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52歳羽生九段と20歳藤井五冠の考えは完全一致「集中力を高めるために本番前にやるたった一つのルーティン」

プレジデントオンライン / 2023年2月19日 11時15分

撮影=金子光博

羽生善治九段と藤井聡太五冠は現在、王将戦の真っ最中。第四局を終え、2勝2敗と伯仲している。『プレジデントFamily』編集部は昨秋、将棋日本シリーズでの直接対局の前に2人の天才にインタビュー。「どのように集中力をコントロールするのか」と質問をすると、その回答はほぼ一致していた――。

※本稿は、『プレジデントFamily2023年冬号』の一部を再編集したものです。

■将棋界の天才2人にW直撃インタビューした

将棋の棋士、羽生善治九段と藤井聡太竜王は、「天才」の筆頭格ともいえる存在。ともに棋士の養成機関・奨励会をスピード卒業し、中学生でプロデビュー。羽生九段は1996年、25歳の時に竜王、名人をはじめ七つのタイトル独占を果たし、2017年には、各タイトルを一定回数得た者だけに許される「永世称号」を、7タイトルで名乗る資格を得た。

一方の藤井竜王は、デビュー戦から29連勝という大記録を打ち立て、かつての羽生九段を上回る勢いで勝ち続け、現在20歳にして8タイトル中五つを獲得中だ。

2人に、集中するためのヒント、物事を上達するためのコツを伺った。

■集中力の高め方

「短い時間の対局は最初から最後まで、全力で走り切るという感覚です」――集中力を維持するコツは? と聞いた本誌に、羽生九段はひょうひょうとした口調で応じた。

羽生善治九段
撮影=金子光博

「対局の前には、こんなふうに進むかもしれないと考えたり、シミュレーションをしたりします。でも、だいたいはシミュレーション通りには進まないので、予想外のことが起きても対応できるよう、心の準備をしておきます。つまり、『予想外のことが起きるものだ』と考えておくことです」

将棋日本シリーズは持ち時間の合計が1人15分程度の短い対局で、持ち時間を使い切ると1手30秒未満で指さねばならず、時間切れは即負けとなる。集中力が途切れそうになったときにすることはあるのだろうか。

「失敗したなと思うときもありますが、失敗したことにとらわれてしまうと時間がなくなってしまうので、意識して気にせず目の前のことに集中していきます。『何でこんなことをしたのかな』と理由を考えたくなってしまうのですが、過去は振り返らない。この一点に尽きます」(羽生九段)

同じように集中するコツについて藤井竜王に聞いてみた。やはり最初の“入り口”が重要だと藤井竜王は話す。

『プレジデントFamily2023年冬号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023年冬号』の特集は、「読解力」の家庭での伸ばし方。「文章を読める子が“新受験”を制す」「なぜ算数の“文章題”だと解けないのか」「食いっぱぐれないために大事なこと 自分で稼げる子にする!」などを掲載している。

「集中力は、何時間も続くものではありませんから、普段の生活の中では無理せず、気が向かないときはやらずに、集中しやすいと思ったときにしっかり勉強なり研究なりをするのが大事かと思います。ただ今回のような1時間程度の早指し戦の場合はそういうわけにいきません。対局前から集中力を高めておくことは大事です。どう展開するかをある程度シミュレーションというか、想定しておくと、いざ対局が始まってからも将棋に入り込みやすいです。ただシミュレーションといっても相手の出方をきっちり予測するというほどではなく、頭の中で軽く『こういう展開もありえるのかな』と考えておく程度です」

2人の方法はほぼ一致していた。考えるべき場面を迎えてから、一気にスイッチを全開にして集中力を高めるのではなく、事前にシミュレーションをして頭も心も温めておく。そうすることで、最初から一定の集中力を保って取り組めるということだ。また未来の展開を決めつけずに、幅を持たせて考えておくことで、ハプニングにも柔軟に対応できる。

習い事の発表会や、スポーツの試合、実力テストなどのときにもこうした方法は役立つかもしれない。

■上達に大事なこと

もう一つ質問したのは物事を上達するためのコツについて。習い事や楽器、スポーツなど、うまくなりたいと思いながらも、そのモチベーションが続かず、挫折してしまうこともある。子供のころから長く将棋と向き合い、その面白さも苦しさもよく知る羽生九段と藤井竜王は、どんな工夫をしてきたのだろうか。羽生九段は、「集中する時間を長くすることが上達につながっている」と断言する。

「小さい子供って集中が持続しないんですね。集中しても1、2分ですぐに飽きてしまう。それが何かに夢中になると、その集中の時間が3分続くようになり、5分続くようになり、10分、1時間と長くなっていきます。集中が続くようになるとだいたい上達しているんですよね。だから『集中できる時間を長くする』ことを意識するといいと思います。まあ、集中と上達のどっちが先かは鶏と卵の例えのような話なんですけど」

何かに夢中になることで培った集中力は、ほかのことにも転用できると羽生九段は考えている。

「遊びでもスポーツ、アウトドアでも、興味を示すものならなんでもいいと思います。小さいころから“今日この日に関心がある”ことに集中して上達する経験をたくさんしていると、成長して別のことに興味が移っても集中しやすくなり上達できると思います。あくまでも本人の興味次第なので、必ずしも誰もが勉強に集中できるというわけではないと思いますが(笑)。一つのことでうまくいくと、いろんなことに集中したくなり、好奇心の幅が広がっていくというのは、すごくいいサイクルですね。でもこのサイクルに入るまでにはいろんなことを経験して試すのが大事だと思います」(羽生九段)

一方、藤井竜王はどのように考えているのか。上達には“楽しい”という気持ちが欠かせないと言う。

藤井聡太五冠
撮影=金子光博

「将棋に関しては、強くなりたいという気持ちはありましたが、どうやったら上達するかを考えたことは実はあまりなくて……。私の場合は、ただ将棋が楽しくてたくさんやったら強くなったのかなと。“楽しむ”ということが、上達するのに一番の近道なのかなと思います」

藤井竜王は、幼いころ、将棋に負けるとこの世の終わりのように泣いていたというエピソードがある。上達には「負けず嫌い」という要素も関係しているだろうか。

「たしかに、子供のころから負けず嫌いで家族とトランプをやるときでも、勝つまで何回もやっていました(笑)。負けず嫌いがいいことかどうかはわからないですけど、将棋にはプラスになったかなとは思います。ただ“悔しい”という気持ちだけでは続けられなかったと思います。将棋のルールは祖母から教わったんですけど、祖母は駒の動かし方を知っているというくらいの初心者だったので、すぐ勝てるようになったんですね。そこで勝つことの楽しさを知ったのがよかったのかもしれません。やっぱり最初に楽しいという気持ちがあったからこそ続けられたし、強くなれたと思います」

集中する体験を積み重ねていくこと、そして楽しいという気持ちを大事にすること。2人の天才の上達のコツはシンプルだが、とても大切なことかもしれない。

■おまけインタビュー 羽生善治九段編

Q:子供のころ負けて泣いたような負けず嫌いのエピソードはあまりない?

「小学校低学年のころは、対局ができるのは週1回3〜4時間。親が買い物に行っている間に将棋の道場に行くときだけでした。だから、負けて悔しがるより、残っている時間で一局でも多く指したかったんです。なので泣いたエピソードはあまりないのかもしれません」

Q:昔やってよかった勉強法は?

「今はムダだと思えるような非効率なやり方が意外とよかったのかも。10代のころは自分の頭で考える時間が長かったです」

1970年埼玉県生まれ。85年に中学3年生で将棋棋士になる。2017年史上初の永世七冠を獲得。18年国民栄誉賞を受賞。Twitterで将棋や一緒に暮らしているうさぎや犬について発信している。
羽生善治九段(右)と藤井聡太五冠(左)
撮影=金子光博

■おまけインタビュー 藤井聡太五冠編

Q:AI(人工知能)についてどう考える?

「AIの将棋が強くなり、それを活用することで自分が強くなる可能性が広がったと思います」

Q:学生時代の将棋の研究時間は3時間程度だったが、高校をやめて以降、研究時間は増えた?

「増えました。時間を計っているわけではないのでわからないですけど、1日5〜6時間かなと思います。ただ、子供のころは勉強するだけ強くなれたが、今はそうではない。弱点や課題を把握し、そこをどうするかという意識が必要です」

2002年愛知県生まれ。16年に中学2年生で将棋棋士に(史上最年少記録)。20年に17歳11カ月で初タイトル・棋聖を獲得。現在は竜王、王位、叡王、王将、棋聖を保持。鉄道好きとしても知られている。
羽生善治九段(右)と藤井聡太五冠(左)
撮影=金子光博

(プレジデントFamily編集部 文=西川修一 撮影=金子光博)

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