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「麻生さんは自分を悪い人間のように見せようとする」安倍元首相が生前に語っていた"2人の本当の関係"

プレジデントオンライン / 2023年2月28日 15時15分

閣議に臨む安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理兼財務相=2018年5月15日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

2022年7月8日、選挙演説中に凶弾に撃たれ、非業の死を遂げた安倍晋三元首相。生前、その肉声を読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏らが聞き取っていた。あまりに機微に触れる――として一度は安倍元首相が刊行を見送った36時間にわたる未公開インタビューをまとめた『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)より、その一部を紹介する――。

※本稿は、安倍晋三【著】、橋本五郎【聞き手】、尾山宏【聞き手・構成】、北村滋【監修】『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)の第4章「官邸一強 集団的自衛権行使容認へ、国家安全保障局、内閣人事局発足 2014年」を再編集したものです。
※肩書は当時のものです。

■最初の1年8カ月間、閣僚を交代しなかった

――内閣改造を(14年)9月3日に行いました。改造はおおむね1年おきに行われてきましたが、この時は1年8カ月ぶりでした。

内閣改造は政権の体力を消耗します。閣僚になって喜ぶのは十数人だけ。当選回数を重ねているにもかかわらず、選ばれなかった人は100人前後にのぼり、「なぜ俺が選ばれず、あいつが閣僚になったんだ」という不満が湧き起こるのですよね。閣外に去る人も肩を落とすでしょう。最初の1年8カ月間、交代しなかったのは正解だったと思います。閣僚の問題は全く起きず、政権に安定感が出ました。

――改造では、女性活躍を掲げて女性5人を起用しましたが、わずか1カ月半で、経済産業相の小渕優子、法相の松島みどり両氏がダブル辞任しました。

松島さんの場合は、自身のイラストが入ったウチワを地元で配って、これが公職選挙法違反の疑いがあると国会で追及された。しかし、これが寄付に当たるというのは無理があると思います。小渕さんの場合、政治団体の政治資金の調査に時間がかかるということだったので、やむを得ませんでした。

■石破氏の幹事長続投は政権の不安定要因

――自民党役員人事では、石破幹事長の後任に谷垣禎一法相を充てました。菅義偉官房長官が強く幹事長交代を迫ったと言われています。石破氏が、幹事長ポストを利用して次期総裁選を有利に進めようとしていたからだ、という情報もあります。

自民党の幹事長は、党の資金配分を一手に担っています。党の躍進のためにお金を使うのであれば良いのですが、仮に自分の派閥を大きくするとか、自分の総裁選の準備のためにお金を使っていたとしたら、それは看過できない。菅さんは党内に目を光らせていて、「石破さんの幹事長続投は政権の不安定要因になる」と言っていました。でも、当時も石破さんの人気は高かった。しかも自分で続投希望を表明していた。その人を交代させるのであれば、それなりの理由が必要でしょう。だから、これから安全保障関連法など困難な課題に取り組む上では、より安定感を優先させたいということで、谷垣さんに代わってもらうことにしたのです。

私が2012年の総裁選で勝利して演説した時、谷垣さんの功労を称えたのですが、党内からものすごい拍手が起きたのです。前にも述べましたが(第3章)、私の演説の中で、最大の拍手は、谷垣さんに触れた部分でした。この人には支えてもらわないといけないと思いました。石破さんも、谷垣さんが後任だと知り、「全く文句はない」と言っていました。石破さんには、安全保障関連法の困難な答弁が控えているから、「防衛相でどうでしょうか」と聞いたら、地方創生相を希望したので、意向通りに就任してもらったわけです。

■財務省は意向に従わない政権を平気で倒しに来る

――読売新聞の世論調査では、改造前に51%だった内閣支持率が、改造後に64%に跳ね上がりました。

女性5人と谷垣さんのおかげですね。谷垣さんには助けられました。社会保障と税の一体改革に道筋を付けた本人ですが、この年の秋、増税を延期して衆院を解散するという私の考えに理解を示してくれました。私が解散と消費増税の延期を考えているという話をした時、谷垣さんは「総理の考えであれば、それで結構です。ご安心ください。選挙の準備はできています」と言ってくれたのです。

――衆院解散は、14年11月18日に記者会見し、15年10月からの消費税率10%への引き上げを1年半先送りすることとセットで表明しました。「国民経済にとって重い決断をする以上、信を問うべきだ」と述べて、21日に解散しましたが、増税延期という国民受けしそうな政策変更と、解散を同時にしたのは、ある意味で狡猾な手法と言えます。

増税を延期するためにはどうすればいいか、悩んだのです。デフレをまだ脱却できていないのに、消費税を上げたら一気に景気が冷え込んでしまう。だから何とか増税を回避したかった。しかし、予算編成を担う財務省の力は強力です。彼らは、自分たちの意向に従わない政権を平気で倒しに来ますから。財務省は外局に、国会議員の脱税などを強制調査することができる国税庁という組織も持っている。さらに、自民党内にも、野田毅(たけし)税制調査会長を中心とした財政再建派が一定程度いました。野田さんは講演で、「断固として予定通り(増税を)やらなければいけない」と言っていました。

増税論者を黙らせるためには、解散に打って出るしかないと思ったわけです。これは奇襲でやらないと、党内の反発を受けるので、今井尚哉秘書官に相談し、秘密裡に段取りを進めたのです。経済産業省出身の今井さんも財務省の力を相当警戒していました。2人で綿密に解散と増税見送りの計画を立てました。

日本の財務省
写真=iStock.com/7maru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/7maru

■麻生氏は財務省を黙らせることができる

――11月は、前半に中国でアジア太平洋経済協力(APEC)、いったん帰国して中旬にミャンマー、豪州と外遊が多かったですね。

APECの前に、谷垣幹事長には解散の意向を伝えました。その後、何となく永田町に解散風が吹き始めたので、議員が皆地元に戻ったんです。増税論者も含めて。ここまでうまくいくとは、思っていなかったです。

安倍晋三【著】、橋本五郎【聞き手】、尾山宏【聞き手・構成】、北村滋【監修】『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)
安倍晋三【著】、橋本五郎【聞き手】、尾山宏【聞き手・構成】、北村滋【監修】『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)

問題は麻生太郎さんで、解散は賛成だけれど、増税先送りには反対していたのです。豪州からの帰りの政府専用機内で、説得したのです。景気次第で増税を見送る「景気条項」は撤廃すると、私が約束したので、最終的には了解してくれました。麻生さんは親分肌だから、財務省を黙らせることができるのです。

――麻生さんは政権の屋台骨でした。

麻生さん、高村さん、菅さん。この人たちを抜きに長期政権は築けませんでした。麻生さんとは、人間的に肌が合うんですよ。お互い政治の世界で育ったという環境も影響しているのでしょう。首相時代は、漢字が読めないとかさんざん批判されましたが、ものすごい教養人です。歴史に造詣が深く、読んでいるのも漫画だけではないのだけど、自分を悪い人間のように見せようとするのです。あれは、もったいないですよ。自然に振る舞えばいいのに。彼は毛筆で手紙を書くじゃないですか。あんな政治家ってもう最後ですよね。

■長期政権なんて気にする余裕はない

――12月14日に行われた衆院選は、自公合わせて325議席の圧勝でした。この勝利で、長期政権を築けるという思いが湧いてきたのではないですか。

そうでもないですよ。そもそも長期政権を考えると、守りに入っちゃいますから、ダメなんです。もちろん誰だって自分の内閣を長く続けたいと思うでしょうが、正直、日々のことに追われて、長期政権なんて気にしている余裕はないのです。よく秘書官が私に、歴代内閣の在任日数ランキングを持って来て、あとこれだけやれば中曽根さんを超えますとか、小泉さんを超えますとか言っていたのですが、そんなことより目の前の国会をどう乗り切るかの方が重要だろ、と思っていました。

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安倍 晋三(あべ・しんぞう)
元内閣総理大臣
1954年東京都生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒業後、神戸製鋼所勤務、父・安倍晋太郎外相の秘書官を経て、1993年衆議院議員初当選。2003年自由民主党幹事長、2005年内閣官房長官などを歴任。2006年第90代内閣総理大臣に就任し、翌年9月に潰瘍性大腸炎を理由に退陣。2012年12月に第96代内閣総理大臣に就任し、再登板を果たした。2020年9月に持病の悪化で首相を退くまでの連続在職2822日と、第1次内閣を含めた通算在職3188日は、いずれも戦前を含めて歴代最長。2022年7月8日奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃され死去。享年67。

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橋本 五郎(はしもと・ごろう)
読売新聞特別編集委員
1946年秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。読売新聞論説委員、政治部長、編集局次長を歴任。2006年より現職。主な著書に『総理の器量』『総理の覚悟』(以上中公新書ラクレ)『範は歴史にあり』『宿命に生き運命に挑む』『「二回半」読む』(以上藤原書店)など。2014年度日本記者クラブ賞受賞。

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尾山 宏(おやま・ひろし)
読売新聞論説副委員長
1966年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒。1992年読売新聞社入社。政治部次長、論説委員、編集委員を歴任。2022年より現職。主な共著に『安倍晋三 逆転復活の300日』『安倍官邸VS習近平』(以上新潮社)『安全保障関連法』(信山社)『時代を動かす政治のことば』(東信堂)など。

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北村 滋(きたむら・しげる)
前国家安全保障局長
1956年東京都出身。東京大学法学部を経て、1980年警察庁入庁。2006年内閣総理大臣秘書官、2012年内閣情報官、2019年国家安全保障局長・内閣特別顧問(いずれも安倍内閣)。2020年米国政府から国防総省特別功労章を受章。著書に『情報と国家』『経済安全保障』(以上中央公論新社)など。

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(元内閣総理大臣 安倍 晋三、読売新聞特別編集委員 橋本 五郎、読売新聞論説副委員長 尾山 宏、前国家安全保障局長 北村 滋)

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