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地元の仕事では「年収300万円の壁」を超えられない…結婚できない若者を生み出す「36道県」の残酷な現実

プレジデントオンライン / 2023年2月28日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Naoyuki Yamamoto

■政府の地方創生策は、本当に効果的なのか

「できもしないことを、さもみんなががんばればできるかのように扇動する」

ほんの80年前の太平洋戦争中に、「欲しがりません、勝つまでは」などの標語とともに、わずかな食糧の配給に我慢をし、さらには「本土決戦」「1億玉砕」などと煽り、竹槍の練習などをさせていたことがこの国の歴史にはあります。

一歩引いて冷静に判断すれば、竹槍で機関銃に対抗できるはずもなく、食べる物もなく飢えてしまえば、戦うどころの話ではない、とバカげた話だと思えますが、その当時、内心は多くがそう思っていたとしても、口に出せる空気ではありませんでした。

しかし、どうでしょう。

令和の現代においても、「できもしないことをさもできるかのように言い続ける」界隈というのが存在します。少子化対策や地方創生などがそれに当たります。少子化対策が的外れであることは、〈政府の対策は「ひとりで5人産め」というようなもの…人口減少の本質は少子化ではなく「少母化」である〉に書いたので、再度ご覧いただくとして、今回は「若者が地方からいなくなる問題」についてお話ししましょう。

■一時、「東京の人口流出」が騒がれたが…

コロナ禍において、一時期、しつこいくらいに「東京からの人口流出」報道がされていました。特に、各地方紙が元ネタとして使う共同通信の記事が多い。2021年7月から2022年2月にかけて、毎月統計が出るたびに「東京○カ月連続で流出」というタイトルで記事化していたものです。

が、これもそもそも論をいえば、東京からの人口流出などありませんでした。確かに7月から2月までは流出していたのでしょう。しかし、日本で人々が移動するのは3月と相場が決まっています。もっとも移動する3月以外の月だけ取り出して、鬼の首を獲ったように大騒ぎされても苦笑しかありません。事実、2022年3月以降、この「東京からの人口流出」記事はほぼ消滅しました。

すでに発表されている最新の2022年の人口移動報告年報にある通り、東京圏一極集中は変わっていません。それどころか、長い歴史でみても、東京圏から人口が流出した時期はオイルショック期とバブル崩壊期の2回のみで、それ以外はすべて東京圏流入の一極集中です。政府が地方創生担当大臣を設立したのは2015年ですが、もちろん、それ以降もまったく地方は創生されていません。

【図表1】大都市圏の転入超過数の推移(1954~2022年)
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2022年結果」より

■全国36道県が若者に見放されている

人口の転入超過はほぼ20代によって作られています。県をまたいで大きな移動をするのは、就職によって移動する20代の若者によってほぼ占められます。18歳での大学進学もありますが、圧倒的に20代の移動が多い。

各年の人口移動という観点だけではなく、出生地と25歳時点で住んでいる場所の違いという観点で統計を見てみましょう。国勢調査の2020年時点における25歳年齢の若者の居住地と、彼らが生まれた年の1995年の都道府県出生数とを比較することでわかります。各地元での出生数に対して、どれだけ人口の増減があったかをグラフ化したのが図表2です。

【図表2】生まれ故郷の出生数と25歳時点居住地増減率

一目瞭然ですが、東京だけがダントツで110%。つまり、東京で生まれた子の2倍以上が25歳時点で東京に集中していることを意味します。それだけではなく、出生人口より増えているのは、東京圏の埼玉、千葉、神奈川と近畿圏の京都、大阪、滋賀、さらに愛知、宮城、福岡、岡山の11都府県のみで、その他はすべてマイナスです。しかも、そのマイナス幅も、東北や中国四国、九州などでは30%以上の減少をしているところも目立ちます。要するに、これは、多くの生まれ故郷が若者に見放されているわけです。

■仕事がなければ、結婚することもできない

なぜ、これだけ多くの若者が東京圏などの都会に出て行ってしまうのか。決して親とうまくいっていないとか、田舎が嫌いだというものばかりではありません。

若者が都会へ流出するのはほぼ「仕事のある所へ移動する」からです。これは古今東西を問わず一緒です。逆にいえば、若者が出て行ってしまう地方というのは「仕事がない、稼げない所」ということになります。

そして、同時に「稼げない」ということは婚姻減にも少なからず影響を与えます。前掲した25歳時点での出生地からの人口移動率と2017年時点での就業構造基本調査から、25~34歳のいわゆるアラサー未婚男性の都道府県別年収中央値を計算し、それを相関図にプロットしてみたのが図表3です。バブルの大きさは2020年の都道府県別人口千対婚姻率の全国平均比で、白バブルは全国平均より婚姻率がマイナスであることを意味します。

【図表3】若者の人口移動と未婚男性年収中央値

こちらでわかる通り、人口の流入と年収とは密接に関係します。相関係数0.8021ですから、強い正の相関があります。つまり、若者たちは稼げる仕事を求めて、地方を飛び出していくのです。

■「300万の壁」を超えるには大都市に出るしかない

しかも、この若者の人口移動と婚姻率とも関係があります。婚姻率で全国平均を上回っているのは、東京、神奈川、大阪、愛知、福岡、沖縄のわずか6エリアしかない(滋賀と広島は全国平均と同じ)のですが、それら婚姻率が高いのは沖縄を除けば、ほぼ若者の人口流入の多いところばかりです。

男性の結婚には、「年収300万の壁」というものが存在します。これは、個人の年収が額面で300万円を超えないと結婚できないというものです。もちろん、例外もありますが、全国的な統計で分類すると、結婚適齢期である25~34歳の段階で年収300万円を超えるか超えないかで既婚率が大きく変わることも事実です。

25~34歳未婚男性において、その「年収300万の壁」を中央値で超えないエリアが、日本には47都道府県中27エリアもあります。実に6割以上です。中央値なので、半分が超えていないということになります。言い換えれば、結婚への必要条件たる300万以上を稼ごうと思うなら、東京や大阪などの大都市に出るしか、若者に残された道はないということでもあります。

ちなみに、婚姻率ではなく、婚姻実数で見てみると、若者が流入超過している11都府県の合計だけで、日本全体の婚姻数の57%を占めています。いかに、若者の人口流入と婚姻との関係性が強いかがわかるでしょう。

■若者が故郷を捨てて出ていく「隠れた理由」

とはいえ、国も自治体も何も手を打っていないわけではありません。

デジタル田園都市構想を掲げ、デジタルの力を活用した地方の課題解決のために「地方に仕事をつくる」「人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「魅力的な地域をつくる」という4つに重点を置いた取り組みをしているそうです。

しかし、「地方に仕事をつくる」と言うは易(やす)しですが、実現は相当難しいでしょう。大企業の大部分が大都市に集中しているからです。一時期、テレワークの活用とかが注目されましたが、「出社してよし」となればほとんどの若者が出社しています。大企業であればあるほどなおさらです。

なんのために多くの社員がいる大企業に入ったかといえば、そういう社内での人との直接的な交流を求めているからです。そして、それは決して、リモートワークなどというスクリーン越しの交流では生まれないことをこの3年でみんなが実感したことでもあります。

実は、そこにこそ、仕事だけではない「若者が地方を捨てて出て行ってしまう」隠れた理由があります。若者は人と出会いたいし、交流したいのです。その先には恋愛や結婚もありますが、それだけではありません。若い柔軟な時期に、自分の人生を大きく変える可能性があるのは、人との出会いでもあるからです。人が集まる場所にはそれが期待できますが、地方にはそもそも人がいない。

人通りの少ない住宅街
写真=iStock.com/Amenohi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Amenohi

■若者に我慢や犠牲を強いてはならない

だからこそ、地方では、恋愛や結婚する相手との出会いが絶望的にないという問題が起きます。そもそも未婚男女人口差はいびつで、2020年時点で430万人の未婚の男余りです。それは地方にいけばいくほど大きくなります。地方在住の未婚男性にとっては、結婚しようにもマッチングすべき相手がいないのだからどうしようもありません。

AIなどを活用した官製婚活などに取り組んでいる自治体もありますが、根本的にはそこでマッチングする対象者が存在しなければそもそも始まりません。

これは、少子化問題に対して、私が常々言っている「少子化ではなく少母化である」という指摘とも通じる話ですが、そもそも日本の若者人口はすでに減少しています。第3次ベビーブームが来なかった時点で、出生数は右肩下がりで、それはイコール子どもの数の減少であり、それは20年後の成人人口が減るということです。

現在ただでさえ絶対人口の少ない若者を、公金を使って金をバラまいてまでして、無理やり地方に閉じ込めるよりも、もっと広い世界で活躍できる環境を整えることのほうが重要なのではないでしょうか。

未来をつくるのは若者です。若者が自分の可能性を確かめるために出ていくことをむしろ応援してあげるべきだと思います。地方創生の名の下で、若者に我慢や犠牲を強いることがあってはならない。創生していくべきは、地方ではなく、若者の未来であってほしいものです。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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