欧米の経済制裁は着実に効いている…この1年のデータが明かす、プーチンがすがる「2つの国」の名前
プレジデントオンライン / 2023年3月1日 13時15分
■ロシアへの経済制裁は本当に効果があるのか
2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻した。それ以降、両国は交戦状態にあり、一年が経過した。依然として停戦に向けた機運は高まっておらず、事態は長期戦の様相を呈している。2023年2月20日には、ウクライナ支援の機運を盛り上げようと、米国のジョー・バイデン大統領が電撃的にウクライナの首都キーウを訪問した。
欧米を中心とする国際社会は、ロシアに対する経済・金融制裁の一環として、ロシアの主要行をSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除した。貿易決済から締め出し、経済活動を困難にさせるその狙い通り、2022年の財・サービス輸入額は前年から9%減少した。
ロシアは2022年1月分を最後に、通関統計の公表を止めている。そのため、相手先の国の統計からでしか、ロシアの貿易動向を探ることはできない。
欧州連合(EU)によると、2022年のロシア向け輸出額は米ドルベースで45%減少した。過去にロシアが公表したEUからの輸入額は37%(2021年時点)を占めていた。これが半分近く減ったわけだ。
![【図表1】ロシアの輸入総額と各国からロシアへの輸出総額の推移](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/7/1200wm/img_973551d6f5e3d6bbbedf3a56134c99ab95945.jpg)
■欧州からの輸入は半減、それをカバーする「2つの国」
このヨーロッパからの輸入の減少を、ロシアは中国やインド、トルコといった国々からの輸入の増加でカバーしているといわれてきた。
実際に2022年の各国の対ロ輸出額を確認すると、トルコが前年比61.8%増と好調であり、次いで中国が同12.8%増、一方でインドが同12.5%減と、増減がはっきりと分かれる結果となった。
それでは各国は、ロシアに対してどのようなモノを輸出しているのだろうか。
以下では、HSコード(Harmonized System Code)に従って2022年の貿易統計を公表している中国とトルコに限定して、簡単に分析してみたい。共通点としては、両国ともロシア向けに化学製品の輸出を増やしていることがある。
■中国からは化学製品や車両を買っている
中国のロシアに対する輸出の増減率を財別(HSコード)に寄与度(その項目が全体の変化率にどのくらい寄与しているかを示す指標)分解すると、寄与度が最も高かったのが「第6部〔化学工業(類似の工業を含む)の生産品〕」だった。輸出総額の前年比12.8%増のうち4.3%ポイントと、全体の増勢の3分の1を占めた(図表2)。
![【図表2】中国の対ロ輸出の推移](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/e/1200wm/img_cea59a105686dd414b7c40a3d2e75e6e83577.jpg)
次に寄与度が高かったのは「第17部(車両、航空機、船舶及び輸送機器関連品)」であり、3.5%ポイントだった。さらに「第7部(プラスチック及びゴム並びにこれらの製品)」が2.5%ポイントと、それに続いた。
こうしたことから、中国からロシアへのモノの輸出は、基本的に化学品と車両などが中心だったことが分かる。
■トルコからの輸出が激増した理由
他方で、トルコのロシアに対する輸出の増減率を財別に寄与度分解すると、寄与度が最も高かったのが「第16部(機械類及び電気機器並びにこれらの部分品並びに録音機など)」だった。
この第16部が、輸出総額の前年比61.8%増のうち19.1%ポイントを占めた(図表3)。電動機や建設機械、工作機械などの品目が堅調だった可能性がある。
![【図表3】トルコの対ロ輸出の推移](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/a/1200wm/img_dae0c60646685c171fa521caf8ad1b1b89833.jpg)
次に寄与度が高かったのは「第6部(化学品など)」で、12.0%ポイントだった。それに続くのは「第7部(プラスチックなど)」であり、寄与度は7.4%ポイントだった。「第4部(飲食品など)」や「第3部(油脂など)」も堅調だったが、トルコからロシアへの輸出は、基本的に機械類と化学品が中心であったことが分かる。
つまり、中国やトルコはロシアに対して、主に化学品を輸出している点で共通している。中国の場合はそれに車両などが加わり、トルコの場合は機械類が加わる。
トルコの機械類には、いわゆる半導体デバイスも含まれており、ロシアが国内でモノを生産するうえで必要となる半導体をトルコから多く調達している可能性を物語る。
■米国は、軍需品に転用可能なモノの輸出を警戒している
米国は、こうした中国やトルコから輸出される化学品や機械類が、軍需品に転用されることを警戒している。
米財務省のブライアン・ネルソン次官(テロ・金融インテリジェンス担当)は2月2日から3日の間、トルコを訪問して政府や企業の幹部と会談し、そうした製品をロシアに対して輸出しないよう、連携を促した。
またアントニー・ブリンケン国務長官も2月18日、ドイツのミュンヘンで中国の王毅国務委員兼外相と会談した際、中国がロシアに対して物的な支援をしないように要請した模様である。
中国の軍需企業がロシアに軍用品を輸出したように、一部の中国の国営企業がロシアに物資を支援していることを米国は問題視している。
確かに中国とトルコは、ロシアに対する輸出を増やしている。とはいえ、それは基本的に経済的な原理に基づくものであり、政治的な動機に基づくものでは必ずしもないだろう。結果的にそうした輸出が、ロシアの経済活動をサポートしているわけだが、ロシアが需要を増やしているモノを、中国とトルコが供給しているに過ぎない。
■トルコにとってはウクライナも重要なパートナー
中国とトルコはロシアと友好関係を維持しており、ロシアに対する経済・金融制裁に参加していない。そのため、ロシアとの間の貿易が制限されているわけではない。経済的に成立する貿易取引なら、それを行うことは自然の道理だ。
そうはいっても、両国がロシアと協力し、ウクライナや欧米日と対立する意図はないだろう。とりわけトルコの場合、ウクライナもまた重要な通商パートナーである。
トルコはウクライナに対して軍需品などの製品を輸出し、またウクライナもトルコに対して穀物といった食品を輸出してきた。トルコは国連と共にロシアとウクライナの停戦に向けた呼びかけを行っており、決してウクライナと対立を深めようとはしていない。
■ロシアは友好国に足元を見られている
以上、ロシアにとっての輸入の観点から、中国とトルコの対ロ貿易を簡単に分析してみた。
しかしながら、中国とトルコの視点に立てば、対ロ貿易の主役はあくまで輸入であり、2022年の対ロ貿易は両国とも過去最高の赤字を計上した。輸入の中心は、両国とも化石燃料、すなわち石油製品に他ならない。
![油井](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/9/1200wm/img_c93da5a8bf0f05c68c637cf5e1361d7a207815.jpg)
ロシア産原油の価格は国際指標であるブレント原油の価格に比べると15~20ドル程度安い状況が続いている。こうした安値の原油やそれを精製した石油製品を、中国やトルコは積極的に輸入した結果、両国の対ロ輸入額はそれぞれ過去最高を更新したわけだ。それに比べれば、両国のロシア向け輸出額の増加は限定的な規模に過ぎない。
つまるところ、ロシアは中国・トルコに安値で売った原油・石油製品で外貨を稼ぎ、その外貨で中国やトルコからモノを輸入していることになる。
この貿易取引は中国やトルコにとってうまみのある取引であろう。今後も、欧米の経済・金融規制が続くため、こうしたロシアにとって不利な取引も続くことになる。
この状況にどこまで耐えうるかはロシア経済の体力次第である。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)
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