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興収100億超『スラダン』主人公に学ぶ、絶体絶命の場面でメンタルを瞬間強化する"目の使い方"

プレジデントオンライン / 2023年2月23日 11時15分

映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式ホームページより

劇場版アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』の快進撃が止まらない。原作者で監督・脚本も兼ねる井上雄彦氏の演出が高く評価され、2月上旬に興収100億円を超えた。スポーツライターの酒井政人さんは「泣かせるストーリーも秀逸ですが、主人公が試合の窮地で繰り出した“クワイエットアイ”のようなルーティンは多くの一流選手がしているメンタルの強化術で、ビジネスパーソンにも役立つ」という――。

■泣かせる大ヒット映画『スラダン』は集中ノウハウ満載

現在公開中の劇場版アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』(以下、スラダン)の快進撃が止まらない。67日間で興行収入が100億円を突破。1990年代に大ヒットした井上雄彦の名作が20年のときを超えて大ブレイクしている。

46歳の筆者は小学生の子供を連れて観に行ったが、感動しすぎて「なんで泣いている?」と呆れられてしまうほどダーダー泣いてしまった。バスケ部だったわけではない。しかし、スポーツに青春を費やした者として、スラダンのアニメをほぼリアルタイムで観ていた者として、胸熱シーンがいくつも登場したからだ。

『スラダン』の“主人公”は宮城リョータ。耳のピアスがまぶしい、主人公たち部員が属する無名校の湘北高校のポイントガードだ。身長168cmの2年生は、小柄だがスピードが持ち味で、度胸とふてぶてしさを持ち合わせている。

一方で気弱な面もある。王者・山王工業高校にビビったリョータがひとりでランニングしていたときに、マネージャーの彩子が「つらくなったときは手のひらを見よう」と決めた。

インターハイの山王工戦は、絶対王者の鉄壁のゾーンプレス(守備戦略)に湘北は攻撃の糸口をつかめずにいた。どれだけ攻めても、相手にボールを奪われる。その繰り返しに、選手たちはプライドを引き裂かれ、意気消沈していく。

タイムアウトをとる湘北。安西監督は「切り込み隊長」であるリョータにフロントへのボール運びを託した。コートに戻ったリョータは彩子が手のひらに書いた「No.1ガード」の文字を見て、自信と落ち着きを取り戻す。リョータの再躍進もあり、ほどなくして湘北が反撃を開始していくことになる。

■恋愛パワーだけでなく、クワイエットアイの効果も

リョータの“行動”は彩子との恋愛エピソードだけでなく、アスリートが活躍するのに大切なヒントが隠されている。特定の1点を集中して見るという動きは、「クワイエットアイ(視線固定)」と呼ばれるもので、近年のスポーツ科学でも意識の処理や注意散漫への対処法として注目されている理にかなったアクションなのだ。

あるベテランのメンタルトレーナーはこう解説する。

「クワイエットアイはプレーを開始する前に1点を注視する方法です。心を落ち着かせるのに有効で、集中力が飛躍的にアップします。具体的には、バスケットボールのフリースロー前に(距離4.225m、高さ305cm、内径45cmの)リングを注視する、という例を想像してもらえれば分かりやすいかもしれません。バスケのフリースローにおいて、クワイエットアイの時間が短いと成功率が下がるという研究結果があり、プレッシャーがかかる場面になるとクワイエットアイの時間がより短くなることも報告されています」

リョータの場合は手のひらを見つめただけでなく、そこには大好きな彩子がマジックペンで書いた文字があったことがさらに大きな効果をもたらしたと想像できる。

バスケットボール選手
写真=iStock.com/skynesher
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skynesher

普段の生活で、人間は意識せずに1点を見つめている時間はわずか0.2秒程度だという。文字がなければ、クワイエットアイの時間は短くなった可能性が高い。このときリョータが深呼吸をしていれば、それだけでストレスを低下させ、気持ちを落ち着かせるのに役立っていただろう。

さらにリョータは「No.1ガード」の文字を見て、ポジティブな思考になれたはずだ。人は「失敗してはいけない」と考えるときほど、緊張してうまくいかなくなるもの。その状態にハマっていたリョータが覚醒。冷静さを取り戻し、広い視野で仲間の動きが見られるようになり、パスがつながっていくことになる。

■イチローのカレーにも深い意味がある

クワイエットアイでいうと、日米のプロ野球で伝説を作ったイチローさんも打席時で実践していたと思われる。

イチローさんは打席に入ると、後傾気味に重心を取り、右手でバットを垂直に伸ばして、左手を右上腕部に添える。そして眼の焦点をスコアボードに合わせた後、バットにも合わせていた。これらの動作はルーティン化しており、いつも通りの動きを行うことで、精神を落ち着かせ、集中力を高めるメリットや効果があるのだ。

なおルーティンを構築するには、“ファイブステップ・アプローチ”という5つの段階を踏むことが提唱されている。

まずは心身の状態を整える「準備」をしながら一定の動作を行う①。同時にプレーが成功する「イメージ」を高めていく②。次にターゲットに向けて、「1点を見つめて集中」③。ターゲットへの意識を保ちながら「静かな心で実行」④。プレーの後には、パフォーマンスの「評価」を行い、今後のプレーに生かしていく⑤のだ。

昨年、イチローさん率いるチームが高校野球女子選抜とエキシビションマッチを開催した。試合終了後、イチローさんがおこなった女子選手全員を前に約55分間にわたる“講義”が話題になった。なかでも注目を浴びたのが、メジャー時代の朝食に食べていた弓子夫人のお手製のカレーライスに関することだ。

「信じたことを続けられる能力はある」というイチローさん。ビジターのときはハンバーガーなどを食べていたというが、ホームゲームでは噂のカレーライスをほぼ食べていたという。

カレーライス
写真=iStock.com/yukimco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yukimco

「縁起担ぎみたいなものだけど、正解か不正解か、答えにたどりつくまで続けてみないとわからない。それに同じものを毎日食べ続けていると、わずかな違いに気付くようになる。同じメニューなのに味が違う、作っている人が違うのかなというくらい。わずかな違いに気付ける感覚を持ってほしい。(野球を)うまくなろうと思ったら、それはすごく大事。ずっと同じことをできるのは僕のとりえではある」

打者として3度の三冠王になった落合博満さんも中日監督時代に“定点観測”を大切にしていた。同じ場所から、同じ選手を毎日見ることで、選手の状態を見極めていたという。

日々、同じ行為をやり続けることに加えて、どこが違うのか。しっかりと観察することで、スキルの上達につながっていく。

■シンプルな思考はエレガントさにつながる

人生は決断の連続だ。朝起きて、夜眠るまで、いくつもの選択をしなければいけない。だからこそ、集中すべきものがあるときは「考え事を少なくする」ことが有効になる。余計なエネルギーを使わないで済むからだ。また日々の行動をルーティン化することで、集中力を高めることができる。

アップル社のCEOを務めていたスティーブ・ジョブズは三宅一生がデザインした黒のモックタートルネックとリーバイスのジーンズ、ニューバランスのスニーカーを愛用していたのはあまりにも有名な話だろう。服装選びという朝の決断を省略することで、仕事に集中するためだといわれている。

黒いタートルネックを身に着けている自信に満ちたシニア
写真=iStock.com/izusek
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/izusek

ジョブスの服装はシンプルでありながら、こだわりが感じられる、非常にクールなスタイルだ。アップル製品の上品な美しさと実用性を自ら表現しているようだった。イチローさんも非常にエレガントな野球選手だった。物事はシンプルに深く考えた方がいいということなのかもしれない。

野球選手でいえば、イチローさんと同じく日米で活躍した松井秀喜さんは、「自分にコントロールできないことは、いっさい考えない。自分にできることだけに集中するだけです」と語っているが、イチローさんも同じ趣旨の言葉を残している。

また有森裕子、高橋尚子ら女子マラソンの五輪メダリストを育てた名伯楽・小出義雄さんも、「ほかの人と比較するんじゃなくて、自分がいまよりも強くなることだけを考えなさい」という指導スタイルだった。

周囲に惑わされることなく、日常生活の一部をルーティン化するなど、シンプルな思考を持つことで、より洗練された人生を過ごせれば、スポーツでも仕事でもパフォーマンスが上がるに違いない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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