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岸田首相の長男は「コネ採用」、安倍元首相の甥は「家系図自慢」…日本の政治家が残念な存在になった根本原因

プレジデントオンライン / 2023年2月23日 10時15分

画像=岸信千世氏の公式ウェブページより

なぜ日本の政治家は魅力がないのか。政治ジャーナリストの鮫島浩さんは「親の選挙区を子が引き継ぐ『世襲政治家』が増え、庶民感覚からズレた政治家が増えている。そうした政治家の身勝手な振る舞いに、有権者はあきれている」という――。

■大炎上した「華麗なる政治家一族」の家系図

岸信介元首相は曽祖父、佐藤栄作元首相は曽祖叔父、安倍晋太郎元外相は祖父、安倍晋三元首相は伯父――。

父親の岸信夫・前防衛相を受け継いで4月の衆院山口2区補選への出馬を表明した岸信千世氏(31)。華麗なる政治家一族の御曹司は初っ端から、ご自慢の「家系」でつまずいた。公式サイトに岸家・安倍家の「家系図」を掲載したところ世襲への批判がネット上で噴出し、「家系図削除」に追い込まれたのだ。

公式サイトのドメインも父親のサイトを引き継いでいたことまで発覚して「地盤(選挙区)、看板(名前)、鞄(資金)ばかりか掲示板(サイト)まで受け継ぐ丸抱え世襲政治家」のイメージを自ら撒き散らしてしまったのである。

家系図とともに掲載したプロフィールも不評だった。慶應義塾大学商学部→フジテレビ→防衛大臣秘書官。フジテレビ入社は安倍政権下の2014年。安倍首相(当時)とフジテレビの日枝久会長は親密な関係だったため、当時も「コネ入社では?」と臆測を呼んだ。テレビ業界で政治家の子女を探すのはさほど難しくはない。

テレビ局から政界入りする世襲議員も少なくない。小渕恵三元首相の娘である小渕優子元経産相はTBS出身、石原慎太郎元東京都知事の息子である石原伸晃元環境相は日本テレビ出身、鈴木宗男元北海道開発庁長官の娘である鈴木貴子衆院議員(自民)、片山虎之助元総務相の息子である片山大介参院議員(維新)、山岡賢次元国家公安委員長の息子である山岡達丸衆院議員(立憲民主)はいずれもNHK出身だ。フジテレビから政界入りをめざす岸信千世氏は世襲政治家の「王道」といえるだろう。

■2人は自民党の愚かな世襲政治のシンボルになった

家系図を掲載したタイミングも悪かった。折しも政界では岸田文雄首相が長男翔太郎氏を31歳で首相秘書官(政務)に抜擢し、「縁故人事」「公私混同」と批判を浴びていた。

その後、翔太郎氏がフジテレビの女性記者に官邸の内部情報をリークしたという疑惑報道が続き、年明けには翔太郎氏が父親の欧米5カ国訪問に同行してパリやロンドンで公用車に乗って観光地や高級デパートを巡っていたことが週刊誌報道で発覚。世襲政治に対する世論の怒りが過熱したところで、岸信千世氏の家系図問題が後を追うように勃発したのである。

「翔太郎氏の脇が甘いのは、縁故人事への批判が高まっている最中にパリやロンドンで観光地巡りをしてしまったこと。ふつうなら『今は狙われているから揚げ足をとられないよう十分に気を付けよう』と考えるでしょう。同世代の信千世氏も同じ。世襲批判が高まっている最中に家系図を得意げに掲げてしまう。世間の目に対する感覚があまりに鈍い」(自民党議員秘書)

首相官邸に入る岸田文雄首相(手前)。左奥は長男で首相秘書官の翔太郎氏。右奥は首相秘書官の荒井勝喜氏=2023年1月16日、東京・永田町
写真=時事通信フォト
首相官邸に入る岸田文雄首相(手前)。左奥は長男で首相秘書官の翔太郎氏。右奥は首相秘書官の荒井勝喜氏=2023年1月16日、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

ふたりは1991年生まれ、慶大卒の政治名門4世。ともに31歳で「政界デビュー」を飾り、いきなりずっこけた。自民党の愚かな世襲政治のシンボルになってしまったのである。

■歴代首相は、菅氏をのぞいて世襲ばかり…

小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、岸田文雄。今世紀に入って首相に就任した自民党の6人のうち、菅義偉氏をのぞく5氏はいずれも世襲議員だ。

その菅氏も総務相時代、バンドマンで無職の長男を大臣秘書官に起用して総務官僚に近づかせた。長男はその後、総務省が所管する衛星放送業界に転じて総務官僚を高額接待していたことが発覚している。

自民党を巣食う縁故体質は今に始まったことではない。岸田内閣の重要閣僚である林芳正外相も、鈴木俊一財務相も、加藤勝信厚生労働相も、松本剛明総務相も、浜田靖一防衛相も、世襲である。自民党はまさに「世襲大国」といってよい。

ポスト岸田候補で一番人気の河野太郎デジタル担当相も世襲である。祖父・河野一郎氏はタカ派で知られ、1955年の自民党結党に参画。大派閥・河野派を率いて首相を目指したが67歳で急死した。

父・河野洋平氏は逆にハト派で、若くして自民党を離党して新自由クラブを結成。自民党復帰後は宏池会(現岸田派)に加わり、宮沢内閣の官房長官として慰安婦の強制性を認めて謝罪する「河野談話」を発表した。野党・自民党の総裁に就任したものの、首相になることはできなかった。

■なぜ庶民感覚の分からない政治家が増え続けるのか

父よりも祖父に近いタカ派と言われる河野太郎氏が自民党総裁選に出馬した2021年、84歳の洋平氏は父親として居ても立ってもおられず、参院のドンと言われた青木幹雄元官房長官の事務所を訪れ息子の支持拡大に協力を求めた。

政治信条よりも河野家3代の悲願である「首相の座」への執着をのぞかせたのである。政治家一族にとって「政治は家業」であることを印象づけたのだ。

世襲でも実力があれば問題はない、むしろ世襲のほうが選挙に追われることなく政策に集中できる、強引な資金集めの必要もなくクリーンだ……そのような世襲擁護論は政界に根強い。業界団体や支持者にとっても、地盤、看板、鞄を生まれながらに備え、選挙に強い世襲政治家の存在は利益になる。政権与党であり続ける自民党議員であればなおさらだ。こうした硬直的な関係性が、世襲政治家が増え続ける根本的な原因だろう。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

もちろん世襲を全否定する必要はないかもしれない。しかし3世4世となると庶民感覚からかけ離れた所作が目立ってくる。これは民主政治のシステムを蝕む大問題だ。

岸田首相がパリ・ロンドンで公用車に乗って観光地巡りした息子を「首相秘書官としての公務」としてかばう一方、官邸記者団へのオフレコ取材で差別発言をした経産省出身の首相秘書官を即刻更迭した「ダブルスタンダード」に衝撃を受けた人は少なくないだろう。

露骨な「身内びいき」を目の当たりにして首相を支える官邸チームの士気は大きく低下したに違いない。世襲によるモラルハザードは岸田政権下でも着実に進んでいる。

■岸田首相にマイノリティーの苦しみは分からない

岸田首相は「(同性婚を認めると)社会が変わってしまう」と発言して批判を浴びると、今度は衆院予算委員会で「私自身、ニューヨークでの小学校時代にマイノリティーとして過ごした経験がある」と発言し、少数者に理解のある首相を演出してみせた。

岸田首相は小学1~3年生時代、エリート通産官僚の父親(のちに衆院議員)の海外赴任に帯同してニューヨーク市のパブリックスクールに通学している。この際に日本人というマイノリティーとして差別を体験したことをアピールしたかったようだ。

しかしこの国会答弁を伝えるテレビ報道には、蝶ネクタイをして白人の子どもたちと一緒に集合写真に収まるニューヨーク時代の岸田少年が映し出されていた。この写真には「岸田文雄事務所提供」のクレジットがある。

首相のアピールを下支えする効果を期待して提供したのかもしれないが、海外赴任が極めて珍しい時代の政治名門一家の御曹司にしかみえない。マイノリティーの苦しみに共感できる政治家なのかという疑問さえ浮かんでしまう。はっきりいって逆効果だった。少年時代のニューヨーク暮らしが大衆にどう受け止められるかという感性が欠如しているとしか思えない。

■「世襲政治」に野党の追及が甘いワケ

岸田首相は就任当初、アベノミクスで拡大した貧富の格差を是正する分配政策を進める「新しい資本主義」を打ち出したが、いつのまにか「分配」よりも「投資」の重要性を説くようになった。

昨年暮れからは米国から敵基地攻撃能力を持つトマホークを大量購入して防衛力を抜本強化することに「歴史的役割」を見いだし、その財源を確保するための増税を掲げている。当初の「新しい資本主義」は口先だけだったのか。岸田父子の言動は「世襲政治家に庶民の気持ちは理解できない」という主張に説得力を与えているように見える。

世襲政治家は代々続く強力な選挙地盤だけでなく、政治団体を受け継ぐことで相続税を逃れて政治資金を引き継ぐこともできると指摘される。「親の七光」で政界入りが相次ぐ世襲政治で活力を失った自民党を激しく攻め立てて取って代わるのが野党第一党の役割なのだが、どうも立憲民主党の腰が定まらない。

1996年に誕生した民主党は当初、小選挙区・二大政党制の下で政権交代を目指し、自民党の世襲政治を厳しく攻撃した。この背景には、エリート官僚や弁護士、松下政経塾出身の政治家志望者たちが衆院小選挙区から出馬するため、世襲を中心に選挙区が埋まっている自民党ではなく、候補者が足りない民主党を選択したという事情がある。

選挙ポスター掲示板
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■決別を公約にして政権交代を果たしたが…

前原誠司、枝野幸男、野田佳彦、細野豪志の各氏ら民主党ホープをはじめ非世襲の若手議員たちは自らの庶民性をアピールし、自民党の世襲政治と対比させた。菅直人氏の長男源太郎氏が2003年と05年の衆院選で父親の選挙区のある東京ではなく岡山1区から出馬したのは、世襲に厳しい党内世論を踏まえたものだった。

民主党は親と同じ選挙区から出馬することを禁じて世襲政治と決別する姿勢を鮮明にし、2009年に政権を奪取したのである。

この原則が崩れたのは、立憲民主党が旗揚げした2017年以降である。同党の羽田雄一郎参院議員の死去に伴う21年4月の参院長野補選に、立憲は弟の羽田次郎氏を公認して当選させた。枝野代表は「世襲だからと機械的に否定するのは硬直的だ」と明言。衆院北海道3区の荒井聡元国家戦略相の後継に長男を擁立する際には「荒井氏のご子息であることとは別に個人としてさまざまな実績がある」と強調した。

■既得権益を擁護する守旧派になった証し

野党から世襲批判が聞こえなくなったのは、かつて民主党の若手論客として頭角を現した議員の多くが50~60代のベテランとなり、自分の子息らへの世襲を内心で考え始めたことが要因ではないかと私はみている。

立憲民主党が世襲批判から容認へ転じたことは、党を率いる幹部たちが与党経験を経て、政治キャリアを蓄積するなかで、「政権打倒をめざす挑戦者」から「既得権益を擁護する守旧派」へ変節したことを象徴する事象ではなかろうか。「身を切る改革」を掲げる新興勢力の維新に野党第一党の座を脅かされているのも、新陳代謝の進まない立憲民主党の実情を有権者に見透かされているからだろう。

立憲民主党はなぜ、岸田首相の衆院広島1区を受け継ぐことが確実視されている翔太郎氏や、山口2区補選に出馬する岸信千世氏に対して痛烈な「世襲批判」を浴びせないのだろうか。これほど世論に響く自民党批判の材料はない。

自分たちがいずれ実行するかもしれない「世襲」へのブーメランを恐れて批判を手控えているとしたら、有権者への背信行為にほかならない。立憲民主党の政権批判が迫力を欠くのは当然だ。

■世襲論争が「ポスト岸田」を左右する

自民党を長年支配してきた最大派閥・平成研究会(旧経世会)支配を壊した小泉政権時代(2001~06年)にポスト小泉レースを競った「麻垣康三」(麻生太郎、谷垣禎一、福田康夫、安倍晋三の4氏)はいずれも世襲議員だった。

約20年の時が流れ、政治家3世の岸田首相の後継には、同じく3世の河野氏のほか、茂木敏充幹事長や萩生田光一政調会長、首相再登板をめざす菅氏ら非世襲議員の名も上がっている。

岸信千世氏が衆院山口2区補選に出馬する一方、安倍元首相の死去に伴う山口4区補選への出馬を妻昭恵氏が固辞して安倍家の地盤継承が途切れたことも、相反する政治事象として興味深い。

岸田翔太郎氏や岸信千世氏への風当たりの強さは、日本政界の世襲全盛期の終焉(しゅうえん)を意味しているのか、それとも一過性の現象なのか。世襲論争の行方はポスト岸田レースの行方にも影響を与えることだろう。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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