次の冬の電気代はもっと上がる…東京電力が6500億円の赤字を出し、4000億円の緊急融資を受けるワケ
プレジデントオンライン / 2023年2月27日 18時15分
■政府は9カ月間の負担軽減策を始めたが…
東京電力は、政府系金融機関や大手銀行などから総額4000億円程度の緊急融資を受けるという。世界的なエネルギー資源価格の上昇と円安の影響によってコストは急増し、同社の最終損益は赤字に陥った。資金繰りの改善に向け、東京電力は値上げも実施する。
一方、1月から9月まで、政府は電気料金などの負担軽減策を実施する。8月まで家庭向け電力料金は1キロワットアワー当たり7円引き下げられる(9月の支援額は半減)。標準世帯では、ひと月あたり約2800円の負担軽減になる見込みだ。都市ガスなどの負担軽減策も実施される。資源エネルギー庁によると、標準世帯の場合、総額4万5000円程度のエネルギー負担軽減効果があるとされる。
ただ、軽減措置が実施されている間に、世界全体で資源などの価格が大きく下がるか否か、不確実性は高い。足許の中国経済の回復期待の高まりなどを考慮すると、短期的にわが国の物価はまだ上昇しそうだ。その場合、仮に軽減策が予定通りに終了すると、家庭の電力料金負担は3割程度上昇するとみられる。食品の値上げラッシュなどもあり、生活の苦しさの高まりに直面する家計は増えそうだ。
■6509億円という巨額の赤字を出した理由
2月1日に東京電力が発表した2022年度第3四半期決算の説明資料によると、2022年4~12月の最終損益は6509億円の赤字に転落した。前年同期の最終損益は98億円の黒字だった。急速な赤字転落は財務内容にも負の影響をあたえている。2022年3月末に24.9%だった自己資本比率は、12月末に20.4%まで低下した。
主たる要因として、燃料価格の高騰は大きい。大手電力の中で、東京電力の火力発電への依存度は高い。2023年から2025年にかけて同社の電源構成は液化天然ガスが45%、石炭が30%を占める見通しだ。コロナ禍やウクライナ紛争などさまざまな問題が重なった結果、世界的に供給体制は不安定化し天然ガスや石炭などの価格は一時大きく上昇した。
加えて、2021年1月以降、外国為替市場では主要通貨に対する円安のトレンドが鮮明になった。2021年の年明けに103円台だったドル/円の為替レートは、日米の金融政策の方向性の違いなどを背景に2022年1月はじめに115円台にまで下落(円安が進行)し、10月中旬には一時151円90銭台まで急激な円安が進んだ。
■たまらず低圧電力の料金引き上げも決定
足許、米国の利上げペースの鈍化などを背景にドル/円の為替レートは130円台前半まで水準を戻しているが、前年同月と比較すると依然として円安水準にある。1月の貿易統計(速報)によると、液化天然ガスをはじめ鉱物性燃料の輸入価格は前年同月比48.4%上昇した。その状況下、東電は財務内容のさらなる悪化などを防ぐために緊急融資を受ける。
2022年度通期、東京電力は最終損益が3170億円の赤字になると予想している。発電源構成比の違いはあるものの、他の電力会社でも燃料価格の高騰などによってコストが急増し、業績が悪化するケースは多い。東京電力は収益を確保するために、低圧電力の料金の引き上げを申請した。多くの家庭が契約する電力料金(規制料金)では、1キロワットアワー当たりの値上げ金額は平均で9.16円(うち7.15円は燃料費調整が上限に達した影響)になる見通しだ。
■値上げラッシュはまだ続きそうだ
収益を確保するために、電力以外の分野でもより多くの企業が、これまで以上に価格転嫁を強化せざるを得なくなっている。象徴的なデータとして、2023年1月31日に帝国データバンクが発表した調査結果によると、わが国の食品主要企業のうち195社は、4月までに1万を超える品目の値上げを実施する。過去のコスト上昇分を依然として販売価格に転嫁できていない企業も多い。物価上昇を追いかけるように、値上げに踏み切る企業は増えている。
値上げラッシュはまだ続きそうだ。原材料の市況に目を向けると、例えば小麦の先物価格は2020年の中ごろから緩やかに上昇した。その中でウクライナ紛争が発生すると、穀物供給の減少懸念の急上昇などによって価格は一時急騰した。2022年の半ば以降、価格は幾分か下落したが、足許の小麦価格は2020年末よりも2割ほど高い。
異常気象の深刻化による穀物の生育不良、中国による食料備蓄なども価格上昇の主たる要因と考えられる。その状況下、国内の需要が停滞し、金融緩和が続いてきたわが国の企業は海外企業に買い負ける状況が増えているとみられる。それは小麦をはじめとする穀物に限らず、魚介類や肉類、鉱物資源などにも当てはまるだろう。
■円安がすぐに改善される見通しはしづらい
その上、昨年12月上旬以降、ゼロコロナ政策の終了に伴い中国経済の持ち直し期待は急速に高まった。期待先行で原油、銅、鉄鉱石など中国経済の先行き予想を機敏に反映する商品の価格は上昇した。中国経済の持ち直しには時間がかかるとみられるものの、商品市況の上昇はわが国の物価上昇リスクを高める要素になりうる。
米国では、想定された以上に労働市場が過熱気味に推移している。連邦準備制度理事会(FRB)は金融引き締めを続け、インフレの鎮静化に取り組まなければならない。一方、4月以降、日銀は慎重に異次元緩和の修正を進めるものと予想される。ただ、それには時間がかかる。目先、日米の金利差は一段と拡大しやすい。昨年10月中旬にかけてのような急激な円安の進行は想定しづらいものの、短期的に円の為替レートの変化は輸入物価を押し上げる要因になるだろう。
■9月までに物価が下がり、賃金が上がるとは思えない
9月に政府による電力料金などの負担軽減策は期限を迎える。現在の世界経済の状況を基に考えると、9月までにわが国の物価上昇ペースが大きく低下する展開は予想しづらい。むしろ、目先、光熱水道費や食品などを中心に物価はまだ上昇、あるいは高止まりし、家計への打撃は大きくなりやすいと懸念される。
その後、どこかのタイミングで物価はピークアウトし、上昇ペースは鈍化するだろう。なお、1月に日銀が公表した経済・物価情勢の展望(展望レポート)では、消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率は2023年度が1.6%、2024年度は1.8%との予想が示された。2021年度の実績(0.1%)に比べ、中期的に幾分か物価は高止まりした状況が続きやすい。
一方、毎月勤労統計のデータを確認すると、1997年度以降、年度平均でみた“現金給与総額”の伸び率は0%近傍で推移してきた。“所定内給与(基本給に諸手当を加えた給与)”の上昇ペースも停滞している。わが国の多くの家計において、賃金は増えづらいという記憶は時間の経過とともに強まっているだろう。国内企業が直面するコストプッシュ圧力、中長期的な経済成長期待の持ちづらさなどを背景に、持続的に所定内給与が増加する展開も期待しづらい。
■このままでは経済格差が拡大する恐れ
経済全体で考えると、物価上昇、これまでの記憶などを基に、節約をより強く意識する家計はさらに増えそうだ。GDPの約54%を占める個人消費の持ち直しペースが緩慢になる可能性は軽視できない。そうした展開が予想される中、政府が個人消費の下支えを目指して電力料金などの負担軽減策を延長、あるいは新しい対策を実施する可能性は高い。
ただ、国債発行に頼って物価対策を続けることには限界がある。増税による財源確保も難しい。足許では、国内の設備投資のペースも鈍化している。米国やユーロ圏での追加利上げの影響などもあり、わが国の輸出にもブレーキはかかりやすい。今後の展開次第では景気の回復ペースは弱まり、家計ごとの物価上昇対応力の差などを背景に経済格差が拡大する恐れも排除できない。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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