「鬼滅」「ポケモン」よりオタク層の支持が熱い…中国発のスマホゲーム「原神」が日本で大ヒットしているワケ
プレジデントオンライン / 2023年2月23日 13時15分
■たった6カ月で1000億円超を売り上げた『原神』
『原神』は中国miHoYo(ミホヨ)が開発したスマホゲームで、PC・プレイステーションにも同時展開されているオープンワールド形式のゲームである。
2020年9月にリリースされ、「400名が3年半かけて作った開発費100億円のコストが2週間で回収された」と携帯向けゲームとしては前代未聞の数字に、業界でも驚きを隠せないレベルであった。
だがそこからの快進撃はさらに想像を上回る。6カ月で売上10億ドル(約1084億円)到達は、『クラッシュ・ロワイヤル』(11カ月)や『ポケモン GO』(9カ月)といった過去のスマホゲームトップ作を抜いて史上最速の記録となる。
※円ドルの為替レートは、当時のものを使用しています。以下同
同時に毎年700名超もの開発人員がはりつき、運営費として毎年220億円をかけ続けており、その天文学的な数字には眩暈(めまい)をおぼえる。
■あっという間に「ゼルダ」を超えた
リリース初期は任天堂『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド(BotW)』のパクリとも言われていた(影響を受けてつくったことはmiHoYo自身が公言している)。
そもそも1986年以来累計18作品になるゼルダシリーズの累計販売本数8000万本強と比較しても、原神はすでに1億3000万ダウンロード、現在も毎月500万人近くがダウンロードを続け、その世界に触れるユーザー数はゼルダを優に超えている。
絶好調のニンテンドースイッチ景気に乗って、BotWが全世界2900万本・想定10億ドル超の売り上げも、すでに原神が「毎月」2000万人がプレーし「毎月」100億円を売り上げ、累計40億ドル(約5280億円)に到達していることを考えると、もはや本家を食ってしまった格好になる。
40年近くヒットを量産し続け、世界のゲーム業界を創り上げてきたに等しい任天堂の、マリオやポケモンに次ぐ人気シリーズのゼルダが、リリースから3年足らずの新興キャラクターに食われているという「事件」の大きさは分かってもらえるだろうか?
■設立から5年で年商100億円規模に
miHoYoは決して中国のぽっと出の新興会社、ではない。
もともとiPhoneとAndroidのスマホアプリの形式が主流となって最初に「世界的なモバイルゲーム企業」としてデビューを飾ったのは2010年設立のフィンランドSupercell(スーパーセル)だった。
『クラッシュ・オブ・クラン』『クラッシュ・ロワイヤル』と良質なゲームを作り続け、2013年にソフトバンクが15億ドル(約1515億円)で51%の株式取得。その後、追加取得し、株式を2016年に中国のTencen(テンセント)に2倍強の価格(約7700億円)で転売されて以来、こちらも中国企業傘下である(ちなみにSupercellの最初のマルチプレイヤーオンライン作品が『Gunshine.net』というタイトルである)。
設立5年で20億ドル(約2400億円)超えをしたSupercellに比べるとmiHoYoの成長はもっと地道なものだった。
2012年設立後『崩壊学園』で年3200万ドル(約28億円)の小ヒット、2015年『崩壊学園2』と続けて同シリーズを改良し続け、3度目の正直となる2017年『崩壊3rd』は日本でもヒットチャートに入る秀作で、会社としても年商100億円規模に成長する。
この『崩壊3rd』で蓄えた地力を使って3年半にわたって開発を続け、同社6作目となったのが『原神』であり、miHoYoの売り上げはここで15億ドル(約1590億円)、SuperCellに並ぶ開発会社となる。
■「中国のゲームは中国でしか売れない」はずだった
絵に描いたようなサクセスストーリーだが、成功の保証がない2018~19年に、しかもレッドオーシャンで業界は成熟の極みと言われたこの時代に、100億円もかけた案件(かかってしまったといったほうが正しいだろうが)に全精力を傾けた胆力は、驚嘆に値する。
実は1作品で売り上げ10億ドル超えのスマホゲーム会社というのはSupercellやmiHoYo以外にも幾つもあった。
日本では『パズル&ドラゴンズ』のガンホー・オンライン・エンターテイメント、『モンスターストライク』のミクシィ、『Fate/Grand Order(FGO)』のソニーグループのアニプレックスなどなど。
だがこれらの作品はあくまで「母国のみで売れている」(FGOはアニメの力もあって海外比率2割まで行ったが)ものでしかなかった。
そもそも過去5年強、世界スマホゲームの売り上げトップはTencentの『王者荣耀(Honor of Kings)』(2015年リリース)だった。
だが9割以上が中国での売り上げとなる典型的なドメスティック型大ヒットゲームとなる同作を代表に、「中国のゲームは中国でしか売れない」は前述の「日本のゲームが日本でしか売れない」のとまったく同じ通説でもあった。
『原神』がそれを覆した。
『原神』の市場は中国(30%)、日本(27%)、米国(19%)とむしろ海外比率が7割にも及び、全世界で売れている中国発ゲームなのだ。
「海外で売れるヒット作」は世界一のゲーム市場規模を誇る中国でも悲願だった。それはなぜだろうか?
■なぜ中国市場を飛び出したのか
世界1758億ドル(約23兆2000億円)のゲーム市場で、中国はシェア3割を占める世界一の市場だ(2022年現在、Newzoo調べ)。
スマホゲームでもトップ100社のうち38社が中国企業(22年3月時点)、2021年を通じて全世界で売れているスマホゲームのトップ3タイトルは『王者荣耀(Honor of Kings)』(22億2000万ドル、約2930億円)、『PUBG』(韓国PUBG Studios 、17億3000万ドル、約2283億円)、『原神』(15億6000万ドル、約2059億円)と1位と3位が中国のゲームだ(mobilegamer.biz調べ)。
こうした記録をもってしてなお、中国ゲーム会社の危機感は強い。なぜなら彼らの“足場”である中国市場が、極めて不安定な状態にあるからだ。
世界に冠するゲーム産業とはいえ、野放しな経済成長は中国行政にとっては脅威ともなり、依存性を深めるスマホゲームは度重なる規制強化の対象となった。
もともと中国でゲームをリリースするには行政の許諾が必要、外資企業には参入手段がない。
AppleのiOS市場は公式なものがあるが、Google社は入れておらず、Androidのゲームプレイ市場は中国企業が各社思い思いに作り、400種類以上もの市場が乱立。それを攻略するために中国の内資系ゲーム会社との提携は必須だった。
しかし内資系にも規制の網はかかりはじめ、それは2018年から如実になる。
■世界一のゲーム市場は、世界一規制されている
18年3月、政府機構改革のためにゲーム審査の一時延期、19年11月、未成年へのゲーム提供は8~22時までの間に1日1.5時間のみの時間制限と、8歳未満課金禁止・18歳未満も段階的金額制限。
そしてついに、21年8月には金・土・日・祝日の20~21時の1時間のみという一層厳格な時間制限という事態に至って、もはや中国市場にとどまり続けることはリスクでしかなくなってきた。
各社は東南アジアや韓国・日本、さらには欧米など「海外」に市場を求めて大挙して展開をしていったのが2018~19年。
日本でいえばNetease(ネットイース)の『Knives Out(荒野行動)』『陰陽師』やC4games社『放置少女』が盛り上がってきた時期である。
■日本のオタクが飛びついたワケ
『原神』は母国中国に次いで日本で受け入れられている。
その象徴がイラストや漫画を中心にしたSNS「pixiv(ピクシブ)での投稿作品数推移」である。
ファンの熱量を示す材料として、コミケ同様にpixiv投稿数は非常に有用である。TwitterのフォローやYouTubeの視聴とはワケが違う。皆が数時間~数日かけて好きなキャラのイラストを描きあげるのだ。
pixivは元来ニコニコ動画と相性がよく、人気ランキングでいうと“ニコ動御三家”と言われた『アイドルマスター』『初音ミク』『東方Project』がずっと君臨していた。
特に東方は2008年から長きにわたって投稿トップ作品であり、『鬼滅の刃』でも『ポケモン』ですら抜けなかった。それを、2021~22年にわたって凌駕したのが『原神』である
ここ5年ほどでpixivにおける海外ユーザーが増えており、すでに日本語比率が5割まできているというユーザー層の拡大もあるが、それを加味しても明らかに中国ゲームの勢いが日本国内でも強まっている。
中国の萌えキャラにはオタクは飛びつかない。これはかつて“定説”であった。
美少女の描き方やキャラクターづけは、ここ数十年アニメとゲームとマンガの歴史的な蓄積のある日本でしか生まれないお家芸とも言われた。だが、出自を問わず良いものには飛びつく若者層からK-POPや韓国ドラマ同様に、『原神』のキャラクターへの人気に火が付き、グッズも多く売れるようになっている
■日本市場における勝因
ゲーム性が当たったという点ももちろんある。
そもそも『Fortnite』から『PUBG』まで2017年~19年あたりは「バトルロワイヤル」と言われる多人数対戦が世界を席巻してきた。オンラインかつオープンワールドな空間で、自分なりのプレーやクリエイティブを試す作品は『Minecraft(マインクラフト)』や『ROBLOX(ロブロックス)』など現在の世界ヒット作では欠かせない要素である。
通信速度・通信料金・高性能デバイス、そしてそれをフルに活用したゲームプレー。インフラ(下部構造)の普及に連動した上部構造としてのソフトとして、オープンワールドジャンルは欧米で始まり、アジアにもPCベースで浸透していたが、それがモバイル端末でこの深度で実現した事例は『原神』の登場までなかった。
だがそれ以上に日本市場における勝因は、やはりキャラにあると言わざるをえない。
オープンワールドにつきまとってきた「洋ゲー」と言われる世界観・キャラの違和感を払拭し、日本でも十分に通用するカワイイ/カッコいいキャラクターの造形、設定から喋り方、日本人声優のアサインの仕方に至るまで、本当に日本コンテンツ大好きな中国の開発者たちが作り込んできたな! という強烈な印象をもった。
■中国発のゲームが日本を席巻する日
こうした実績もあって、アニメ『鬼滅の刃』でも有名な「ufotable」による『原神』のアニメ化が決まっている。
国内の有名マンガ作品でも断られるようなトップクラスのアニメ制作会社であり、こうした企業も提携するほどに中国ゲームの日本市場浸透は完成してきている。
これを脅威とみるか、機会とみるかは企業によってバラバラだが、すでに日本スマホゲーム市場も売り上げトップ100の3割は中国発のゲームに占められる中、原神から始まるC-Gamesの勢いは今後増すことはあれど、衰えることはないだろう。
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エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。
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(エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄)
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