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70代以降はメモ魔になりなさい…和田秀樹が「ボケる前に絶対身に付けておきたい」と勧める黄金ルーティン

プレジデントオンライン / 2023年2月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AscentXmedia

年を重ねて物忘れが増えたと感じたら何をすればいいか。精神科医の和田秀樹さんは「70代以降はメモ魔になりなさい。物忘れが始まってもすべての機能がダウンするわけではない。書くというアウトプット自体が良い脳トレになる」という――。

※本稿は、和田秀樹『80歳の超え方』(廣済堂出版)の一部を再編集したものです。

■デイサービスで「嫌いな計算ドリル」は脳によくない

一時、認知機能低下予防ということで、高齢者に「脳トレ」の計算ドリルや漢字ドリルをやらせることが流行っていました。私はてっきりこのブームも下火になったかと思いましたが、コロナ禍のひきこもり生活の中で、人気が復活しているという話を聞きました。

脳トレはデイサービスでもとり入れているところも多いでしょう。ある女性は、「算数は嫌いだったのに、この年でドリルをやらされる」と嘆きます。それがデイサービスに行きたくない理由になっていました。

聞くと、同じテーブルの認知症の女性が脳トレどころか、難しい数独もこなし、得意満面なのだとか。その人に比べると、自分はどうして数字に弱いのだろうと落ち込むそうです。

デイサービスに行ってまで、優劣を気にするなんてばかばかしいです。嫌なことをやるのは脳によくありません。計算ドリルが好きな方もいますが、苦手な人も多いのです。

本屋さんでも、脳トレドリルが売られています。

こんな話も聞きました。娘が家に来ると「計算ドリル」を置いていき、「毎日やるように」と言って帰ります。

さぼっていると、娘が来たときに「お母さん、全然やっていないじゃない。これじゃあ、ボケるよ」と怒られるそうです。親に宿題をやれと責められた子どもの復讐にも見えてしまいます。

計算ドリルをやっても、その人たちの認知機能が向上するとは限りません。認知症と診断されても、会計士などをやられていた方は数字だけは得意という人もいます。

■脳トレよりも、人と直に会うことが大事

脳というのは複雑で深遠な場所なのです。誰もが同じ脳トレで効果が上がるなんてことはないと理解してほしいと思います。

テーブル、記憶運動、神経学で論理テストを解く集中退職した男
写真=iStock.com/Motortion
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Motortion

また、計算ドリルを続けてやることができて、そのスピードや得点は上がってもほかのテストの点はまったく上がらないという研究結果が多数出ています。

脳トレをすすめられたら、「もう十分ボケているから、好きなことだけやらせてちょうだい」とお断りできたらいいですね。

認知機能の低下を防ぐことに有効なのは、人との交流です。そして、自分のことをアウトプットしていくことです。

デイサービスは、まさにこの交流とアウトプットの場です。ひとりで本やテレビで楽しめる人も、「このドラマが面白かった」「最近の朝ドラはテンポが速すぎてついていけない」などと周囲の人たちに感想を漏らす。そんなお喋りが楽しめるように工夫してほしいと思います。

子どもたちも、親に脳トレドリルをすすめるよりは、一緒にお茶を飲み、お喋りする、季節の行事をする、そして笑い合うということがいちばん認知症の発症や進行を遅らせるということを知ってください。

■世の中を知った気になると脳が凝り固まる

「この年でどこへ行っても仕方ない」「若いときに十分旅行したから、何も見なくてもいいわ」とひきこもっている方がいます。

このコロナ禍の自粛生活で、ますます出不精になった方も多いでしょう。

旅は遠くに行くことだけではありません。

日常からちょっと切り離された場所に行くことも旅です。

新しいカフェに入ってみる、電車で桜のきれいな公園へ出かけてみる、祭りや市場に出かけて、パンや野菜を買うだけでも贅沢(ぜいたく)な気分になれます。旅はまわりにいくらでも転がっています。

年をとると、世の中を知った気になってしまうことがあります。自分がそう思うようになったら、脳が凝り固まっていっていると気がついてください。

世界は日々違います。季節は一日一日変わっていきます。山手線に乗っていても見えるものがあります。そういえば、やることがないので、半日ぐらい山手線をグルグルまわって景色と人を見て楽しむという人もいました。

コロナ感染が収まり(私はいまなら十分収まったと思っていますが)、お金があるなら、どんどん遠くへと旅してください。「疲れる」というのは旅に観光を盛り込み過ぎなのかもしれません。一か所を大事に観光してゆっくりするのがいいでしょう。

■ちょっとした旅が、私たちには必要だ

2021年にアカデミー賞で主要3部門を受賞した映画『ノマドランド』は、高齢者が車でアメリカの季節労働者として働きながら旅する様子が描かれています。

自分の家をなくして帰る場所のある人もいますが、車の生活をする人もいます。

『ノマドランド』の放浪者が選んだのは自由でした。最後は家族に引き取られたり、施設に入ったりするかもしれません。旅の途中、ひとりで死ぬかもしれません。それでも自由を選びました。

こういう方たちは、自分がもし認知症になったらと心配はしないでしょう。ひとりで生きていくためには、予定を立て地図を見て考えます。

ときどき「アマゾン」でバイトをしたり、放浪者の集まるコミュニティに参加したりして人とも交流します。

この映画の中で美しいのは自然の景色です。私もひさしぶりに車でアメリカを走り抜けてみたくなりました。

行くことのかなわぬ未知な土地への憧れを持つことは、いくつになっても大事だと思います。

世界中だけでなく、あなたの住む地域にも知らない場所、未知な空間、歩いたことがない裏道があります。

『ノマドランド』の放浪者になれないまでも、毎日「どこに行ってみようかな」と考えるだけでもよい脳トレになるはずです。

高齢者や障害を持つ人は家に引っ込んでいろという風潮に抗(あらが)うためにも、みんなで外に出ていきましょう。

大きな通りにはベンチを置いてもらい、公園やスーパーには無料で談話できる場所をつくる、駅の歩道橋にはエスカレーターをつける、段差をなくす。こういうことが必要とされているのに、ユニバーサルデザインという言葉が出てきて久しくなるわりには、町はあまり変わっていません。

介護保険制度は福祉を充実させたように見えますが、施設に集めるか、家に訪問することになり、なんだか閉じ込められているようです。歩けるうちは、杖でも押し車でも、ちょっとした旅に出られる町にすることが福祉の充実には必要なはずです。

だから、私は、「徘徊しても安全な町をつくってくれ」と言いたいのです。

後ろから緑の背景と年上の男性
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■相手の親切を引き出すのが、「ボケ力」

身近な旅をしてみましょうと言いました。

ただし、忘れっぽくなったり、自分の居場所がわからなくなったりして心配になることもあります。すると、「認知症になってきたな、外に出るのはよそう」という方向になります。

しかし、思ったより世間は高齢者にやさしい人が多いです。道がわからなくなったら若い人に聞いてみましょう。すぐにスマホで調べてくれて丁寧に教えてくれる人がたくさんいます。

「本当にボケてダメね」と言い、若い人に感謝しましょう。相手も気持ちがいいでしょう。

相手の親切を引き出すのが、「ボケ力」です。

道を教えてあげたり、席をゆずってあげたり、荷物を運んであげたり……人はちょっとした親切をすると気持ちのいいものです。接客のような仕事をしている人でも同じなのかもしれません。だから、老いたら、親切をされる隙(すき)をあえて持つことも大事かもしれません。

認知症の当事者で本も書かれている丹野智文さんという方がいます。2013年、39歳のときに若年性アルツハイマー病と診断されました。

診断される3年前から物忘れが始まり、同僚の名前も忘れるようになって受診したそうです。診断されて、どんなに絶望したことでしょう。

■30代で認知症だと冗談と思われる

当時、若年性アルツハイマー病は進行が速いと思われていました。丹野さんも窓口に相談へ行くと、いずれ介護が必要になるからと介護保険の説明ばかりされたと話していました。

2022年の現在も、丹野さんはもとの会社に所属し、講演をして歩き、ラジオやテレビに出ています。

認知症は少しずつ進行しているとのことです。それでも工夫して生活しています。

会社に通うときに、地下鉄の乗り継ぎで自分の居場所がわからなくなってしまうことがありました。人に道を聞くと怪訝(けげん)な顔をされます。

忘れられた傘を指摘するビジネスマン
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

30代の男性が「出口がわかりません」と言っても冗談だと思われるのでしょう。「新手のナンパですか」と返されたこともあったそうです。

そこで、丹野さんは「自分は若年性のアルツハイマーを患っています」というカードをつくって見せる方法を考えました。それを見せると、みなさん親切に教えてくれるそうです。

70代を超えた老人は、丹野さんほどの苦労はしないでもボケを演じれば、たいていの人は親切にしてくれます。相手も「お年寄りに親切にできた」と満足できるでしょう。

「人になど頼りたくない」「人に声を掛けるのは恥ずかしい」と思う方もいるでしょうが、老いたら一歩ひいて、ありがたく親切を受け、感謝する姿を見せることも次世代につなぐ「ボケ力」だと思います。

■ボケたら、メモ魔になろう

丹野さんだけでなく、認知症になった当事者の方が本を書いたり、マスコミで発言されたりしています。

そこには、認知症になったからすべてがダメになるわけではないというメッセージがあります。

若い認知症当事者の方たちも物忘れがひどくなってきたときに、それぞれ工夫しています。それは、ノートやカレンダー、スマホ機能を大いに利用するということです。

この方法は、高齢者のボケ力を鍛えるためにも参考になると思うので、認知症当事者の方たちの本も読んでみるといいでしょう。

認知症でも活躍されているみなさんを見ると、物忘れはけっこう進行しています。いま会った人との会話や顔を忘れたり、講演会でホテルに泊まれば自分の部屋を覚えたりすることができません。

それでも、彼らは人前で自分の考えを話します。質問にも答えます。

物忘れがひどくなり、アルツハイマー型認知症と診断されても、すべての機能がダウンしているわけではないのです。ものを考え、アウトプットすることができます。

ただ、物忘れするようになったら、工夫が必要です。先ほどの丹野さんにしても考えたことやアイデアはすぐにメモしていると思います。そうして、講演会のときはじっくり自分で原稿をつくっています。

私も最近では、いいアイデアが出てもすぐにメモしないと、「あれ、何かいいこと思いついたのにな」と忘れてしまうことがあります。

ネットで見た研究が参考になると思い、あとで読もうと思ったら、「お気に入り」に入れておくか、名前をメモしていないと思い出せないこともあります。

「夜にネットで読もう」と自分を信じて覚えているつもりが、その間にたくさんの雑事をこなしていると、「ネットで読もう」と思ったことさえ忘れてしまいます。あなたの日常にもそういうことは多くなったのではないでしょうか。

■「書く」アウトプット自体がよい脳トレに

自分を過信せず、思いついたこと、予定、人の名前、あらゆることはメモをする。付箋(ふせん)に書いて貼っておく。5年日記や10年日記もいいかもしれません。

和田秀樹『80歳の超え方 』(廣済堂出版)
和田秀樹『80歳の超え方』(廣済堂出版)

日記には会った人、日々の雑事、種を蒔(ま)いたこと等を書いておけば、あとで「去年は今頃こんなことしたんだ」と思い出せます。家族や知人の誕生日や命日も記しておけば、毎年忘れることもないでしょう。

本当に認知症になってからメモを取ることをやろうと思っても、面倒になり、うまくいかないこともあります。

これも習慣です。70代からメモを取り日記をつける。亡くなるまで続ける人は多くいらっしゃいます。

書くというのもアウトプットです。アウトプットそれ自体がよい脳トレとなるというメリットもあります。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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