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なぜ日本人は「北欧」に惹かれるのか…フィンランド移住を果たした33歳女性が考える「意外な共通点」

プレジデントオンライン / 2023年2月26日 14時15分

出典=『北欧こじらせ日記 移住決定編』より

「北欧が好き」という日本人は多い。なぜなのか。2014年からブログ「週末北欧部」を続け、昨年、著書『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)を出したchikaさんは「20歳で初めてフィンランドを訪ね、32歳になった昨年ついに移住を実現しました。日本にない魅力も多いが、根底にある価値観は似通っている気がする」という。ノンフィクションライターの神田憲行さんが聞いた――。(後編/全2回)

■人と自然との「距離感」が心地よかった

――なぜフィンランドに移住されたのでしょう。

初めてフィンランドを訪れたのは20歳のときで、そのときに「一目惚れ」しました。一番に惹かれたのがフィンランドにある「距離感」です。その距離感は2つあって、1つが自然と人の距離感、もうひとつが人と人の距離感で、それがすごく心地良かったんですよね。

まず、「自然との距離感」とは、首都のヘルシンキでも少し歩けば森があったり、湖があったり、都心と自然がシームレスにつながっていることです。「こんな町のつくりかたがあるんだ」「こんな暮らし方の選択肢があるんだ」「どちらかを選ばなくてもいいんだ」というのが自分にとって心地良かった。今までいろいろな国をバックパッカーで訪ねていたんですけれど、住みたいと思った国を日本以外に初めて発見できたのが、フィンランドでした。

もうひとつの「人との距離感」というのは、みんなが「自分が好きなものは好きでいい」という自立した人間性を持っていることです。「あなたはそれが好きなんだ。でも私はこれが好きなんだ」みたいな。尊重と無関心の間ような距離感がとても心地良く感じました。

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週末北欧部chika
フィンランド好きをこじらせて、13年間毎年フィンランドに通う。会社勤めのかたわら、移住のために「ヘルシンキで求人が多いから」という理由で寿司職人の修業を積み、今春念願のヘルシンキの和食店で働くことに。主な著書に『北欧こじらせ日記』『北欧こじらせ日記移住決定編』『かもめニッキ』(講談社)など。Twitter、Instagram、ブログ週末北欧部

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■一緒にサンタクロース村まで出かけたのに…

私は田舎育ちで、人と違うことをすると悪目立ちしてしまいやすい環境で育ってきたので、みんながみんな自分の好きなことを突きつめていくと、こんな心地良い距離感ができるんだというのが衝撃的でした。

これは、拙著『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)でも触れているのですが、フィンランドのサンタクロース村に友人とドライブしたことがあるんです。私からの提案で、友だちが車の運転をして連れって行ってくれたのですが、2時間もドライブしてきたのに、友だちは「自分はここで待っている」と言って、村に入らなかったんですね。

日本だったら興味がなくても一緒に来ますよね。それが「私、疲れたから寝てるね。どうぞ楽しんできて」みたいな。一緒に旅をしていても、それぞれの時間の過ごし方や自分の感性、感覚、感情を大事にするというのに驚きながら、同時にとても心地よいなと思ったんです。私も気を遣わなくて、嬉しかったですね。

サンタクロース村
撮影=北欧週末部chika
サンタクロース村 - 撮影=北欧週末部chika

■ヨーロッパでは「青い目の日本人」と言われている

――日本人とは違うけど、面白い感覚ですね。

そうなんです。でも共通するところもあるのかなと感じています。実はヨーロッパでは、「フィンランド人は目の青い日本人」といわれることがあると、フィンランド人の友だちが教えてくれたことがあります。たしかに、シャイでオタク気質なところは、日本人に似ているかもしれません。

ただ、自立した人が多いながらも「誰かに親切をする」ことに喜びを感じる人も多いようで、困ったことがあると温かく手を差し伸べてくれる方が多いです。でもこちらから助けてということを言わなければ、無理に相手のパーソナルスペースに入り込まないという距離感もあります。

この間バス停でバスを待っていたんですが、待っている1人1人の感覚がほんとにフィジカルにちゃんと等間隔にとられていて、京都の鴨川みたいだなと感じて微笑ましかったです。国土は日本と同じぐらいだけど、人口が北海道ぐらいしかないので、1人当たりの使えるスペースが広いというのもあるとは思うんですけれども。ちょっとシャイで、自分のパーソナルスペースを持ちつつ、調和も大事にする。人に優しく、気を遣いつつも自分らしさも忘れない。そんなところに、日本との共通点を感じることがあります。

■相手が年上でもデート相手でも基本割り勘

ここでフィンランドについて、興味深いデータを紹介しておく。

首相……サンナ・マリン(37歳、女性)
人口……554万人(日本1億2395万人)
一人当たり国内総生産(GDP)……54857ドル(同42230ドル)
時間当たり労働生産性……61.9ドル(同47.3ドル)
ジェンダーギャップ指数……2位(同116位)*2022年
失業率……6.4%(同2.6%)*2022年

――日本と比較してまず目を引く相違点は、ジェンダーギャップ指数です(男女間の不均衡を示す数で、上位であるほど男女間の不均衡が少ない)。日本よりフィンランドは遥かに男女平等化が進んでいるとされていますが、実感としてどうですか。

これは職場でもプライベートでもすごく感じますね。日本で寿司職人としてアルバイトをしていたとき、女性だからちょっと珍しがられたり、セクハラじゃないですけど、からかわれたりしたのは日常茶飯事だったんです。けれどフィンランドに来てから、そういった経験を一切していないことに気づきました

一方で、逆に特別扱いもされない。力仕事や労働時間も、基本的にもちろん男性とイコールです。年上の男友達と食事に行ったときや、デートのシーンでも支払いは割り勘が基本だそうです。

――一方で失業率は日本より高いですね。

たしかにそうですね。ただ社会保障が充実しているので、失業をきっかけに「学び直し」をして他の業界にチャレンジする人もいます。

出典=『北欧こじらせ日記』より
出典=『北欧こじらせ日記 移住決定編』より

――時間当たりの労働生産性は日本より高い。

長く働くより、常に効率よく働くことを求められています。前に1時間かかっていたものを30分でできたら、そのぶん早く帰っていいよと言われることもあります。決められた仕事量を終えることができるのであれば、遅めに出勤してもいいし、逆に終わらなければ終わるまで責任を持って終わらせようという環境です。自分のスキルを伸ばした分、自分の時間ができるのはモチベーションにつながりやすいと感じました。

■資源がないからこそ「人」中心の社会ができた

これはフィンランドが第二次世界大戦後に建てた国の方針とかかわると思います。フィンランドには資源がない、主だった産業もない。だから政府が投資する先は「人」しかいないと決めて、教育や福祉に力を入れてきたそうです。こういう背景があるから、女性も男性も、そして若い人もお年寄りも含めて、みんなが学び続けて、働き続けられる社会になっているんだと思います。

たとえば、起業支援も充実していることも、私がここに来て感動したひとつです。起業しようとする人はフィンランド人も外国人も問わず、政府の支援金や、無料のビジネスアドバイスサービスをつける制度などが充実しています。最近、「スラッシュ」というフィンランドのスタートアップのカンファレンスがあったんですけれど、大勢の若者や投資家たちがビジネスアイデアのプレゼンテーションを聞きに来ました。起業家支援は盛んで、起業自体が身近な選択肢になっていると感じます。

人しか資源がないと決めて、人に投資する。しかもその人がやりたいこと、できることにフォーカスする。そうすることで生産性も上がる、という構図があるのだと思います。

■日本人がなぜか北欧に惹かれるワケ

――日本人は北欧社会に憧れに近い感情を持つ人が多いです。ほとんどの人は行ったこともないし、フィンランド人に会ったこともないのに。これはなぜでしょうね。

ムーミンやサンタクロース、北欧家具のデザインなど、素朴ながらも身近に感じる要素があるのかもしれません。自然をモチーフにしたデザインも多いので、日本人に合いやすいと思います。

この間お客さんと、「フィンランドと日本は厳しい自然環境の中で生きてきたから、お互い似ている部分があるかもね」という話題になりました。

日本は地震や台風といった自然災害が大きいし、フィンランドもすごく厳しい冬がある。それを乗り越えるためには人との協調が大事で、一緒にサバイバルしなきゃいけない。だからこそ自然への脅威、そしてリスペクトというのもフィンランドも日本も共通で持っているのかもしれないね、ということを話されていました。

そういうつつましさや、限りある中でも生きていくというような姿勢が両国に共通しているのが、日本人が北欧に親しみを持つ理由なのかもしれません。

撮影=北欧週末部chika

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神田 憲行(かんだ・のりゆき)
ノンフィクションライター
1963年、大阪市生まれ。関西大学法学部卒業。師匠はジャーナリストの故・黒田清氏。昭和からフリーライターの仕事を始めて現在に至る。共著に『横浜vs.PL学園』(朝日新聞出版社)、主な著書に『ハノイの純情、サイゴンの夢』(講談社)、『「謎」の進学校 麻布の教え』(集英社)、『一門』(朝日新聞出版社)など。

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(ノンフィクションライター 神田 憲行)

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