1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

じつはモナカではなかった…世界的大ヒット「ハーゲンダッツのクリスピーサンド」の超意外な生まれ方

プレジデントオンライン / 2023年3月1日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LordRunar

アイスの王様、ハーゲンダッツの「クリスピーサンド」が大ヒットしたのはなぜなのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「常識や思い込みを取り払って、アイスとタコスの組み合わせに挑戦したことでクリスピーサンドのようなヒットが生み出された」という――。

■ハーゲンダッツの大ヒット商品「クリスピーサンド」

1961年、「大人も満足できるアイスクリーム」としてニューヨークで生まれたハーゲンダッツは、いまや世界中で愛される「高級アイスの王様」だ。そのハーゲンダッツの中でも、日本で「新しいアイス」として開発されて人気を集め、その後、世界に販売を拡大したヒット商品が「クリスピーサンド」である。このクリスピーサンドは、じつはアイスとメキシコ料理の「タコス」を組み合わせるという斬新な発想から誕生した。

■ハーゲンダッツにとって特別な場所である日本

ハーゲンダッツにとって、日本は特別な場所といえる。その理由のひとつは、小さなミニカップが人気を集める点だ。海外ではファミリー向けの大容量サイズの販売が主流なのに対して、個人向けのミニカップが飛ぶように売れる日本は、世界の中でも特別な市場である。

もうひとつの理由は、日本オリジナルのヒット商品が次々に誕生する点にある。例えば、アイスとやわらかなモチが組み合わされた「華もち」シリーズは、日本国内のハーゲンダッツ史上、最も人気となった大ヒット商品だ。これは、通常は冷凍すると硬くなってしまうモチを、人口添加物を使わずにちょうどいいやわらかさになるように2年かけて開発した、日本オリジナル商品である。

たてた抹茶
写真=iStock.com/Ivan Bajic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ivan Bajic

現在では定番の「グリーンティー(抹茶)」の味も、日本オリジナルの新フレーバーとして開発された。企画段階ではアメリカの本部から反対されたが、彼らを京都の茶室に招いて抹茶の美味しさを体感してもらうなどして説得し、苦労の末に商品化した。その後、日本国内だけでなく、世界でも販売されるようになった人気フレーバーだ。

そんな日本オリジナルのヒット商品の中でも、「新しいアイス」として7年かけて開発されたのが、2001年に発売された「クリスピーサンド」である。クリスピーサンドは、なめらかなアイスクリーム、パリパリ食感のチョコレートコーティング、そしてアイスを挟んだサクサク食感のウエハースという3層構造によって新たな美味しさを実現した商品だ。これは、もともと、「片手で食べられて、棒アイスや、モナカやクッキーで挟むような既存のアイスとは異なる、新しい驚きのある商品」について検討するなかで、斬新な組み合わせの発想からスタートした。

■モナカやクッキーでなく「タコス」がヒントに

ある時、開発担当者がたまたま訪れたメキシコ料理店で食べたタコスが、偶然の出会いとなった。タコスは、肉や野菜などの具を、トウモロコシから作るトルティーヤと呼ばれる薄焼きパンで挟んで食べるメキシコの国民食である。タコスを食べた開発担当者の「タコスのようなサクサク食感をアイスに組み合わせることはできないか」という発想から商品開発が進められた。

3つ並んだタコス
写真=iStock.com/bhofack2
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bhofack2

これまでもモナカやクッキーでアイスを挟んだり、つつんだりするものはあったが、どれもアイスが溶けてくるにつれて湿気ってしまい、サクサク食感が持続しないものだった。それに対して、アイスとタコスを組み合わせる新発想で、食べ始めてから食べ終わるまで、ずっとサクサク食感を楽しめる新しいアイスの実現が目指された。最初は、タコスの形状をそのまま再現する試作品を開発してみたというが、不安定で、なかなか上手くいかずに断念した。

■サクサク食感を徹底的に追及

そこで考案されたのが、アイスとコーティング、それを挟むウエハースという3層構造である。アイスのなめらかな味わいを際立たせるため、チョコレートコーティングは約1ミリの厚さでパリパリ食感にこだわって開発された。コーティングは、アイスの水分がウエハースに吸収されないように壁となる役割も担っている。だから、アイスが溶けてきても、その水分でウエハースが湿気ることなく、ウエハースのサクサク食感がずっと楽しめる。また、ウエハースは独特のサクサク食感のため、素材選び、原料の配合率、硬さ、焼き上げる温度などを徹底的に追及した。

「新しいアイス」としてこだわり抜いた開発を経て、7年越しで実現されたクリスピーサンドは、2001年の発売開始後、すぐに人気を集め、生産が追いつかなくなって一時販売休止するほどの大ヒット商品となった。それから20年間の累計販売数は5億個を突破しており、日本だけでなく、世界でも人気の定番ヒット商品になっている。

■思いつきで試すことで「新しい何か」に出会える

このハーゲンダッツ「クリスピーサンド」の成功は、ヒット商品を生み出すために有効なふたつのヒントを教えてくれる。ヒントのひとつ目は、水平思考(ラテラル・シンキング)だ。水平思考とは、「組み合わせ」「置き換え」「逆転」「強調」「除去」「並べ替え」など、あえてロジックから外れて、「新しい何か」を探すための非論理的な発想法である。

黒板に描かれた電球と「Good Idea」の文字
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

一見無関係なAとBを新たに組み合わせてみるとどうなるか。商品やサービス、ビジネスモデルの一部を別の何かで置き換えてみるとどうか。弱みを強みにしたり、機能を逆にしたり、上下左右を反対にしたり、といった逆転の発想をしてみるとどうなるか。すでに持っている強みや特長をさらに強調してみてはどうか。弱みや課題は、いっそのこと商品から削除してみたらどうなるか。順序の並べ替えは、どんな変化を生み出すか。

クリスピーサンドは、開発担当者が偶然に訪れたメキシコ料理店で思いついた「アイスとタコスを組み合わせてみる」アイデアから誕生した。このように、「なぜそうするのか」というロジックはいったん置いておいて、思いつきで試してみることによって、ロジックだけでは辿り着けない「新しい何か」に出会える可能性が生まれる。商品開発のとき、「いつものやり方」で行き詰まったら、一度発想を飛ばしてみて、理屈や前例から外れた新発想から思いもよらない新発見を探してみるといい。

■イノベーションは革新的なものだけじゃない

もうひとつのヒントは、「新しい組み合わせ」の概念だ。新しい価値を創って広めることを「イノベーション」と呼び、多くの企業がこのイノベーションの創出を目指している。イノベーションというと0から1を生み出すような革新的なものだけが該当するように誤解されやすいが、じつはイノベーションは「新しい組み合わせ」と定義されている概念である。

世の中のイノベーションの大半は、0から1ではなく、新しい組み合わせによって創られたものだ。アイスとタコスの組み合わせから「新しいアイス」を実現したクリスピーサンドのように、常識や思い込みを取り払って、新しい組み合わせに挑戦することで、現状を打開するヒットを生み出すチャンスが生まれてくる。

----------

永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。

----------

(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください