「体に合わない乳酸菌」を摂り続けても意味がない…ヨーグルトを食べてもお腹の調子が整わない本当の理由
プレジデントオンライン / 2023年2月23日 9時15分
※本稿は、川本徹『結局、腸が9割』(アスコム)の一部を抜粋、再編集したものです。
■なぜ「腸活」が重要視されるようになったのか
「腸内細菌」という言葉、みなさんもご存知ですよね。善玉菌、悪玉菌というフレーズもよく耳にします。しかし、「では、善玉菌は具体的に何をしているのか?」ということを改めて聞かれると、「えーっと……、よく分かりません」という方も多いのではないでしょうか。
「細かいことはよく知らないけれど、とにかく腸内の善玉菌を増やせば、便秘が解消して体調がよくなるんでしょ」みたいなイメージかもしれませんね。
近年、技術の進歩によって、腸内細菌のDNAを解析できるようになり、実は善玉菌が体にとってよいものを作り出し、全身の健康に大きな影響を与えていることが、かなり詳細に分かってきました。
腸内細菌について詳しく言及する前に、あなたにお聞きしたいことがあります。
もし、あなたの腸から腸内細菌が一切いなくなったら、あなたの体に何が起きるのか、想像がつきますか? いきなり聞かれてもピンとこないかもしれません。いくつか起きそうなことを列挙してみましょう。
・便秘がちになり、お肌の調子が悪くなる
・ビタミンが不足し、体にさまざまな不調が起きる
・細菌やウイルスがどんどん体に侵入し、感染症にかかりやすくなる
・気分がふさぎこみ、うつになりやすくなる
・大腸に炎症が起き、がんを誘発する
もちろん、これだけではありませんが、真っ先に起きそうな事象を述べてみました。腸内細菌は、みなさんが思っている以上に、全身の健康に関わっているのです。
■水溶性食物繊維が腸内細菌のエサになる
まさか腸内細菌が、そこまで人間の健康に具体的に影響を及ぼすとは、昔は想像もされていませんでした。
腸内細菌は微生物、つまり生き物です。ひとつひとつは肉眼で見られるような大きさではないので、細菌という生き物が自分のお腹の中にいるとは、みなさんうまく想像しにくいかもしれませんね。
腸内細菌は、人間の大腸の中におよそ1000種類、数は全部でおよそ100兆個もいるとされています。重さはなんと全部で1.5kg近くあるようです。
小腸にも少しいますが、基本は大腸の中にいて、このものすごい数の細菌が大腸の壁をびっしりと覆っています。
細菌がびっしり集まっている状態を、「腸内細菌叢」、または「腸内フローラ」と呼びます。善玉菌と呼ばれている代表的な菌は、ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌などです。わずかに小腸にいる場合もありますが、基本的に大腸にいます。
細菌も生き物なので、私たちと同じように「食べて出す」をしています。
具体的には、その菌も野菜や果物などに含まれる水溶性食物繊維などをエサとして「食べて」、代謝して物質を「出し」ます。この善玉菌をはじめとする一部の菌が「出す」ものが、体にとってよいことを色々してくれるのです。
それが、“短鎖脂肪酸”という物質です。
■短鎖脂肪酸は「自前の万能薬」
この短鎖脂肪酸は、腸の中から全身への影響までを含めて、よいことばかりをしてくれている、自前の万能薬のような物質なのです。
短鎖脂肪酸はその名の通り“酸”なので、たくさんあれば腸内を弱酸性に保つことができます(強酸性にはなりません)。
悪玉菌は酸性を嫌います。短鎖脂肪酸が多ければ悪玉菌が増えにくい環境になるので、有害な菌の増殖を抑え、また悪玉菌の出す酵素の働きも抑えます。
短鎖脂肪酸が悪玉菌の増殖を抑えることで得られる効果はさまざまです。
まずは、腸の活動を活発にして、消化吸収を助けてくれます。それだけではありません。腸の状態が健やかなら、セロトニンなどの「幸せホルモン」も順調に作られ、メンタルも安定します。また、腸内環境が良好ならば、食中毒や病原菌への感染が予防できたり、発がん性を持つ毒素などの産生も抑制されます。
腸内にある免疫細胞を活性化させ、免疫機能を正常に保つのも短鎖脂肪酸の役割です。そのため、花粉症をはじめとするアレルギー症状は、腸内フローラの中に善玉菌が少ないと起きやすくなります。
■善玉菌が増えるような食生活を心がける
そして、特に注目度が高いのが、脂肪細胞に脂肪を取り込まないように働きかける点です。これによって脂肪の燃焼が高まり、代謝がアップするのでやせやすい体になります。
その働きから、短鎖脂肪酸を出すビフィズス菌、酪酸菌、バクテロイデス属の菌は、「やせ菌」とも呼ばれています。
腸内細菌の中には、この肥満を防止する物質を作ってくれる“やせ菌”のほかに、逆に脂肪を作って溜め込むように働く“デブ菌”がいることがわかっています。ダイエットがうまくいかないのは、あなたの意志が弱いせいではなく、腸内細菌のせいかもしれないのです。
腸内環境を正常に保つには、まずは短鎖脂肪酸を作ってくれる善玉菌、特にその主力となっている、ビフィズス菌と酪酸菌が増えるような食生活を心がけましょう。
言ってみれば、必要な量の善玉菌が腸の中にちゃんといて、元気にエサを食べ、代謝産物を出してくれていれば、私たちはお腹の調子もよく、太り過ぎたり、重い病気に悩まされたりすることもなく暮らしていけるのですね。
■ヨーグルトを食べても腸内環境は整わない
腸内細菌は、比較的短期間で入れ替わっていきます。
これは私の見解ですが、現代の日本人の食生活は動物性タンパク質や脂質を食べることが昔と比べるととても多くなっていますね。また、インスタント食品やさまざまなジャンクフードなど、加工された食品の摂取量もケタ違いだと思います。
ベジタリアンでもない限り腸内細菌のバランスは崩れやすく、どうしても善玉菌より悪玉菌の方が多くなりがちなのではないか、と思います。
だからこそ、善玉菌が極端に減って悪玉菌が優勢にならないよう、善玉菌を増やす食生活を心がけることが、健康な体の維持につながるのです。
とはいえ、善玉菌を増やすのに食べ物が重要ということは、ずいぶん前から言われていますよね。みなさんの中にも、善玉菌を増やすための食べ物をすでに摂っているという腸活意識の高い方もいらっしゃるでしょう。
特に多いのが、「ヨーグルトを食べています」という声です。しかし、残念なことにヨーグルトなどの食品に含まれる乳酸菌は、9割が大腸に届く前に、胃酸で死んでしまうのです。
ヨーグルト以外の発酵食品に含まれている乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌はどうかと言うと、そのほとんども調理時に加熱する過程や胃酸によって、大腸に届くまでに死んでしまいます。
最近では「生きて腸に届く」と宣伝されている商品もよく見かけるようになりましたが、生きて腸に届いたとしても、食べ物から摂るこれらの善玉菌は、私たちの体を通過するだけで、定着するわけではないのです。
■腸内環境が一気に整う「とっておきの食材」
では、なぜこうした発酵食品が体にいいのかと言われると、食べ物に含まれている善玉菌の死骸が、すでに腸内フローラにいる善玉菌のエサとなるからです。
また、運よく生きて大腸まで届いたものは、そのまま定着することはないものの、生きているほんの1~2日間だけは、腸内で仲間の数と種類を増やすことにつながります。
さらに、最近ではヨーグルトなどに含まれる乳酸菌も、自分に合うものと合わないものがあることがわかってきています。そのため、知らず知らずのうちに、合わない乳酸菌を摂り続けてしまう可能性もあるのです。
2週間くらい食べ続けても体調に変化がないときは、もしかすると、ご自身の体に合っていないのかもしれません。合わない菌では、仲間の数や種類も増えないばかりか、エサとしても使われず、せっかくの腸活もただの食べ損になってしまいます。
一方、同じ善玉菌のエサとなる水溶性食物繊維は、胃酸で消化されることなく大腸まで届きます。ヨーグルトの乳酸菌のように、人を選ぶこともありません。さらに、水溶性食物繊維は、さまざまな種類がいる善玉菌たちすべてのエサになるので、とても効率がよいのです。
ですから、腸活として気軽に食に取り入れるものとしては、水溶性食物繊維がイチオシなのです。水溶性食物繊維の多いのが、ネバネバしている食べ物です。大和芋、長芋、オクラ、とろろ昆布などで多く摂れます。納豆も効果絶大です。野菜ではごぼう、アボカド、にんじん、きゃべつ、セロリなど。果物ではりんご、プルーン、いちじく、いちごに豊富に含まれています。
■便を排出しなければ腸内環境はよくならない
とはいうものの、実は私は「食」だけでは不十分だと考えています。日本人の腸内環境が改善しないのは、ある大事な要素が、日本人の腸活からすっぽり抜け落ちているからなのです。
それは何かというと、「ぜん動運動」です。腸のぜん動運動を促すことにフォーカスしなければ、腸内環境の改善はできないと言っても過言ではありません。
ぜん動運動は、入って来た食べ物を分解・消化し、吸収し、さらに便を作っていらないものを排出するために欠かせない動きです。
慢性便秘に悩む方は、たいてい大腸のぜん動運動が弱くなっているのです。
ぜん動運動が活発なら、便が大腸内に居座らず排出されます。便と一緒に悪玉菌のエサになるタンパク質のカスや、悪い脂なども排出されるので、悪玉菌が腸内で極端に増殖する心配はありません。
しかし、ぜん動運動が弱いと、せっかく善玉菌を増やすような食事をしても、それらがきちんと腸に作用しない可能性が高くなります。
食事には気をつけているのに腸の調子が改善しないという人は、善玉菌を増やすことに加えて、腸のぜん動運動の促進を意識する必要があるのです。
■腸活は「ぜん動運動の促進+食事の改善」の二本柱で
腸のぜん動運動は、私たちの意思とは関係なく起こっています。「動け!」と命令をして動かすこともできませんし、腸の中に命令するものがいるわけでもありません。基本的には自律神経が、その動きのカギを握っています。
けれど、私たちが日常生活でちょっと工夫をすれば、自律神経を整えて、その結果としてぜん動運動を促進することはできます。例えば、体を左右にねじるなどの動きで、適度に物理的な刺激を与えることは、ぜん動運動の促進に有効ですし、私も来院された方にそうした体操を指導することもあります。
腸活は、「ぜん動運動の促進+食事の改善」の二本柱ではじめて本当の効力を発揮すると言えるでしょう。
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消化器専門医
1987年筑波大学医学専門学群卒業。専門は消化器外科。元筑波大学消化器外科講師。2003年より、アメリカテキサス大学MDアンダーソンがんセンターにてがんの研究も行う。2010年にみなと芝クリニック院長に就任。日本テレビ「ザ・世界仰天ニュース」、テレビ朝日「林修の今でしょ!講座」などメディア出演多数。著書に『結局、腸が9割』(アスコム)などがある。
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(消化器専門医 川本 徹)
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