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どのステージにいるかは関係ない…大切な人が「がん」と診断されたら真っ先に始めるべき"ある治療"

プレジデントオンライン / 2023年2月28日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

がんになったらどうすればいいか。奈良県立医科大学附属病院の四宮敏章教授は「緩和ケアチームに相談してほしい。がんの苦痛は、身体的なものだけではない。最新の緩和ケアでは、『なんで自分ががんになったんだ』という精神的な苦痛にも対応している」という――。

※本稿は、四宮敏章『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■「緩和ケア」は末期がんの人に限った療法ではない

がん患者さんの苦しみはさまざまな要素が複雑に絡み合っています。そこで必要とされるのが、精神的なサポートも含めた包括的な「緩和ケア」です。緩和ケアは、末期がんの人のための療法と思われている方も多いようですが、実際にはがん診断時から必要な治療です。

日本の医療にホスピスが取り入れられるようになった1970年代当時は、たしかに緩和ケアは死を前にした人の苦しみを取ることに重点が置かれていました。まさに末期の医療だったのです。

しかし現在では、もっと幅広い範囲の人たちに対象が広がっています。がんの治療中の人、がんはいったん治ったけれど再発が不安で生活に支障が出ている人、大事な人をがんで亡くしつらい気持ちで生きている人、そういう人たちも現在は緩和ケアの対象です。つまり、がんと診断されたときから緩和ケアは始まっているのです。

緩和ケアは終末期の医療から、がん治療と一緒に行う医療に変わったのです。

■家族も患者本人と同じくらい悩んでいる

多くのがん患者さんは、がんと診断されたときから、「なんで自分ががんになったんだ」「がんになったら自分は死ぬしかないのか」「仕事は辞めないといけないのか、でもそうなったらお金は大丈夫なのか」「家族に心配をかけたくない」など、さまざまな煩悶に苦しみます。そして治療が始まると、抗がん剤の副作用などで苦しんだり、人によっては痛みや呼吸困難などの身体の症状が出てくることがあります。

また、ご家族も患者さんと同じくらい悩みます。「自分のせいで夫ががんになってしまったのでないか」「自分が異変に気づいて、早く病院に連れて行けばこんなに悪くならなかったのではないか」「自分は何もしてやれなくて情けない」……。

このように、治療前や治療中でも、患者さんとご家族はさまざまな悩みを抱えており、解決できないでいる場合も多いのです。

緩和ケアはそういった身体や心の悩みの解決を助けます。そして、前を向いて頑張っていくことを支えます。緩和ケアは、がんになった患者さんとそのご家族が、病気になっても、いやむしろ病気になったからこそ、自分の人生を自分らしく生きるために援助を行う医療なのです。

■根治はできなくても天寿を全うすることはできる

もし、あなたやあなたの大事な人ががんになって、いろいろ悩むことがあれば、気軽に緩和ケアチームにご相談ください。緩和ケアチームは、身体的症状を担当する医師、精神的症状の担当医師、そして緩和ケアに精通した看護師、薬剤師がチームを構成し、患者さんとご家族のケアにあたります。

またそれ以外にも、公認心理師、栄養士、理学療法士、歯科医・歯科衛生士、アロマセラピスト、がん相談員などの多職種が緩和ケアチームに関わっているところも多くあります。いまではがんを治療する病院には必ず緩和ケアチームがあります。地域がん診療連携病院と呼ばれる病院には、必ず緩和ケアチームがありますので、お声かけください。多くの場合、主治医に相談すれば紹介してくれます。

繰り返しますが、緩和ケアはがんと診断されたときから受けることのできるケアです。早い段階から緩和ケアを受けることで、病気の治療に専念できます。

たとえ根治が難しく亡くなる方でも、自分の人生を見つめ、家族に感謝を伝え、すべき準備をしっかりとやり終えて、天寿を全うすることができる。緩和ケアのゴールは、まさにここにあります。人間の尊厳を最後まで守ることなのです。そして私は、緩和ケアにはそうしたサポートができると確信しています。

■緩和ケアはがん患者本人だけのものではない

そもそも「緩和ケア」とは何か。WHO(世界保健機関)によると、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に対して、きちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、QOL(生活の質、生命の質)を改善するためのアプローチである」と定義されています。

ここで注目したいのは、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族」の部分です。つまり、緩和ケアはがん患者だけのものではないし、患者本人はもちろん、その家族に対しても必要だと説いているのです。

心疾患や慢性肺疾患、神経難病……。がん以外にも生命を脅かす病気はあります。こうした疾患は医療行為によって症状を軽くすることはできても、完全に治すことが難しい。

奇跡的に根治するケースもありますが、多くの場合は病巣が残ってしまいます。生命を脅かす病に苦しむ患者さんに、医療ができるのは、一人ひとりの異なる苦しみをやわらげ、そのこころを支えることです。

病気で苦しいのは患者さんだけではありません。重篤な病気と向き合う人のそばで献身的に介護をする家族の苦しみ、悲しみも大きい。家族に対する精神的なサポートもまた必要なのです。患者さんとその家族の苦しみを理解し、癒やすこと。これが緩和ケアの原則なのです。

■がん患者が抱える4つの苦しみ

では、生命にかかわる病気を患う患者さんが抱える苦しみとはどのようなものでしょうか。日本人の死因トップであるがんを例に説明しますが、そのほかの病気も同じだと思っていただいてよいでしょう。

がん患者さんが抱えるさまざまな苦しみのことを、緩和ケアでは「トータルペイン(全人的苦痛)」と呼んでいます。これは、近代ホスピスの生みの親であるイギリスの女医シシリー・ソンダース先生が提唱した概念です。

トータルペインとは、がんの痛みを「身体的苦痛」「精神的苦痛」「社会的苦痛」「スピリチュアルな苦痛」の4つに分類し、これらを総体的にとらえる必要があるとする考え方です。

がん患者が直面する4つの苦痛
がん患者が直面する4つの苦痛

たとえば、すい臓がんの患者さんで考えてみます。すい臓がんはおなかのなかにできるがんですから、つらい腹痛をともないます。これはがんがまわりの組織に広がって起きる痛みで、身体的苦痛です。

がんが進行するにしたがい、夜も眠れないほど痛みが強くなり、それが原因でだんだんと気持ちが落ち込む。精神的に追い詰められていきます。これが精神的苦痛です。

■「スピリチュアルな苦痛」最も根源的な苦しみ

さらには、その方が仕事をされていたとして、がんの痛みによって仕事を休まなければならなかったり、辞めなければならない状況になっていきます。元気に働いていた家族が病気で苦しみ、仕事を辞めなければならなくなるのは、家族にとってもつらいことです。これが、社会的苦痛です。

最後の「スピリチュアルな苦痛」は少しわかりにくいかもしれませんが、どんな病気であれ終末期の患者さんが抱える苦痛のなかで最も根源的な苦しみはこのスピリチュアルペインです。それは、生きる意味や価値を失ってしまう苦痛だからです。

病状が回復せず、身体の痛みも、心の苦しみも、社会的な苦痛も味わい続けなければいけない状況が続くと、人は「こんなに苦しい痛みがこの先もずっと続くのであれば、生きていても意味がない。家族に迷惑をかけるだけだ。早く死んでしまいたい」などと思うようになってしまいます。

あるいは、「どうして自分はがんになってしまったのだろう。何か悪いことをしたからだろうか」などと自分を責めてしまう。さらには、「死んだらどうなるのだろう」と死の恐怖にかられる人もいます。

こうした、人がこの世に生まれ、生きて、死ぬことにまつわる根源的な深い問いや苦悩が、スピリチュアルペインです。

■細分化された医療では人の「いのち」は救えない

緩和ケアでは、患者さんの身体的な症状や苦痛だけでなく、どのようなトータルペインに苦しんでおられるのかを理解し、そのこころを支え、癒やすことを目的としています。

四宮敏章『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)
四宮敏章『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)

近代医療は、身体とこころを別々に取り扱うだけでなく、専門化が進み、それぞれの臓器や部位に細かく枝分かれしていく傾向にあります。

それに対して、人間の存在をまるごと全体としてとらえ、身体とこころをひとつながりの関係のなかでみていくこと。その人をその人たらしめている、社会的な立場や家族の存在といった周辺状況も含めてみていくこと。

それが、本来の医療が果たすべき役割であり、医療の本質といえるのではないか。つまり、医療とは、人の「いのち」に寄り添うものである。私は、心療内科と緩和ケアの目指すところが一致していることに気づき、そのように考えるようになりました。

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四宮 敏章(しのみや・としあき)
奈良県立医科大学附属病院 教授、緩和ケアセンターセンター長
京都大学農学部卒業後、製菓メーカー、製薬会社に勤務。その後、岡山大学医学部を卒業。心療内科医になる。奈良県で初めてのホスピスを立ち上げる。ホスピスで終末期医療に携わり、3000人以上の看取りを経験する。その後、奈良県立医科大学緩和ケアセンター長として、早期からの緩和ケアに携わり、遺族ケアも積極的に行う。現在、緩和ケアを多くの方々に広めるため、YouTubeやnoteで発信を行っている。著書に『また、あちらで会いましょう』(かんき出版)がある。

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(奈良県立医科大学附属病院 教授、緩和ケアセンターセンター長 四宮 敏章)

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