これだけで血漿ドーパミン濃度が250%増…不動産で巨万を得た男性がコカイン依存から脱出した驚きの"入浴法"
プレジデントオンライン / 2023年2月24日 11時15分
■【イントロダクション】
アルコールやニコチンに限らず、食べ物やSNSなど日常には依存性のあるものが多くある。依存性を測る指標の一つが神経伝達物質のドーパミンで、これが多く放出されるものほど依存性は高いという。
ギャンブルやゲームなど多様な依存症が社会問題にもなる中で、ドーパミンの性質を知ることは重要ではないだろうか。
本書は、依存症医学の世界的第一人者である著者が、自らの診た患者の例(プライバシー保護のため名前等の詳細は変更)を多く引きながら、過剰摂取をやめる秘訣(ひけつ)を科学的に解説し、まとめている。
神経科学の分野では、脳は快楽と苦痛を同じ場所で処理することがわかっており、快楽ばかりを追求するとバランスを崩してしまうという。また、ドーパミンは、ギャンブルなど「報酬がもらえるかどうかがわからない」という予測不能性に対しても多量に放出されるという。過剰摂取や依存症を避けるために、適量の苦痛が必要となる場合もあるようだ。
著者はスタンフォード大学医学部教授、精神科医、医学博士。1967年生まれ。カリフォルニア州在住で、4児の母。
2.セルフ・バインディング
3.苦痛の追求
結論――シーソーの教訓
■快楽と苦痛は脳の同部位で処理される
薬物、食べ物、ニュース、ギャンブル、買い物、ゲーム、電子テキスト、性的な電子テキスト、フェイスブック、インスタグラム、YouTube、ツイッター……今日、私たちにとって強い報酬刺激となるものの数、種類、効能の増え方といったら愕然とするほどだ。
脳内で主要な機能を担う細胞は「ニューロン(神経細胞)」と呼ばれる。ニューロン同士は電気信号と神経伝達物質を使ってやりとりをしている。ドーパミンは、1957年に初めて人間の脳内の神経伝達物質として確認された。
科学者はある行動の依存性を測るのに、普遍的な通貨としてドーパミンを使う。単純に、たくさんのドーパミンが脳の報酬回路(腹側被蓋野と側坐核と前頭前野をつなぐ回路)に放出されればその行動をもっと求めるようになるのだ。
ドーパミンは報酬が得られたことの快楽(*によって放出される)というより、報酬を得ようとする動機(*を引き起こすの)に重要な役割があると思われる。「好き」というより「欲しい」に関係しているのである。ドーパミンを作れないように遺伝子組み換えされたマウスは食べ物を求めようとせず、口元に食べ物がある状況ですら餓死してしまう。
ドーパミンの発見に加えて、(*過去1世紀の間に)神経科学者は快楽と苦痛を処理する脳部位が重複していることを確認した。苦痛と快楽は相反過程のメカニズムで処理される。言い換えれば、快楽と苦痛はシーソーのように働くのである。
私たちの脳内にシーソーがあると想像してみよう。支点のある秤である。何もその上に載っていない時は、地面と平行になっている。私たちが快楽を感じると報酬回路にドーパミンが放出され、シーソーは快楽の側へ傾く。シーソーが傾けば傾くほど、また早く傾けば傾くほど私たちは強い快楽を感じる。しかしこのシーソーは長い間どちらか一方に傾いていることを望まない。快楽の側へ傾くたびに、強力な自己調整メカニズムが働いて水平へと引き戻そうとする。
次のようにイメージしてみればいい。シーソーの快楽の側に載せられた重りの作用を打ち消そうとして、苦痛の側で小さな怪物グレムリンが飛び跳ねる。このグレムリンは「ホメオスタシス(*生体恒常性)」の働きを表している。ホメオスタシスとは、どんな生き物でも持っている生理的な平衡を保とうとする性質のことである。一度シーソーが水平になると、そのままシーソーは動き続けて快楽の時と同じ分だけ苦痛の側へ偏る。
■予測不能性に対してもドーパミンが放出される
過去10年間で、病的なギャンブル行動についての生物学的原因が明らかになってきた。ギャンブルをすると、最終的な報酬(通常お金)に対してだけではなく、報酬がもらえるかどうかがわからないという予測不能性に対しても多量のドーパミンが放出されることが科学的に示されている。ギャンブルをする動機は金銭的な利益というよりも、むしろ報酬の予測できなさにあるということである。
ギャンブル依存症から見えてくるのは、報酬の予期(報酬に先だったドーパミン放出)と、報酬の反応(報酬がもたらされた後、あるいはその最中のドーパミン放出)は別物だということだ。
私は、似たようなことがSNSのアプリでも起きている気がする。SNSでの他者の反応はとても気まぐれで予測できない。「いいね」を得られるかどうかわからないという不確実性が実際に「いいね」をもらうことよりも私たちをドキドキさせ、依存させるのではないか。
快楽を与える刺激に長時間、繰り返し晒されると、苦痛に耐える能力が下がり、逆に快楽を感じる閾値は上がる。系統学的に相当成立が古い、快楽と苦痛を処理する神経機構は進化の中で種を超えてほぼ無傷のまま残ってきた。それは、何もかもが不足していた世界にはぴったりのシステムだった。繰り返される快楽に対して、脳の中でシーソーの支点をずらしていく(*快楽を感じる閾値を上げる)ことで、私たちは終わりなく努力し、あるものでは満足せず、常に新しいものを探し求めるようになる。
しかしそれが今や問題となっている。私たちの脳は豊かな世界で生きるようには進化していない。座ったまま食べ続ける状況が引き起こす糖尿病の研究者であるトム・フィヌケイン博士はこう言っている。「私たちは熱帯雨林の中のサボテンだ」と。乾燥した気候に適応してきたサボテンが熱帯雨林に置かれたかのように、私たちはドーパミンに溺れているのである。その結果、私たちは今や快楽を感じるのにより多くの報酬を必要とし、小さな傷でより多くの苦痛を感じるようになってしまった。
■適量の苦痛でシーソーのいいバランスを見つける
マイケルは大学卒業後、不動産ビジネスで大金を稼いだ。35歳になる頃には途方もない金持ちになっていて、皆にうらやましがられるほどハンサムで、愛する女性と幸せに結婚した。しかし彼には別の人生があり、それがそのうち彼が築いてきたもの全てを脅かすことになった。「僕(*マイケル)にはエネルギーが有り余っていて、何かハイにしてくれるものはないかといつも求めていました。コカインは最初から高い幸福感とエネルギーを与えてくれました」「妻に(*コカインの)依存症の問題をなんとかしない限り、私たちの結婚はもう終わりと言われました。治すしか道はありませんでした」
やめること自体は彼にとって難しいことではなかった。次にやるべきことを見つけることが大変だったのだ。やめた後、薬物で隠されていたありとあらゆるネガティブな感情が押し寄せてきた。だが彼は自分に希望を与えてくれるものと出会った。
「最初に出会ったのは」と彼は私に言った。「偶然でした。テニスのレッスンが終わって1時間後にシャワーを浴びたんですが、まだ汗をかいていたんです。コーチに言ったら、冷水シャワーにしたら? と勧められて。冷たい水でシャワーを浴びるのってちょっと辛いですが、シャワーから出ると驚くほど気分がよかったんです。
それからの数週間で、冷水シャワーの後は自分の気分が回復していることに気がつきました。そこで冷水シャワーから一歩進んで、バスタブに冷水を張って浸かるようにしたんです。そうしたら前よりもっと気分がよくなったので、もっと冒険してみようと思って温度をさらに下げるために氷を加えることにしました。10℃台前半にはなっていたと思います」
プラハのカレル大学の科学者たちは論文誌『欧州応用生理学ジャーナル』に次のように発表している。14℃の冷水に1時間身を浸す(頭は出している)という実験に10人の男性が参加した。血液サンプルを調べると、冷水に浸かると血漿(けっしょう)ドーパミン濃度が250%増加することが明らかになった。
マイケルはたまたま氷水に浸かる効果を発見したが、これはシーソーの苦痛の側に力をかけることでその反対――快楽の側に行くことになる一例である。「冷水に入った時の最初のショックが強ければ強いほど、出た後の高揚感が大きくなると気づいたんです。だからもっとその最初の苦痛を強くする方法を探しました」。マイケルは話すのをやめて、ニヤリと笑って私を見た。「話していて気が付いたんですが、これって依存症みたいですね」
■過剰摂取しないためのセルフ・バインディング法とは
冷水浴への依存症になってしまったのか、という自分自身で抱いた疑問に答えるかのようにマイケルは言った。「収拾がつかなくなるようなことはありません。2、3年間は毎朝10分氷風呂に入っていましたが、今はその時ほど入っていないのです。平均して週に3回くらいですね」
シーソーのいいバランスを見つけ、維持することで得られる報酬は、すぐ得られるものではないし永続するものでもない。忍耐とメンテナンスが必要とされるのだ。
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
■コメント by SERENDIP
本書では、衝動的な過剰摂取をしないための方法として、「自分を縛る(セルフ・バインディング)」という方法も紹介している。例えば、ゲーム機を見るとゲームをしたくなるのでゲーム機を処分する、アルコールを断つためにアルコールを摂取すると不快感を引き起こす薬を飲む、食欲を抑えるために胃のバイパス手術を行う、などだ。ここまでいかない段階で、私たちは日常的に、「金曜日まではお酒は飲まない」「スマートフォンが目の前にあると気になるので隣の部屋に置く」といった小さなセルフ・バインディングを行っており、それらがシーソーの揺れを小さくとどめるブレーキになっているのだろう。
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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)
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