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Q「死別の苦悩の解決法は」 A「自分の内側で平静や安らぎを見つけよ」噂のChatGPTのご託宣で人は腑に落ちるか

プレジデントオンライン / 2023年3月1日 11時15分

画像=ChatGPTを提供するオープンAI社のHPより

対話型AIツール「ChatGPT」(米オープンエーアイ社開発)の日本語での作文精度の高さが大きな話題になっている。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「試しに『ブッダならば、愛する者と死別する苦しみをどう解決しますか』と問うと、わずか1分後に、487文字の回答が戻ってきた。AIの登場により、人々の“悩み”解決の新たな手段が増えたことになるが、AIは“死”の定義をあいまいにし、宗教の存在を骨抜きにする恐れもある」という――。

■対話型AIツール「ChatGPT」は人の悩みを解決するか

人工知能(AI)の技術が、仏教に急激に接近しつつある。

昨年秋にサービスを提供し始めた「ChatGPT」(米オープンAI開発の対話型AIツール)の作文精度は驚くほど高く、仏教界でも話題になりつつある。AIの登場により、人々の「悩み」の解決に導く新たな手段が増えたことになる。しかし、AIは「死」の定義をあいまいにし、宗教の存在を骨抜きにしてしまうことも考えられる。シンギュラリティの時代の到来は、宗教界をどう変えるのか。

近年、仏教界にDXを取り入れる動きが加速している。デジタルによる決済、オンラインによる法事や法事予約システム、クラウド型檀家管理システム、墓地販売システムなどの導入である。寺院DXの多くは、寺院の運営や管理に関する「内向き」のものだ。

そして、一般の人々や檀信徒に向けた「布教」や「グリーフケア」などの「外向き」の分野においても、DXの波が立ち始めた。すでに、ネット掲示板やZoomを使って、僧侶と対話や悩み相談ができるサービス(hasunoha=ハスノハなど)が登場し、かなりの支持を集めている。

2年前には京都大学発のスタートアップ企業テラバースが「ブッダボット」と呼ばれるサービスを開始。ブッダボットは、現代人の悩みや社会課題に対して仏教的観点から回答する仏教対話AI。最古の仏教経典『スッタニパータ』から抽出したQ&Aリストを、AIに学習させた。スマホ上にブッダのデジタル画像が浮かび上がり、「コロナ禍をどう乗り越えればよいでしょうか」などの悩みに回答してくれる。

しかし、ブッダボットのサービス開始時は「傲慢になってはいけない」など、荒っぽさの残る回答に終始していた感は否めなかった。回答パターンも200通りと少なかった。

同社は昨年末には、この技術を発展させ、さらに企業人や仏教学者ら知見を取り入れた「仏教哲学コンサルティングサービス」も始めた。これは「仕事がつらい」など、企業の従業員の悩みに対し、仏教の教えに基づいてAIが解決してくれるものだ。

「仕事がつらい」という悩みへの回答例はこのようになる。

■「仕事がつらい」という悩みへのAIの回答は…

「ブッダは、人間である限り、四苦八苦などの苦しみ・辛さは必ず生じるものだと述べています。まずは、辛さを感じること自体、人間であることの証だということを理解しましょう。そのうえで、その辛さがどのようなタイプの苦しみか、何を起因とする苦しみなのか、細かく分析していく必要があります。その過程を通じて、苦しみを解消するための対処法を探し、それを実行していくという形になります。但し、辛さと喜びは表裏一体のものとも言えます。辛い仕事から逃げてもまた別の辛さが襲ってきます」(プレスリリースより)

こうしたAIによる回答が、ビジネスパーソンの悩み解決につながるかどうかは、未知数だ。正直なところ、まだAIが宗教者に取って代わるレベルまでは至っていないようだ。しかし、同社の技術だけをとってみても、AIと仏教とが、かなり接近してきていることは確かである。

2500年前にブッダ(釈迦)によって始まった仏教の教えは、文字(経典)や音声(読経や説法)によって広まってきた。人々の悩み(分からないこと)をいかに、合理的に解決していくか、が仏教のテーマでもある。文字と音声によるアウトプットは、AIも得意とするところ。仏教とAIは親和性が高い。

2022年10月18日、京都大学学内限定イベントでブッダボット体験ワークショップを開催
2022年10月18日、京都大学学内限定イベントでブッダボット体験ワークショップを開催(PR TIMESプレスリリースより)

たとえばAIによる記事の自動作成は、すでに大手新聞社が導入済みである。新聞制作のスピード化と、人手不足を解消する手段として活用されている。単純な「ベタ記事」であれば人間が書いたものか、AIによるものなのかの見分けはつかないレベルだ。

NHKでは、すでに「AIアナウンサー」がニュースを読み上げており、誰が読んでいるのかを教えられなければ、AIとは気づかない流暢な日本語だ。

これまで商業ベースであった文章作成が、一般ユーザーにまで降りてきたのが2022年11月末に公開されたChatGPT(人工知能の研究を行うサンフランシスコ州のOpenAI=オープンAI社が開発した対話型のAIツール)である。わずか2カ月の間で1億ユーザーを突破する勢いで急速に世界に広がっている。

ChatGPTは、何らかの質問をチャット上に打ち込むと、AIが自動的に文章を生成してくれるサービスだ。日本語にも対応しており、使い勝手もよく、無料で使える。音声認識AIと組み合わせれば、対話によるコミュニケーションも可能になる。

筆者も利用してみたが、SNSの文章や学生のリポート水準であれば十分な精度を満たしていた。すでにChatGPTを使った出版物も販売されている。文章を商売にしている筆者としては、少なからず危機感を抱いている。

これまで一般人が情報を入手したいと思えば、検索エンジンで調べる方法があった。しかし、膨大なサイトを閲覧し、能動的に情報を取捨選択しなければならなかった。

また、ネット情報には基本的には著作権が存在し、勝手に引用することは法に抵触する。そのため、外に向けて発信する時には注意が必要だった。しかし、人格のないAIの作文であれば、あたかも「自分の言葉」として自由に発信できてしまう。

■質問「死別する苦しみをどう解決するか」への回答

このChatGPT、私は直感的に「仏教の世界に少なからず影響を与えていくだろう」と思う。なぜなら、そこいらの頼りない僧侶よりも、はるかにまともな回答をしているからだ。

たとえば、こんな質問をしてみた。「ブッダならば、愛する者と死別する苦しみをどう解決しますか」。

わずか1分ほどでChatGPTは、487文字の次のような答えを出した。

「ブッダは、人生における問いかけは避けられないものであると考え、その対処を克服するための方法を提唱しています。

1.無常の理解――ブッダは、すべてのものは無常であることを説き、死もまた無常のひとつであると教えています。愛する者が死を迎えたことは、人生の当然の流れであり、それを受け入れることが大切です。

2.自分自身の執着心を決めること――死別の問題は、愛する者に対する執着が根本的に生じます。

3.慈悲と思いやりの心育むこと――ブッダは、慈悲と思いやりの心を持つことが運命を軽減するための重要な要素であると説いています。共感の心を持つことで、自分自身の導きを軽減することができます。

4.瞑想(めいそう)をすること――瞑想をすることで、自分自身の内側から平静や安らぎを見つけることができます。力を与えてくれます。

5.仏教の教えを実践すること――仏教には、生きることの意義や、死に対する見方など、人生についての深い教えがあります。

以上のように、ブッダは、愛する者と死別する訴えについても、自分自身の内側から解決策を見つけることを提唱しています。自分自身の内側から平静や安らぎを見つけることが大切であることがわかります」

文章としては、やや単調で味気ない部分があるにせよ、少し「味つけ」すれば、一般的な「法話」のレベルは満たすように思う。

仏教では、人間が根源的に抱いている「苦」のひとつに「愛別離苦」があると説く。つまり、「愛する人と別れなければならない苦しみ」のことである。

ChatGPTによる「死とは何か」の回答例
ChatGPTによる「死とは何か」の回答例

しかし、その先にある解決法「ではどうすれば、その苦しみから逃れられるか」までは、ネット検索では十分に対処できない。「仏教2500年の歴史と、叡智を駆使した回答」ができるところにこそ、宗教者の存在意義があった。しかし、ChatGPTでは、その壁も乗り越えつつあるようだ。

一方で、「慈悲の実践」といった、宗教空間や宗教者との関係の中で生まれる高度な「慰め」や「癒やし」などは、ChatGPTでは、まだ手が届いていないのは事実だ。ChatGPTでは、「テキスト(や音声)ベースでの導き」が限界だ。

■ChatGPTのように端的な言葉を示せる僧侶はいるのか

一方で、こういう見方もできる。「実際の宗教の現場で、上記ChatGPTの回答のように端的かつ分かりやすい言葉を示せる僧侶は、どれだけいるだろうか」。先述のように勉強不足、コミュニケーション下手の僧侶よりは、はるかにChatGPTのほうが上手である。質の悪い僧侶は、AIの登場によって「退場」を迫られることもあり得る時代なのだ。

シンギュラリティ(AIが人間の知能を追い越す)の時代を迎えても、宗教者がAIに取って代わられるのはずっと先だと言われていた。しかし、その足音は着実に大きくなっている。

テキストや音声ベースだけではない。AIによる画像の自動生成アプリも登場している。近い将来、ChatGPTやGoogleやアレクサなどの音声対話を組み合わせた自分のアバターが登場するかもしれない。アバターはデジタル上の自分の分身(「不死」を手に入れた状態に近い)となり得るため、「生」と「死」の境界はあいまいになる。

高台寺が導入したアンドロイドの観音「マインダー」。般若心経の教えを伝える。
撮影=鵜飼秀徳
高台寺が導入したアンドロイドの観音「マインダー」。般若心経の教えを伝える。 - 撮影=鵜飼秀徳

「生」と「死」があいまいになる時代の到来は、仏教の基盤、すなわち死を「自分の限界」と位置づけ、「だからこそ、より良い生き方をしなければならない」との教えを揺らがせることにならないか。

これは仏教だけに限らない。常に死の恐怖が存在していたからこそ、多様な宗教が生まれ、存続してきた。宗教は時に、人間の行きすぎた行動を抑制し、倫理や秩序を保つ源泉にもなってきた。

しかし、AIが「死」をあいまいにし、AIが既存の宗教の代役を果たす段階に入ってきている。シンギュラリティの到来が今後、宗教界にどんな影響を与えるのか。技術の進歩は、組織の新旧の入退場を促してきた歴史がある。

100年先、いやもっと早くにAIは「神」や「仏」になり得るのか。その時、社会の倫理は崩壊するのか、新しい秩序がもたらされるのか。それはまだ、誰にも分からない。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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