1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

出生数の稼ぎ頭=地方の非エリート非正規女子をほぼ無視…少子化対策で東京の高学歴女子ばかり利する愚

プレジデントオンライン / 2023年2月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

少子化に歯止めがかからないのはなぜか。自らも非正規雇用者であり、地方病院で働く機会も多い麻酔科医の筒井冨美さんは「日本政府は多くの女性支援策を提供し少子化対策をしているが、その対象は東京を含む都市圏で働く四大卒のホワイトカラーの女性向けに偏っている。“出生数の稼ぎ頭”である地方在住の女性、例えば非大卒・非正規を中心としたエッセンシャルワーク職などの女性支援をもっと手厚くするべきだ」という――。

■岸田首相「育休リスキリング」炎上の火種 

岸田文雄首相の「育休リスキリング」発言が炎上した発端は、1月の参院代表質問にあった。

同じ自民党の大家敏志議員が「産休・育休の期間に、リスキリングによって一定のスキルを身に付けたり、学位を取ったりする方々を支援できれば、キャリアアップが可能」と述べた。これに対して、岸田首相が「育児中などさまざまな状況にあっても、主体的に学びなおしに取り組む方を後押ししていく」と応じた。

SNS上では「育休中は休んでいるわけではない」「乳幼児の育児をナメている」「育児は妻に丸投げだった男の発想」と批判的な意見が殺到して、たちまち炎上した。

本騒動について、人気ブロガーのトイアンナ氏は「私の周りで何人か育休中にUSCPA(米国公認会計士)やMBA取った人いるけど、いずれも体力お化け並み&お子さんが大人しい子だった事例」とTwitterで批判していた。

また、元リクルートでベンチャー企業女性役員が「私はリクルートに9年いたけれど、そのうち2年3カ月育休産休、4年時短勤務で、(中略)私がリーダーにすらなれない間、同期は部長や役員になっていった」とTwitterで発信し、SNSで議論を呼んだ。

ちなみに、両名とも慶応義塾大学の卒業生である。

岸田首相や大家議員の「育休リスキリング」発言には私も大いに疑問を持ったが、それ以上に慶應卒キャリア組女性2人の意見にも違和感を覚えた。「日本政府があまたの女性支援策を提供しているのにもかかわらず、少子化に歯止めがかからない」理由のひとつ、それはこうした主張がいささか幅を利かせすぎているからではないかと考えるからだ。

■女性の過半数は非大卒/非東京/非正規

日本の大学進学率は上昇している。特に女性は1984年の12.7%が2021年には51.3%に達したが、地域差も大きく、2021年調査で「東京74.1%、鹿児島34.6%」という倍以上の格差が残っている。

鹿児島など女子の四大進学率が低い県では、「女子は四大ではなく、短大や専門学校進学率が進み、看護、保育、医療技術系など手に職がつく専攻が人気」と説明されている。入社試験に四大卒が必須とされるようなホワイトカラー職は東京に集中しているので、就職や資格に直結して早く働ける短大や専門学校への進学は、地方女子高生にとって今なおフツーの進路である。

また、地方には終身雇用・年功序列が保証された職の絶対数は少なく、数少ない公務員・地銀などの安定職は男性優先になりがちだ。女性が結婚や出産で新卒時の職を退いた後は、契約社員・パートでの再就職か自営業となるケースが多い。職種でいえば「食品工場」「介護士」「夫婦で工務店」など、東京の高学歴“キラキラ”女性にとっては視野にすら入らないエッセンシャルワーカー職が大部分である。

「育休中リスキリング」を発案したのも、おそらくは高学歴のエリート女性官僚かもしれない。それはいいのだが、日本の現役世代(20~65歳)の女性の過半数は非四大卒であり、日本人の大部分は地方住民でもある。

地方のエッセンシャルワーカーにとっては、「育休中の学び? 学位? それで私の給料上がると思えないんだけど」「2年も休んだら店が潰れる」とズッコケたのが本心ではないか。

トイアンナ氏が例示したMBAやUSCPAも履歴書にぜひ書き入れたい肩書になるだろうが、東京都内であっても学位や資格を活用できる職が多数あるとは思えない。地方ならばほとんど無意味だろう。

元リクルート女性社員は「同期男性ほど出世できなかった」と元職場を腐していたが、そもそも地方には「育休2回取得して、その後の時短も取得できる大手民間企業」というのが極めて少ない。よって、SNSではこの女性の意見に同情したり賛同したりする人がいる一方で、「超絶ホワイト」「6年3カ月もサポートできるリクルートすごい」といったコメントも少なくなかった。

ジャケットを着用し、通りを歩くビジネスウーマン
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

■レディース健診から垣間見える東京/地方の格差

私は麻酔科の医師だが、しばしば追加で予防接種や健康診断を依頼されることがある。レディース健診のデータをチェックしていると、同世代女性でも職種や地域によって出生率に大差があることを実感する。

例えば、群馬県の食品工場だと100人中「子供ゼロ5名、1人20名、2人50名、3人20名、4人以上5名」のような分布なのが、東京都内の有名企業だと「子供ゼロ50名、1名40名、2人10名、3人以上ゼロ名」のような体感値である。都道府県別の出生率でも「平均年収トップの東京都が出生率最低(2020年=1.13)」「年収最下位の沖縄県が出生率最高(同=1.86)」と格差が生じているが、それを目の当たりにした印象だ。

結局のところ、日本の出生数を稼いでいるのは、地方の非エリート非正規女性なのである。しかしながら、彼女らの声が各種メディアに積極的に取り上げられるチャンスは少ない。

陽だまりの中であかちゃんと楽しい時間を過ごす母親
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

■インフルエンサーだが少数派の東京エリート女性

一方、数の上では少ないが影響力が大きいのが東京のエリート女性である。政府の女性支援○○会議などに参考人として呼ばれるのは、「東京在住、有名大卒、さらに大学院や留学、公務員・大企業正社員・大学教官」などが典型例である。

言動を見る限り、彼女たちの視界には地方の非正規女性の存在はない。その主張内容は、正社員就職を前提に「育休延長を」「男性育休も」「時短取得しても給料や昇進を可能に」といったものである。

そして、育休・育児時短のような制度が自分の職場に普及すると、「女性管理職・女性役員・女性教授を増やせ」とアピールしていく。そのこと自体は間違っていない。ただ、「自らの立場をより有利にする」ことに腐心し、「地方や非正規女性にも育休延長などの制度を広げる」ということには思いがいたらないタイプが多いように感じる。

■正社員前提とした女性支援が多すぎる

日本の代表的な女性支援制度を正社員・非正社員(派遣社員・契約社員)・自営業別に図表1にまとめてみた。

【図表】代表的な女性支援制度
筆者作成

正社員とそれ以外の格差が大きい。同じ日本国民なのに、出産前後の金銭的支援制度は正社員が圧倒的に多く、保活も有利である。社会保障費免除も正社員は最大2年間だが、自営業は4カ月で、5カ月目以降は保障費を払って育休正社員女性を支援する側に回らねばならない。近年では少子化対策との名目で「2人目保育料無料の認可保育園」が増えているが、そもそも1人目を認可園に入れられなかった非正規女性には意味のない制度である。

社会保障とは基本的には「恵まれた人→恵まれない人」への支援のはずだが、女性支援や子育て支援に関しては、「恵まれた正社員女性がさらに支援され、それを不安定雇用の非正規女性が支える」という格差拡大のような構図となりやすい。そして、「出生数を稼ぐ地方の非正規女性」を養分にして、「あまり生まない東京の正社員女性」を支援するシステムは、トータルでは少子化を加速するだろう。

妊娠中の女性と、その大きなおなかを触る手に手を重ねる夫
写真=iStock.com/Yue_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_

■体外受精保険適応のような全女性対象の政策が有効

2022年4月、菅義偉前政権の置き土産となった「高度不妊治療の保険適応拡大」が開始となった。東京都内の不妊治療専門クリニックでは新規患者が前年比1.3倍になり、経済的理由で体外受精を躊躇していたと思われる20~30代の若いカップルが増えているので、「高い妊娠率が期待できる」と新潟県の医師がインタビューに答えている。

また、この「体外受精の保険適応」は雇用形態や住所に関係なく日本中の女性をカバーする支援制度なので、少子化対策として期待できそうだ。

2013年には「少子化危機突破タスクフォース」として、男女各2名の産婦人科医を含んだ内閣府の会議があった。当時の議事録を確認すると「3歳になるまでは、男女とも育児休業可能に」「全上場企業において、役員に一人は女性を登用」のような、正社員前提でなおかつ「恵まれた女性がより恵まれる」的な提言が目立ち、残念ながら「体外受精の保険適応」については発言が全く無かった。

2013~22年の間、体外受精による出生数は年間3万~6万人で、年々増加傾向にある。2013年の会議で、4人の産婦人科医が「体外受精の保険適応」を強く主張し、2015年ごろから制度が始まっていれば、「患者数1.3倍」を参考にすれば、今頃は「10万人」レベルの出生数増加が期待できたかと思うと、非常に残念である。

日本の少子化は深刻化しており、その対策は待ったなしだが、非大卒/非東京/非正規女性を包括する制度を設けることが、真に有効な少子化政策への道となるだろう。

----------

筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

----------

(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください