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なぜ日本企業のDXは失敗続きなのか…最重要なはずの「デジタル改革」が頓挫しやすい4つの理由

プレジデントオンライン / 2023年3月3日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D3Damon

なぜ日本企業の「DX」は失敗続きなのか。DXコンサルタントの鈴木康弘さんは「DXとは、過去の成功体験を破壊して新しい価値を創造すること。慣れ親しんだ仕事のやり方を破壊する覚悟がなければ、絶対に成功しない。経営者が相当の覚悟を持って、自ら変革の先頭に立つ必要がある」という――。

※本稿は、鈴木康弘『成功=ヒト×DX デジタル初心者のためのDX企業再生の教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■DXは単なる「業務改善」ではない

「DX」を成功させる最初のステップは、経営者の決意です。DXは、くり返しになりますが、経営者の決意と行動が成否を決めます。DXは、現状課題を解決する業務改善ではなく、「第二の創業」とも言える企業変革だからです。

経営者は、変革を成功させるために、4つの決意をする必要があります。具体的には、時代の変化を強く認識する、人任せにせず率先垂範で行動する、全社を巻き込む変革の覚悟を持つ、あきらめない心を持ち続けることです。

1 時代の変化を強く認識する
2 人任せにせず率先垂範で行動する
3 全社を巻き込む変革の覚悟を持つ
4 あきらめない心を持ち続ける

世界中のあらゆる企業が、目の前に迫っているデジタル社会の勝者となるべく、DXに取り組んでいます。約1万2000年前に農業革命でこの流れに乗れなかった部族は衰退し、産業革命のときに流れに乗れなかった国家・企業は衰退しました。

同じように情報革命の最中である今、DXに取り組まない企業は衰退の道をたどるしかないのです。この重大な局面を、どれだけの経営者が認識しているでしょうか。経営者の、この歴史的な変化に対する認識の強さは、近い将来、必ず大きな差となって表れます。強く認識し、既に動き出している感度の高い経営者の企業は生き残り、足踏みをしている経営者の企業は衰退していくのです。

■「マネジメント」と「リーダーシップ」は全く別物

DXを成功させるために経営者は、率先垂範で行動していくことが大切です。DXとは、企業の過去の常識や成功体験を否定しながら大きな変革を成し遂げるプロセスとも言えます。その意味で、経営者の姿勢が重要になるからです。DXを起こすうえで知っておきたいのが、マネジメントとリーダーシップの違いです。

この2つは、意外と区別なく使われがちです。マネジメントとリーダーシップを各々解説し、比較してみましょう。

マネジメント型の人の源泉(原動力)は、高い地位や強い権限、明確に固まった規則であり、目の前の今(プラン)だけを見ています。そして、集団の秩序を乱すことなく、維持し続けることを使命に、命令して人を動かすタイプと言えます。

一方、リーダーシップ型の人は、周囲を惹きつける人間性をもとに、未来(ビジョン)を見て、人と同じ視点を持ちつつ、先頭に立ってメンバーを引っ張るタイプです。彼らは、未来に向けて常に「創造的破壊」を使命とし、過去の成功体験を破壊(否定)し、新たな価値を創り続けていきます。

■「マネジメント力」だけでは改革は成功しない

日本の経営層はどちらかと言うと、前者のマネジメントタイプに偏りがちなように思います。しかしDXは、経営者がリーダーシップを発揮することが求められます。社員と同じ視点に立ち、意識を同じ方向に向け、全社一丸となって前進することが欠かせません。

そのためにも躊躇せず過去を破壊し、ビジョンを明確にして、新しい価値を創造することが求められます。自ら先頭に立ち、率先垂範で社内の改革に邁進する姿を見せることで、社員たちも一緒に動き出すのです。

決してマネジメントが必要ないと言っているわけではありません。大きな組織を動かすには、ときにマネジメントのような強制力が必要な場面も必ずあります。企業の経営者には、マネジメント力とリーダーシップ力の両方を使い分けられるバランスが必要なのです。

■覚悟は言葉にし続けないと伝わらない

重要なことなのでくり返しますが、DXは、過去の成功体験を破壊して新しい価値を創造することです。これまで安定しているものや慣れ親しんだ仕事のやり方を破壊することは、経営者にとって非常に勇気のいることです。抵抗もあるでしょう。自分自身の過去を否定しているようにも感じられると思います。経営者は相当の覚悟を持って、自ら変革の先頭に立つことが求められます。

さらにDXは、経営者や一部の人間だけではなく、全社を巻き込む必要があります。全社員に変革を求めるものなのです。当然、社内の抵抗も大きくなることが予想されます。経営者が会社に変革を宣言したとしても、社内は必ずしも賛同者ばかりではありません。抵抗勢力が「今のままでも十分結果が出ているではないか」と言って、進むべき道を阻むでしょう。

面と向かって反対という人、反対とは言わなくても協力しない人、状況を傍観する人など、色々な人が出てきます。どんな状況であれ、経営者は、相応の覚悟を持ち、毅然とした態度を取り続けることが求められます。

とはいえ、覚悟は目に見えないものです。私は、クライアントの経営者に、覚悟を常に言葉にするよう推奨しています。経営者が、ことあるごとに変革の意識を言葉にし続けることは、本人が思っている以上に効果があります。私自身の経験やクライアント先での状況を見ていても、それは明らかです。会議で毎週、覚悟を言葉にしていると、最初は「トップが何か急に言い出した」と思われていても、3カ月後くらいには「本気なんだ」と、その覚悟が伝わります。

■「やり抜く力」3人の名経営者に共通すること

心理学者のアンジェラ・ダックワース氏は、著書『やり抜く力 GRIT(グリット) 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(ダイヤモンド社)の中で、「どの分野であれ、成功する人の共通点は、才能よりも、興味、練習、目的、希望をもって『やり抜く力』にある」と述べています。

「やり抜く力」には、「闘志(Guts)」「粘り強さ(Resilience)」「自発(Initiative)」「執念(Tenacity)」が必要とされ、その頭文字をとって「GRITと呼ばれます。

私が共に仕事し、手本とする経営者に、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文元会長、SBIホールディングスの北尾吉孝社長がいます。仕事内容も性格も違うお三方ですが、共通点があります。それは、どんな困難にも立ち向かう闘志、あきらめない粘り強さ、人の意見に左右されない自分なりの哲学を持ち、周囲を畏怖させる執念を持っているということです。

群衆から離れて一人先を歩く人
写真=iStock.com/studio-fi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/studio-fi

このお三方に多少なりとも影響を受けた私自身、闘志・粘り強さ・自発・執念(GRIT)が発揮されたときには、成功に近づいたと感じることが多いです。また、自分自身が「あきらめない心」を強く意識しているときにGRITが発揮されているように感じます。

■「協議します」留保する会社はうまくいかない

DXを成功させるにあたり、あきらめない心を持つことは、何よりも重要なことではないかと私は考えます。DXを成し遂げる強い意志を持ち、あきらめない心を持ち続けることができれば、たとえ最初は結果が伴わなくても、時間の経過とともに、必ず変革は起きます。

経営者が、時代の流れを認識し、自ら率先垂範で行動を始め、周りを巻き込む覚悟を持ち、あきらめない心を持ち続けることができれば、DXは必ず成功するのです。

「経営者が決意しなければDXは絶対にうまくいきません」

これは、私がクライアントによく話す言葉です。この言葉をどう受け止めるかで、その後の会社の動きは変わってくるように思います。

私の言葉を素直に受け入れ、「まずは動ける範囲で動いてみます」と、経営者が自ら行動し始めた会社や、経営者を動かすために社員が行動を始めた会社は着実に前進し、社内の雰囲気も変わり始めます。

反対に、「そうですね」「協議します」と、行動を保留する会社は、社内のデジタル化が後退し、先行き不安な雰囲気が職場に流れます。とくに若い社員の不安が増大します。

この差はいったい、何なのでしょうか。

■「誰か」が動いてくれるのを待っていてはダメ

もちろん、「DXは必要ない」と判断することも、立派な経営判断です。会社の特性によっては、それが正しい場合もあります。ところが多くの場合、DXを必要だと思っていても、行動に踏み切れないのです。

経営者に話せば、「行動したいと思います、担当者とよく話してください」と言い、担当役員や部門長などに話せば、「実施したいが、社長を説得するのは難しい」「ほかの部署からよく思われない」と話します。やる気がないのかと思って話をしてみると、危機感もやる気もあるのです。

ではなぜ動かないのかと言うと、どうやら、「自分が言い出して、先導役にはなりたくない」という心理が働いているようです。「社長が言い出してくれないからですよ」「現場が言い出してくれたら……」と、皆、誰かが動いてくれるのを待っているのです。これではダメです。「誰か」ではなく「あなた」自身が手を挙げ、主体的に行動していくべきです。

■周りへの「パフォーマンス」で終わる会社も多い

最近、新聞や雑誌でも「当社はDX企業に転換する」「当社はデジタル社会に対応し、事業転換する」と話す経営者が増えてきました。その力強い言葉から、日本のDXの遅れを取り戻せるのではないかと、つい期待をしてしまいます。

しかし現実には、マスコミや株主に対するパフォーマンスに終わっているケースも少なくありません。内情を見ると、十分な投資や人材の育成・配置が行われていないケースも多く見受けられます。これでは、到底DXを実現することはできません。なぜこんなふうになってしまうのでしょうか。

一言で言えば、経営者が信念を持たず、リスクを背負って行動していないからです。

経営者本来の権限を行使すれば、企業の方向性を変えることは十分可能です。逆に信念がなく、リスクも背負わないと、どんな言葉を発しても状況が変わることはないのです。

■経営者が行使できる3つの権限

経営者の意識を変えるには、その役割を知ることが大切です。

経営者は、次の大きな権限を持っています。

1 事業方針の決定(何をやるのか)

自社の事業を、社会にどう役立てるのか、何のための、誰のための事業なのか。自分たちの考えを明確にし、何をやり、何をやらないのかを決める権限

2 資金配分の決定(いくら使うのか)

マーケティング、商品、サービスの開発費、人材の採用、人材の育成など、最も有効な費用の使い方を決める権限

3 人材配置の決定(誰にやらせるのか)

一人ひとりの強みを最大限に活かすために、成果が期待できるところで活躍してもらえるよう、どの従業員をどこに配置するかを決める権限

このように経営者は、大きく分けて3つの権限を持っています。これらの権限を適宜行使することで、いかようにも事業を前進させることができます。

しかし、DXに関しては、その権限を行使できていないのが現状です。リスクを引き受けると得るものも大きい。では、なぜ経営者は権限を行使できていないのでしょうか。

リスクとリターンの概念
写真=iStock.com/Andres Victorero
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andres Victorero

■「リスクマネジメント=リスク回避すること」ではない

日本はDXにおいて、諸外国に比べると後れを取っているその大きな要因は、リスクを取ろうとしないからです。リスクを引き受けない人は、「これはリスクマネジメントだ」と言って、自己を正当化する傾向があります。その背景には、時代の変化を読み取れなかったり、任期中は問題を起こしたくないという保身であったり、周りに強い抵抗勢力が存在していたりと、様々な要因が考えられます。

リスクマネジメントとは、リスク回避することだと考えている人が多いようですが、そうではありません。本来は、「リスクをコントロールすること」です。いざというときは、あえてリスクを引き受けることも重要なのです。

私は、リスクを積極的に引き受けることはいいことだと考えています。リスクが大きいものであるほど、成功したときに得られるリターンは大きくなります。たとえ失敗したとしても、その経験は、その後につながる得難いものになるからです。

■成功しても失敗しても「実践者」になれる

もしDXに本当に取り組むべきだと考えるのなら、ぜひ、積極的にリスクを背負って取り組んでほしいと思います。あなたが経営者なら、今すぐにリスクを引き受け、DXを推進する決意をしてください。

管理職なら、今すぐ社長に自分の考えを伝えてほしいと思います。担当者なら、まずは仲間をつくり、皆で上司に提案することをおすすめします。

従来の仕事と比べると、異質な行動になってしまうかもしれません。周りから睨まれることもあるでしょう。しかし、会社にとって本当に必要だと感じるのなら、一切躊躇することはありません。

成功しても失敗しても、日本の数少ないDXの実践者になることは間違いないのです。たとえ失敗してその会社に居場所がなくなったとしても、信念を持ち、リスクを背負ったことのあるDXの実践者は、今も、そしてこれからも必要な人材です。確実に、周りから求められる人材になるでしょう。

■キャリアの始まりは富士通のエンジニアだった

私自身もこれまで、積極的にリスクを引き受け、色々なことに挑戦してきました。今振り返ると、チャレンジしてきて本当によかったと感じています。

31歳のとき、エンジニアとして軌道に乗っていた生活を捨て、富士通からソフトバンクに転職しました。当時のソフトバンクは、まだまだベンチャー企業です。しかも、経験のない営業職にチャレンジしました。執行役員になってからも、その地位に固執することなく、自らベンチャー企業を立ち上げました。

おかげさまで40歳になる頃には、普通に仕事をしているだけでは得られない経験をすることができました。その後の自分の「柱」とも言える基礎を築いたとも思います。

41歳のときに経営していたEC会社は、資本移動するかたちでセブン&アイ・ホールディングスグループに移籍しました。日本有数の小売りグループで「リアルとネットの融合」、今で言うところのDXの実現を目指したわけです。

■トップの世代交代でDX戦略は縮小された

グループを動かすには、実に7年の歳月を要しました。IT業界から来た新参者が周りの信頼を得て経営者や幹部を説得するまでに、それだけの時間がかかったのです。大きな組織ということもあり、水面下の抵抗には随分悩まされましたが、信念を曲げずに行動し続けた結果、協力者は少しずつ増えていきました。グループ戦略として承認された2年後の2015年には、リアルとネットを融合した新しい小売業のスタートを切ることができました。

その後、トップ層が世代交代し、経営の方向性が大きく変わりました。経営スタイルも「創業型リーダーシップスタイル」から「サラリーマン合議スタイル」へと変わり、短期成果を重視する日本型リスクマネジメント経営へと転換していきました。「選択と集中」という方向性の中、長期戦略であるデジタルの取り組みは縮小されていきました。

経営者の強い決意がなくては、DXを起こすことはできません。その後DXの時代が到来したことを考えると残念に思えます。私は、グループを離れる決断をしました。

■方法を考えるのは決断してからでいい

現在は、企業のDXを支援する仕事を行っています。これらはいずれも、リスクを引き受け、挑戦してきた私の歴史です。今振り返ると、信念を持ち、リスクを背負って行動したことが、周囲の人を動かしたのだと思います。おかげで、当時の経営者や幹部をはじめとする周りの方々から、多大なご協力、ご支援を得ることができました。当時の皆さんには感謝しかありません。

鈴木康弘『成功=ヒト×DX デジタル初心者のためのDX企業再生の教科書』(プレジデント社)
鈴木康弘『成功=ヒト×DX デジタル初心者のためのDX企業再生の教科書』(プレジデント社)

もちろん、全てが成功しているわけではありません。失敗もありますが、どの経験も自分の血肉となり、ノウハウとなっています。苦労もありましたが、今ではそれまでの全てに感謝しています。

皆さんも、ぜひ信念を持ち、積極的にリスクを背負って行動してほしいと思います。そして、ぜひ、日本のDXを担うリーダーとして、経営者を動かし支えてください。そして、もしチャンスに恵まれれば、自らが経営者となって、DXの実践に挑戦してほしいと思います。

米国元大統領のエイブラハム・リンカーンの言葉に「そのことはできる、それをやる、と決断せよ。それからその方法を見つけるのだ」という名言があります。経営者は、まず、何はともあれ決断することが大切です。方法を考えるのは、それからでもよいのですから。

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鈴木 康弘(すずき・やすひろ)
デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
1987年富士通に入社。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイ・ホールディングスグループ傘下に入る。14年セブン&アイ・ホールディングス執行役員CIO就任。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。著書に、『アマゾンエフェクト! 「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか』(プレジデント社)がある。

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(デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木 康弘)

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