「から揚げ」は二日酔い対策にとてもいい…医師が解説する「悪酔い防止に効く意外な食べ物」
プレジデントオンライン / 2023年3月7日 17時15分
■悪酔いしないために、何を食べればいいか
「本物の左党(酒飲み)は塩を肴に酒を飲む」
昔からこんなことが言われているが、「確かに」と思うことが多々ある。
酒豪の多くは酒を飲み始めると箸が止まる。実際、私もその口で、酒が進むにつれ、「悪酔いする」と分かっていながらも、つい飲むことに夢中になり、食べる量が激減してしまう。
しかし、肴をほとんど食べない“酒主体の宴”の翌日は、予想通り吐き気をともなった激しい二日酔いにみまわれることがほとんどだ。
反対にきちんと食べて飲んだときは二日酔いになることはまずなく、体調も万全。「塩が肴」というと、渋くてカッコイイ気もするが、実体験から考えてもカラダにいいことは何もなさそうだ。実際、空きっ腹でお酒を飲んで、痛い目に遭った読者の方も少なからずいると思う。
では、悪酔いしないためには、何を食べればいいのだろうか。さらに、どのタイミングで食べればいいのか?
何か食べたほうがいいのは分かるが、具体的にはよく分からない。牛乳を事前に飲むという人もいるが、本当に効果があるのだろうか。
胃や腸などの消化器系のメカニズムに詳しい東海大学医学部教授の松嶋成志さんに話を聞いた。
■アルコール血中濃度が身体に与える悪影響
どんな食べ物を事前に、もしくは飲み会の最初に食べると酔いにくくなるかは、「お酒に強くない人」にとっても重要だ。私の知人に「お酒は好きだけど弱いんです。だから飲み会の前には牛乳やサプリは欠かせません」という人がいる。また、人に合わせようとする日本人は、宴会などで無理をしてお酒を飲もうとする人が少なくないのだ。
「二日酔い、悪酔いを防ぐのに、気をつけなくてはならないのは、アルコールの血中濃度を急激にアップさせないことです。血中濃度が高くなることは、酔いが回るということ。悪酔いの原因です。お酒に強くない人なら、気持ち悪くなったりフラフラしたりします。さらに、血中濃度が高くなってくると、嘔吐したり、まともに立てなくなったりします」と松嶋さんは話す。
![アルコール血中濃度と酔いの状態](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/a/1200wm/img_4abfe0e6a4213d563487cef555805ec1391684.jpg)
■いかにアルコールを胃にとどまらせるかが鍵
では、どうすればアルコールの血中濃度の上昇をゆるやかにできるのか。
「アルコールを飲んで、カラダの中でまず吸収されるのは胃です。といってもアルコール全体の吸収に占める割合はわずか5%程度にすぎず、残りの95%は小腸で吸収されます。小腸の内壁には腸絨毛(ちょうじゅうもう)と呼ばれる突起があり、大人1人当たり数百万から数千万存在しています。これらの表面積を計算すると、平均的な体形の成人男性の場合、テニスコート一面とほぼ同じとも言われています。胃より表面積が大きな小腸のほうが吸収量が多く、吸収速度が速いわけです。
アルコールが腸に送られれば一気に吸収されます。ですから、いかに胃でのアルコール滞留時間を長くし、小腸へ送る時間を遅くするかが、アルコールの血中濃度を上げない(=酔いを遅くする)カギになるのです」
なるほど、できるだけ胃の中に入った内容物を胃にとどめ、小腸に行く時間を遅らせればいいわけだ。実際、松嶋さんによると、胃の中での滞留時間は、食べ物によって変わるという。
「胃での滞留時間」とは、「その食べ物を胃で消化して、胃から排出されるまでにどのくらいの時間がかかるか」ということ。では、できるだけ長く滞留する食べ物とは、具体的にどんなものだろうか。
■飲み会では“油を使ったもの”を先に食べる
「それは油です。油分は胃での吸収時間がとても長い。消化管ホルモンの一種であるCCK(コレシストキニン)などが働き、胃の出口となる幽門を閉め、胃の中を撹拌する働きがあるのです」
何と油とは! 確かに、油は胃にもたれそうだし、胃の中での滞留時間が長くなりそうではある。
胃の滞留時間は、食べ物によってかなり異なる。例えば、米飯(100グラム)は2時間15分で消化するのに対し、ビーフステーキ(100グラム)は比較的長く、3時間15分程度かかる。油は最も長く滞留し、バター(50グラム)は12時間もかかる。こうしたデータを見ても、いかに油が長時間胃に留まるかが理解できる。
■「いきなり唐揚げ」が厳しい人はチーズを
とはいえ、いくらアルコールの吸収を遅らせるといっても、「油を最初にとるのは、ちょっと……」と思う人も多いだろう。
「血中アルコール濃度を上げないという観点では、油分を先にとることが理にかなっています。ただし、油といってももちろんそのままではなく、刺身にオリーブオイルをかけた魚介類のカルパッチョ、マヨネーズを使ったポテトサラダなど油を使った前菜向けの料理は多くあります。こういった油を使った料理を最初に食べるといいでしょう。
最初に食べるともたれそうですが、唐揚げ、フライドポテトなども効果が期待できます(食べ過ぎに注意)。お酒と混じり合って半固形になるような食べ物だと、より腸に送られにくくなります。胃や腸にとってアルコール吸収が不利となる状況を、いかにおつまみで作るかがアルコール血中濃度を上げないポイントとなります」
![クリスピーフライドチキンとジャガイモ。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/e/1200wm/img_be0905d847e34a5fbb598dba3aca646d930612.jpg)
いきなり油を使った料理はきついという人には、乳脂肪分を含むチーズを食べるという方法もあるという。
■牛乳も胃粘膜を保護する効果が期待できる
では、「お酒を飲む前に牛乳を飲む」という方法は効果があるのだろうか。
「牛乳には4%弱ほどの脂肪分が含まれていますから、多少なりとも効果は期待できます。また、牛乳にはたんぱく質が多く含まれているので、胃粘膜の保護効果は期待できます。少量では胃全体に膜を張るまではいきませんが、ある程度の効果はあるでしょう」という。
松嶋さんによると、「油に加え、宴会の最初のうちにとっておきたいのがキャベツなど、ビタミンUを多く含む食品」だという。これらは果たして、どんな効能があるのだろうか?
「キャベツに含まれるビタミンU(キャベジン)は、胃の粘膜表層のムチンを増やす働きがあります。ムチンとは粘膜から分泌される粘液の主成分で、粘膜を保護したり、細菌の侵入を防御する役目を担っています。ムチンの層が厚くなると、粘膜保護効果が高まり、アルコールによる刺激から胃を守ってくれるわけです。わずかかもしれませんが、アルコールの吸収速度を遅らせてくれる効果もあるでしょう。ラットの実験では、ビタミンUの効果は食べてから1時間後くらいから現れるという結果が出ています」
■お通しに生キャベツは理に適っていた
そういえば、焼き鳥や、串揚げのお店で味噌やマヨネーズと一緒に、生のキャベツがお通しで出てくることがあるが、これはまさに「理に適っている」ということになる。
余談だが、ビタミンU(キャベジン)は正式にビタミン類に分類されている成分ではない。とはいえ、胃腸薬の名前にもなっているように、胃の健康維持に役立つことは既に知られた事実。ただしキャベツを食べるときはなるべく生に近い状態が望ましい。なぜならばビタミンUは水溶性で熱に弱いからだ。
ビタミンUは、キャベツ以外にも、ブロッコリーやアスパラガスなどにも豊富に含まれているので、これらをとってもいいだろう。このほか、松嶋さんは、豆、山芋、オクラといったネバネバ系の食材もお勧めだと話す。
■悪酔い予防にはタウリンやセサミンを
ここまでの話で、酔いを遅くする(=血中アルコール濃度を急激に上げない)ための食べ物はわかった。では、酒席で杯が進んだ後、血中アルコール濃度をできるだけ早く下げ、悪酔いや二日酔いにつながらないようにするために、何かできることはないのだろうか。
![葉石かおり『酒好き医師が教える 最高の飲み方』(日経ビジネス人文庫)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/b/1200wm/img_cba49e18ff609ec4106776145763619e270402.jpg)
それは「アルコールの分解に必要な代謝物を補う」ことだと松嶋さんはいう。
「お酒を飲んで既に上昇してしまったアルコール血中濃度は、すぐには下がりません。しかし、肝臓での代謝を助ける成分は摂取したほうがいいでしょう。例えば、タコやイカに含まれるタウリン、ひまわりの種や大豆などに含まれるL‐システイン、ごまなどに含まれるセサミンなどです。
もちろん、水分の摂取も必須です。アルコールの利尿作用によって尿量が増えて脱水症状に陥りやすいため、それを防ぐためにも水分は飲んだ後に限らず、お酒を飲んでいる最中も飲むようにしましょう。飲んだ後は、体内の水分維持効果がある電解質が含まれる飲料が効果的です」
食前、食中、食後と、シーンによって、食べ物(つまみ)を一考することによって、「もうしばらく酒を飲みたくない」と後悔するまでの二日酔いは自分自身で防ぐことができる。
しかしながら、個々人のアルコールの分解能力は限界があり、それを超えればどんなにつまみ選びに気をつけても必ず二日酔いになる。飲み過ぎにはくれぐれも注意したい。
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酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。「酒と健康」「酒と料理のペアリング」を核に各メディアで活動中。「飲酒寿命を延ばし、一生健康に酒を飲む」メソッドを説く。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。現在、京都橘大学(通信)にて心理学を学ぶ大学生でもある。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』『名医が教える飲酒の科学』(ともに日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。
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(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)
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