何が起きても平常心…マッキンゼーのエリートが実践する「些細な問題で悩まなくなる」4つの基本原則
プレジデントオンライン / 2023年3月3日 13時15分
※本稿は、大嶋祥誉『マッキンゼーで学んだ最高に効率のいい働き方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■マッキンゼーのエリートが大切にする平常心を保つ秘訣
マッキンゼーの先輩、コンサルティングやエグゼクティブコーチングのクライアントの方々や、ビジネスパートナーなど、これまで「仕事ができ、かつ人柄も素晴らしい」と感じる人が、何人かいました。
彼らはバイタリティに溢れ、分析力や判断力、決断力にも秀でている。しかも上司や部下、同僚からも信用されている――。
このような人物は、例外なく感情が安定し、穏やかでありながら、内には熱い情熱や強い気持ちを持っていました。
なぜ彼らはいつも感情が安定しているのだろう? 若い頃の私は、自分の仕事をこなすのに精いっぱい。彼らとは真逆で、不測の事態が起きたり、上司に注意されたりするたび、感情は乱れっぱなしでした。
「いつも穏やかで心乱れず仕事ができる秘訣は何ですか?」
あるとき自分の仕事のお手本であり、メンターとして尊敬していた上司に、尋ねたことがあります。その上司は即座に答えました。
「感情的になっても、悩んで思い煩っていても、仕事がうまく進むわけではないだろう。どうしたら問題を解決し、目標達成できるか? それだけを考え、ひたすら実行するだけだよ」
それまでの私は、自分の思い通りに仕事が進まないと、焦ったりイライラしたりしていました。イライラしても、仕事がはかどるわけではありません。ビジネスパーソンにとって、やるべき仕事は本来明確に決まっているはずです。
■些細な問題で「悩まない」ためのシンプルな行動原理
営業成績を上げる、新企画を考え実行する、人材育成をする……それぞれの役割と目標がある。目標を達成するために、最善の判断と行動を取る。
仕事ができ、人柄もすばらしい人たちの行動原則はじつにシンプルなのです。とくに、彼らは負の感情にとらわれることが、ほとんどありません。
ところが、そこに感情を持ち込むと、途端に仕事が複雑で面倒なものに変わってくる。仕事ができない人、遅い人は、自分の感情の乱れをそのまま仕事に持ち込み、思い悩み、逡巡し、どんどん仕事を複雑にしていくのです。
逆に尊敬できるビジネスパーソンの仕事の仕方は明瞭です。彼らは割り切りが早い。たとえば自分がやるべきこととやらなくてよいこと、自分がコントロールできることとできないこと、目標達成に必要なこととその優先順位……etc.
そして、やるべきこと、やれることはすぐに手をつける。悩んでも仕方ないものは悩まずスルーする。
仕事ができる人の特徴の1つは「悩まない」ということです。悩んだり、感情にとらわれている状態というのは、思考が混乱し、一種のパニックを起こしている状態だと言っていいかもしれません。
![夕暮れ時の青空と白いドレスを着た女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/5/1200wm/img_553f5d63f5490719736b2c39fc8520b8346092.jpg)
「悩まない」で仕事をするなんて自分にはできない――。そんな声が聞こえてきそうです。
でも大丈夫。なぜなら、心乱れ、悩みまくっていた私自身も変わることができたのですから。以下でそのための方法をさらに紹介していきましょう。
■隠れている真の問題を“見える化”する
マッキンゼーで叩き込まれたコンサルティングの究極の目的は、隠れている真の問題を見える化させるというもの。たとえば売り上げが伸び悩み、営業を改善したいという依頼が来たとします。
その際、新規獲得を狙うか、既存顧客のフォローに力を入れるのか? 販促活動をどうすればいいか? など営業戦略に目を奪われがちです。
しかし、よく話を聞き、現場を見ていると、問題は営業戦略ではなく、組織内、組織間の意思伝達がうまくいっていないということだと分かってくる。
隠れていた真の問題を顕在化させ、解決すべき課題にすること――。これこそが経営コンサルタントの仕事であり、マッキンゼーで私が学んだことなのです。
クライアントには見えないものを見える化する。問題が見えてくれば、それだけですでに問題解決への一歩を踏み出したことになるのです。
そのために、対象をロジカルに分析することが大前提となります。固定概念を捨て情報を収集し、ロジカルに分析して問題点を探り出す。
感情コントロールも、まさに同じ構図が当てはまります。イライラしたり怒ったり不安になって落ち込んだり……。感情の乱れは、内在している問題を明確にすることができていないために生まれるのです。
問題がわからないから、解決することもできない。モヤモヤした中で、悩みや葛藤が生まれ、イライラや怒りなどの感情がうごめき出す。逆に感情の乱れの背後にある問題を明確にし、意識化すれば、感情に流されず問題解決に向かうことができるのです。
「悩みにせずに問題にする」と表現すると、分かりやすいかもしれません。「悩み」とは、何か事が起きたときに、その問題の解決策が浮かばず、どう対応すればよいか分からない場合に生まれるものです。つまり、思考がフリーズした状態です。
悩みを「解決すべき問題」にしてしまえば、後はそれをどう解決していくか、という必然的な流れになります。ですから、悩まずにどんどん仕事を進めていく人は、
「問題化する力が高い」人ということもできるでしょう。
■仕事でパニックになってしまう人の本当の原因
たとえば、仕事量が多くてどうしたらいいかと悩んでいるAさんがいたとしましょう。一種のパニック状態でストレスがたまり、しかも、自分には能力がないのだと自らを責めています。
![暗い部屋で途方に暮れた男](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/0/1200wm/img_b03b457530d74cfae5b1290918cebfb8695421.jpg)
ここで、冷静に自分のすべての仕事を見渡してみましょう。すべての仕事を、同じ日時に仕上げなければいけないわけではないはずです。納期や締め切りによって、まずすぐに手をつけなければいけない仕事、後回しにしていい仕事があるはずです。
次に自分でやるべき仕事と、自分でなくてもできる仕事に仕分けしてみましょう。資料を集めたり、コピーを取ったりする仕事は人に振れるのなら、できる限り振ってしまいます。
自分がやるべき仕事の中で、優先順位の高いものから取りかかります。その際、悩んでも仕方がないこと、自分のコントロール不可能なことについては、一切思い悩んだりしないようにしましょう。
たとえば、企画案の内容のブラッシュアップを上司に頼んだとして、もはや頼んだ以上は「上司はあの企画書をどう評価しているだろうか?」「こうすればよかったかもしれない……」などと、悩んだところでどうなるものでもありません。
自分のコントロール不可能なものに対して思い煩い、時間やエネルギーを消費するのは無駄です。上司から企画書に対して何か言われたら、そのときに対処すればいい。
こうして目の前のやるべき仕事を、粛々とこなしていけば、最初に対応不可能だと思われた仕事の山も少しずつ切り崩されていき、やがて先が見通せるようになります。
私の知る限り、仕事のできる人たちはみな、このような手順でやるべきことを着実にこなしています。そこで、余計な感情を差しはさむことも、感情に流されることもありません。
■マッキンゼーで学んだ、問題解決4つの基本原則
感情の乱れがちな人は、決してその人の持って生まれた資質や、性格によるものではありません。感情を問題化し、解決すべき課題に変えること。
ロジカルに分析することでモヤモヤした感情は解決できる問題に変わります。ここでマッキンゼーの問題解決の原則を説明しましょう。
【マッキンゼーで学んだ基本原則1】
――真の問題を見極める
たとえば、ミスの多いAさんがいたとしましょう。この問題を解決するためにBさんが、ダブルチェックをする。一見まっとうな解決策に見えますが、Bさんの負担が増えて結局ミスが出てしまうことも考えられます。
そもそも、なぜAさんがミスを連発するのか? 「真の問題」を明らかにし、それを解決することが大事なのです。
マッキンゼーでよく言われた言葉の1つに、「モグラ叩きをするな」というのがあります。
これは目の前に現れた問題に、とりあえず対応することです。たとえば「売り上げが伸びない」「新規開拓ができていない」「人材育成ができていない」など、1つの会社の中でたくさんの問題が出てきます。
その一つひとつをモグラ叩きのように叩いて対応していても、真の解決にはならないのです。というのも、それら個別の問題が起きる原因に、たとえば「組織内のコミュニケーションが取れていない」という共通の問題が潜んでいる可能性もあります。それが、真の問題だったりします。
その共通の問題を解決しなければ、そこから派生する問題を逐次解決しても、また新たな問題が生まれてくる。逆に言えば、その根本的な問題を解決すれば派生する問題がいっぺんに解決できるということでもあります。
感情コントロールもまさに同じです。「怒り」や「悲しみ」などの感情を、まずはしっかり意識化することが大切。その上で、表面的な感情にばかりとらわれず、その背後に潜む問題が何か、根本的な原因は何かを見極めることが重要なのです。
■問題解決にあたって何が最大の要因か
【マッキンゼーで学んだ基本原則2】
――問題の構造を把握する
では、本質的な問題を見極めるにはどうしたらいいか? マッキンゼー流の問題解決の原則として、「問題の構造を把握する」ということがあります。これは問題を見える化するために行う作業で、目の前の事象とその要因を分けて考えることです。
先ほどのAさんのミスが多いという問題の場合、ミスが起きているという事象と、その要因を分けて考える。そして、いくつか要因を挙げた上で、それらがどのように関連し合って事象が起きているかを構造的に把握するのです。
そこでAさんに話を聞き、行動などをチェックしたところ、Aさんが作業中に電話や来客の対応にすべて応じていることが判明しました。つまり、「他の仕事に時間と労力を割かれている」という状況が浮かび上がってきたのです。
【マッキンゼーで学んだ基本原則3】
――仮説を立てて検証する
基本原則2で事象と要因を分離し、要因をいくつか挙げたとしましょう。そのすべてを解決しなければならないというわけではありません。要因の中には決定的なものもあれば、あまり重要性のないもの、あるいは実際はほとんど関係ないものまで差があります。
問題解決にあたっての優先順位は、当然重要度の高い要因から、解決しなければなりません。何が一番大事な要因かは、まず仮説を立てて、それを検証するというのがマッキンゼー流です。
先のAさんの場合、集中力の欠如が主要な問題と考えて掘り下げたわけですが、おそらくここに問題があるに違いない。そういう直感に近い感覚が、それまでの経験や事例などによってある程度見極められるはずです。
その上で、たとえばAさんの基本的な能力の欠如であるとか、精神的に不安定であるなどの別の要因を検証し、どうやらそれらが当てはまらないとなれば、集中力の欠如こそ最大の要因ではないかと結論づけることができるでしょう。
たとえば、作業に集中できない環境を改善し、その時間帯だけは電話や来客の作業を他の社員たちが分担することで、Aさんのミスを劇的に減らすことができるかもしれません。
このように、今度はそれをどう解決していくか、具体策を考えるという段階になります。
■現状把握、解釈、対応の順に感情を課題化する
【マッキンゼーで学んだ基本原則4】
――解決策を導き出す〈空・雨・傘の理論〉
問題を分解し、検証した上で、最適な「解決策」を打ち出さなければなりません。
そこでマッキンゼーで行っている方法が「空・雨・傘」の思考です。
空とは「現状がどうなっているか」という事実であり、雨とは「その現状が何を意味するのか」という意味合い、つまり現状の解釈です。そして傘は「その意味合いから、では何をするのか」という解決策です。
ですから先に述べた基本原則1が「空」であり、基本原則2と3が「雨」だということです。
![大嶋祥誉『マッキンゼーで学んだ最高に効率のいい働き方』(青春出版社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/9/1200wm/img_3975c1d39a2ca72670f10db1ef27c6be216683.jpg)
あらためて先ほどのAさんのミスの例に当てはめると、「空」はAさんがミスを連発している状態を把握することです。
「雨」とは問題の構造を把握し、分析して検証することで、そのミスが仕事の分担ができていないことによる注意力の分散であるという分析です。「傘」は仕事の分担を明確にするという解決策ということになります。
感情コントロールもこの思考が有効です。
まず現在の感情の状態を客観的に把握する(空)。そしてその感情がどのようなメカニズムで起きていて、真の原因は何かを突き止める(雨)。それによってどう対応すればいいかを決定する(傘)。
「空・雨・傘」の思考によってモヤモヤした感情も解決すべき問題となり、問題化することで自ずと解決へと進んでいくのです。
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センジュヒューマンデザインワークス代表取締役、エグゼクティブコーチ、人材戦略コンサルタント
米国デューク大学Fuqua School of Business MBA取得。シカゴ大学大学院修了(MA)。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアットなどの外資系コンサルティング会社や日系シンクタンクなどで経営、人材戦略へのコンサルティングに携わる。2002年に独立し、現在までに2000チーム以上のチームビルディング、組織変革コンサルティング、経営者や役員へのエグゼクティブコーチングを行う。
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(センジュヒューマンデザインワークス代表取締役、エグゼクティブコーチ、人材戦略コンサルタント 大嶋 祥誉)
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