大川隆法は大統領、麻原彰晃は神聖法皇…天皇制とのかかわりに注目すると理解できる"新宗教とは何か"
プレジデントオンライン / 2023年2月23日 14時15分
※本稿は、島田裕巳『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■オウムや幸福の科学が登場した平成時代
1989年1月8日、昭和天皇の崩御によって、新しい天皇が即位し、平成の時代がはじまった。ベルリンの壁が崩壊したのは、この年の11月9日のことだった。これはやがてソ連邦を中心とした共産主義圏の解体に結びつき、長く続いた冷戦に終止符が打たれた。
国内的にも、この年の大納会で株価は3万8915円87銭という終値の最高値をつけるが、年が明けると暴落し、株価とともに上昇を続けてきた地価も下落する。これによってバブルが崩壊したとされた。
平成という新たな時代は、国内外における激動からはじまった。
宗教にかんしては、1980年代中頃からのバブルの時代においてブームとなり、オウム真理教や幸福の科学といったこれまでとはタイプの異なる新宗教が登場した。オウム真理教は、95年に地下鉄サリン事件を起こし、世界に衝撃を与えるが、実は、既成の神道や仏教の信者数は地下鉄サリン事件が起こる前の90年代前半がピークで、それ以降、急速に信者を減らしていく。一般の新宗教も同様で、新しく信者が増えていく状態ではなくなり、高度経済成長の時代に入信した信者の高齢化も進んだ。
■戦争とは無縁の平成の天皇
平成時代の天皇のあり方は昭和時代とは大きく異なった。
もっとも大きな違いは、昭和天皇が戦争との結びつきが強かったのに対して、平成時代の天皇にはそれがなかった点である。昭和天皇は、大日本帝国憲法によって神聖化された天皇としての時代を経験している。また、戦争責任を問われる立場にもあった。
それに対して、平成時代の天皇は、最初から日本国憲法のもとにあり、戦争とは無縁だった。天皇自身も、皇后とともに慰霊の旅を続け、平和の重要性を強調することを試みた。
■現人神から象徴となった天皇
世論調査の結果でも、平成の時代に入ると、天皇に対する好感度は一気に上昇し、時代が進むにつれて、天皇を尊敬する割合が高まった。天皇に反感を抱く人間は、平成の終わりになると、ほとんどいなくなる。象徴天皇制は、平成の時代に広く国民に受け入れられたのである(涌井秀行「昭和・平成・令和の天皇の代替わりと戦後日本――戦後権威・権力としてアメリカ=象徴天皇制――」『Prime43』2020年3月31日)。
これは、天皇という存在が、現人神という側面をほぼ完璧に喪失したことも意味する。たしかに、天皇が日本国の象徴である根拠は、究極的には神話に求めるしかないわけだが、日本国憲法では、国民の総意によると規定された。戦後は、「開かれた皇室」がスローガンとして掲げられたが、それには国民の支持が不可欠であり、その条件は平成の時代に十分に満たされるようになった。
■天皇の宗教界への影響がなくなった
開かれた皇室における天皇は、現人神としての天皇とは大きく異なる。現人神であることが特に強調されたのは、日中戦争がはじまってから文部省が刊行した『國體の本義』を通してだが、天皇を中心とした政治体制である国体が不敬罪や治安維持法によって守られることで犯し難い神聖性を保持した。そのことが宗教界全体に影響した。昭和天皇にはまだその名残があったが、平成以降になると、そうした面は一掃される。
高度経済成長時代に大きく発展した新宗教においては、天皇という存在はことさら意識されず、信仰対象となる神仏と天皇との関係についても特に言及されることはなくなっていた。創価学会の戸田城聖が説いた国立戒壇は、国柱会の田中智學が説いたもので、智學は天皇の発する勅宣を前提とし、帝国議会の議決を経て建立されるとした。それに対して、創価学会の国立戒壇は、国会の議決によるものとされ、そこに天皇は介在しなかった。そもそも戦後の社会では、天皇の直接の命令である勅宣自体が存在しなかった。
■戦前の皇国史観に立ってはいない顕正会
創価学会が国立戒壇建立の計画を捨てたことを批判し続けてきたのが冨士大石寺顕正会である。顕正会は、東京妙信講という日蓮正宗の法華講からはじまるが、創価学会だけではなく、日蓮正宗とも対立するようになり、1974年に日蓮正宗から講中解散処分を受け、日蓮正宗顕正会として独立し、96年にはそれを冨士大石寺顕正会に改めている。
顕正会の国立戒壇では、天皇をはじめとする皇族が入会することが前提になっており、皇室、もしくは政府の宣命で着工されることになっている。これは智學が主張した国立戒壇のあり方に近い。ただ、天皇が国主であることは認めているものの、戦前の皇国史観に立っているわけではない。顕正会は、国立戒壇の建立を目的に掲げていても、実際に政治の世界に進出しているわけではなく、会員が選挙に出ることもない。その点で、政権を奪取しようとしているわけではなく、天皇、ないしは天皇制をどうするかというプランも持ってはいない。
■「麻原は神聖法皇」天皇の代わりを占めようとするオウム真理教の思想
平成の時代になって、政治の世界に直接進出を試みたのは、オウム真理教と幸福の科学である。オウムは、1990年の衆議院議員選挙の際に真理党という政党を結成して臨み、教祖の麻原彰晃をはじめ25名の幹部が立候補した。しかし、全員落選し、供託金も没収されている。
オウムは、自分たちが落選したのは票のすり替えがあったからだと主張し、一連のオウム裁判では、それが教団の武装化に結びついたとされた。武装化は、それ以前から行われており、それだけが理由とは思えないが、その後、オウムは国家転覆を計画し、麻原は「真理国基本律」、あるいは「太陽寂静国基本律」と呼ばれる憲法を策定する。このオウム憲法は、神聖法皇によって制定されるもので、神聖法皇自身が唯一の主権者とされていた。麻原の名はあげられていないが、神聖法皇が麻原であることは明らかだった。
その第一条では、「神聖法皇は、(シヴァ大神の化身であり、)大宇宙の聖法の具現者であって、何人といえども、その権威を侵してはならない」とされる。大日本帝国憲法の天皇の規定をそのまま流用していることは明らかである。
麻原が天皇の代わりの地位を占めようとしたところでは、璽宇(じう)や天照皇大神宮教の発想に近い。ということは、平成の時代にはまったく意味を持たないものだということになる。麻原は熊本の出身で、熊本は保守色の強い地域である。そうした地域性がこの憲法にも反映されている可能性がある。
■国政選挙に挑戦し続ける幸福実現党
幸福の科学の場合には、2009年に幸福実現党を結成し、同年の衆議院議員選挙には337名もの候補者を立てたものの、全員が落選し、供託金も没収されている。その後も、国政選挙に挑戦し続けているが、当選者は出していない。一時、すでに議席を持つ議員が入党していた時期があるが、国会に議席を持っていたのはそのときだけである。ただ、地方議会では、幸福実現党は当選者を出している。
■大統領制を推す幸福の科学
衆議院議員選挙に挑戦するにあたって、幸福の科学では、『新・日本国憲法試案』を発表している。これは書物の形で幸福の科学出版から刊行されたが、前文と16条の条文からなっていた。あわせると17条で、聖徳太子の十七条の憲法が意識されていた。実際、第一条では、「国民は、和を以って尊しとなし、争うことなきを旨とせよ。また、世界平和実現のため、積極的にその建設に努力せよ」と、十七条の憲法を下敷きにしていた。
この憲法は、国民投票によって選出される大統領が元首となり、強い権限を与えられていることに特徴があった。大統領制となると、天皇の地位が問題になるが、第十四条では、「天皇制その他の文化的伝統は尊重する。しかし、その権能、及び内容は、行政、立法、司法の三権の独立をそこなわない範囲で、法律でこれを定める」とされ、その点で天皇を日本国の象徴とする現行憲法とは内容が大きく異なっていた。尊重が何を意味するのか、具体性がないが、日本を共和制の国家に転換することが、その主旨となっている。
この憲法では、教祖である大川隆法が大統領となることが想定されているのであろうが、大統領は国民投票で決定されるので、それが前提とされるわけではない。大統領制を採用するなら、天皇制を廃止するのが当然の流れかもしれないが、そこまで踏み込んではおらず、徹底さを欠いている。それは、天皇という存在を幸福の科学が格別意識していないということでもある。この点に、天皇ということと深くかかわる新宗教をめぐる政治的な環境は、平成になってかなり変化してきたことが象徴的な形で示されているのである。
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宗教学者、作家
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)など著書多数。
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(宗教学者、作家 島田 裕巳)
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