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日本のサラリーマンの半分以上は「負け組」を自覚している…諸外国に比べてダメ人材が増えてしまった根本原因

プレジデントオンライン / 2023年3月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

日本人の勤労者のうち「社外学習を行っていない人の割合」は46.3%で、世界的に見てもダントツで高い。なぜ日本人は学ばないのか。徳岡晃一郎、房広治『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』(KADOKAWA)より、紹介しよう――。(第2回)

■なぜ日本は「学ばない国」になってしまったのか

リスキリングへの機運の高まりは、そもそも学びが欠如している危機感の裏返しでもあります。残念ながら日本はいつの間にか「学ばない国」になってしまっています。

まず、企業の人材教育のレベルが低下しています。欧米に追いつき追い越すことが目標であった高度経済成長までの時代、日本企業は人材への投資を重視し教育に大きな予算を振り分けていました。

転機になったのは、追いつき追い越す目標を達成してしまった頃でしょう。1980年代を通じて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」というおごりが出てきたところで学びに対する貪欲(どんよく)さが薄れました。そこに、バブル崩壊が続き、企業として人材教育に振り向ける予算が削られ、そのまま学ばない姿勢が定着してしまいました。

イノベーションが求められる今の時代、企業にとっての従業員教育は「投資」であると捉えるべきです。にもかかわらず、現状では多くの企業がこれを「コスト」と捉えています。よって、収益性という観点からは削減の対象とみなされます。GDP比で見た人材投資(OJT以外)の国際比較(図表1)を見てください。

他の国に比べて人材への投資が少ないばかりではなく、その比率が年々低下していることがわかります。

【図表】人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)
出典=『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』

■生活に「学び」を取り入れていない人がダントツで多い

社外学習や自己啓発を行っていない人の割合(図表2)も目を覆うものがあります。日本企業の人への投資が減少しているばかりか、個人としても生活や習慣のパターンの中に、学びが位置づけられていないということです。

【図表】社外学習・自己啓発を行っていない人の割合
出典=『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』

OECD(経済協力開発機構)による「高等教育機関への30歳以上の入学者の割合」(図表3)のデータを見てみましょう。これは、MBAなどの大学院レベルの教育を受ける人の割合と捉えることができます。

【図表】30歳以上の「修士」課程への入学者の割合(2015年)
出典=『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』

■やる気が下がり、イノベーションが生まれない悪循環

日本は27カ国中下から7番目です。12.9%という割合は、27カ国の平均26.3%に遠く及びません。MBAがすべてというわけではもちろんありませんが、経営者やリーダーとしての教育、プロフェッショナルとしての高度な学び、それに対する意識の高い人材が少ないということは言えるのではないでしょうか。

「学ばない」ことがビジネスパーソンの習慣として定着した結果、個人の現場のスキルだけではなく、企業全体や社会全体の経営力やリーダーシップが弱まっていると言わざるを得ません。人材教育への投資や人件費が削減され、一方では給料が上がらず自分への教育にかけるお金や関心がない、その結果イノベーションは生まれず、企業は収益性が低下する中でさらに人材に対する支出を抑える……こうした悪循環によって、勝ち組と負け組が生まれる構造ができあがったわけです。

次に図表4を見てください。実線は出世したいと考える人、破線は出世したいと思わない人のそれぞれの割合です。年齢を重ねると共に出世したいと考える人の割合が急激に低下し、逆に出世をしたくない人の割合が高まります。

【図表】40代でのキャリア観の変化(1)
出典=『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』

この2つが交差するのが42.5歳です。つまり、多くの人が40代前半で出世を諦(あきら)めてしまうということです。

■日本の勤労者の半分以上は「負け組」

同じような傾向がキャリアの終わりに関する意識にも表れています(図表5)。「自分のキャリアはもうこれで終わりだ」と考える人の割合と、「自分のキャリアはまだまだ伸びる」と思う人の割合は45.5歳で反転します。

【図表】40代でのキャリア観の変化(2)
出典=『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』

出世したくない上にキャリアも伸びないと思っている人たちが居座り、成長したいという意欲のある人を抑えつけてしまっている――ダイナミックな組織になるのを妨げる重しである、いわゆる「粘土層」を形成し組織の沈滞化を招いているのが現状なのです。

残念ながら、日本の勤労者の半分以上は今では負け組ということになります。本当の負け組というよりは、学びを放棄し自分自身で自分を負け組と位置付けているというべきかもしれません。変化が速い時代に、学ぶのをやめることは、経済社会全体の悪循環までを引き起こすのです。

これは雇用の流動性・キャリア自律意識を高めずに、勝ち負けだけでレッテルを貼るような安易な成果主義を導入したツケでもあり、人的観点から日本企業の成長を縛る構造問題であると言えます。

辞書を引きながらノートパソコンでオンライン学習中の女性の手元
写真=iStock.com/graphixchon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/graphixchon

■「ギラギラ」したことを好まない日本人

こうして日本の地盤沈下は止まりません。「学ばない国・日本」の国際競争力が低下しているのは当然の結果でしょう。日本はモノづくりを基盤とした工業生産力モデルで躍進してきましたが、一時の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」のおごりとバブル崩壊を経て、世界のデジタルシフトに対応したビジネスモデルイノベーションができずに成長できない、いわゆる「失われた30年」が今も続いているのです。

なぜ個々人が学ばなくなったのか? その理由はいくらでもあります。学ぶ習慣がない、学んでもしょうがない、学ばなくても大丈夫、学びは会社任せ、学ぶ金がない、学ぶ暇がない、学ぶメニューがありすぎて選べない、学ぶのは苦痛、学ぶより今の楽しみを追求したい……。

日本は依然として世界第3位の経済大国であり、やりたいことができる環境がある程度整っています。その一方で、あえて何かにチャレンジするよりは、現状の範囲内でやれる範囲のことをやるほうが安心だとも考えられます。

リスクを取って何かを変革したい、起業したい、新しいことに挑戦したい……というのは「ギラギラ」したことで、安全運転して、怒られないように、失敗しないように、ネガティブなものを寄せ付けないようにすることをよしとする風潮もあるでしょう。

■学び直しは今や、生き残るために不可欠なもの

リスキリングに関する本を手に取っている方の中にも、本音では「頑張る必要などあるのか?」と思っている方もいることでしょう。

リスキリングが人生を輝かせる今、あらためてリスキリングを模索すべき理由は、果たしてどこにあるのでしょうか? 外部環境は激変しています。デジタルトランスフォーメーションが企業や国にとっての待ったなしのアジェンダになる一方、個人は人生100年を生き抜くことが求められるようになっています。その中で取り残されないようにしようという危機感を持つと同時に、学び直しをすることで新しい可能性や選択肢が広がることに目を向ける必要があります。

現に、Z世代は最初の会社に2~3年勤めてスキルを身につけた上で転職することが前提の「転職ネイティブ」とも言われています。入社や終身雇用がゴールなのではなく、スキルを身につけた上でキャリアアップしていくことを前提にしているということです。昨今の就職人気ランキングではかつて花形と考えられていた大手総合商社や金融機関、有名メーカーよりもコンサルティング企業が脚光を浴び、IT企業への関心も高まっています。

■1つの会社にとどまり続けるリスクが意識されている

スタートアップやベンチャー企業に就職して腕試しをしたいと考える学生も増えています。若いうちからスキルを更新し続けていこうという意識が高まっており、新しいスキルを身につけ続ければキャリアの可能性が広がると考えられているのです。逆にいえば、1つの会社にとどまり続けるリスクが意識されているということです。

徳岡晃一郎、房広治『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』(KADOKAWA)
徳岡晃一郎、房広治『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』(KADOKAWA)

今はVUCAの時代だと言われています。社会はVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)に満ちており、今後を予測することは極めて難しいという時代認識です。その中で諦めるのでもなく、組織にしがみつくのでもなく、前を向いていきましょう。またあれもこれもとじたばたしてもしょうがないので、そこは戦略的に学びましょう。

リスキリングのために必要なスキル、すなわちシナリオ、スピード、サイエンス、セキュリティの「4つのS」を軸にリスキリングに向き合い、現状に安住せずにそこから飛び出し、未来を志向して価値を発揮し続ける存在でありたいものです。

それが個人の人生を永続的に豊かにし、企業や社会経済の活性化につながっていくのです。

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徳岡 晃一郎(とくおか・こういちろう)
「ライフシフト」CEO/多摩大学大学院教授・学長特別補佐
1957年生まれ。日産自動車で人事部門、オックスフォード大学留学、欧州日産などを経て、人事、企業変革、リーダーシップ開発などのコンサルティング・研修に従事。2006年より多摩大学大学院教授を兼務し研究科長などを歴任。17年にライフシフト社を創業しライフシフト大学を開校。『未来を構想し、現実を変えていく イノベーターシップ』(東洋経済新報社)、『人事異動』(新潮社)、『ミドルの対話型勉強法』(ダイヤモンド社)、『しがらみ経営』(共著、日本経済新聞出版社)など著書多数。

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房 広治(ふさ・こうじ)
「GVE」CEO/アストン大学サイバーセキュリティイノベーションセンター教授
1959年生まれ。英系インベストメントバンクS.G.Warburg社の元M&Aバンカー。インベストメントバンキング部門において97年に日本でナンバーワン。クレディ・スイスの立て直しにヘッドハンティングされ、2003年まで、DLJディレクトSFG証券(現楽天証券)の取締役。設立6年目の会社GVEは日本のユニコーン企業。現在、オックスフォード大学特別戦略アドバイザー(小児学部)も務めている。

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(「ライフシフト」CEO/多摩大学大学院教授・学長特別補佐 徳岡 晃一郎、「GVE」CEO/アストン大学サイバーセキュリティイノベーションセンター教授 房 広治)

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