日本人の3人に1人は「肝臓がフォアグラ状態」…お酒好きな人ほどリスクが高まる"脂肪肝"の怖いリスク
プレジデントオンライン / 2023年3月10日 13時15分
■「アルコールと脂肪肝は関係ない」と思っていないか
ビジネスパーソンの多くが気にする「脂肪肝」。
健康診断の結果で真っ先にそこを見る人も多いのではないだろうか。
脂肪肝というと「脂肪や糖の摂り過ぎによる肥満からの疾患」というイメージが強いように思う。
「アルコールはエンプティカロリーだから太らない」という説のせいか、アルコールは脂肪肝にあまり関係ない、もしくは関係しているとしても大した影響はないのではないかと思いがちだ(私はずっとそう信じてきた)。
ところが、実は大いに関係がある。つまり脂肪肝の一因はアルコールそのものにあるということが分かってきた。
酒好きな知り合いを思い浮かべてみても、痩せ型よりもメタボの人のほうがはるかに多い。また見た目は痩せていても、中性脂肪の数値が高かったり、脂肪肝気味、もしくは脂肪肝と診断された人も少なくない。
私自身も体重は平均的なのだが、恥ずかしながら中性脂肪はやや高め。今のところメタボとは診断されていないが、「隠れ肥満」であることは間違いない。
■成人の3人に1人、「やや肥満」の半数以上が脂肪肝
野菜中心のおつまみにするなど、食生活には十分に配慮しているつもりなのだが、なぜ「隠れ肥満」になってしまうのだろう? やっぱりお酒の影響が大きいのだろうか。
「酒は命」という酒好きの方は、今後の人生をお酒とともに歩んでいきたいと切に願っているだろう。だが、このままいくと脂肪肝になってしまうのではないか、と気が気ではない人は私を含めて多いはずだ。
そこでアルコールと脂肪肝の関係について、肝臓専門医の浅部伸一さんに話を聞いた。
「今や日本人の3人に1人が脂肪肝に罹患していると言われています。健康診断を受けた日本人成人の32%が脂肪肝だったという報告もあります。さらに、BMIが25~28の軽い肥満の約58%が脂肪肝を保有していたという報告もあります」
![肥満度が高まるほど脂肪肝も増加する](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/b/1200wm/img_bb6e68f3714e7e1edd4cf1b0cd0120c6139566.jpg)
■肝臓に脂肪が蓄積される“フォアグラ状態”
BMI(体格指数)は人間の体格のバランスを把握するための指数で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算される。
欧米人と比較しても、日本人の脂肪肝の罹患率はかなり高いというデータもある。食事の欧米化によって、日本に蔓延し始めた脂肪肝は、そもそもどういう状態を指すのだろうか?
「脂肪肝とは肝臓(肝細胞)に脂肪(特に中性脂肪)が蓄積した状態のこと。分かりやすく言えば、“フォアグラ状態の肝臓”です。脂肪肝になるメカニズムは実にシンプルで、肝臓から出ていく『使う脂肪』よりも、肝臓が取りこむ『作る脂肪』が多いから。つまり、使われなかった脂肪が“貯金“として肝臓に蓄積することにより起こります」
お金の貯金ならありがたいが、脂肪の貯金は迷惑な限りだ。だが、実際に脂肪肝と診断された人はどれだけ危機感を抱いているのだろうか。正直「放置しておいても大丈夫なのでは?」と安易に考えてしまいがちである。
だがそれは大きな間違いのようだ。
「脂肪肝を甘く見てはいけません。脂肪肝を放置して、生活習慣を改めないでいると、炎症を起こしたり、線維化(慢性的な炎症により繊維組織が増殖していくこと)が進んで肝臓が硬くなったりして、果ては肝硬変、肝がんになる可能性があります。肝臓は再生力が高いため、進行はゆっくりです。そのため、あるとき気づいたら、悪化していたということも少なくありません」
■大量飲酒しているとアルコール性脂肪肝に
どうやら、脂肪肝を甘く見てはいけないようだ。浅部さんによると「脂肪肝の原因は主にカロリー過多の食事や慢性的な運動不足のほか、アルコールそのものが原因になる」という。
「アルコールは太らない」どころか、脂肪肝を誘発する直接の原因だったとは! 酒好きにとっては「えーっ!」と叫びたくなるような話である(私だって叫びたい)。
「脂肪肝には大量飲酒が原因のアルコール性脂肪肝と、肥満、脂質異常、糖尿病が関与する非アルコール性脂肪肝の2タイプがあります。一般に非アルコール性脂肪肝の患者の方が多いのですが、“酒飲み”の方の場合は、前者である可能性が高いといってもいいでしょう」
![脂肪肝の分類](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/5/1200wm/img_e529b3e23f6f14d35dfe3566d49c1016185894.jpg)
アルコールが脂肪肝の直接の原因になり得るということが分かったところで、次に知りたいのが、どのようにして脂肪肝へとつながるのかという点である。
■アルコール代謝中は脂肪の燃焼が阻害される
浅部さんによると、大量のアルコール摂取が脂肪肝につながる理由は2つあるという。
「まず、アルコールは中性脂肪の材料になるんです。肝臓に運ばれたエタノールは、アルコール脱水素酵素(ADH1B)によってアセトアルデヒドになり、次にアルデヒド脱水素酵素によって酢酸となります。その後アセチルCoAを経て、最終的にエネルギーを生むとともに脂肪酸を生成します。この脂肪酸こそが中性脂肪のもととなります。
もう一つの理由は、アルコールが肝臓で代謝されている間は脂肪の燃焼が阻害されるからです。普段、私たちの体は脂肪酸を「βベータ酸化」によって代謝しています。β酸化とは脂肪酸を酸化して、最終的に細胞が必要とするエネルギー源を生成するプロセスのことです。しかし、アルコールが肝臓で代謝されている間はβ酸化が抑制されてしまうため、脂肪が燃焼されにくくなり、代謝されない過剰な脂肪酸は肝臓に蓄積されやすくなります。そのためお酒好きの方は脂肪肝になりやすいのです」
![アルコールの代謝のプロセス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/4/1200wm/img_d4fe46834817642ce2835db0137f68b2173240.jpg)
なるほど、「大量飲酒は脂肪肝に向かって一直線」というわけだ。
■休肝日よりもアルコールの総量が重要
「1日の純アルコール摂取量が60グラム(日本酒にして3合)を超えている場合、アルコール性脂肪肝であることがほとんどです。アルコールのとりすぎが脂肪肝につながることは、教科書にも載るくらい、医療の分野では常識中の常識です」
私はそんな常識を知らなかった……。
アルコール性脂肪肝の場合、原因は酒と分かっているのだから、手っ取り早く休肝日を取ればいいと思うのだが、「休肝日よりもアルコールの総量を減らすことが重要」だという。
「適量は純アルコールに換算して週に150グラム程度。休肝日を取ることも有効ではありますが、休肝日明けにどか飲みしてしまっては何の意味もありません。脂肪肝を改善したいなら、休肝日よりも“量を守ること”に注力するといいでしょう」
■締めのラーメンは“脂肪のダブルパンチ”
また、一緒に食べるおつまみの選択も大事だという。
「特に炭水化物(糖質)のとりすぎには注意が必要です。アルコールは肝臓からのブドウ糖放出を抑制するので、血糖値が上がりにくく、空腹感を覚えがち。そこで空腹感を満たすため、糖質となるお好み焼きや、焼きそばといった炭水化物をおつまみに選んでしまうと、ますます脂肪が蓄積されるという負のスパイラルに陥ってしまいます」
アルコール代謝によって脂肪が蓄積されるうえに、おつまみからの脂肪も加算されるとなれば“脂肪のダブルパンチ”である。飲んだ後の締めのラーメンの味は格別だが、アルコールが生み出す空腹感にだまされてはいけないのだ。
「酒量を減らす」「おつまみに気をつける」というのは繰り返し言われてきたことであるが、ほかに気をつけるべきポイントはあるのだろうか?
■健診結果でチェックすべき3つの項目
「定期的な健診を受けることです。ここで最も大事なのは、健診前だからといって、お酒をやめないこと。健診は普段の生活状態で受けなければ意味がありません。お酒をやめていい結果が出たとしても、それは一過性のもの。自身の肝臓の本当の実力を知るため、また今のペースでお酒を飲んで、どれだけ肝臓がダメージを受けているかを直視するためにも、健診の前も普段通りの生活を送ることをお勧めします」
![葉石かおり『酒好き医師が教える 最高の飲み方』(日経ビジネス人文庫)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/b/1200wm/img_cba49e18ff609ec4106776145763619e270402.jpg)
実に耳が痛いアドバイスであるが、健診はいい数値を出すことが目的ではない。今の自分の体の状態を正しく知ることが目的なのである。
検査結果が悪かったら1カ月は酒をやめ、再検査する。それでも数値が悪いようなら、アルコールとは別の原因が考えられる。隠れている病気を見つけるためにも、「健診前だけ断酒する」という“その場しのぎ”はもうやめよう。
浅部さんによると、検査結果でチェックすべきポイントは中性脂肪(TG)のほか、肝臓の解毒作用に寄与するγ‐GTP、肝細胞がどれだけ壊れたかの指針となるALT(GPT)の3つだという。ただし、脂肪肝の場合は、血液検査に加え、超音波検査やCTスキャンと合わせて診断してもらうのが確実である。
脂肪肝が増えていることもあってか、脂肪肝への効果をうたったサプリメントも多く登場しているが、「肝臓に効かせようとするサプリメントは、逆効果になる場合もある」という。特にβカロチンやビタミンEなど脂溶性のものについては、体に蓄積する可能性があるので、素人判断で飲むのは避け、医師に相談してから飲むほうがいい。
「脂肪肝に効く」という確実なエビデンスがあるのは、食事療法と運動療法の2つのみ。酒量を控え、適度な運動とバランスの良い食事こそが特効薬となる。
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酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。「酒と健康」「酒と料理のペアリング」を核に各メディアで活動中。「飲酒寿命を延ばし、一生健康に酒を飲む」メソッドを説く。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。現在、京都橘大学(通信)にて心理学を学ぶ大学生でもある。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』『名医が教える飲酒の科学』(ともに日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。
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(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)
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