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「がんを早期発見すれば長生きできる」は間違い…日本人が知らないがん検診の"本当の効果"

プレジデントオンライン / 2023年2月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mohammed Haneefa Nizamudeen

がん検診にはどんな効果があるのか。元厚生労働省医系技官で医師の木村盛世さんは「がん検診を受けても死亡率が下がるという信頼性の高いエビデンスは存在しない。がん検診は心理的・経済的な負担を増やすだけだ」という――。

※本稿は、木村盛世『わるい医者から命を守る65の知恵』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■早期発見しても生存確率が上がるわけではない

Q. がん検診は、外国でも日本のように行われているのですか?
A. 企業が使用者責任の名のもとにがん検診を半強制的に行うような国は、日本だけでしょう。

がんの早期発見、早期治療に関しては、議論の分かれるところです。というのは、早く見つけたからといって生存確率が延びる、という信頼性の高いエビデンス(科学的根拠)は得られていないからです。また、高齢になれば、がん治療による身体的負担は大きく、QOL(生活の質)は低下します。

海外の科学者からは「早期発見してどうする」と疑問視する声もありますが、日本ではそれが全くと言っていいほど聞かれないのが不思議です。公費を使って抗がん剤を使う場合の費用対効果の分析も、日本では欠如しています。

海外でもがん検診を推奨はしますし、ある地域はある年齢以上には子宮頸(けい)がん検診のクーポン券を配ります。しかし、日本の場合、国家公務員は健康診断、がん検診を拒否したら懲戒の対象です(実際懲戒処分されるかは不明ですが、国家公務員法に基づけばそうなり得ます)。そこまでして健診や検診を受けさせる国は他に存在しないでしょう。

効果がはっきりしないがん検診が、企業人にとって半強制という、不思議な国です、日本は。

■胸部X線検査をしても長生きできるわけではない

Q. 胸部X線検査は、死亡率が減るというエビデンス(科学的根拠)があるから、日本で健診項目になっているのですか?
A. 胸部X線検査のスクリーニング検査が、総死亡率を減らすという効果は、認められていません。

図表1を見ていただくとわかるように、4年間毎年胸部X線検査による肺がん検診を行ったグループと、行わなかったグループを比較した調査結果で、13年後に肺がんによる死亡率を減らすことは確認できませんでした。

【図表1】胸部X線検査による肺がん検診の受診者・非受診者の肺がんによる死亡について
出所=関沢洋一:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)エビデンスに基づく医療(EBM)探訪 第4回「がん検診は効果があるか?」/出典=『わるい医者から命を守る65の知恵』

肺がんに限らず、がん検診が効果があるかどうかについては、2つの論争があります。

①例えば肺がん検診を行ったら肺がんの死亡率が減ったというように、対象となる特定のがんの死亡率を減らすか?
②死亡率全体を減らす(=寿命を延ばす)かどうか?

がん検診は効果があると強調する人たちは、①を主張します。しかし、がん検診の本来の目的は寿命を延ばす(②)ことです。ところが、寿命を延ばす効果については、効果が確認されていないのです。

■がんを治療できても死亡率が下がるわけではない

がんは体のどこにでもできるので、仮にその一つを見つけて(例えばすい臓がん)、その臓器のがんが減ったとしても、他の臓器のがんでの死亡率が増加してしまったり、あるいは、がん以外の死亡原因(脳卒中や心筋梗塞など)の死亡が増えたりすると、全体として、一部のがん検診を受けたところで、大海の一滴になってしまう可能性があります。

アメリカのCDC(米疾病対策センター)はこの頃、ヘビースモーカーに関しては2年に1度、CT検査を勧めると言っていますが、この取り組みが寿命を延ばすかはまだよくわかりません。ダートマス大学のウェルチ教授によると、がんにはウサギとカメとトリがあるそうです(*1)

ウサギは「治療する意味があるがん」です。カメは進行が遅いので治療する必要がなく、がん検診によって発見して治療をしても、かえってその人の体力などを低下させるため、不必要な治療になってしまいます。乳がんがカメの典型例です。トリは、早期発見しても助からないほど進行スピードが速いがんです。

カメのがんについては、「がん」という名称を使わないことも提唱されています(IDLE:indolent lesions of epithelial originと呼びます(*2))。現在の医療では、ウサギかカメかを見分けることができないため、治療する必要のないものが治療されているというがん検診の弊害があります。

(*1)Welch HG,Less Medicine, More Health: Beacon; 2016
(*2)Esserman LJ., et al., Addressing overdiagnosis and overtreatment in cancer: a prescription for change. The Lancet Oncology 2014; 15: e234-e42

■過剰治療は経済的コストの増加を招く

また、スクリーニング(あぶり出し)検査には、必ず偽陽性が存在します。偽陽性の人は本当はがんでないのに、誤ってがんと診断されてしまいます。ですので、本当はがんでないのに、いつも「私は本当はがんだったのでは?」という不安に悩まされることが多いという精神的な負荷が指摘されています。

カメを見つけて治療するという過剰治療と、偽陽性に関しては心理的な苦痛だけでなく経済コストの増加を招くことも指摘されています。アメリカでの試算によると、毎年40億ドル(約5000億円)にもなると言われています。

がん検診を受けないという選択もあってよいと思います。

■寿命にもQOLにも関係ないことに税金が使われている

Q. 健診と検診は違うものですか?
A. オーバーラップする部分はありますが、基本的には別物です。

厚労省の資料では、健診は、「必ずしも疾患自体を確認するものではないが、健康づくりの観点から経時的に値を把握することが望ましい検査群」で「陰性であっても行動変容につなげるねらいがある」、他方検診は、「主に疾患自体を確認するための検査群」で「陰性であれば次の検診まで経過観察を行う」とされています(厚生労働省ホームページ「健診・検診の考え方」(*3)

「健診」の代表例は、メタボ健診です。脳卒中や心血管障害(狭心症や心筋梗塞)のリスクを下げる目的で行われます。これに対して「検診」は、がん検診(がんの早期発見)とイコールと考えてよいでしょう。健診は、法的な位置づけは医療ではありません。健康診査と医療が担うべき役割は区別されるべきとされています(*4)

腹囲を測られるおなかの出た男性
写真=iStock.com/TAGSTOCK1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

健診、がん検診とも法律(労働安全衛生法:安衛法)に基づき行われていますが、企業の場合は、「使用者責任」の名のもと、職員はこれらの検査を受けることが決められています。果たして、この2つの対策に効果があるのでしょうか。答えは、「不明」です。

現在、全国健康保険協会(協会けんぽ)などでも解析がされているところですが、メタボ健診や特定保健指導が、脳卒中や心血管障害のリスクを下げるかどうかは、極めて疑わしいです。また、がんを早期にあぶり出して治療する目的のがん検診に関しても、人口全体の死亡率を下げる効果があるか、という問いに関しては、ネガティブに限りなく近い、ということが、世界的なデータで明らかになっています。

やってもやっても寿命も延びず、QOL(生活の質)の向上に結び付かないことに税金を使うのは意味不明です。

(*3)厚生労働省ホームページ「健診・検診の考え方」
(*4)第4回特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会の概要

■「メタボ健診」が強制されているのは日本だけ

Q. 外国にも、日本のように半強制的なメタボ健診はありますか?
A. 腹囲を測れば、生活習慣病予防になって、医療費抑制につながるという考えは、かなりユニークです。一医系技官の思い付きで始められました。

メタボ健診という名称は海外では存在しないのではないでしょうか。韓国が同じようなことをしていますが、法的拘束力をもって行っているのは日本だけでしょう。

木村盛世『わるい医者から命を守る65の知恵』(ビジネス社)
木村盛世『わるい医者から命を守る65の知恵』(ビジネス社)

加齢によって一般的に、血圧、コレステロール等の脂質は上がってきます。これによって血管系のリスクが高まるのは明らか。これはアメリカのHOPE3という大規模な治験で明らかにされて、スタチン系のコレステロール治療薬がリスクを低くすることも明らかになっています。イギリスでは家庭で血圧を測って、150/95mg以上になると降圧剤を飲ませるのが原則になっており、80歳未満では135/85mgになるまで、血圧を下げることが目標になっています。

血圧のコントロールができない場合はフローにより、違う薬に移ります。また、イギリスでは、高脂血症の薬であるスタチンを、ドラッグストアで医師の処方なしに買うことができます。アメリカでは一定以上の年齢の人にアスピリン・降圧薬・脂質低下薬の合剤のポリピルを配ることが検討されています。それを飲んでもやっぱり治療が難しい人だけ医療機関を受診するという構想です。

繰り返しますが、健診(メタボ健診)や特定保健指導が、生活習慣改善につながり医療費抑制につながるかは、今のところ不明です。おそらく大した効果はないと、考えます。

【図表2】NICE ガイドラインの治療ステップのフローチャート
出所=関沢洋一:独立行政法人経済産業研究所 新春特別コラム 2020年の日本経済を読む 2030年の高血圧対応ビジョン/出典=『わるい医者から命を守る65の知恵』

英国国立医療技術評価機構(NICE)のようなフロー(図表2)をつくって、医療過疎地でも高血圧などの治療ができれば、医療費削減につながるのではと私は思います。

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木村 盛世(きむら・もりよ)
医師、作家
1965年生まれ。筑波大学医学群卒業。米ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了。同大学でデルタオメガスカラーシップを受賞。米国CDC(疾病予防管理センター)プロジェクトコーディネーター、財団法人結核予防会、厚生労働省医系技官を経て、パブリックヘルス協議会理事長。著書に、『誰も書けない「コロナ対策」のA級戦犯』(宝島社新書)、『新型コロナ、本当のところどれだけ問題なのか』(飛鳥新社)、『厚労省と新型インフルエンザ』(講談社現代新書)、『厚生労働省崩壊 「天然痘テロ」に日本が襲われる日』(講談社)、『なぜ日本は勝てるはずのコロナ戦争に負けたのか?』(和田秀樹氏との共著)、『日本復活!』(藤井聡氏、和田秀樹氏との共著)、『キラキラした80歳になりたい』(以上、かや書房)、『わるい医者から命を守る65の知恵』(ビジネス社)などがある。

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(医師、作家 木村 盛世)

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