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「温めるべきか、冷やすべきか」誤った対処法で症状を悪化させる人が多い"慢性頭痛"の2つのタイプ

プレジデントオンライン / 2023年3月5日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

頭痛の時にはどう対処すればいいのか。産業医の池井佑丞さんは「慢性的な頭痛の大半は、『片頭痛』と『緊張性頭痛』で、ほかにも痛み止めの飲みすぎで起こる『薬物乱用性頭痛(MOH)』がある。それぞれ、対処法がまったく違うので、まずは自分の頭痛がどれにあてはまるか知ることが重要」という――。

■「命に関わる頭痛」「そうでない頭痛」

日本人の4人に1人が慢性的な頭痛に悩んでいると言われています。産業医としての現場でも、頭痛の訴えは頻繁に聞かれるものの一つです。

頭痛は大きく、「命に関わる病気の症状としての頭痛」と「そうでない頭痛」の2つに分けられます。

命に関わる疾患の症状である可能性がある頭痛は「二次性頭痛」と呼ばれ、脳や頭に原因となる疾患(一例として脳腫瘍やくも膜下出血、脳卒中など)や外傷などがあり、その症状として現れます。今までに経験したことのない頭痛や、発熱、麻痺(まひ)、意識障害を伴う頭痛の場合には、早急な受診が必要になります。

対して「そうでない」方の慢性的な頭痛は「一次性頭痛」と呼ばれ、頭痛そのものが疾患として捉えられます。命に関わるようなことは基本的にはありませんが、生活の質(QOL)の低下や生産性低下につながります。また、最近では市販薬の不適切な使用による頭痛も注目されています。「薬を飲めば治まる」「何とか我慢できてしまう」と、軽視されがちな一次性頭痛ですが、誤った対処を続けて症状を悪化させている人も多いため、正しい知識と対処を知っておきましょう。

■慢性的な頭痛の大半は「片頭痛」と「緊張性頭痛」

片頭痛などのいわゆる「頭痛持ち」の頭痛は、ほとんどが一次性頭痛です。この「片頭痛」と「緊張性頭痛」で一次性頭痛の大部分を占めます。これに有病率は低いですが激烈な痛みを伴う「群発頭痛」を加えて一次性頭痛の代表とされていますが、今回は特に患者数の多い片頭痛と緊張性頭痛に焦点を当てて説明します。

「頭痛持ち=片頭痛」と思っている方も多いですが、実は有病率では緊張性頭痛が上回ります。この2つは、適切な対処法がまったく異なります。それぞれの特徴をご説明しますので、自分の頭痛の種類や対処法を正しく理解しておきましょう。

<痛みの特徴>
片頭痛
拍動性(脈打つような)の痛み
頭の両側が痛む場合もあるが、片側が痛む場合のほうが多い

緊張性頭痛
頭が締め付けられるような痛み(圧迫感)
首筋にかけての痛みや肩こり、目の痛みを伴う場合が多い

片頭痛では吐き気や嘔吐を伴うことがありますが、緊張性頭痛ではほとんどありません。頭痛の発作が出た時に体を動かすことで痛みが強くなったり、光や音に敏感になる場合は片頭痛です。緊張性頭痛の場合はそのような要因で症状が悪化することはありません。

■血管が広がることで痛みが生じる片頭痛

<代表的な誘因>
片頭痛
寝不足、寝過ぎなどの睡眠要因、飲酒、天候や気圧、月経周期など
ストレスから解放されたことがきっかけとなることも(週末頭痛)

緊張性頭痛
筋肉(肩や首)の緊張による血行不良
長時間同じ姿勢、VDT症候群(パソコンやスマホなどの長時間操作で起こる症状)、骨格の歪みなどに起因する

片頭痛の誘因はさまざまですが、脳の血管が拡張する際に生じる痛みが片頭痛の原因であるといわれています。飲酒、気圧の変化などは血管拡張のトリガーとなるものです。

自律神経の働きにも血管の収縮・拡張の作用があります。自律神経は交感神経・副交感神経がバランスを取り合うことで体を環境に適応させる役割を持つ神経です。心身がリラックス状態の時には副交感神経が優位となりますが、このとき血管を拡張させる作用もはたらきます。これが睡眠に起因する片頭痛やいわゆる週末頭痛の一因ともなります。

また、統計から片頭痛は男性よりも女性に多いことがわかっています。女性ホルモンのエストロゲンが片頭痛の誘因因子であり、月経周期で分泌が変動するタイミングで片頭痛が生じやすくなることもその一因と考えられます。

■冷やす方がいい「片頭痛」、温める方がいい「緊張性頭痛」

片頭痛と緊張性頭痛とでは頭痛発作時にとるべき対処法が異なります。

まず、片頭痛の基本は患部を冷やすことですが、緊張性頭痛では温める方がよいです。片頭痛では光や音、体動により痛みが増すため、静かな暗所で安静にすることが効果的です。入浴は血管を拡張させるため発作時には避けましょう。

逆に緊張性頭痛では体を動かすことが推奨されます。適度な運動が筋肉の緊張を和らげ血行改善につながるためです。痛みが強い場合には無理をせず軽いストレッチやマッサージでもよいでしょう。ゆっくりと入浴し心身をリラックスさせることも効果的です。

<対処法>
片頭痛

患部を冷やす
静かな暗いところで安静にする(光や音、体を動かしたり入浴したりすることは避ける)

緊張性頭痛
患部を温める
体を動かす(筋肉の緊張を和らげ血行をよくする)
ストレッチやマッサージ、入浴をする

前出の通り、一次性頭痛は放置しておいても命に関わるものではないですが、生活に支障が出ている場合には無理せず受診することをお勧めします。治療には、片頭痛には薬物療法が、緊張性頭痛には生活習慣の改善が用いられることが多いという違いがあります。また、どちらの場合にも、原因に精神的ストレスがある場合には神経内科や心療内科での治療が必要と判断されることもあります。

ただ、実際は医療機関の受診に至らない方が大半です。片頭痛患者の60.8%、緊張性頭痛患者では48.1%が市販薬で対処しているとの調査結果もあります(※1)。鎮痛薬(痛み止め)は、適切に使用すれば一次性頭痛の対処法として有効ですが、自己流の対処を続けることがよくないケースもあります。

※1 Suzuki et al, "Prevalence and Characteristics of Headaches in a Socially Active Population Working in the Tokyo Metropolitan Area ―Surveillance by an Industrial Health Consortium".  Internal Medicine. 2014;53:683-689

■「痛み止め」が頭痛の原因に

片頭痛や緊張性頭痛が多いのは確かですが、頭痛には他にもさまざまな種類があります。例えば、恒常的にカフェインを摂っている人がカフェインを摂らなくなったときに起きる「カフェイン離脱頭痛」や、睡眠中に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群による頭痛、精神疾患による頭痛などが挙げられます。これらは適切に診断、治療されることが必要なので、自己流の対処で改善が見られない場合には頭痛外来を受診してください。

鎮痛薬の不適切な使用が、かえって頭痛の原因となるケースもあります。これを「薬剤の使用過多による頭痛」〔薬物乱用頭痛(MOH)〕といいます。MOHについては「薬物乱用」という言葉から違法薬物などをイメージするかもしれませんが、慢性的な一次性頭痛への対処として鎮痛薬を使用すると起こります。

1カ月に15日以上頭痛がある、1カ月に10日以上鎮痛薬を飲んでいる、鎮痛薬が効かなくなったと感じる場合は、MOHの疑いがあります。痛みへの不安から、痛みがないのに予防的に鎮痛薬を飲んでいる方も注意が必要です。

MOHの治療は、原因となる薬剤の使用を中止する「離脱療法」が最も有効です。治療を開始すると、多くの依存症と同様、頭痛の悪化や嘔吐などの離脱症状に苦しむことにもなります。70%がこれを乗り越え原因薬物からの離脱に成功する一方で、予後は30%ほどが再発するといわれています(※2)。したがって、離脱成功後も、医療機関で鎮痛薬の使用状況や経過確認を定期的に行う必要があります。

※2 Kristoffersen and Lundqvist, "Medication-overuse headache: epidemiology, diagnosis and treatment". Therapeutic Advances in Drug Safety. 2014 Apr;5(2):87-99

複数の錠剤を飲もうとしている女性の手元
写真=iStock.com/AsiaVision
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AsiaVision

■人口の1~2%が「薬の飲み過ぎ」で頭痛

諸外国ではMOHの有病率は1~2%とされています。日本では、全国的な統計はないのですが、2022年に国内で初めて報告された調査結果(新潟県糸魚川市)では、MOH有病率が2.32%で、諸外国との大きな開きはありませんでした(※3)

頭痛外来を受診した患者のうち、14.6%がMOHだったとの学会報告もあります。頭痛がありながら受診していない患者が多い現状を鑑みると、実際にはMOHに該当する患者はもっと多い可能性があります。

※3 Katsuki et al, ”Questionnaire-based survey on the prevalence of medication-ovKatsuki et al, ”n Japanese one city-Itoigawa study". Neurological Sciences. 2022 Jun;43(6):3811-3822

■「自分の頭痛の傾向」を知っておく

「頭痛くらいで病院に行くことはない」と考えるかもしれませんが、日常生活に支障が出ている場合は、ぜひ医師に相談してみてください。頭痛外来などを受診する際は、以下のような自分の頭痛の傾向を把握しておくと、診断がスムーズに進みます。

・痛みの種類(ズキズキ、締め付けられる、瞬間的な痛み等)
・痛みが生じる箇所(頭の片側/両側、首や肩、目の奥)
・痛みが生じる時間(頻度、持続時間、規則性の有無)
・痛みの前兆や、同時に起こる症状の有無
〔吐き気、めまい、感覚過敏(においや光、音)、涙が出る、目の充血等〕
・痛みを悪化させる要因の有無(運動、入浴、音や光等で悪化するか)
・痛みのきっかけとなる要因があるか(飲酒、天候、月経周期等)
・生活や仕事への支障の程度
(我慢してこなすことはできる、寝込んでしまうほど、じっとしていられない等)
・鎮痛薬の使用状況(種類、頻度、鎮痛薬が効かなくなっていると感じるか)
・以前より回数が増えた、痛みが悪化しているか

頭痛を我慢することが当たり前になると、QOLが低下しますし、重大な疾患の発見が遅れる可能性もあります。特に症状がひどくなっている場合は、一度受診するとよいでしょう。「頭痛と長年付き合っている」という人も、いま一度、自分の頭痛と向き合ってみることをおすすめします。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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