その後、岡山大学医学部を卒業。心療内科医になる。奈良県で初めてのホスピスを立ち上げる。ホスピスで終末期医療に携わり、3000人以上の看取りを経験する。その後、奈良県立医科大学緩和ケアセンター長として、早期からの緩和ケアに携わり、遺族ケアも積極的に行う。現在、緩和ケアを多くの方々に広めるため、YouTubeやnoteで発信を行っている。著書に『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)がある。

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(奈良県立医科大学附属病院 教授、緩和ケアセンターセンター長 四宮 敏章)

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