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大人気の「ChatGPT」でさえまだ発展途上…「対話型AI」ブームが日本企業にとってチャンスである理由

プレジデントオンライン / 2023年2月20日 9時15分

対話型AIツール「ChatGPT」の技術を米マイクロソフトに提供すると発表したOpenAIのサム・アルトマンCEO=2023年2月7日、ワシントン州レドモンド - 写真=AFP/時事通信フォト

■ネット検索の常識が覆る?

最近、“チャットGPT”に代表される、対話型の人工知能(AI)への注目度が高まっている。これまでの旧来型ITビジネスモデルが、ここへきてやや行き詰まりを見せる中、AIを使った対話型の新しい成長テーマとして浮上してきた。

チャットGPTは、世界のIT業界の構造を大きく変える可能性を秘めている。特に、マイクロソフトの同分野の取り組みはかなり積極的で、多くの投資家のチャットGPTへの注目度は急速に高まっている。

チャットGPTの一つのメリットは、利用者が一定のキーワードを入力すると、AIを使って自然な文書を作成することができる。そのメリットは大きい。実際問題として、AIがわれわれにとってより身近になるといってもよいだろう。また、これまでキーボードなどで入力してきたネット検索の常識が覆ることにもなりそうだ。そうしたAI技術利用は、世界経済の効率性向上に大きく寄与すると期待される。

一方、単純なAIの利用にはデメリットもありそうだ。AIが提示した情報が本当に正しいとは限らない。間違いがあるかもしれない。利用方法によっては、差別の助長など社会心理にマイナスの影響を与えることも考えられる。今後、より安心できる対話型AIの普及を目指して、米中を中心にIT先端分野での競争は激化するものとみられる。そうした変化に、われわれ一人ひとりがしっかりと対応する必要がある。

■わずか2カ月間で利用者が1億人を突破

チャットGPTは、米国のAI研究開発企業である“オープンAI”が開発した言語分野のAIの一つだ。GPTとはGenerative Pre-trained Transformerの略で、AIを使って作り上げた文章作成のための言語モデルだ。その言葉はとっつきにくいが、イメージとしては、すでに利用されている自動応答システムである“チャットボット”に近い。

ただ、その性能は従来のチャットボットに使われてきたAIを上回る。2022年11月末にオープンAIはチャットGPTを公開した。その後2カ月間で利用者は1億人を突破したと報じられた。世界最速での1億人突破とみられる。友人と話しているような感覚で利用できるAIの登場によって、世界のネット業界には大きな変革が起きつつある。

2015年、オープンAIは、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏らの出資を受け設立された。2019年には、マイクロソフトが10億ドル(1ドル=130円換算で1300億円)を出資した。2020年、オープンAIは、世界に衝撃を与えた“GPT-3”と呼ばれる言語型AIを発表した。

GPT-3は1750億個のパラメータ(変数)を用いる。その数は従来のAIの100倍とみられる。それによってGPT-3は大量の文書を学び、自然な文書を作成する能力を実現した。今すぐではないが、その技術は世界の人々の生き方を劇的に変える可能性を秘める。

■「構成を考え、検索し、書く」という手順は不要に

例えば、仕事でレポートの提出を求められたケースを想像すると、多くの人は、まずレポートの構成を検討する。次に、グーグルなどのサイトで検索を行い情報やデータを手に入れる。報告すべき内容を書き、データをグラフなどにまとめレポートを作成する。その際、ネット検索をしても必要な情報が、短時間で確実に得られるとは限らない。状況によっては参考文献を探すのに想定以上の時間がかかることもある。考えを文書にまとめるのも時間がかかる。

しかし、GPT-3はそうした手順を飛び越え、利用者が欲する回答を、あたかも友人が目の前で文書を作成してくれるかのような形で示す。昨年のチャットGPTの公開に続き、1月にマイクロソフトはオープンAIへの追加投資を発表し、2月には検索エンジン“Bing(ビング)”にチャットGPTの技術を搭載すると発表した。2022年10~12月期GAFAMのいずれもが減益に陥ったこともあり、マイクロソフトの一連の発表は、急速に対話型AIへの注目が増えるきっかけになったといえる。

■営業やクレーム対応、法律相談、遠隔診療…

チャットGPTの注目急増に伴い、AI利用の功罪=メリット、デメリットもより鮮明になる。主たるメリットは、世界全体で経済運営の効率性が一段と高まる可能性だ。レポートのケースからわかるように、対話型(言語型)AIは、情報利用の効率性を大きく高めるだろう。具体的なケースとして、株式アナリストは、企業の財務データを収集し各種収益率や投資尺度を計算する負担を軽減できるかもしれない。

他にも営業、カスタマーサポート、クレームへの対応、法律相談、遠隔診療など、AI利用によって利便性の向上と、企業の事業運営の効率性向上の可能性は高まる。そうした新しい需要の創出期待を背景に、AIは世界のIT先端企業などにとって最重要分野とみなされ始めた。

マイクロソフトは既存事業でリストラを進めつつもAI関連の事業運営体制を強化している。グーグルも新しい検索サービスの“Bard(バード)”の試験提供を開始した。それに伴い、ヤフーからグーグルにシフトした検索分野の競争優位性が、マイクロソフトに染み出るのではないかとの見方も出始めている。中国ではバイドゥが“文心一言(アーニー・ボット)”と呼ばれる対話型AIサービスの提供を目指している。

■大きな構造変化が起きても対応できるのか

一方、AI利用にはデメリットもある。常に、対話型のAIが正しいとは限らない。まだ、性能は人間の知能には及ばない。2月8日、グーグルではAI回答の間違いが発覚し、親会社アルファベットの株価(A株)は前営業日から7.7%下落して引けた。また、構造変化への対応力にも不安がある。

AIは過去のデータを学習して精度を高める。問題は、リーマンショックのような大きな構造変化が発生した場合、AIが社会と経済にプラスの価値を提供するか否か、不透明な部分が多いことだ。さらには、ディープフェイク(AIを用いた画像、動画の改編)やフェイクニュースなどは急増し、特定の人物に都合の良い、誤った情報が流布する恐れも増す。

パーカーのフードをかぶったネットに攻撃を仕掛けるハッカー
写真=iStock.com/Milan_Jovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milan_Jovic

その摘発にはかなりのコストがかかるだろう。著作権、肖像権などへの対応も課題だ。なお、イアン・ブレマー氏率いる調査会社ユーラシア・グループは、2023年の“世界の10大リスク”の3番目に“大混乱生成兵器”としてAIを指摘している。

■日本企業が参入するチャンスはある

今後、米・中などを中心に、AI利用をめぐるIT先端企業などの競争は激化するだろう。それに伴い、注目が高まると考えられる分野の一つは半導体だ。AIの深層学習強化に決定的な役割を果たしてきた画像処理半導体(GPU)の設計、開発、製造競争はさらに熾烈になるだろう。

現在、エヌビディアは新しいGPUを搭載した、より高性能のスーパーコンピューター開発に集中し始めた。マイクロソフトはエヌビディアと提携して、クラウド空間でのAI利用技術の向上に取り組む。中国も社会、経済の統制強化などのためにAIの利用を急いでいる。AI利用をめぐる企業の競争激化は、半導体など先端分野における米中の対立を一段と先鋭化させる要素の一つと考えられる。

マイクロソフトなどの取り組みに比べ、わが国企業によるAI利用は遅れている。それは、中長期的なわが国経済の“遅れ”になると懸念される。ただ、すぐに先行きを悲観するのは早計だ。チャットGPTなどは利用の初期段階にあり、これから解決されなければならない課題は増えるだろう。楽観はできないが、本邦企業の対応次第によっては、わが国が遅れを挽回する可能性はある。

■半導体技術の強みを今こそ活かすとき

また、わが国には最先端のGPU製造などに必要な半導体の製造装置、高純度の半導体関連部材産業が集積してきた。米欧台の企業と連携し国内で次世代半導体の製造を目指す動きも徐々に強化されている。

今後、世界的にAI開発をめぐる競争は激化し、有力IT先端企業の競争力が急速に低下する展開は否定できない。AIに関するルール、国際規格の策定をめぐる主要国間の陣取り合戦も激化するだろう。そうした非連続な変化の激化に対応するために、わが国企業は最先端分野での製造技術の向上を急がなければならない。

それによって、米国や中国など世界から必要とされる最先端の半導体製造に欠かせない装置や素材を生み出すことができれば、わが国企業が世界のIT業界の大きな変化に対応することはできるはずだ。そうした取り組みは、国内企業がGAFAMなどとの連携を強化し、世界のデジタル化加速にしっかりと対応するためにも大きな影響を与えるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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