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月2回の同人AVと撮影会モデルで月収20万円…32歳子育て中の主婦が夫公認でAV女優を続けられるワケ

プレジデントオンライン / 2023年3月2日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

明確なガイドラインをもとに制作された「適正AV以外のアダルトビデオ」を指す「同人AV」。出演する女優の働き方はどうなっているか。ノンフィクションライターの中村淳彦さんは「32歳の子育て中の主婦は、結婚後も夫公認で『月2回の同人AV出演』を続けている。『子育てと両立できてすごくいい』というのが続ける理由」という――。

※本稿は、中村淳彦『同人AV女優 貧困女子とアダルト格差』(祥伝社)の一部を再編集したものです。

■同人AV月2回、撮影会モデル月2回で月収20万円

池袋で待ち合わせた同人AV女優・平塚里奈(仮名、32歳)は、子育て中の主婦だった。

埼玉県某市の分譲マンションでサラリーマンの夫と子どもと3人暮らし。土曜日なので、子どもの面倒は夫が見ている。今日は「同人AVの取材」と夫に伝えて家を出たという。

平塚里奈は黒髪の美人ママという風貌だった。宮﨑あおいに似てなくもない。

池袋北口駅前に老舗喫茶店がある。平塚里奈とは喫茶店の前で待ち合わせた。

筆者よりもほんの少し早く到着した彼女は、さっそく気持ち悪い中年男性に「あなた遊べる人?」と声をかけられていた。彼女が丁重に断ると、気持ち悪い中年男性は舌打ちして離れていった。

階段を昇って喫茶店内に入ると、ヤクザ風、輩風、パパ活顔合わせ、マルチビジネスの面談、中国人など、普通の人はあまりいなかった。注文をしてから、普段は育児をする平塚里奈に同人AVに出る理由を聞いていく。

結婚したのは3年前、出来ちゃった婚でした。夫との出会いは歌舞伎町でのナンパ。一緒に飲みに行って付き合うようになった。
当時、店舗型風俗で働いていたので東新宿に住んでいたんです。そのときは、もっと飲みたい気分だったし、歩いて帰れるからナンパに応じました。

2022年6月まで同人AVだけではなく、風俗嬢と撮影会モデルもやっていた。出産後も子どもを保育園に預け、平日に風俗出勤した。

しかし、だんだんと母親の自覚が生まれ、いまは同人AVに出演するのは夫が家にいる土日だけにしている。出演依頼のあった撮影者に土日限定で撮影を組んでもらっている。

夫の収入は400万円台、本当に普通の人。ただ、子どもがまだ2歳なので、そんなに無理して働かなくてもいいかなって思うようになった。
いまは風俗の仕事は辞めて、同人AV月2回、撮影会モデル月2回みたいな感じ。同人AVも撮影会モデルも、1日5万円にはなるので、月収は20万円くらい。

■夫公認の同人AV出演

夫は、同人AVも風俗の仕事も認めている。妻がやっていることに口を挟まない。裸の仕事をしていることは出会った日に伝えているので、自然とそのような関係になったと言う。

家計の負担は、別々。マンションのローンは夫が払って、あと生活費とか食費は買い出しに行ったほうが払う。夫は私の仕事は好きにしなよってスタンス。
でも細かいことを言うこともあって、「ソープランドは嫌だけど、同人AVとヘルスはいい」らしい。理由は分かりません。
私、高校も大学も、いまもどちらかというと真面目なタイプだけど、大学生のときから出会いカフェで売春みたいなことをしていた。だから、その仕事しか経験がない。
家庭を持ったからこそ、仕事よりも家庭とか子どものほうが大切なので、できるだけラクに稼ぎたい。それが同人AVを続ける理由です。夫が仕事のことを云々言わないのはすごく助かります。

同人AV女優も撮影会モデルも、1日5万円の収入が見込める。パートや非正規の仕事では望めない金額であり、ゼロから新しい仕事を始めても家庭や子育てがおろそかになる。家庭があるからこそ、同人AVで合理的に稼ぎたいという理由だった。

■彼氏が好きでも、やめられない出会いカフェ通い

彼女は“真面目なタイプだったけど、大学生のときから売春をしていた”と言う。いったいどういうことか。

中堅都立高校から、都心部にある有名女子大に進学。男性経験がない高校時代から、興味本位で出会い系サイトを検索していた。

未成年のときに茶飯(食事やお茶のみの関係)の援助交際を何回か経験し、大学生になってから繁華街にある出会いカフェに出入りするようになった。

カフェで手をつないでいる男女
写真=iStock.com/RRice1981
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RRice1981

出会いカフェとは売買春の温床とされているカフェで、男性エリアと女性エリアが分かれている。

男女エリアはマジックミラーで仕切られ、男性がマジックミラー越しに女性を物色、男性に指名されると別室で会話となる。そこで条件が合えば外出ができるシステムで、都内では新宿、池袋、上野などに存在する。

入学してしばらくしてサークルの先輩と付き合った。初めての男性経験で相手のことは好きだった。しかし、中年男性と食事するだけでお金をもらえるのは、すごくいいと思ったので、出会いカフェ通いはやめなかった。

大学生になって出会いカフェはいろいろ行った。池袋とか新宿、上野とか、あと、千葉県の船橋にもあった。授業が終わって、夕方からひとりと会う。
最初は茶飯でお小遣い稼ぎたいくらいの感覚だったけど、結局、全員に肉体関係を求められる。だから何となく大人の関係もするようになった。
一度のセックスで3万円をもらった。売春みたいなことがお金になると覚えてしまって、週5で通った時期もあった。毎日、同じ所に行くとまたいるって思われるから、いろんな場所に行った。

■絶叫しながら中年男性に追いかけられる

通った高校は真面目な進学校、大学でもスポーツ系サークルに所属したので真面目な友達が多かった。出会い系サイトや出会いカフェは、誰に聞くでもなく「高収入」と検索して自分で見つけた。

高収入バイトとか裏バイトを検索しました。彼氏には飲食店のバイトって嘘を言って出会いカフェに行って、結局3万円で本番もした。
食事だけだと5000円、たまに1万円くれる人がいた。本番したいって人も、食事だけっていう人も土日が多かった。
でも10年くらい前に、池袋で女子大生が男性客に殺される事件が起こってこわくなった。事件がキッカケで出会いカフェはやめました。

2010年9月に起こった池袋出会いカフェ殺人事件のことである。当時、現役女子大生だった平塚里奈は、同じ時期に同じ出会いカフェを利用していた。

事件は実名報道されて殺された女子大生が、「売春婦!」とネット上で非難されているのを見て、出会いカフェ通いをやめている。

事件が起こった時期、池袋の出会い喫茶で中年男性に追いかけられたことがあった。それも重なってこわくなりました。
そのときは中年男性に「カラオケに行こう」って誘われて外出したけど、ラブホテルに引きずり込まれそうになって逃げた。
中年男性は絶叫しながら追いかけて来て交番に駆け込んだ。その直後に事件があったので、本当にこわいと思いました。
走る男性
写真=iStock.com/FilippoBacci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FilippoBacci

■単体デビューを断って企画単体でスタート

大学1年のとき、出会いカフェで月20~40万円は稼いだ。次の仕事を探そうというとき、とても普通の時給で仕事をする気にはなれなかった。

キャバクラで働こうと、ふたたび高収入の仕事を検索したとき、AV女優のプロダクションの求人広告を見つける。

AV女優募集ってプロダクションの求人があった。大学生だったけど、専門学校にも行きたいし、卒業したら奨学金の返済もあるし、何となくお金欲しいなみたいな意識でした。
最初に入ったプロダクションは、AVの前にイメージビデオでデビューさせるって言っていました。最初にグラビアをやって、元グラビアモデルがデビューみたいな箔(はく)付けをしたいって。

こうして2012年、大手プロダクションに所属した。

最初の面接のときに単体デビューを打診されたが、結果的に断っている。

11年前はAV業界の本格的な斜陽が始まった時期であり、それまではプロダクションから言われるまま動いていれば単体デビューも何とかなった。

しかし、本人にやる気がないととても単体デビューは務まらない時代に突入していく。

たぶん単体で売り出そうとプロダクションはしていたけど、私はそこまでAV女優をやりたいって意識がなかった。
プロダクションに入るときも、メーカー面接のときも、「どうしてAV女優になりたいの」とか、「どんな女優になりたいの」ってすごく聞かれたけど、うまく答えられなかった。
結局、単体は無理って判断された感じです。だから企画単体からの始まりでした。

企画単体、企画の出演料はセックス(絡み)の回数で金額が上下する。平塚里奈は2絡み12万円、1絡み8万円だったという。

AV業界は思ったよりは優しい世界でした。最初、プロダクションに対してこわいイメージがあったけど、普通の会社みたいな感じでした。
撮影は毎回いろんな設定があって、衣装とかヘアメイクとか楽しかった。仕事をしたのは多くて月5本程度。大学生だし、実家暮らしだし、それくらいで十分でした。

彼女が所属した大手プロダクションは、筆者も何度も行ったことがある。雰囲気がよく、女優も活き活きとしていた。

しかし、出演強要の摘発ラッシュのときに社長が逮捕され、いまは消滅している。

■1年で仕事が激減し、ソープとAVを掛け持ち

平塚里奈はしばらく企画単体として活動し、だんだんと仕事は減っていく。最初の撮影から1年後には依頼はほとんどなくなって、自分のお小遣いくらいは稼ごうと派遣のアルバイトを始めていた。

丸々1カ月何もない月とか、脱ぎだけで絡みなしの仕事が増えて、全然稼げなくなった。お金がないってタイミングでプロダクションの社長から、「吉原で働いてみない?」って言われた。
知り合いのお店がリニューアルオープンするみたいで、女の子が必要だって。風俗嬢もやってみたいと思っていたので吉原のソープ嬢になって、AV女優と掛け持ちでやりました。高級店だったので1日8時間で8万円くらいは稼げた。

AVプロダクションは、高級ソープランドやキャバクラを経営していたり、提携していたりする。AV女優は性風俗の世界ではブランドなので高単価で売ることができる。

店が儲かる、客が喜ぶ、女性は収入が安定すると、性風俗の多角経営はいいこと尽くめである。

平塚里奈はAV女優とソープランドの掛け持ちで忙しくなり、就職活動はしなかった。ソープランドで安定して稼げるようになったので、実家を出て都内でひとり暮らしを始めている。

あまり高いところに住むと、親に仕事のことがバレちゃう。最初は西武新宿線沿線の家賃6万円の部屋にしました。大学を卒業してからは、親には派遣で働いていることにした。しばらくプロダクション所属とソープランドのダブルワークを続けました。

■ツイッターで“DMを希望”して同人AVの道へ

ソープランドで働き出して、収入は安定したが、AV女優の仕事はまったくなくなった。そして2014年、2年間所属した大手プロダクションを辞めている。

その後、1年間のブランクを空けて最大手プロダクションに移籍する。

最初のプロダクションで仕事がなくなったのと、紹介されたソープを辞めたかった。ソープは仕事がキツかった。乱暴な客がいて、何度も挿入されるのが痛かった。
プレイが激しめっていうか。一番キツかったのは挿入。大きい人がキツイ。AVだったら痛かったら、「ちょっと一旦止めてください」ってできるけど、風俗はできない。
自分で探した歌舞伎町の店舗型ヘルスで働いて、AVの最後のほうはエキストラばかり。そんな細かい仕事で日にちを押さえられるなら、風俗メインで働こうってなりました。
ソープランドを辞めて、プロダクションも辞めた。そこから1年近く経ってから、やっぱりまたAV女優をやりたいなと思って最大手プロダクションに移りました。

最大手プロダクションに移籍したとき、芸名を変えた。芸名を変えても、以前別なプロダクションで活躍した女優であることは誰でも分かる。企画単体扱いは難しく、企画モデルとしての所属となった。

最大手ではAVの仕事は少ししかなかった。最初からストリップの仕事を紹介されて、しばらくストリッパーをやった。
最大手プロダクションは撮影の仕事がなかったのと、ストリップが嫌で辞めました。踊りとかダンスがやりたいわけじゃなかったので、モチベーションが上がらなかった。
最大手でも仕事がないって分かったとき、プロダクションに頼っても難しいと思った。試しにフリーで活動してみようってツイッターアカウントを作って、“お仕事依頼はDMでお願いします”みたいなことを書いたら本当に仕事がたくさんきた。それが同人AVです。7年前なので2015年のことです。

■コスプレイベント用のオファーが殺到

依頼があったのは、デジタル系即売会「コスホリック」や、コスプレに関する同人作品の即売会「コスエクスプレス」などのイベントで販売するAV、FC2で配信する同人AVだった。

ツイッターだけでたくさん依頼がきました。いろんな所からオファーがあって、10本以上の月もあった。コスプレ物が中心で全裸にはならない。
出演料は安いと4~5万円で、素人だと相場が分からないみたいで15万円を出す人もいた。同じ人とか、同じ同人サークルから何度もリピートで依頼があって、あと趣味でハメ撮りしたいって人もいた。

趣味でハメ撮りといっても、素人には難しい。撮影をしながら勃起を維持、人に見せるレベルのセックスを展開するのは至難の業である。同人AVでハメ撮りに挑戦する素人男性のほとんどは、途中で中折れとなる。

相手も男優さんじゃないから、撮影しながら挿入はできない。疑似絡みってことが多かった。あとは本番しても発射までいかない。意気込んで撮影しても、途中で心が折れて疑似で終わらせる。
FC2の現場もたくさんありました。元々AVメーカーで働いてフリーになったとか、普通の会社員の人とか、いろいろ。
最初は無修正でもいいかなって出演したけど、何年か前から撮影者が捕まるニュースを頻繁に見るようになってやめた。FC2は1~2年やっただけで、それからは断っています。
だからいま出演しているのは、イベントで売る同人AVとかファンティアとか、コスプレAVばかりです。
コスプレ
写真=iStock.com/visualspace
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/visualspace

■「子育てしながらできるので、すごくいい」

2019年、平塚里奈は歌舞伎町の店舗型ヘルス嬢と同人AV女優をしていた。

中村淳彦『同人AV女優 貧困女子とアダルト格差』(祥伝社)
中村淳彦『同人AV女優 貧困女子とアダルト格差』(祥伝社)

歌舞伎町浄化作戦でも摘発されず、生き残った店舗型ヘルスは、男性客が途切れることがない。次々と客をとれる。同人AVもプロダクション時代のように凹むことはなく、ずっと順調に依頼がくる。

出演を繰り返しているうちに同人AV界隈の知り合いもどんどん増え、人が人を紹介してくれる。紹介者はプロダクションのように高額マネジメント料を取るわけでなく、撮影者からもらうお金はそのまま収入となった。

プロダクションを見限ったことで、普通に働けば、収入はコンスタントに月80万円を超えるようになった。通勤時間を減らそうと東新宿の部屋に引っ越した。

そんなときに歌舞伎町で夫にナンパされた。

夫にナンパされて飲みに行って、それから定期的に会うようになりました。付き合うことになって、子どもが出来ちゃいました。
夫と付き合うとは思ってなかったので、AV女優をしているって最初に言った。付き合って半年くらいで同棲することになって、出来ちゃった結婚です。
夫はまあ、優しいっていうのと、仕事を理解してくれるからいいかなって。仕事のことを云々言わない人だったので、それが結婚の決め手でした。

妊娠が分かったとき、結婚しようという話になった。2019年12月、お互いの親のところに挨拶に行って入籍した。妊娠中に、夫は埼玉県の中古マンションを35年ローンで買って、いまはそこで親子3人で暮らしている。

実の両親にも、夫の両親にも、仕事は「派遣で事務をしている」と伝えている。どちらの両親も孫ができるのは大歓迎で、経済的にもそれなりに恵まれている。

親子3人、何も問題のない円満な生活ができているという。

AV新法ができたときも同人AVの仕事は減らなかった。契約書を書くようになったくらい。1日5万円以上稼げる仕事はないので、同人AV女優と撮影会の仕事はずっと続けていくと思う。
人に言えない恥ずかしい仕事だって理解しているけど、子どもを育てながらでもできるので、すごくいい。

平塚里奈に2歳の子どもの写真を見せてもらった。驚くほどかわいい女の子がカメラに向かって笑顔で手を振っていた。

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中村 淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター
1972年生まれ。著書に『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)など。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買、介護、AV女優、風俗などさまざまな社会問題を取材し、執筆を行う。

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(ノンフィクションライター 中村 淳彦)

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