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「司法試験をあきらめるような子はいらない」子供に理想を押し付ける"リベンジ型子育て"の末路

プレジデントオンライン / 2023年3月3日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

子育てにはどんな落とし穴があるのか。『高学歴親という病』(講談社+α新書)の著者で、文教大学教授の成田奈緒子さんは「自分の夢を子供にたくす『リベンジ型子育て』には注意したほうがいい。私が相談を受けた事例では、司法試験をあきらめた息子を家から追い出してしまった母親がいた」という――。(第2回/全3回)

■「親の学歴を教えちゃダメだよ」

――前回の記事では、高学歴親の高いプライドが子どもを追い詰める、という話が印象的でした。

【成田奈緒子】親の出身校を子どもに言わせないという親御さんもいます。その親御さんは両親ともに東大出身なのですが、お子さんに「もしも私たちが東大出身だと周りの友達に言ったら、あなたはお友達に妬まれていじめられるからね」と言ったそうです。

しかし、そのためにお子さんはほかのことも友達に隠すようになりました。その結果、友人関係は破綻し、学校にも行けなくなり、さまざまな症状に苦しみました。

■司法試験をあきらめた息子を追い出す母親

――『高学歴親という病』には、司法試験をあきらめた息子を家から追い出した、という衝撃的なエピソードもありました。

【成田】両親ともに東大法学部卒で、父は現役の弁護士というご家庭のお話ですね。息子さんは小学生の頃から夜中まで自主的に勉強して、高校のときは留学して英語力も伸ばしました。東大法学部を目指したものの、試験の点数が少しだけ足りず、他大学へ行きましたが、在学中の司法試験合格を目指して、予備校でも猛勉強を始めます。

でも、大学3年生の夏になったとき、息子さんは周囲との連絡を一切絶ち、司法試験を受験しなかったんです。母親は弁護士にならなかった息子を受け入れられなかったようで、家から追い出してしまいました。

――親御さんと息子さんはもともと不仲だったのですか。

【成田】母親は息子さんを溺愛していましたし、息子さんも高校まで母親に朝晩送り迎えしてもらって友人とも遊ぶことがない、まさに共依存の関係でした。母親自身は弁護士ではなかったので、息子を弁護士にしたかったのでしょう。だからこそ、子どもが「自分は親の所有物で、親の希望を反映させる身代わりだ」と気づいたときに、それまでの感謝が落胆や憎悪に変わったのではないかと思います。

このように、子育てを、自分の人生に対するリベンジのようにとらえている「リベンジ型子育て」をする親御さんは珍しくありません。

■「非高学歴の妻」が背負うプレッシャー

【成田】「リベンジ型子育て」では、高学歴な旦那さんと結婚した非高学歴の妻による子育てがより典型的です。たとえば、結婚した夫の家柄が何代も続いた医者の家系だったりすると、生まれた子どもたちを全員医学部に入れて、跡継ぎをつくらなければならないというプレッシャーがかかるわけですね。

家庭教育の概念、母親と一緒に勉強している少年
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

リベンジしたい親は子育てを焦るため、小さい頃から塾に行かせるといった早期教育に走る傾向があります。全員が全員そうなるとは言いきれませんが、そうした焦りがすべて子どもに向かってしまい、親御さんからかけられてきた重いものを背負いきれなくなって爆発してしまうリスクはやはりあると思います。

――自分だけが非高学歴だと、余計に肩身が狭くなりそうですね……。

【成田】非高学歴の妻がどうしてそうした子育てをしたのか、といった原因を調べてみると、婚家の姑や舅によるプレッシャーであることが多いんです。

そうした焦りをご自身の中でうまく消化し、子ども自身が「お父さんの家系ってすごいな、僕も跡継ぎになりたいな」と自発的に思えるような環境を目指せればいいのですが、簡単ではないようです。

■「私の欲しかった子どもではありません」

――子どもが自分の期待通りの結果を出せなかったときに、子どもを見捨てる親御さんもいるそうですね。

【成田】おっしゃるとおりです。「この道に進ませるしかない」「この家を継がせることが私の使命である」と思い込んでしまうと、子どもがその道以外に進んだときに、私からすると人格否定としか思えない言葉を平気で言ってしまうんです。

最も印象に残っているのは「こういう子どもは、私の欲しかった子どもではありません」と真顔で言われたことでした。

――そのケースには、どのように対応されたのですか。

【成田】「なるほど、そういう風に思うわけですね」と傾聴して、すべて共感します。そのうえで、「私は児童相談所の嘱託医もやっているから、私から通告したら一時保護もできますよ」と言うと、「そういうことではありません」と真顔で言い返されたこともありました。

こうした親御さんは、理想の立て方が根本的に間違っていると思うんですよね。理想の子ども像を職業に置くと、その職業につけなかったら子育てが失敗したことになってしまいます。子どもを希望通りの職業に就かせようとするなんて、宝くじを当てるよりも難しいということをまずは理解してほしいですね。

■体重が同世代の3分の2になってしまった小4女児

――書籍で紹介されていた、体重が同世代の3分の2になってしまった小4女児のお話も衝撃的でした。

【成田】大企業に勤めながら小学生4年生の子どもを育てていたルミさんのお話ですね。ルミさんは子育てに一生懸命で、娘さんには有機野菜やブランド食材でつくった手作りの料理しか食べさせていませんでした。

両親から愛情を注がれて育った娘さんは学校の成績も抜群で、お父さんの趣味でもあったトライアスロンを始めたときは、参加した大会の部で表彰台に上がるほどの才能を見せるなど、何でもできる子だったと聞いています。

ただ、トライアスロンの結果が出るように、ルミさんがより厳選した食材で調理するようになり、娘さんもストイックな食事制限で応えようとするうちに、だんだんと食べられなくなってしまったんですね。私たちのもとに診察に来るようになって、娘さんとも関係を築けるようになった頃、「どうして食べられなくなったのかな?」と尋ねてみました。すると、彼女は「ママが素敵すぎるから」と答えたんです。

――衝撃的な答えですね。

【成田】ルミさんはご自身の容姿にもかなり気を使っていらっしゃって、お子さんを産んだとは思えないような体形だったんです。食べ盛りで体を大きくしないといけない時期なんですが「ママみたいになれなくなったら困る」と娘さんは不安になってしまったんですね。親御さんの完璧主義が子どもを追い詰めてしまう典型的な例のひとつです。

■「ママに嫌われる」という動機で摂食障害に

――摂食障害は思春期以降の女性に多いイメージがありました。

【成田】私が医学部に在籍していた1980年代には、摂食障害の診断基準のひとつに「思春期以降」という項目があって、それ以前に摂食障害と診断されることはあり得なかったんです。

それなのに、アメリカから帰ってきた頃には、小学生で拒食症になる事例が増えていて、非常に驚きました。性別比も98:2で女性が多かったのに、拒食症と診断される男性も増えています。今では性別に関係なく起きる低年齢型の拒食症が診断基準に追加されています。

――低年齢型の拒食症や拒食症の男児は、なぜ増えたのでしょうか。

【成田】従来の拒食症は「私の体が自分の理想と違う」というボディイメージとの乖離が原因になっているのに対し、低年齢型の拒食症は「ママと同じになれない不安」や「ママに嫌われてしまう不安」といった「見捨てられ不安」なんですよね。

脂肪や肥満の子供を助ける, 体重計の幼児と, 親によって監修
写真=iStock.com/adrian825
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/adrian825

小学生男児が拒食症になってしまう理由も基本的には同じです。たとえば、小さいときから「なんでも残さず食べなさい」という親御さんの強迫的な教育のもと、親が作ったごはんをきっちり食べることを見せることによって親を安心させるという関係性を築いてきていた男児がいたとします。

そうした男児が給食という誰がつくったかわからない食べ物をどっさり盛られて、これを食べきれないかもしれないと思ったときに「ママに嫌われる」という思考に結びついてしまうんですね。

■「理想」ではなく親子関係が症状の原因

――「自分の理想」ではなく親子関係が影響するのが、子どもの拒食症なんですね。

【成田】もちろん「クラスメイトからのいじめ」といった表層的なきっかけもあるのですが、その深層には母子分離不安があることがほとんどです。

要するに、母子間の愛着形成がうまくいっていないのですが、親御さんとしてはむしろ愛情をたくさん注いでいると思っている。そしてお子さんも、ママが好きで好きで仕方ないけれど、だからこそ「嫌われたくない」という不安を抱いてしまう。

■お金があるからこそ子どもに無理させてしまう

――高学歴と完璧主義が子どもを追い詰めているんですね。

【成田】私の中では高学歴の大きな問題点として、高収入もあると思っています。経済的に余裕があると、子どもにお金をどんどんつぎ込んでしまうのです。

――小4の娘さんが拒食症になったルミさんも、大手企業に勤めていて高収入だからこそ、食のこだわりを徹底できたわけですもんね。

【成田】そうなんです。さらに、子どもにお金をかけすぎると、子どもにお金の価値を理解させられないだけでなく、親のほうも「子どもにこれだけお金をかけているのだから、見返りとして、いい大学やいい会社に入ってほしい」と期待するようになります。

■お金があってもないふりをしたほうがいい

――高学歴でも子どもにお金をかけすぎなければ、子どもに負担をかけづらくなるのでしょうか。

成田奈緒子『高学歴親という病』(講談社+α新書)
成田奈緒子『高学歴親という病』(講談社+α新書)

【成田】本当にそうなんですよ。お金がない家の子どもは、小さいうちからお金の使い方も学んでいきますし、「できるだけ早く働いて、お母さんにお金を渡すね」と言っている子もいます。

実際、引きこもりになっていた高校生の娘さんは、高学歴のお父さんが精神疾患になってしまったことで家計の厳しさを知り、次の日にバイトの面接に行きました。5年ぐらい誰とも話していなかった子がレストランでの接客を急に始めて、最初のお給料を家計に入れたのです。

だからというわけではないのですが、アクシスに来てくださる親御さんには「あなたのご家庭はすごくお金持ちだと思いますが、お金がないふりをしたほうがいいですよ」と話しています。

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成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部教授、「子育て科学アクシス」代表
1963年、仙台市生まれ。米国セントルイスワシントン大学医学部、獨協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より現職。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。主な著書に『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(山中伸弥氏と共著)『子供にいいこと大全』『子供が幸せになる「正しい睡眠」』(共著)『高学歴親という病』など。

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(文教大学教育学部教授、「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子 構成=佐々木ののか)

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