7年連続"理想の上司"ウッチャン系上司は「会社にはいないし、出世できない」企業人事部が超辛口なワケ
プレジデントオンライン / 2023年2月24日 11時15分
■会社に「ウッチャン上司」は実在するのか?
企業では新入社員の受け入れ準備が佳境に入っている頃だが、そんな折、4月に新入社員になる人(1100人)に聞いた「理想の上司」のアンケート調査結果が発表された(明治安田生命、2月)。
理想の男性上司のナンバー1は、ウッチャンことタレントの内村光良さん、2位が俳優の桜井翔さん。理想の女性上司ナンバー1は日本テレビアナウンサーの水ト麻美さん、2位は昨年も2位の俳優の天海祐希さんだった。ウッチャンと水卜アナはいずれも7年連続1位で、盤石の存在だ。
なぜ、ウッチャンが理想の上司のトップに選ばれたのか。
その理由で最も多かったのは「親しみやすい」で52.5%、2番目が「優しい」(20.2%)、3番目が「頼もしい」(13.1%)だった。新入社員は親しみやすくて優しい像を求めていることがわかる。
実は第2位にランクした桜井翔さんを選んだ理由は少し異なる。「頼もしい」(22.4%)という点では共通しているが、最も多い理由は「知性的・スマート」(46.6%)、3番目が「実力がある」(12.1%)だった。
その傾向は理想の女性上司でも同じだ。トップの水トアナを選んだ理由のベスト3は「親しみやすい」(43.2%)、「優しい」(16.1%)、「明るい」(14.8%)。2位の天海祐希さんを選んだベスト3は「頼もしい」「姉御(肌)」「知性的・スマート」だった。
新入社員の理想の男性・女性上司像は、「親しみやすく、優しい上司」を求める傾向がある一方で、「知性的・スマート」かつ「実力がある」上司も人気があることがうかがえる。優しい上司を求める一方で、自分が目指したい社会人として「知性派で実力のある」ロールモデルを求めていると見るとこもできる。
実は今どきの新入社員といえば、いわゆるZ世代と呼ばれる人たちだ。1996年以降に生まれた人たちで、大卒であれば2019年から新入社員として働き始めている。そのZ世代が仕事で理想とする上司も「親しみやすく、優しい上司」とほぼ共通しているのだ。
別の調査でもそれは一致している。
■Z世代は「丁寧で優しい上司」を求めている
日本能率協会が実施した「2022年度新入社員意識調査」によると、「理想的だと思う上司・先輩」で最も多かったのは「仕事について丁寧な指導をする上司・先輩」で、71.7%となっている。
興味深いのは、2012年は52.4%にすぎなかったが、2020年は59.3%に上昇し、22年はほとんどの新入社員が丁寧な指導をする“優しい”上司を求めていることだ。おそらくウッチャンを選んだ今年の新入社員も同じ傾向だろう。
Z世代が丁寧で優しい上司を求めるのがよくわかると語るのは広告関連業の人事課長だ。
「最近の新入社員は基本的には良い子が多い。性格的にはガツガツしていないし、さりとておとなしいわけでもなく、あえて言えば言動にソツがない。教科書通りにやることはすごく得意だし、ある意味で優秀だと思うが、ただし共通するのは、失敗を恐れる優等生という感じだ。先輩や上司がちゃんと教えてくれないことに不満を抱え、教えてもらっていないことをやることを極端に嫌がる傾向が。何かミスをして叱っても『教えてもらっていませんから』と平気で言う。それでいて相手の懐に飛び込んで、教えを請うのが苦手だ。へりくだって教えてくださいと言うのが嫌だし、教えてくれないのも嫌なんです」
前出の日本能率協会の調査では「仕事をしていく上での抵抗のある仕事」は何かについて聞いている。最も多かったのは「上司や先輩からの指示が曖昧でも、質問をしないで、とりあえず作業を進める」ことに抵抗があると回答した人が40.9%、どちらかといえば抵抗があると答えた人を含めると、82.7%に上る。
Z世代の気質に近いといえる。ソツがなく教えられた仕事は忠実にこなすのだが、教え方や指示が曖昧なことに強い抵抗感を持っている。
もう一つ興味深いのは、同調査で「場合によっては叱ってくれる上司・先輩」や「仕事の結果に対する情熱を持っている上司・先輩」の人気が年々低下していることだ。
叱ってくれる上司を理想とする人は、2012年に33.7%いたが、22年は17.6%に激減している。仕事の結果に情熱を持っている上司も12年の34.1%から22年の9.5%へと急降下している。
過去の有名人の男性の人気上司を見ると、2013年のベスト2は池上彰、阿部寛、14年はイチロー、池上彰、15~16年は松岡修造が登場し、池上彰と1~2位に入っている。テレビ番組でのわかりやすいニュース解説で知られる池上彰さんは、知性・実力派と思われる。
先の調査と一概に比較はできないが、俳優の阿部寛さんは、役柄のイメージもあり「場合によっては叱ってくれる上司」に映っているかもしれない。
また、アスリートのイチローさんや松岡修造さんは「仕事の結果に情熱を持っている上司」であるのは間違いなく、「場合によっては叱ってくれる上司」でもあるだろう。
そうすると、Z世代の新入社員はイチローさんや松岡修造さんタイプの上司は、ちょっと苦手という感覚を持っているということになる。
■企業人事部…ウッチャン型上司「実際のところは…」
では、新入社員が理想とする「丁寧でやさしく指導してくれる上司」はリアルなビジネスの現場にいるのか。建設会社の人事課長は、「実際には少ない」と語る。
「丁寧で優しく指導してくれる上司の最大の特徴は、何より聞き上手であること。じっくり話を聞き、与えた仕事が本人のキャリアのために必要であることをわかりやすく丁寧に説明し、目指すべきゴールを設定してあげる。たとえば『今はムダな仕事だと思っているかもしれないが、いずれきっと役に立つから』、あるいは『今は大変かもしれないが、だからこそ君にやらせるんだ』と、本人の意欲を奮い立たせるのが非常にうまい人だ。ただし、言葉で言えば簡単だが、それを実行できる管理職は少ない」
しかもこうした人を育てるスキルは研修で身に付くものではないとも言う。人事課長は「コミュニケーションがうまいだけではなく、人に対する思いやりとか、何とか助けてやりたいという、その人の人間性からにじみ出てくる要素が大きい」と語る。
実際にウッチャンができるかどうかは別にして、ウッチャンタイプの上司は少ないという。
では、ウッチャンタイプの上司は新入社員には優しくても、会社で出世できるタイプなのか。前出の広告関連業の人事課長は「現実には難しい」と語る。
「出世するには人間関係は大事だが、部下よりも、むしろ上の上司と、横の取引先との信頼関係を築いている人が出世している。若い時から上との人間関係づくりを一生懸命にやり、上から自分にとって不可欠な部下という信頼関係ができると、上に引き上げられるケースが多い。単に部下に優しいだけで出世することはありえない」
もちろん、部下にやさしいだけではなく、仕事の結果も残さないと出世することはない。
ただし、最近は一部企業で部下のマネジメントがうまい人も評価されるようになってきている。前出の建設会社の人事課長は語る。
「最近は部下を育てるのがうまく、部下の背中を押して前向きに仕事をさせるような人が管理職として能力が高いという評価に変わってきている。もちろん、その結果、部下一人ひとりが成果を出し、課全体の業績が上がることは必須だ」
新入社員に優しく指導できるだけではなく、仕事への情熱を持ち、結果を出せる実力のある上司でなければ昇進することはない。
今年の新入社員を受け入れる企業は、ウッチャン型の丁寧で優しさが売りの上司だけではなく、場合によっては叱ってくれる仕事に対する熱量の高い上司もカッコイイのだという魅力をいかに伝えていけるのか、問われることになる。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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