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日本が舞台の映画なのに、なぜか日本では撮影できない…ハリウッドが韓国や台湾での撮影を選ぶワケ

プレジデントオンライン / 2023年3月1日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LeoPatrizi

日本が舞台の映画作品で、撮影場所が日本以外の場所となるケースが相次いでいる。法政大学大学院の増淵敏之教授は「日本はロケの制限が多く、ハリウッド映画などは韓国や台湾に流れてしまっている。日本はせっかくのチャンスを逃している」という――。

※本稿は、増淵敏之『韓国コンテンツはなぜ世界を席巻するのか』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

■都市のイメージはメディアによって創られる

都市イメージの形成と伝播には、メディアの力が大きい。実際にイメージ先行型の都市もある。そのような都市は、住んでみたら話はまた別なのだが、メディアによって創られたイメージがわかりやすいことが特徴である。観光都市としての魅力にも溢れていることが多い。

都市名を聞いて、シンプルにイメージが思い浮かぶ都市といえばいいだろうか。札幌でいえばテレビ塔、大通り公園、時計台、京都でいえば清水寺、金閣寺などの神社仏閣、神戸でいえば港湾風景、北野異人館などが浮かぶ。パリのエッフェル塔、ニューヨークの摩天楼、ロンドンのロンドンブリッジ、東京の東京タワー、東京スカイツリーなども同様だ。

■都市のイメージを構築する5つの要素

都市のイメージに関しては古典的な研究になるが、ケヴィン・リンチの研究が原点的な位置付けになるだろう。彼は都市の環境イメージを「アイデンティティ(identity):そのものであること」「ストラクチャー(structure):構造」「ミーニング(meaning):意味」の3つの成分に分析した(『都市のイメージ(新装版)』丹下健三/富田玲子訳、岩波書店、2007年)。とくに『都市のイメージ』では、アイデンティティとストラクチャーのふたつに絞り込んだ。そして5つのエレメントに注目する。

5つのエレメントとは、以下のように説明される。

①パス(path)は道路、人が通る道筋を指し、具体的には街路、散歩道、運送路、運河、鉄道などを示す。
②エッジ(edge)は縁、つまり連続状態を中断するもの。地域の境界を指し、具体的にはパスにならない鉄道路線、海岸、崖などである。
③ディストリクト(district)は地域、比較的大きな都市地域(部分)を指し、その内部の各所に同質の特徴がある地域を示す。
④ノード(node)は接合点、集中点のことで、重要な焦点、つまり交差点、広場、ロータリー、駅などのことである。
⑤ランドマーク(landmark)は目印であり、外部から見る道標。比較的離れて存在する目印のことで、建物、看板、モニュメント、山などを示す。

前述の例は、⑤のランドマークに当てはまるのだろう。

■観光はメディアに創られたイメージを確認するためのもの

観光学の領域では、ダニエル・J・ブーアスティンが想起される。

彼は、メディアの変化がイメージの大量生産をもたらし、人々の想像力にも真実らしさの観念にも決定的影響を及ぼしたとして、大衆の欲望に合わせてメディアが製造する「事実」のことを「疑似イベント」と呼んだ。

つまりブーアスティンは、写真・映画・広告・テレビなどのさまざまなメディアにより創られたイメージのほうが、現実より現実感を持つとする。観光はそのようにメディアに創られたイメージを確認するためのものだけになっていると指摘し、かつツーリストたちもそれを望んでいるとした(『The Image: A Guide to Pseudo-events in America』1962年、邦訳『幻影の時代 マスコミが製造する事実』星野郁美・後藤和彦訳、東京創元社)。

つまり、観光においてのメディアの果たす役割が増大し、従来のマスメディアに加えてソーシャルメディアの浸透により、現代社会は情報の氾濫の状況を迎えている。リアルとヴァーチャルのデュアル化が生じているという見方もできる。

■日本は実写ベースの情報発信が遅れている

観光文脈においても、リアルな観光行動を発展させず、ヴァーチャルのみで完結させるという形態が生じているのは紛れもない事実だろう。観光産業そのものが、今後、新たな局面の理解を余儀なくされていくのかもしれない。

韓国のコンテンツは前記のような都市、地域イメージを増幅、拡散させる役割を果たしている。ノンナレーションまち歩き動画も同様だが、この部分でも韓国の現状には注目すべきだ。日本では確かにマンガやアニメ作品を介して、東京をはじめとした個々の場所に関する情報発信はなされているが、実写ベースでいうと韓国に後れを取っているという印象は拭えない。

■新幹線でのロケができず台湾で撮影

日本でのロケは制約が多いという話をよく聞く。例えば三池崇史監督の『藁の楯』では、アクションシーンで新幹線の使用の許可が下りずに台湾で撮影した。また、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙―サイレンス―』は遠藤周作の原作だったが、やはり台湾を中心に撮影がなされたという。

台湾高速鉄道
写真=iStock.com/Sean Pavone
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sean Pavone

映画全盛期にはカースタントも街中で実施されたりしていたが、現在では安全面や道路封鎖の困難さから、次第にそのようなシーンは減少の傾向にある。

とはいえ、決してロケに関しての体制構築がないがしろにされていたわけではない。20世紀後半には個々の地域での胎動があり、2000年に日本初のフィルムコミッション(地域活性化を目的として、映像作品のロケーション撮影が円滑に行われるための支援を行う公的団体)、大阪ロケーション・サービス協議会が設立されてからは、全国規模でフィルムコミッションの整備が進められ、2021年にはフィルムコミッションが約350団体を数えるようになった。

また同時に、フィルムコミッションが関わるロケ撮影作品数も大幅に増加した。現在では、実写作品の大半がフィルムコミッションの支援を受けている。

■日本は銀座でカーチェイスすら撮影できない

とはいえ、日本では、各フィルムコミッションもしくは観光振興を目的とした観光協会などの外郭団体で運営されていることが多く、アメリカのフィルムコミッションのように道路封鎖まで行うことができる権限を有してはいない。

2009年に各地のフィルムコミッションの連絡機関として、「特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッション」が設立されているが、すべてのフィルムコミッションが加入しているわけではない。あくまでも任意団体であり、基本的にはロケ誘致、サポートに関しては個々のフィルムコミッションが担うことになる。

ただ、この一連のフィルムコミッションには都道府県ほぼ全部に相談窓口が設置されており、そこから個々のフィルムコミッションを紹介する形が一般的になってきた。

東京都のフィルムコミッションについては、石原慎太郎都政の時代に積極的な対応を見せた。石原は映画自体を産業として捉え、映画のロケ誘致に伴う雇用確保、行政の収入増加も念頭に置いていた。ロケ手続きの簡素化が一元的にできるように、2001年には大阪に続く形で、東京都が所管するフィルムコミッション「東京ロケーションボックス」を開設している。

しかし現実的には、十全に機能しているとはいえないだろう。石原は2000年、東京国際映画祭で「銀座でカーチェイスを!」と述べたが、依然として手続きは煩雑な部分が残っており、カーチェイスのできるまちからはほど遠い。国のスタンスもまだ見えない。

■韓国は国を挙げてロケ誘致を支援

一方、韓国ではロケ誘致は国を挙げて支援している。アメリカのマーベル作品をはじめとして結果も伴っており、2018年のマーベル映画『ブラックパンサー』は釜山でカーチェイスシーンを撮影している。製作スタッフは2週間、釜山でロケを敢行し、監督もロケ地としての釜山を絶賛している。

増淵敏之『韓国コンテンツはなぜ世界を席巻するのか』(徳間書店)
増淵敏之『韓国コンテンツはなぜ世界を席巻するのか』(徳間書店)

韓国には「韓国映画振興委員会」と呼ばれる特殊法人がある。行政機関による映画振興を目的としたもので、1973年に設置された。設置当時は映画振興公社と呼んでいたが、1984年に韓国映画アカデミーになり、1997年に南揚州総合撮影所の設置などを経て、1999年に現在の呼称に変わった。2006年の「映画およびビデオ物の振興に関する法律」の改正に伴い、映画発展基金を管理運営することとなった。

海外でよく見られるインセンティブ的な補助金を提供する機能も持っている。コンテンツ振興院同様、この機関も韓国政府の文化体育観光部の傘下にあり、2013年には公共機関の革新都市移転計画により、ソウルから釜山に移転している。

1970年代末まで韓国は軍事政権下にあり、国外の文化の輸入にも大きな制限がかかっていたが、韓国映画振興委員会のこれまでの一連の流れは、韓国の文化開放の道筋に沿った展開になっているといえるだろう。

■スクランブル交差点を栃木県で撮影する日本

このような背景から、実写作品において、韓国と日本には大きな差が生まれている。端的にそれを示す例を挙げれば、日本では渋谷のスクランブル交差点の撮影許可を取るのが難しいために、栃木県足利市にリアルサイズでのロケセット「足利スクランブルシティスタジオ」が作られている。このことからわかるように、やはり東京のまちなかでのロケは難しいのだ。

渋谷スクランブル交差点
写真=iStock.com/Mlenny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mlenny

しかし、アニメの中では克明に東京のまちが描かれている。海外では東京はアニメの中のまちのイメージになっているのかもしれない。半面、ソウルはドラマや映画の中に現実の姿で頻繁に登場する。

都市イメージの形成においては、やはり実写作品の中に登場してこそ、リアリティを喚起できる。そういう面で捉えると、すでに韓流ドラマが世界を席巻する現在、東京よりソウルにアドバンテージがあると見ていいのかもしれない。K-POPをはじめとしたほかのコンテンツの情報発信もそれを補完している。

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増淵 敏之(ますぶち・としゆき)
法政大学大学院 教授
1957年、札幌市生まれ、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。NTV映像センター、AIR-G’(FM北海道)、東芝EMI、ソニー・ミュージックエンタテインメントにおいて放送番組、音楽コンテンツの制作および新人発掘等に従事後、現職。著書に2019年『「湘南」の誕生』(リットーミュージック)、2020年『伝説の「サロン」はいかにして生まれたのか』(イーストプレス)、2021年『白球の「物語」を巡る旅』(大月書店)など多数。

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(法政大学大学院 教授 増淵 敏之)

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