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20年後に"食える子"の親は今何をしているか…経営学者が示す食いっぱぐれないための"最低限のスキル"

プレジデントオンライン / 2023年2月20日 14時15分

入山章栄さん(撮影=榊水麗)

目まぐるしく変わる社会の中で子供が自立し稼げるようになるために、親はどんな力を身につけさせたらいいのか。『プレジデントFamily』編集部が世界のビジネスを研究してきた気鋭の経営学者・入山章栄さん(早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授)に取材した――。

■20~30年後にわが子を食いはぐれないようにするために

今、小学生ぐらいの子供たちが大人になって社会で活躍するとき、日本や世界のビジネス環境はいったいどうなっているのか。

結論から言うと、それは誰にもわかりません。研究者であり、実際にさまざまな企業の経営にも参加している私にもわかりませんし、天才起業家といわれるイーロン・マスクにもおそらくわからないでしょう。

たとえば、子供たちの間で今、人気がある職業はユーチューバーですが、10年前にユーチューバーという職業が成り立つと考えていた人はどれだけいたでしょうか。あるいは、コロナ禍でなかったつい3~4年前、リモートワークがこれだけ一般的になると想像できたでしょうか。

つまり、「20年後あるいは30年後に食いはぐれないためには、こういう人間を目指すべきだ」という問いの「正解」はないのです。現在、起きている環境の変化を考えると、今の小学生たちがこれから経験するのは、今の親世代からは想像もできない世界のはずです。

では、予期できない世界に対応するためにどんなことが重要になってくるか。

大事なことは三つあって、一つは世の中の変化に対応する力。二つ目は、何が正解かわからないからこそ、遠い未来に向けて自分のやりたいことをはっきり持つこと。そして三つ目が、その二つを生かすための最低限のスキルです。

まず、世の中の変化に対応する力についてお話しします。

■「今日は右に行く? 左に行く?」子供に聞く

この前、教育経済学者の中室牧子・慶應義塾大学教授から伺ったのですが、中室さんの研究分野でわかってきていることとして、伸びる子供の最大のポイントは自己決定力らしいのです。小さい頃から自分の意思で何かを決めるということをやっているかどうかが、重要というお話でした。そういう子は、経験したことのない環境に強く、チャレンジにも積極的で、変化への対応力が高いのでしょう。

ところが、日本の教育は長い間、子供自身に決めさせない教育、つまりあらかじめ決まった「正解」を教える教育ばかりをしていた。これは、変化に対応するという観点からは最悪です。もし家庭で何かやるとすれば、まずは学校や塾で教えない自己決定力を育てる工夫からだと思います。

“予期できない世界に対応する”ための3つの大事なこと
出典=『プレジデントFamily2023年冬号』より

保育・介護事業の大手、ポピンズの轟(とどろき)麻衣子代表取締役社長は海外で暮らした経験が長くグローバルな視点を持っている方です。休日に一家で遠出をするとき、全部子供たちに決めさせるそうです。玄関を出た瞬間から、「今日は右に行く? 左に行く?」みたいな感じで。駅について、どの電車に乗ってどこまで行くかも子供任せで、時にはとんでもなく遠くまで連れていかれたりするらしいんですけど、まさに自己決定力のトレーニングですよね。さすがだと思いました。

■中高生になっても「何になりたい?」と聞こう

二つ目は、自分のやりたいことをはっきり持つということ。これはみんながみんな、子供の頃からそうした明確な意思を持てるわけではないと思うのですが、たとえぼんやりとでもそれを考えさせることは重要だと思います。

小学校の頃はよく、作文などで将来の夢を書かせますよね。でも中学校や高校になると、学力を上げる教育が中心になりそういう課題は少なくなる。社会に出るのが近い中高生の時期こそ、自分が何をしたいのか考えなきゃいけないのに。むしろ将来のことを口にする子のほうが、「かっこつけやがって」みたいに思われて、教室で浮いてしまったりするわけです。それはおかしいし、やはり日本の教育が抱えている課題だと思います。

親としては、子供が中高生になっても「将来何になりたいの?」などと軽く声をかけてみるといいと思います。そして子供が言ったことを否定せずしっかりと聞いてやること。結局は、自分がやりたいことをやるというのが、将来大きなポイントになってくるのです。

■結果を出して成功している人は、何をしているのか

企業の経営でも言えることですが、どんなビジネスが当たるか、どんな仕事が儲かるか、たいていはわからないのです。むしろ、お金儲けそのものを目的にしているような会社ほど、あまり儲からない。

『プレジデントFamily2023年冬号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023年冬号』の特集は、「読解力」の家庭での伸ばし方。「文章を読める子が“新受験”を制す」「なぜ算数の“文章題”だと解けないのか」「食いっぱぐれないために大事なこと 自分で稼げる子にする!」などを掲載している。

人も同じで、儲けることだけを考えていると大したことはできません。本当に今、結果を出して成功している人は、好きなことをやっている人です。自分が好きでやり続けたいものをやると、いつか結果がついてくる。そうやって成功している企業の幹部の人も知っているし、私自身もある意味ではそうです。

日本の雇用制度改革について、「メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ(※1)」などといったことがいわれていますが、今の小学生が働き盛りを迎える2040年ぐらいになると、もうジョブ型という概念すらなくなるかもしれません。特定のスキルや経験を買われて会社に雇われる人も残るとは思いますが、かなりの人がフリーランスで働く可能性が高まるでしょう。

理由はこうです。事業環境の変化に合わせ、企業も変化しないと生き残れません。その変化がものすごく激しくなってくると、長期的な事業計画を立てていたのでは間に合わないから、仕事がプロジェクト単位になってくる。

そうなると会社の中に人材を抱えるより、新しいプロジェクトを立ち上げるたびに必要な能力を持った人を外部から入れて、そのプロジェクトだけをやってもらう形になっていく。

すでに若者の優秀な層は起業をしていますが、今後、起業はどんどん増えていくでしょう。

そうなってくると、やはり大事なのは自分が何をやりたいかということです。やりたいことだからやり続けられ、そしてスキルがついていく。そのスキルこそが、職業人としての報酬を得られる価値になっていくからです。

そして三つ目、先の二つの力を生かすための最低限のスキルについて。端的に言えば、それはまず英語とプログラミング言語です。

おそらく今の子供世代が社会に出るときのビジネス環境と、親世代のそれとの最大の違いは、グローバル化の重要性でしょう。残念ながら、少子高齢化で人口が減少していく日本のマーケットは、これから縮小する一方だと考えられます。

■英語とプログラミングは必須スキル

一方で「ボーン・グローバル企業」と呼ばれる、生まれながらにグローバル市場を意識したテスラやグーグル(アルファベット)のような会社が、現在、株式時価総額の世界ランキングの上位を占めるようになっています。

企業の株式時価総額ランキング(現在と約30年前の比較)
出典=『プレジデントFamily2023年冬号』より

そうすると、お金を稼ぎたかったり、自分のやりたいことをやろうとしたりするなら、当然海外を意識して仕事をする、場合によっては海外で働くという可能性が出てきます。たとえ日本の企業に就職したとしても、世界を相手に仕事をしていくことは避けられないでしょう。

なぜボーン・グローバル企業が出てきたかというと、世界中でビジネスの共通言語がそろってきているからです。そしてその共通言語にあたるのが、まずは英語とプログラミング言語なのです。

英語は、最低条件でしょう。日本人は若い層でも英語を話せない人が多い。東南アジアの国々では、若手の優秀層はすでにみんな英語を話せますから、はっきりと負けています。

とはいえ、ネイティブと同じレベルで話せるようになる必要はありません。日本人はつい完璧主義に走りがちですが、片言の発音、ガタガタの文法でも、とにかく通じるというぐらいで十分です。グローバルなビジネスでの共通言語としての英語は、ネイティブでない人々の下手くそな英語です。最低限「伝わる」レベルの英語を、すべての子供が身につけることが大事だと思います。

もう一つの共通語、プログラミング言語も重要です。先ほどお話ししたボーン・グローバル企業は、ほとんどがIT系です。これらの企業が一気に世界に行けるのは、プログラミング言語も世界共通語だから。同じプログラミング言語で書かれたソフトが、世界中で動いているわけですね。だからコードを書くことができれば、世界で通用するのです。グローバルな新興企業が最初に拠点を置くのはだいたいインドなのですが、なぜインドかというと、若いプログラマーがたくさんいて、しかもみんな英語が喋れるからです。

プログラミング言語と重なる部分もありますが、数学もグローバルな共通言語の一つですね。たとえエンジニアでなくても、数学的思考はビジネスに不可欠ですし、今ありとあらゆる場所で活用が広がっているデータサイエンス(統計学など)の分野でも、数学の「行列」というメソッドが多用されています。信じられないことに、日本の高校の学習範囲から一時削除されていましたが、22年度から復活したようです。

■自分で道を決める勇気を持とう

もう一つ、私が共通言語としてよく強調しているのが、表情の豊かさです。日本、とりわけビジネスの現場では、あまり表情を出さないほうがいいとされた時代がありました。しかし、先に述べたように仕事がプロジェクト単位になったり、起業が一般的になったりすると、人として魅力的であるということがとても大事になってきます。

たとえば起業するとき、魅力的でない人のところにはお金も人も集まりません。あるいはプロジェクト単位で仕事をするときも、集められたチームの中で表情豊かに「自分らしさ」を出し、周囲にいい影響を与えるような人が優れたリーダーになりがちです(経営学では最近、「オーセンティック・リーダーシップ」という呼び方で注目されています)。

日本の人たちは真面目で優秀ですから、共通言語を持てる分野では強いのです。たとえば、野球やサッカーは世界中同じルールですから、グローバルで勝負をしていると、大谷翔平選手や久保建英選手のように世界でもトップクラスで活躍する人が出てくる。

学問でも私のいる文系では言語の壁で苦戦していますが、数学という共通言語のある理系では、ノーベル賞学者を今も出し続けていますよね。

イーロン・マスクのように「こういう世界をつくりたい」という大きなビジョンを持つ必要は必ずしもありません。大金持ちにならなくてもいいから、自分と価値観が合う人とのんびり生きていきたいという人もいるでしょう。

そういう人たち同士がゆるやかな組織をつくり、ブロックチェーン技術(※2)を使って好きなことをビジネス化できる可能性もあります。今から20年もたてば、起業のスタイルも相当に変わっているでしょう。

グローバルなビジネス環境で最低限必要な共通言語を身につけ、自分で道を決める勇気を持ち、好きなことをとことんやる。そうしていれば、世の中がどう変化しようと、きっと活躍できると思いますよ。

※1 メンバーシップ型雇用とは、終身雇用を前提として採用し、配置転換しながら経験を積ませる雇用方式。ジョブ型雇用とは、仕事の範囲や勤務地などを明確にすることでより専門性を高める雇用方式。
※2 ブロックチェーン技術とは、情報を記録するデータベース技術の一種。暗号資産の一つであるビットコインを実現するための技術として開発された経緯がある。

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入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。三菱総合研究所へ入所。2008年、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。その後、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)他

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(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山 章栄 構成=川口昌人 撮影=榊水麗)

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