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「石油を掘らなくても車は走る」ゴミ資源を半永久的に循環させる、世界が注目する日本の"すごい技術"

プレジデントオンライン / 2023年3月12日 9時15分

2015年10月21日、バイオエタノール燃料を使ったデロリアン走行イベントを実現。写真はイベントで使用された実際の車と岩元美智彦会長。 - 写真提供=JEPLAN

16年前、120万円の資本金でスタートしたベンチャー企業JEPLANが今、注目されている。使用済みペットボトルを分子レベルまで分解、不純物を除去して再結合し、石油由来の新しい製品とほぼ同品質のリサイクル樹脂へと再生する同社の独自技術に対し、世界各国から問い合わせが続いているのだ。岩元美智彦会長は「“地上資源”を活用し、世界に先駆けて循環型社会のモデルを見せることができる国は、日本をおいてほかにありません」という──。

■地球環境問題待ったなし

「地球温暖化が進まないようにしましょう」
「海洋プラスティックゴミを無くしましょう」
「より良い地球を子どもたちや孫たちに残しましょう」

ここ10年くらい、多くの人々から、このような言葉を頻繁に聞くようになりました。また社会全体としても「ESG経営」に取り組む企業が増えました。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が掲げる17のゴールの中には、地球環境問題への取り組みがあり、ESG経営の「E」は、Environment(環境)を意味しています。環境に対する私たちの関心は、かつてないほど高まっているといえるでしょう。

それは、とても良いことだと思います。環境汚染に伴う地球温暖化現象がこのまま深刻化すれば、地球上の生態系に悪影響が及び、私たち人類ばかりではなく、あらゆる生物の命を脅かします。

地球上の生命が未来永劫(えいごう)、生きていくためにも、地球環境に対する配慮は、もはや待ったなしの状況になってきたといえます。

■ペットボトルの「ボトル to ボトル」を実現

私が会長を務めるJEPLANは、循環型社会を実現するために今から16年前、たった120万円の資本金でスタートしたベンチャー企業です。

現在は北九州市にポリエステル繊維のリサイクル工場を持ち、グループ会社が川崎市にペットボトルのリサイクル工場を構えています。

ペットボトルの「水平リサイクル」を実現する、ペットリファインテクノロジー社のリサイクル工場。
写真提供=JEPLAN
ペットボトルの「水平リサイクル」を実現する、ペットリファインテクノロジー社のリサイクル工場。 - 写真提供=JEPLAN

これらの工場で行っているリサイクルは「水平リサイクル」です。水平リサイクルとは、ビンからビンをつくる、アルミ缶からアルミ缶をつくるというように、ある製品を再び同じ製品にリサイクルすることです。

同じリサイクルでも、元の品質には戻らず、品質の低下を伴うリサイクルのことを「カスケード・リサイクル」といいます。現状ペットボトルのリサイクルは、このカスケード・リサイクルが多い状況です。

でも、私たちは、独自のケミカルリサイクル技術を用いて、品質を落とすことなくペットボトルとポリエステル繊維の水平リサイクルを実現しています。

■半永久的な「水平リサイクル」を達成できるワケ

現在主流のペットボトルのリサイクル手法は、使用済みペットボトルを集めて砕き、「フレーク」と呼ばれる原材料にしたうえで洗浄し、それを溶かして再生品をつくります。この手法では不純物を取り切ることができず、次第に品質が劣化していくため、リサイクルできる回数には限度があるとされています。

一方、私たちは、使用済みペットボトルを分子レベルまで分解して不純物を除去し、再結合することによって、石油由来のものとほぼ同じ品質の樹脂へと再生しています。

これにより、これまで不可能といわれてきた、ペットボトルの半永久的リサイクルを実現したのです。

ケミカルリサイクル技術で、使用済みペットボトルの半永久的リサイクルを実現。
画像提供=JEPLAN
ケミカルリサイクル技術で、使用済みペットボトルの半永久的リサイクルを実現。 - 画像提供=JEPLAN

このケミカルリサイクル技術を用いた工場の商用稼働を行っているのは、把握している限り、世界でも当社グループだけのようです。

でも、技術開発が成功したとしても、それだけでリサイクル社会は実現しません。大事なのは、「みんな参加型」のリサイクルインフラをつくることなのです。

■石油を採掘しなくても、自動車を走らせられる

そのことを実感したのは、2007年に起業し、1年間にわたる実験を繰り返した末に、綿素材の古着からバイオ燃料の製造に成功したときのことでした。

国内での繊維製品の廃棄量は年間100万トンにも達します。この大量の繊維廃棄物をリサイクルしてバイオ燃料にできれば、地下資源である石油を採掘しなくても、自動車を走らせたり、飛行機を飛ばしたりできます

世界中で起こっている戦争の悲劇は、地下資源の争奪で引き起こされるものが大半ですが、繊維廃棄物からバイオ燃料を製造できれば、そのぶんの地下資源を採掘せずに済みます。

■廃棄物という名の「地上資源」

今、「廃棄物」と申しましたが、私はこの地球上に廃棄物は存在していないと考えています。廃棄物ではなく「地上資源」です。

古着でも、飲み終えた後のペットボトルでも、あるいは廃棄された携帯電話でも、それらをリサイクルすることによって再び製品としてよみがえらせることができれば、それは立派な資源です。

この地上資源を活用することで地下資源を採掘せずに済む世の中にすれば、地球環境を守るのと同時に、戦争のない世界を実現できるのです。

空のペットボトルを分別してゴミ箱へ
写真=iStock.com/Pablo Rasero
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pablo Rasero

■リサイクル素材を集め続ける「仕組み」が重要

しかし、このリサイクルを世の中に広めるためには、バイオ燃料の原料となる大量の古着を集め続けなければなりません。それには、消費者の行動変容がなによりも大事になってきます。

一人ひとりの消費者が、リサイクルを自分事として捉えてくれない限り、古着の回収は困難です。回収できなければせっかくの技術も宝の持ち腐れになってしまいます。

そこで消費者に「どこでリサイクルをしたいか」というアンケートを行ったところ、自分が製品を購入したお店にリサイクル品を持っていきたい、という声が非常に多いことがわかりました。決して役所などではなかったのです。

そこで、さまざまな小売店に声をかけて、不要になった衣類等の回収ボックスを設置してもらえるように協力を仰ぎました。

メーカー・小売り・消費者が協力し合いながら古着を回収してリサイクルし、資源循環を行う「BRING」の取り組み。
画像提供=JEPLAN
メーカー・小売り・消費者が協力し合いながら古着を回収してリサイクルし、資源循環を行う「BRING」の取り組み。 - 画像提供=JEPLAN

これまで数百社と連携して回収ボックスを設置し、とくに古着については「BRING」という名称で、全国で回収を続けています。

■大手ファストフード店との取り組み

リサイクルで大事なのは、回収の仕組みを構築するのと同時に、消費者にリサイクルする習慣を身に付けてもらい、それを文化にまで昇華させることです。

とくに習慣化は、子どもの頃からの経験が重要です。子ども時代からリサイクルを体験し続けることによって、リサイクルを自分事として捉えられるようになるからです。

そこで、世界的な大手ファストフード店で購入すると付いてくるおもちゃを回収して、リサイクルするしくみをつくりました。

遊び終えたおもちゃを、店頭に設置したリサイクルボックスに入れてもらい、それを店舗で使用するトレイやリサイクルボックスに生まれ変わらせるというものです。これは2018年から全国展開が始まりました。

■古着からつくったバイオジェット燃料で飛行機を飛ばす

さらに、「10万着で飛ばそう!JALバイオジェット燃料フライト」と銘打ち、全国の子どもたちから古着を集めて、それをバイオジェット燃料にして飛行機を飛ばすというイベントも行いました。

国内初の国産バイオジェット燃料は、2021年2月4日の羽田発福岡行きの便に搭載されました。10万着の古着を集める予定でしたが、実際に集まったのはなんと25万着でした。

おもちゃのリサイクルにしても、古着を集めて飛行機を飛ばすにしても、子どもの頃からリサイクルを身近なものにしておけば、やがて大人になって消費活動の中心的な存在になったとき、自然のうちに消費とリサイクルをセットで認識できる、リサイクルを自分事として捉えられる大人になるはずです。

■循環型社会をつくるための3つのキーワード

循環型社会をつくるにあたっては、3つのキーワードがあります。

キーワード①:技術

まず「技術」。JEPLANを起業して16年が経ち、この間にさまざまなリサイクル技術を確立してきました。

すでに説明したように、古着からバイオエタノール燃料を製造する技術、ペットボトルの「ボトル to ボトル」を実現するリサイクル技術のほか、ポリエステル繊維からポリエステル繊維をつくる技術などを実現しました。

キーワード②:「みんな参加型」のリサイクルインフラ

次に「みんな参加型」のリサイクルインフラです。これもさまざまな小売業者の協力を得て、消費者が参加できるように店頭に古着等の回収ボックスを設置してもらいました。

さらに、前述したおもちゃリサイクル、JALバイオジェット燃料フライトなどのイベントを通じて、子どもたちも含めてリサイクルに対する関心を高めてきました。

プラスチックフープを握って輪になる人たち
写真=iStock.com/Tom Merton
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tom Merton

■「正しいこと」が実現しないワケ

キーワード③:正しいを楽しいに

これらはすでに説明した通りですが、加えてもうひとつのキーワードがあります。それは「正しいを楽しいに」です。

リサイクルは正しいことですし、これからの社会にとって必要なことですが、リサイクルをテーマにしたイベントを開催しても、実はなかなか人は集まりません。

だからこそ前述したような、リサイクルに楽しく参加できるようなイベント、企画を実現していきました。

■ゴミを燃料に走るタイムマシン「デロリアン」

「正しいを楽しい」企画を行うため、米国の有名ハリウッド映画に登場する車型タイムマシン「デロリアン」を使用したイベントを企画したことがあります。

この映画は、私がリサイクルに関心を持つきっかけを与えてくれた映画なのです。大学生だったときに観たのですが、このデロリアンは劇中でゴミを燃料にするタイムマシンとして描かれていました。

1989年に公開されたシリーズ2作目は、映画の設定年である1985年から30年後の2015年10月21日にタイムスリップするという物語でした。

そこで私は、2007年にJEPLANを創業したとき、この映画で主人公たちが訪れた2015年の日時に、デロリアンをリサイクル燃料で走らせると決めたのです。

■ユニバーサルスタジオ本社と直接交渉

私たちは米ユニバーサルスタジオ本社に、デロリアンのイベントを、公式なものとして行わせてほしいと交渉しました。

プレゼンテーションの場で、「循環型社会を確立して地上資源をグルグルと回すことができるようになったら、地下資源の争奪戦をせずに済む。地球上から戦争をなくし、子どもたちに明るい未来をもたらすことができる」と伝えました。このメッセージが、彼らに響いたのかもしれません。

結果的に、ユニバーサルスタジオ本社公式イベントとして認めてもらえることになり、劇中の設定の日時に古着から作ったバイオエタノールでデロリアンを走らせるというイベントを実現しました。

イベントは大盛況で、「正しいを楽しいに」を実現した瞬間となりました。

今でも「デロリアンに乗って、一緒に写真を撮りましょう」と、環境やリサイクルに関連したイベント会場にデロリアンを展示すると、あっという間に長蛇の列ができます。

集まってくれた人たちは楽しい体験をしながら、このデロリアンを通じて会場で環境やリサイクルに関する知識に触れることができます。

■「地上資源の経済圏」をつくる

世界的な企業も、私たちの活動に関心を持ってくれるようになりました。

世界的なアウトドア用品等のメーカー「パタゴニア」との取り組みもそのひとつです。また、フランスに本部を置くエネルギー、輸送、環境分野における研究・研修機関であるIFP Energies nouvellesと、IFPのグループ会社であるAxensとも連携し、ライセンス事業の展開に向けた取り組みも進めています。

回収拠点を経由して集められた不要品をリサイクルして地上資源に戻し、それを用いてメーカーが製品をつくる。小売店を通じてその製品を販売し、使い終わった製品が小売店の回収拠点を通じて再び集められてリサイクルして、地上資源に戻される──。

これが永遠に繰り返される、「地上資源の経済圏」をつくることが私の目標です。

クリーンなエネルギーで回るエコシステムのイメージ画像
写真=iStock.com/HASLOO
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HASLOO

■「三方よし」で日本が環境先進国になる日

この地上資源の経済圏では、みんなが地上資源を使用した製品を買えば買うほど経済が回る(経済によし)、CO2が削減される(環境によし)、そして、戦争やテロを無くす(平和によし)という「三方よし」の世界を築くことができるはずです。

現状、世界に目を向けると、私たちが実現した技術を商用稼働させている国はほかにありませんし、私たちが築いたようなリサイクルの仕組みも存在していません。

でも、日本にはそれがあります。世界に循環型社会のモデルを見せられる国は、日本をおいてほかにありません

どの国よりも早く、完成度の高い地上資源の経済圏を構築し、地球に平和をもたらす。これこそが平和憲法を持っている国、日本だからこそできる世界平和への貢献の形だという想いを日々強くしています。

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岩元 美智彦(いわもと・みちひこ)
JEPLAN(旧・日本環境設計)取締役 執行役員会長、アショカ・フェロー
1964年鹿児島県生まれ。北九州大学(現・北九州市立大学)卒業後、繊維商社に入社。2007年繊維製品のリサイクルを課題に起業。服からバイオエタノールや再生ポリエステルを作る事業開発に成功し、携帯電話の金属率を高める技術も成功させる。さらにリサイクル活動に消費者参加を促す仕組みを次々と考案し事業を拡大している。

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(JEPLAN(旧・日本環境設計)取締役 執行役員会長、アショカ・フェロー 岩元 美智彦 構成=鈴木雅光)

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