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なぜ大人になるまで気づけないのか…「発達障害=言語習得が遅い」と思っている人が勘違いしていること

プレジデントオンライン / 2023年2月28日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cheangchai4575

成人してから発達障害とわかるケースがある。東京大学名誉教授で精神科医の加藤進昌さんは「一般に言われる特徴は必ずしも一致しない。知的レベルが高いため、違和感を軽視してしまう家族も多い。放っておくと、社会に出たときに問題になる可能性がある」という――。

※本稿は、加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■一般的に「言葉の習得が遅い」と言われるが…

成人してから発達障害とわかるケースでは、当事者のみならず、あるいは当事者以上に、家族をはじめ、学校や職場で当事者と関わる人たちも戸惑い、苦しみ、悩んできたといえます。

ASD(自閉スペクトラム症)の場合は、幼少期から特徴的なサインが見られるのですが、それが深刻なサインであることに、家族などの身近な大人が気づくことができず、やり過ごしてしまうケースも少なくありません。

たとえば、ASDの子どもは発語が遅いと、一般的に言われることが多いのですが、定型発達の子どもであっても発語のタイミングにはばらつきがあるものです。

また、ASDの人の場合、言語自体の習得はむしろ早いことが多いです。教えてもいないのにひらがな・カタカナを覚えてしまった、姉が勉強していたアルファベットを書いていた、などというエピソードはめずらしくありません。

ASDの場合の言葉の習得は「会話で学習しない」ことが最大の特徴です。子ども同士で「ごっこ遊び」のような場を共有することがありませんから、会話のキャッチボールのスキルが発達しないのです。

■「学校での違和感」「家での違和感」は同じではない

あるいは、幼稚園や小学校で友だちとのコミュニケーションが少なく、集団活動に参加しないような状況をうかがい知ったとしても、「性格の問題だろう」「親の子どもの頃と似ているから不思議ではない」と、あまり深刻に受け止められずに過ごしてしまうケースもあるかもしれません。

発達障害は家族性があるため、親やきょうだい、祖父母などにも、同じような特性をもつ身内が存在している可能性が高く、その場合は問題視されにくい傾向があります。

家族のなかに発達障害の傾向のある人がいると、「うちのなかではこれが普通」となってしまい、誰も違和感をもたなくなるのです。

特に、知的レベルの高いアスペルガー症候群の場合は、学校のテストでは高得点を取り、成績も優秀なことが多く、生活面で生じるつまずきがマスクされやすくなってしまいます。

「勉強ができるから」という理由で、親も学校の先生も、他の問題を軽視しがちになるのです。

■「早期診断」はできるけど「早期治療」は存在しない

そして、成人してから、職場などで人とコミュニケーションがとれない、仕事がうまくこなせないといった問題が突然発覚し、離職や転職を繰り返すことになってから、「なぜ、こんなことになってしまったのか」と、親も戸惑い、頭を抱えることになります。

そのときに、「発達障害ではないか」ということに本人や親が気づき、専門外来への受診に結びつけばまだよいのですが、そうした情報や知識がなく、まったく気づかないままになってしまうケースもあります。

しかし、そもそも「早期治療」は存在しません。母親が周りに合わせなければ! と無理に「しつけ」を強制することは、多くの場合、母親との断絶をまねきます。

むしろ、「変わっていても成績が良い子」を単純にかわいがる祖父母に懐きます。小さい頃、変わっていても家族に受け入れられていたASDの人は、大人になっても性格の歪みが少ないといえるような気がします。

■「暗黙の了解」を共有できない

ASDのなかでも知性の高いアスペルガー症候群の人は、家族にも、学校の先生にも障害を気づかれずに大人になるケースが多いのですが、その特性によるつまずきは、就労の場で顕著になる場合が大半です。

そして、その人のことを発達障害と知らずに雇用した企業では、優秀だと思っていた新入社員が職場で予期せぬ問題をたびたび生じさせることで、上司や同僚が戸惑い、苦慮するという展開になります。

たとえば、周りの人が忙しそうに仕事をしているのに、一人だけ定時でサッサと帰ってしまう。指示された仕事が終わったとき、「終わりました」と報告もせず、「次に何をやればいいですか」と質問してくることもありません。

定型発達の人から見てとれるこうした行動は、ASDの特性が原因で生じる不適応行動の代表的なものです。

周りの人たちに合わせないのは職場によくある“暗黙の了解”を彼らが共有していないからです。周囲の状況から一般には自然と導き出される次のステップに、彼らが自ら移ることは期待できません。

多くの人は、「上司から指示された仕事を終わらせたら、そのことを報告し、次の仕事はどれかを聞きに来るのは当然のこと」と考えるでしょう。

■とにかく苦手なのが「ホウレンソウ」

ASDの人の特徴は、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が苦手なことです。

自分が行った仕事は、相手もわかっているものと考えてしまい、それを上司と共有するために必要な「ホウレンソウ」を行いません。これが積み重なると、周囲との認識のズレが大きくなってしまいます。

面倒なようでも、その日その日の仕事の進み具合を「日報」のような形で提出するように指示することで、こうした問題を解決することができます。

また、彼らは電話応対も苦手です。特に、相手が見知らぬ人である場合は、なおさら困難になります。私たちは、電話で話している相手の口調や声のトーンから、相手が何を求めているかを推測しています。

差し障りのない言葉をはさみながら、自分と何を共有しているかを推測して、失礼のないように、必要な情報を引き出そうとします。

定型発達の人の場合、こういった一連の作業は特に努力を要することなくできてしまうのですが、ASDの人にとっては最も苦手な作業のひとつになります。

その結果、周囲の人から「気が利かない人」「仕事ができない人」「常識がない人」といったレッテルを貼られてしまうのです。

ストレスを感じている人
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rattankun Thongbun

■指示を出してくれさえすれば解決するのに…

一方、ASDの当事者からすれば、「終わったことを報告してほしいなら、最初からそう言ってくれればいいのに」と考えます。

ASDの人は指示されたことは忠実にやりますが、言われなかったことまで、踏み込んでやることはありません。指示した上司が、自分に対してどんな働き方を望んでいるかは想像もつかないからです。

気を利かせてやる、先回りしてやる、ということもしません。そのうえで、「言われていないことをやらないのは当然なのに、それをやらなかったというだけで自分の評価が下がるなんて不条理だ」と考えるでしょう。

このように、ASDの人と一般の人の常識や認識には大きな齟齬(そご)があります。

少なくとも、不適応行動をとっている当事者がASDという発達障害をもっているということを周りの人が把握し、その特性を正しく理解しなければ、双方の隔たりを埋めることは難しいのです。

■周囲の人の方が合わせてあげる

ここで強調しておきたいのは、ASDの人に、「努力して一般の人たちの考え方にあなたが合わせなさい」と求めることには、無理があるということです。彼らは、その理解が困難な障害を負っているからです。

しかし、障害のない一般の人たちに、「ASDの人の考え方を理解して、あなたのほうが合わせてあげてください」と求めることは不可能ではない、ということはできないものでしょうか。

加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)
加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)

職場で、ちょっと変わった人、ちょっと困ったなと思われる人が現れたときに、その人に多数派のやり方に合わせるように強要するのではなく、多数派の人たちが彼らの思いに歩み寄るほうがうまくいくということを理解しておいてほしいと思います。

発達障害に対してネガティブなイメージをもっている人もいるかもしれませんが、発達障害のある人は苦手な分野がある一方で、他人よりもすぐれた能力や得意分野があることも特徴のひとつです。

「発達障害があるから社会で生きていけない」というようなことはありません。家族には、本人の長所やすぐれた部分に着目し、苦手なところには目をつぶるくらいの気持ちで接してほしいと思います。

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加藤 進昌(かとう・のぶまさ)
東京大学名誉教授、医師
1947年、愛知県に生まれる。東京大学医学部卒業。帝京大学精神科、国立精神衛生研究所、カナダ・マニトバ大学生理学教室留学、国立精神・神経センター神経研究所室長、滋賀医科大学教授などを経て、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野教授、東京大学医学部附属病院長、昭和大学医学部精神医学教室主任教授、昭和大学附属烏山病院長を歴任する。東京大学名誉教授、昭和大学名誉教授、公益財団法人神経研究所理事長。医師、医学博士。専門は精神医学、発達障害。2008年、昭和大学附属烏山病院に大人の発達障害専門外来を開設し、併せてASDを対象としたデイケアを開始。2013年からは神経研究所附属晴和病院(現在は新築中につき小石川東京病院で診療中)でもリワークプログラムと組み合わせた発達障害デイケアを開設した。2014年には昭和大学発達障害医療研究所を開設し、初代所長に。脳科学研究戦略推進プログラムに参画するなど、一貫して発達障害の科学的理解と治療、研究に取り組んでいる。2023年より東京都発達障害者支援センター成人部門(おとなTOSCA)が神経研究所(小石川東京病院)に開設され、成人発達障害の相談を広く受け付けている。

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(東京大学名誉教授、医師 加藤 進昌)

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