理想的な睡眠時間は8時間ではない…20年前とは決定的に違う"快眠"の新常識
プレジデントオンライン / 2023年2月21日 9時15分
※本稿は、角谷リョウ『働くあなたの快眠地図』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■睡眠を削ることの意味は時代によって変化する理由
よく「時間は有限だからお金より大切」といいます。さらには、「1日はみんな同じ24時間だから、寝る時間を削って活動時間を増やしたほうが得」という発想に至ります。
特別な才能やコネがある場合を除いて、ビジネスパーソンとして周りから認めてもらうためには、どうしても仕事や勉強に時間を多く割かないといけなくなります。
人生は短いですから、仕事以外も楽しんで人生を充実させようと思うと、何も生み出さない睡眠を削ろうと考えがちです。
実は私も役所で働いていた時は全くその発想で生きていて、5時間以上の睡眠を取った記憶がないくらいでした。今から20年以上前になりますが、その時代は「何をすれば成功するのか?」「何を学べば上に行けるのか?」がある程度分かっていた時代です。
良くも悪くも「質より量」の時代だったので、どれだけ知識があるとか、どれだけハードな仕事に耐えられたかが重視されていました。
■無料で頭の中のゴミを出し、メンタルや体を回復させる
しかし、今では知識はオープンになり、誰にでも手に入るようになりました。ある程度のレベルの仕事はAI(人口知能)やコンピュータがしてくれるのが当たり前の時代です。
そのような状況において最も重要になってくるのが「仕事をしている時の状態(集中や想像がしやすい良好な心身状態)」や「仕事をチームで行う際の良好なコミュニケーション」です。このジャンルは睡眠の最も得意分野となります。
ご存じな方も多いと思いますが、睡眠は無料で頭の中のゴミを出し、記憶を整理し、メンタルや体を回復させてくれます。今の時代のビジネスに最も必要な要素を、睡眠はタダで毎日作り出してくれるのです。
以前は寝ている時間を「無駄」な時間と捉えている人が多かったのですが、海外では「トレーニングの時間」「パワーチャージの時間」と捉えるのが普通になってきています。
何よりもともと人は寝ることに幸せを感じる生き物です。寝ること自体を楽しみ、さらに寝ることでたくさんの効果が得られるので、本当に良い睡眠は取らないと大損なのです。
■「8時間眠れていないので不調」は大間違いである
私は睡眠セミナーをするとき、必ず「厚生労働省が推奨する睡眠時間はどれくらいでしょうか?」という質問をするようにしています。いつも5択の選択式で行うのですが「8時間」と答える人が半分以上です。
実際にいろんな研究でよく出てくる中央値は7時間から7時間30分くらいですが、おそらくマスコミの影響で多くの人が「8時間が最もよい睡眠時間だ」と思っているようです。
ところが実は、厚生労働省が推奨する睡眠時間は「人それぞれ」です。これは厚労省がいい加減なわけではなく、研究調査を重ねて出た答えが「人それぞれ」だということなのです。
基本的に人間は個体差がありますから、必要な食事量や体重などあらゆることが人それぞれです。しかしそうは言っても基準がないと困るので、一応平均値や安全範囲を決めているのです。睡眠時間も最初は基準を決めようという話もあったそうです。
ところが調べてみると、睡眠に全く問題のない健康な人の睡眠時間は、なんと3時間から10時間以上と7時間以上も幅があったのです。
このような事情から、厚労省は推奨睡眠時間や範囲を決めないほうが良いと判断しました。とはいえ、世の中では「8時間睡眠がベスト」と思っている方が多いので、「8時間眠れていないので不調」ということになるわけです。
実際に睡眠指導の現場では、50代になると平均で最適な睡眠時間が6時間といわれているのに、7時間しか寝れずに困っているとおっしゃる方がよくいらっしゃいます。
最近は遺伝子研究がかなり進んできていて、少し前まで20個といわれていた睡眠関連の遺伝子が351個にまで増えました。あと少しでほぼ解明できるところまで来ているそうです。
人はそれぞれ生まれ持った遺伝子で、ある程度最適な睡眠時間が決まっているのですが、その基本時間は年齢でどんどん減っていきます。
季節や気温、日照時間でもかなり変化しますし、その日どれだけ体や頭を使ったかでも変わります。繁忙期などのアドレナリンが出やすい時期は短眠傾向になることも分かっています。
ウェアラブル装置の進歩もあって、近い将来には誰でも簡単に自分の最適睡眠時間がわかるようになるでしょう。
■日本人は「睡眠時間を削って頑張ることが美徳」と思いがち
寝ずに頑張ることが美徳という文化が日本ではまだかなりあるように感じます。
さすがに徹夜を賞賛するような風潮はなくなりましたが、ビジネスパーソンの睡眠相談では「夜もつい仕事をして、眠れなくなる」「仕事をして家事や育児をしていたら睡眠時間が4時間しか取れない」などの相談が最も多いくらいです。
実際にそういった相談をされる方々が忙しいのは事実なのですが、それ以上に「睡眠時間を削って頑張ることが美徳」という固定概念が強いのがカウンセリングから透けて見えてきます。
日本人はなぜか、遺伝なのか風土なのか「頑張らないと生きている資格や価値がない」と思い込んでいる人が多いように感じます。私も(かなりマシになりましたが)かなりその傾向が強いです。
そうなると一番分かりやすいのが「寝ずに頑張る」というやり方です。
しかし、このやり方は実は危険で、睡眠が足りていないことを理由に、たとえ失敗しても「こんなに頑張ったから仕方がない」と諦めて改善しない傾向があるそうです。
■「寝ずに努力する」ではなく「寝ることに努力する」
これはまさに自分も何度も経験があり、寝ずに頑張ると、頑張ったこと自体に満足してしまってゴールを見失ったり、最も重要な改善する意欲やアイデアが出てこなくなるのです。
人は基本的に不安を感じたり、やる気を出すのは実は簡単です。生き延びるために逃げたり戦うモードになる「交感神経」というスイッチが、たったの0.2秒で反射的に入るからです。
それに対して、快眠に効果的なリラックス状態に導く「副交感神経」はかなり意識的にコントロールする必要があるのに加えて、慣れていないとスイッチが入るのに5分ほどかかります。
つまり、快眠でリラックスするというのは、意識的に努力しないと自然には起こらないというわけなのです。
仕事で失敗してもこれまで通り「寝ずに努力」するのか、「寝ることに努力」して、ハイパフォーマンスを上げるのか。あなたはどっちを選びますか?
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スリープコーチ
LIFREE共同創業者。NTTドコモ、サイバーエージェント、損保ジャパンなどの大手企業をはじめ、計120社、累計6万5000人の睡眠改善をサポートしてきた上級睡眠健康指導士。日本サウナ学会学会員。神戸市役所勤務時に体づくりに目覚め、パーソナルトレーナーをつけ、自分に合った理論的なトレーニングの有効性を実感。あらゆる有名トレーナーのメソッドを研究する。役所を退職後、トレーナーとして独立。神戸と大阪のトレーニングスタジオを経営しながら、自らもトレーナーとしてスタジオや企業で指導を行うエグゼクティブ専門のパーソナルトレーナーとして活動する。
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(スリープコーチ 角谷 リョウ)
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