周囲からイジられ、バカにされたときにどう返すか…3%しかいない「売れる芸人」に共通していること
プレジデントオンライン / 2023年2月27日 15時15分
※本稿は、平井精一『「芸人の墓場」と言われた事務所から「お笑い三冠王者」を生んだ弱者の戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
■マネージャーの役割は「好き勝手やっても売れない」と気付かせること
マネージャーの仕事で重要なのは、芸人が聞く・聞かないは別として「(芸人に)気付かせる」ことだと思っています。気付かせて、感じさせて、その上で自分の頭で考えさせるというステップが大切です。
いろいろと偉そうなことは言いますが、マネージャーは舞台に立ちません。そのため、舞台上での立ち振る舞いや見せ方に関しては、日頃から舞台に立っている彼らには敵わないのです。
だけど、芸人たちは表現者であるがゆえに、売れることよりも「自分はこうしたい」と思うことを優先してしまう。こだわりや理想を捨てられず、自分が思うままに突き進んでしまうのです。
マネージャーがやるのは、「このまま好き勝手やっていても売れない」と気付かせること。その上で、気付いたやつだけが伸びていく。そう考えています。
■97%の芸人は一生かかっても売れることはできない
悲しい現実ですが、大勢いる芸人の中で売れるのはたった3%にも満たないのです。97%は一生かかっても売れることはできない。この売れる3%にいかに入っていくか。好き勝手やっていたのでは入れない枠に入れる確率を高めるのが、マネージャーの役割です。
芸人が事務所に所属する意味もここにあります。
「好きなことだけやりたい」のであれば、事務所に入る必要なんてないのです。売れたい、成功したいと思っているのなら、自分から歩み寄らなければいけない。
例えば、コウメ太夫が良い例です。彼の強みは、なにより素直であること。良い意味で自分のセンスを信じておらず、「これやってみなよ」と言われたことをすぐに取り入れるのです。それが彼のブレイクに直結しました。自分を過信せず、俯瞰(ふかん)で見る。それだけで光明がさしてくると思います。
自分たちのやりたいお笑いを貫く、という芸人もいます。でも私は、「お前の人生、1000年あるのか?」と思ってしまいます。芸能界で活躍できるのは、長くても数十年。その短い時間内で結果を残したいなら、自分の足りない才能を理解して、人のアイデアも取り入れてほしい。それが売れる近道だからです。
■バカにされたときに返せるかどうかで未来が決まる
芸人が芸能界で成功するために、「プライド」はいりません。賞レースで結果を出した芸人も、最初はひな壇からのスタートです。そこでいじられて、バカにされたときに「どう返すか」が、本当に売れることができるかどうかを左右します。
「自分がやりたいことだけやっていたい」というプライドが「いじられること」を拒否するのなら、芸人ではない職業でお笑いに関われば良いと思います。
マネージャーの役割で「気付かせること」のほかに重要だと思うのは、「次のステージに行ったときに成功する」という視点で、芸人たちの人間力を育てること。
以前、友人からこんな話を聞きました。
友人の知り合いで、とあるIT企業に勤めているエンジニアがいました。その人は若くして年収1000万円を超えていると言うのです。私は驚いて、「エンジニアってそんなに給料良いのか?」と聞きました。
ですが、友人は「いや、彼が出世できたのは、ただ『明るい』からなんですよ」と言うのです。そのエンジニアはコミュニケーション能力がずば抜けて高く、技術力というより「可愛がられて」、その結果出世できたというのです。
■ほとんどの芸人はいずれ夢を諦めることになる
この話を聞いたとき、「これだ!」と思いました。ちゃんと会話ができて、コミュニケーションが取れるだけで人は出世できる可能性がある、と思ったのです。
これは芸人が次のステージに行ったときも同じです。
97%が売れない業界ということは、ほとんどがいずれ芸人の道を諦めることになります。何年も一生懸命取り組んだことを諦めて第2の人生を選ぶことは、とてもつらいことです。だからこそ、次のステージに進んでも可愛がられるような人間になってほしい。
仲間同士で傷を舐め合い、みんなが泥水をすすっている状況に置かれると、芸人という肩書に甘え努力をしなくなってしまいます。そんな情熱を失った状態では売れるわけが無いし、ステージを変えるなら早ければ早いほど良いのです。
芸人として才能が無かったとしても、情熱をもって一生懸命頑張っている人は絶対に見捨てません。クビも切りません。たまたま「マネージャー」という職業に就いただけで、人の夢を打ち砕くようなことはしたくないからです。
■惰性で「お笑いごっこ」をしている人には肩たたき
でも、売れる可能性が無い、やる気も失っている芸人には「次のステージに進んだほうが良い」と面談で伝えることも必要です。腐ったミカンは、まわりに伝播します。厳しい言い方になりますが、「お笑いごっこ」になってしまっている人には責任をもって、ステージを変えることを促します。
ステージが変わったとき、その人が次の場所で成功できるよう、人間として育てることもマネージャーの仕事なのです。
「時間を守る」「挨拶をする」「明るく振る舞う」「コミュニケーションを取る」芸人である前に、立派な社会人たれ。そう思っています。サラリーマンになったとしても、そういう人間は愛されると思うのです。
マネージャーは「人を動かす」仕事だからこそ、人間的にまともでないと務まらないと思います。相手の立場になって行動することを心がけさせています。
ほかの職業であれば、もしかしたらその人自身の破天荒さが面白がられ、結果に繋がることがあるかもしれません。ですが、破天荒なマネージャーにタレントは付いていきません。タレントが間違ったことをしたときに説得力のある指摘をするためにも、バランスの良い人間であることが必要であると思います。
■「担当芸人が売れる=自分のおかげ」と勘違いする人は多い
マネージャーは「勘違いできる職業」です。なぜなら、「担当している芸人が売れる=自分も売れている」と思ってしまうからです。
芸人が「売れるための地図を描く」のはマネージャーだとしても、次に呼ばれるかどうかはタレントしだい。マネージャーは、売れる「サポート」しかできないのです。
それなのに、タレントの活躍を自分のおかげだと思ってしまったマネージャーは、担当を外れたときに試練に直面します。次に担当した芸人を売れっ子にできず、挫折するマネージャーを山ほど見てきました。
担当がかわったとき、そのマネージャーが「過去どんなマネジメントをしてきたのか」が浮き彫りになります。勘違いして横柄な態度をとっていたマネージャーが新人を担当しても、成果を出すことはできないのです。そうやって挫折したマネージャーの多くは「マネージャー」という職業そのものを辞めます。
![スーツを着た男性の手](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/9/1200wm/img_990d3c49f4eec8bc07afa165d8bdcf23377817.jpg)
■必ず売れっ子と新人の両方を担当させるワケ
こういった「勘違い」を防ぐために、SMAでは「売れている芸人だけ」を専任で担当させることはしません。必ず、売れている芸人・新人芸人のどちらも担当するようにしています。売れている人を担当していると、仕事は「断る」ばかりになってしまいます。
でも新人の場合、「お願いする仕事」も多発します。そうやってバランスを取り、自分の能力を勘違いしない環境を作っています。
とはいえ、マネージャーが担当する芸人が売れるかどうかの鍵を握っていることは間違いありません。マネージャーがかわったことがきっかけで転落してしまう芸人ももちろんいます。
帯番組を担当するほど売れていた芸人でも、マネージャーがかわったことがきっかけで仕事が無くなることもあります。これは芸人が「自分の能力だけでうまくいっていた」と勘違いしていた事例でしょう。
■錦鯉の『M-1』優勝時、現場には行っていなかった
マネージャーをしていると、複数の現場が被ることがよくあります。そういうとき、私が選ぶのは「自分が足を運ぶことでより未来に繋がりそう」だと思う現場です。
錦鯉が『M-1グランプリ』で優勝したときのことを例に挙げましょう。
彼らの人生を左右する、かなり重要な局面です。多くの人が、SMAのチーフマネージャーとして私が錦鯉の現場に赴くと思っていました。でも、私が選んだのは毎月行われている事務所ライブでした。
■自分が行っても名刺を配ることくらいしかできない
私が錦鯉の『M-1グランプリ』決勝の現場に行かなかった理由は、大きく三つあります。
一つは、彼らのメンタル管理をするのなら別のマネージャーのほうが適していると思ったから。
言うまでも無く、『M-1グランプリ』決勝に挑む芸人はとてつもない緊張状態にいます。かなりの恐怖でしょうし、精神的に不安定になるかもしれません。彼らがいつも通り本番に向かえるようサポートするのも、マネージャーの仕事です。
SMAは、賞レースでファイナリストになると個別のマネージャーが付きます。
もちろん錦鯉にも2020年の『M-1グランプリ』でファイナリストになった以降はマネージャーが付きました。1年間並走して人間関係を築いたマネージャーがいるので、わざわざ私が行かなくともメンタル面は彼らのマネージャーが十分に支えられると思ったのです。
二つ目の理由は、私が行っても名刺を配ることくらいしかできないと思ったから。
SMAのチーフが来たということで、もしかしたら他事務所のマネージャーやスタッフが気を遣って挨拶に来てくれるかもしれません。いろんな方と人間関係を築くことは大事ですが、賞レース決勝の局面でわざわざやらなくても良いことです。コロナ禍ということもあり、現場に行く人間は一人でも少ないほうが良いというのもあります。
■若手に「いつか賞レースの決勝に行ってほしい」と伝えたかった
そして最も大きな理由が、普段一緒にライブを頑張っている若手芸人に「いつか賞レースの決勝に行ってほしい」という期待を伝えたかったから。
![平井精一『「芸人の墓場」と言われた事務所から「お笑い三冠王者」を生んだ弱者の戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/6/1200wm/img_2629ee196e24caa0fc45c77861a0bf2d370673.jpg)
芸人たちは、当然私が錦鯉の現場に行くと思っていたようです。「なんで行かないんですか⁉」と真剣にびっくりされました。
そのときに私は「君たちに期待しているからこっちに来た」と言いました。「5年後、10年後の未来に賞レースの決勝に行くのは、君たちかもしれないよ」とも言いました。「そのときこそ、一緒に現場に行かせてくれ」と伝えたほうが、彼らの心を刺激できると思ったのです。
錦鯉の『M-1グランプリ』を例に挙げましたが、行く現場を選ぶ基準はいつも「未来に繋がりそうなほう」です。もちろんトラブルになりそうな現場が最優先ですが、そうでなければ「大きな仕事だから」「楽しそうだから」のような理由で現場を選ぶことはありません。
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ソニー・ミュージックアーティスツ マネージャー
1968年千葉県生まれ。大学卒業後、渡辺プロダクション(現:ワタナベエンターテインメント)に入社。ホンジャマカ、ふかわりょう、TIMほか多くの芸人を担当する。1998年、SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)入社。2007年には専用劇場「千川 Beach V」を立ち上げ、チーフマネージャーとして若手芸人の育成に尽力する。
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(ソニー・ミュージックアーティスツ マネージャー 平井 精一)
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