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W杯でもコミケでも「理由なし」で必ず休める…会社員なら知っておきたい「有給休暇」の法律知識

プレジデントオンライン / 2023年3月28日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marcelmooij

2019年4月より、一定の労働者に対し、有給休暇を年5日間取得させることが義務付けられた。弁護士の小林航太さんは「年次有給休暇は理由なしにいつでも取得できるものだ。『この日は困る』などと言われても、会社側の主張をうのみにしないでほしい」という――。(第6回)

※本稿は、小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)の一部を加筆・再編集したものです。

●労働基準法 第39条(年次有給休暇)
1 使用者は、その雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、または分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。

2022年のサッカーW杯では、カタールまで観戦に行ったNTT東日本社員が上司へ「Thank you For MY 2 WEEK OFF!」(2週間の休暇ありがとう!)というメッセージを掲げたことが話題になりましたね。

報道によると、この社員は有給休暇を利用したとされています。

今回は、年度末までに取得を検討している人も多いであろう有給休暇について詳しく見ていきます。

■有給休暇は理由なくいつでも取得していい

年次有給休暇は、仕事を休んでも、その日分の給与が支払われる休暇のことです。

労働基準法上、使用者は、雇入れ日から6カ月継続して全労働日の8割以上の日数に出勤した労働者に対して10日間の有給休暇を付与しなければならず、その後も継続勤務年数に応じた日数分の有給休暇の付与が義務付けられています。使用者の判断によって規定以上に有給休暇を与えてもかまいません。

また、要件さえ満たしていれば、有給休暇は正社員だけではなくパートタイマーやアルバイト職員にも認められるものです。

有給休暇を取得する日は、労働者が指定できます。雇用主はその指定された日に有給休暇を与えなければならないのが原則です。

労働基準法上、有給休暇の理由は有給取得の要件とはされていませんから、有給休暇の取得にあたって理由を言う必要はなく、「私用のため」で問題ありません。また、理由によって有給休暇の取得を認めないということもできません。

【Q1】コミケに行くために有給申請した上司に理由を聞かれ、しぶしぶ答えたら、「そんなもののために休むのは認めん!」と断られました。

【A1】有給休暇の理由を言う必要はありません。また、理由を聞くこと自体は明確に違法とは言いがたいですが、執拗(しつよう)に理由を聞くなどすると、ハラスメントにあたる可能性もあります。「コミケのため」と言いにくいがために、「実家に帰る」と嘘をついても問題ありません。たとえば、就業規則に「労働者が有給休暇を取得する理由を告げない場合、有給休暇を取得できない」という規定があっても、労働基準法違反で無効です。

■雇用主側が持つ「時季変更権」

労働者は自分で有給取得の時季を決められるのが原則ですが、一方で雇用主側にも経営上の都合があります。指定された時季に有給休暇を与えることが、事業の正常な運営を妨げる場合においては、取得する時季を変えてもらうことができることになっています。これを「時季変更権」と言います。

どうしてもその人がいなければならない理由があること、さらに代替要員の確保が困難であることが条件です。単に忙しい、人手が足りないというのは理由になりません。

時季変更権が行使された場合、取得しなおす日程は労働者側が決められます。代替要員の確保は、雇用主が行う必要があります。雇用主が代替要員の調整をまったくしていなければ、時季変更権の行使は認められません。

【Q2】すでに有給休暇を使い切ってしまっています。しかし、どうしても行きたいイベントがあります。会社には忌引のための慶弔休暇が認められているので、それを使いましたが、バレたらどうなりますか?

【A2】慶弔休暇などは、その目的のためにだけ与えられる特別な休暇です。それを虚偽の理由で取得した場合、有給休暇取得の理由として嘘の理由を述べた場合と異なり、就業規則上の懲戒処分の対象になる可能性があります。

■2019年から年5日の有給取得が義務化

2019年4月から、一定の労働者に対しては、年に5日間の年次有給休暇を取得させることが使用者の義務となりました。罰則も定められており、使用者がこの義務に反して5日間の有給休暇を取得させなかった場合には、30万円以下の罰金が科されます。

対象となる労働者は、有給休暇が10日以上付与される労働者です。使用者は、労働者ごとに、有給休暇を付与した日(これを基準日といいます)から1年以内に、5日の有給休暇を必ず取得させなければなりません。

フルタイム労働者の場合、雇入れの日から6カ月間勤務を継続し、その間の全労働日の8割以上を出勤した場合には10日の有給休暇が付与されますから、対象者になります。

また、フルタイムではないアルバイトなど、1週間の所定労働日数が少ない場合でも対象となる場合があります。たとえば、週所定労働日数が4日の場合でも、継続勤務年数が3年6カ月を迎えれば、10日の有給休暇が付与されるようになります。この場合には、使用者は、当該労働者に5日の有給休暇を必ず取得させなければなりません。

スーツケースとパスポートを持つ人
写真=iStock.com/FTiare
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FTiare

■5日さえ取得すれば残りの消化は自由

労働者が自ら請求して5日の有給休暇を取得すれば、使用者には、それ以上取得させる義務はありません。残りの有給休暇を取得するもしないも、労働者の自由です。

他方、労働者が自ら5日以上の有給休暇を取得しない場合には、取得日数の合計が5日になるよう、使用者の側から、取得時季を指定して有給休暇を取得させることができます。ただし、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければならず、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めることが求められています。

この時季指定は、あくまでも5日間の有給休暇を労働者に取得させるためのものですから、有給休暇の取得日数が5日間を超える形で使用者からの時季指定をする必要はなく、また、することもできません。

なお休暇に関する事項は、就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)であるため、使用者による有給休暇の時季指定を行う場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載する必要があります。就業規則に記載していない場合には、30万円以下の罰金が科されます。

また、時季指定以外にも、労使協定で定めることで計画的に取得日を定めて有給休暇を与えることが可能です(これを計画年休といいます)。この場合、労働者が自ら取得できる有給休暇を最低5日残す必要があります。

労働者の自主的な取得、時季指定、計画年休のいずれの方法でも構わないので、必ず5日の有給休暇を取得させるのが、使用者の義務です。

ここからは有給休暇にまつわるよくある事例を見ていきます。

■「有給取得日に出社を強制」はNG

【Q3】カレンダー上は有給を取得したが、実質出社を強制されている。

【A3】有給休暇を5日取得したかどうかは、実際に取得した日数で数える必要があります。有給休暇のはずが出社を強制されているのであれば、有給休暇を実際に取得したとは言えません。ですから、これによって有給休暇を年5日取得できていないということになれば、違反となります。労働基準監督署に報告して、改善するよう促してもらうべきでしょう。


【Q4】一度は希望した日で容認されたが、あとになって、やっぱりその日は無理と会社から言われた。応じなければならないか。

【A4】時季変更権の行使として適法かどうか、つまり、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」という時季変更権行使の要件を満たすかの問題だといえます。有給休暇の請求をした時期や会社が変更を求めた時期、変更を求めた理由などの諸般の事情に結論が左右されることになるでしょう。


【Q5】「有給休暇はあるけど誰も申請しない」と言われていたので、取ってはいけないと思っていた。

【A5】労働者が自ら取得しない場合でも、使用者による時季指定または計画年休によって年5日の有給休暇を取得させる必要があります。

なお、厚生労働省が配布している「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」というパンフレットでは、どのようにすれば労働者が有給休暇を取得しやすい職場環境を作れるかという点も含めて、年5日の取得を確実にするための対策・方法を丁寧に説明しており、非常に参考になります。

■有給取得を理由に評価を下げてはいけない

【Q6】いつの間にか有給休暇を消化したことにされていました。

【A6】Q3でも言及したように、有給休暇を5日取得したかどうかは、実際に取得した日数で数える必要があります。実際には出勤していたのであれば、有給休暇を取得した日数に含まれません。


【Q7】有給をとって休んだことを理由に、勤務評価でマイナスの評価を受けました。

【A7】使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければなりません。これは、不利益的取扱いによって労働者が有給休暇の取得をためらうことを防ぐために規定されています。

有給休暇取得を勤務評価においてマイナスの評価とすることも、不利益的取扱いだといえます。

■有給取得を「年6日かつ冠婚葬祭」に限定した会社

最後に、これまでの解説を踏まえて、有給休暇の取得に関する裁判例をいくつか紹介したいと思います。

(1)有給休暇の取得を妨害したことが違法と判断された事例①――甲商事事件(東京地判平成27年2月18日労働経済判例速報2245号3頁)

この事例では、会社が、有給休暇の日数を年6日と限定し、さらに、取得できるのは原則として冠婚葬祭や病欠の場合のみで、それ以外は欠勤扱いにする旨の通達を社内に出したことの違法性が争われました。余談ですが、労働事件の裁判例は、今回紹介する事件に限らず、当事者となった会社の名称で呼ぶことが多いです(会社としては迷惑な話ですね)。

裁判所は、労働者に有給休暇を取得する権利が発生した場合には、使用者は、労働者がその権利を行使することを妨害してはならない義務を労働契約上も負うとしました。その上で、取得できる有給休暇の日数を勝手に6日間に限定したり、しかもその取得理由を冠婚葬祭や病気休暇に限るとしたことは、労働者に対して、労基法上認められている有給休暇を取得することを萎縮させるものであり、労働契約上の債務不履行にあたると判断しました。この取得妨害行為についての慰謝料は、50万円が認められています。

なお、会社側は、通達はあくまでも社員としての心構えを示したものに過ぎず、有給休暇の取得を妨害する意図はないと主張していましたが、裁判所は、総務課において通達という形式で文書を作成し、従業員に回覧させている以上、それが有給休暇の取得を妨害する意図がなかったという主張は不自然であり合理性を欠くものであると一蹴しています。

■「有給を取ると評価が下がる」と言われた塾講師

(2)有給休暇の取得を妨害したことが違法と判断された事例②――日能研関西ほか事件(大阪判平成24年4月6日労働判例1055号28頁)

この事件では、有給休暇取得を申請した塾講師(原告)に対して、

①「有給申請により評価が下がる」などと上司が発言して有給休暇取得を妨害したこと
②申請を取り下げた有給休暇の予定日に、もともと上司自身が担当する予定であった業務を原告に割り振ったこと
③有給申請を取り下げさせたことを原告らが抗議した翌日及び翌々日に、上司が原告に対して業務の変更を指示したこと
④総務部長や会社代表者らが上司の行為を擁護した発言などの違法性

が争われました。

第一審では、①のみが違法に有給休暇取得を妨害したものと判断されました。しかし、控訴審では、①に加えて、②・④も違法と判断されました。

②については、第一審は正当な業務指示であるとして違法性を否定しましたが、控訴審は、有給休暇を申請したことによる嫌がらせであり違法であるとしています。他方、③については、原告は、この業務変更指示によって業務が増大していることから、有給休暇取得を申請したことの嫌がらせであると主張していましたが、第一審・控訴審ともに、嫌がらせには当たらないと判断しています。

④については、原告の名誉感情を侵害する違法なものと判断されています。

■「有給で皆勤手当不支給」は適法か

(3)有給休暇を取得したことを理由に不利益に取り扱ったことが適法と判断された事例――沼津交通事件(最判平成5年6月25日民集47巻6号4585頁)

被告となったタクシー会社は、労働組合との労働協約において、勤務予定表どおりに勤務した場合に皆勤手当(1カ月3100円または4100円)の皆勤手当を支給するが、有給休暇を取得した場合には皆勤手当の全部又は一部を支給しない旨を定めました。この規定の有効性が争われた事件です。

小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)
小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)

有給休暇を取得したことで皆勤手当が減額された運転手(原告)は、こうした取扱いは労基法に反するなどとして、減額あるいは支給されなかった皆勤手当と遅延損害金の支払いを求めました。

第一審は、有給休暇を取得した日を欠勤扱いすることは有給休暇取得を抑制し、公序に反するとして請求を認容しました。しかし、控訴審と最高裁は、 以下のような理由で原告の請求を斥(しりぞ)けました。

まず、本件のような有給休暇取得を理由とする不利益取扱いの効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱などの諸般の事情を総合して判断する必要があるとしました。

そして、その結果、有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいてはその権利を保障した法律の趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合に限り、公序に反して無効になるとの基準を示しました。

その上で、今回の会社側の措置は、有給休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではなく、また、控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどから、有給休暇の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかったというべきであり、公序に反する無効なものとまではいえないと判断されました。

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小林 航太(こばやし・こうた)
弁護士(神奈川県弁護士会所属)
2012年東京大学法学部卒業。2016年首都大学東京法科大学院修了(首席)。2016年司法試験合格。2017年弁護士登録(第70期)。2019年法律事務所ストレングス設立。趣味はコスプレとボディメイキング。

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(弁護士(神奈川県弁護士会所属) 小林 航太)

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