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心の中の「天使」と「悪魔」、どちらの声を聞くべきか…レディー・ガガの主治医が教える「強いメンタル」の作り方

プレジデントオンライン / 2023年3月6日 13時15分

2022年3月13日、米歌手レディー・ガガさん(イギリス・ロンドン) - 写真=AFP/時事通信フォト

ネガティブな感情に流されない「強いメンタル」を作るには、どうすればいいのか。レディー・ガガの主治医で、精神科医のポール・コンティさんは「誰でも大なり小なりトラウマを抱えている。そうした心の葛藤を意識して声に出してみると、感情に流されずに行動できるようになる」という――。

※本稿は、ポール・コンティ『trauma トラウマ 誰もが傷ついた心をもっている』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■自分自身が自分の味方になる

トラウマに立ち向かうには、味方に頼ることが大切だ。家族や友人、医師やセラピスト、ペット、サポートグループ、薬、庭、なんでもいい。

ほかの人の助けがあれば、本来の自分を思い出し、自分の本当の地図が見つけやすくなる。人生で行きたい場所に向かうための、新しい進路の計画に助言ももらえる。

とはいえ、自分にとってのよりよき味方になることも学ばなければならない。これもさまざまなかたちをとる。ポジティブな心の声、心をこめたセルフケア、自信、自己主張、健康について熟慮した選択をする習慣、仕事、いっしょに過ごす人。

ときどき子どものころによく観ていた昔のアニメを思い出す。ほとんどは頭を使わずに観られる軽い作品だったが、バックにはすばらしい音楽が流れていることが多く、ときには人生の教訓も含まれていた。

悪いことをしようかどうか考えているキャラクターの肩の上に天使と悪魔が現れるのを何度も見たのを覚えている。天使と悪魔はそれぞれ自分の主張をし、おたがいに言い合い(取っ組み合いになることも多い)、その人物は最終的に選択をし、予想通りの結果になる。子どもながらに、同じようなことが自分にも起こっているのがわかっていた。

■心の中には「天使」と「悪魔」がいる

ママが別の部屋で電話をしているあいだにクッキーの瓶に手を伸ばすべきだろうか。ぼくが欲しかったおもちゃで遊んでいる弟を後ろから押してやるべきだろうか。プラスとマイナスを比べて、選択肢を検討して、ときには自分の片方の肩にいる天使と反対側にいる悪魔を思い描くことまであった。昔のアニメーターたちがあのような表現方法を使ったのはたまたまではないと思う。なぜなら、私たちのほとんどが感情移入できるからだ。私たちはそれぞれひとつの心を持っているが、そこにはさまざまな面がある。

自分のなかに、はっきりと正反対のことを示す天使と悪魔のような人格や声を経験した人はめったにいないだろうが、それは、そのプロセスが意識下で起こっているからだ。私たちの心は氷山によく似ている。意識的な部分、はっきりわかっていて、世界を体験し、日々の活動をしている部分は、氷山の姿が見える水上の部分だ。しかし、脳内で起こっていることの大半は、水中に隠れている巨大な氷のかたまりなのだ。恐怖や恥や偏見は、この水面下で暗躍する。

■トラウマによる「内なる綱引き」

トラウマが襲ってくると、脳のあらゆる側面に影響し、それによって認知、計算、結論を変えてしまう。これも覚えておいてほしいが、このすべてが知らないうちに起こる。ひとつのことを考えていても、結論を下す段になると、表面下にある私たちの一部は、驚くような結論を示してくる。本当にやりたい仕事の面接に臨もうとしているときに「おまえには無理だ」と言ってきたり、不健全な人間関係から抜け出そうと決めたあとで、「とどまるべきだ、今度はうまくいくから」と言ってきたり、何カ月も何年も前にやめていた依存的習慣を考えていると「今回だけ」と言ってきたりする。

この内なる綱引きは、ほとんどの人になじみがあるだろう。混乱し、心が張り裂けそうになるかもしれない。一方には健康的な天使がいて、結論をよく考えて、自分のことを大事にしてほしいと思っている。反対側にいる悪魔は、あきらめるべきだ、チャレンジするな、気にするな、何も考えずに希望だけ持て、ベッドから出るな、などと自分が人生のよいものにふさわしくないと思わせることならなんでも言ってくる。

■自分の中の葛藤を受け入れて声に出す

トラウマはこのような悪魔をどんどんつくり出し、力を与え、綱引きを落胆と苦痛と悲しみと恥でいっぱいの不釣り合いなものにしてしまう。そのあいだに、私たちはそのなかで引きずりまわされ、悪魔が私たちを泥沼に向かって引っぱっていく。

天使と悪魔の間に立つ女性
写真=iStock.com/ra2studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ra2studio

このたとえにしっくり来て、自分が健康的な衝動と不健康な衝動のあいだの綱引きにとらわれてしまうことがあるのなら、次のことを試してほしい。試すときにはかならず意識的に行うこと。そのプロセスを表面に出し、自分のなかの葛藤を認識する。それがうまくいったら、両肩にいる天使と悪魔(あるいは、葛藤の性質によってどんなタイプのキャラクターを選んでもいい)を想像する。

この方法のいちばん重要なパートは、自分のなかにある意見の葛藤を受け入れて声に出すことだ。こうすると、自分の力を手放すことなく、その渦中にいる自分を想像することができる。それぞれが“引っぱってくるとき”の意見を聞き、意識的な方法でその価値を見極め、最終的に自分にとって最善のものを(選んでもらうのではなく)自分で選ぶ。

■トラウマの優位性に流されてはいけない

生存のためにネガティブなものに注意を向けやすくなる傾向のために、トラウマはすでにゲームで優位に立っている。感情がからむ問題、とりわけ自分についての考えに関して複数の意見があるときにはいつでも、トラウマの優位性が目立ってくる。「私は親としてちゃんとできているのだろうか」とか、「その昇進に見合うような人間だろうか」などという考えだ。このような疑問が浮かぶときは、いちばん声の大きい意見に勝たせてはいけない。そういう意見はたいてい自身のトラウマを抱えた部分から出てきて、そのような部分は恐怖を抱き、恥の感情を抱えているからだ。

ここで示したようなエクササイズはいいものと悪いものを見抜く力を与えてくれる。動きを止めて、自分のなかにある別々のメッセージを意識し、時間をかけて、どれが本物でどれが偽物かを見極めれば、心のなかに最善の策を持つことができる。ただ流されていくのがよくないのは、ドライバーが混乱して方向がわからなくなっていることがあるからだ。運転席には最善の自分を乗せておきたい。こうすれば、トラウマから回復し、より高い思いやり、共同体、人間性へと自分を導いていける。

■犯されなかった殺人

かつて暴力的な人生を送ってきた男性を担当したことがあった。長く服役していて、社会規範などはずっと馬鹿にしていた。自他ともに認める常習犯で、人生の後半になってから私に会いにきたのは、よりよい人間になろうとしていたからだった。孫ができたばかりで、それが人生を変える大きな動機になった。とても熱心にセラピーを受け、予約をキャンセルしたことは一度もなかった。

協力を始めて数カ月たったころ、別の男性がこの患者の家族の一員にひどい罪を犯した。私の患者はその男の家に押し入り、男を待ち伏せして、やったことへの腹いせに彼を殺そうと考えた。待っているあいだに、彼は自分がやろうとしていることについて考え、相手の家族と自分の孫にとってどういうことになるかに思いをはせた。しばらくそうやって考えて、自分がやろうとしていることについての自分の気持ちを味わってから、私の患者はその場を去ることに決め、男の家からこっそり抜け出し、帰宅した。

■もうひとつのサクセスストーリー

その話を私にしながら、彼は自分でも信じられないようだった。実際に自分が暴力的ではないことを選んだのだ。復讐によって正義がもたらされるわけではないし、暴力による結果は、その暴力に見合うものでないことは間違いなかった。彼はこのことを照れながらも誇りをこめて語ってくれた。

これだけでもサクセスストーリーなのだが、この話はそこで終わらなかった。

数カ月後、前夜に暴行を受けた若い患者が朝早く私の診察室にやってきた。午前中の半ばに予約なしの診察時間を設けていて、彼女はその直前にやってきた。受付係があわてて私のところに来て、若い女性が待合室にいると告げた。破れた服を着て、切り傷と擦り傷から血を流し、静かに泣いているという。私が走って彼女に会うために待合室に向かうと、彼女の向かいには、その次に予約の入っていた例のいわゆる常習犯がすわっていた。彼女が到着する前から彼はすでに待合室にいたのだ。

病院の待合室
写真=iStock.com/peshkov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peshkov

■「常習犯」のしたことは、すべて正しかった

長く刑務所で過ごし、規則を破り、暴力をふるって人生の大半を過ごしてきたこの男性が、本当に彼女の助けになってくれた。そして彼のしたことはすべて正しかった。彼女から距離を取って不安にさせないようにしつつ、もうすぐ助けが来るから危険はないし、大丈夫だからと安心させていた。私はこれをすべて入り口から見ていた。自分の予約時間を彼女に譲り、予約なしの最初の時間になるまで待合室に残っていた。

ポール・コンティ『trauma トラウマ 誰もが傷ついた心をもっている』(かんき出版)
ポール・コンティ『trauma トラウマ 誰もが傷ついた心をもっている』(かんき出版)

さいわい、彼女は適切な治療を受け、自分に起こったことから、健康的な人生に変化させる方向に進んでいくことができた。さらにうれしかったのは、彼女とその“常習犯”とのやりとりが彼の人生に大きな影響を与えたことだ。

彼は自分が穏やかになっていると感じた。その女性の助けになれたこと(「普通の人ならやるようなことだ」と彼は言った)と、ごく自然に手を差し伸べられたことにも誇りを持っていた。そして、もし数カ月前にあの男を殺していたら、待合室で彼女を助けることなどできなかっただろうこともはっきりわかっていた。殺人を犯して逃げ延びていたとしても、あんなふうに手を差し伸べられる人間性が持てただろうか。

■思いやりが人生の進路を変えた

この人はとてつもなく長いトラウマの歴史を抱えた男性で、トラウマに苦しむと同時に、ほかの人にもそれを負わせていた。だが、自分の人生の進む道を決める段になって、彼は思いやりを選んだ。トラウマがトラウマを生むことに気づいた。最終的に、それを理解することが、自分の人生の進路を変える助けになったのだ。

この話にはたくさんのことが含まれている。ありそうにないところから与えられる助けや、予期せぬかたちでよりよい方向に進んだ自分に驚くかもしれないことなど。自分の人生を振り返り、岐路に立ったとき、自分がより健康的で、トラウマに押しつけられた選択肢ではないものを選んだときのことを考えてみよう。正しい道に進ませてくれたのはなんだっただろう。思いやりと共同体と人間性のうち、自分の選択のなかにあった要素はなんだろう。

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ポール・コンティ 精神科医
ニュージャージー州トレントンでイタリア系の家庭に生まれる。教職の母、不動産会社経営の父のもとに育ち、ペンシルバニア大学で政治学と数学を専攻。25歳のときに弟の自死を経験し、スタンフォード大学医学部へ進学。その後、ハーバード大学にてチーフレジデントとなる。現在、ポートランドとニューヨークに心療内科専門クリニックを持ち、全米のみならず、海外にもクライアントがいる。レディー・ガガの主治医としても有名。

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(精神科医 ポール・コンティ)

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